少ない文字数ですがどうぞ
キーンコーンカーンコーンとお昼の鐘がなり、午前中の授業が終わると俺はすぐ教科書とノートを片付けて急いで屋上へと向かう。
あの学園のアイドル遠坂の事だ。優等生の鏡と言われるアイドルを相手に遅刻すれば何を言われるかわかったもんじゃない。
「ハアハア」
急ぎ屋上の階段を駆け抜け屋上の扉を前にする。
呼吸を整え、ガチャリと音をたてながら扉を開くと
「誰も居ないみたいだな」
どうやら遠坂はまだ来てないみたいだった。
「だったら都合が良い」
遠坂が来るまでの間に修行…というか課題をするとしよう。
俺の師であるキャスターから出された課題、それは二つの魔術を理解する事。
キャスター曰く、爺さん…衛宮切嗣の魔術と俺が本来持つ魔術が俺の体の中にあるらしい。爺さんと約束して後日、衛宮の血を俺は受け継いだ。魔術刻印と呼ばれる物を俺は爺さんから引継いだのだが、キャスターという師を得て問題が発覚した。
俺も元来魔術の素質があったみたいで衛宮の魔術と俺独自の魔術が相互作用しあっているみたいなのだ。
養子である俺は衛宮の血を引き継いでなど居ないため、今後どうなるか解らないらしいのだ。歪で危うい状態と言うのが専門家のキャスターの見解だ。
なので自分自身を知らなければいけないらしく、俺は座禅を組んで目を閉じて精神統一をし魔術回路に魔力を流す。
歪み、淀み、複雑に交わり絡み合った魔術回路。
それらに魔力を流すことで今の状態を探る。絡み合った糸の如く混濁した魔術回路。
「!?」
魔術回路に魔力を流すのをやめ、意識を体内から戻す。
汗がびっしりと体のあちこちから流れ、体は熱を帯びている。
「…不味いな」
魔力を通して解ったことがある。
爺さんの家系の魔術と俺が本来持つ魔術、それらが一部混濁し結合している。
これは、俺の生い立ちに関係することだろう。8年前のあの出来事で俺はPTSDになった。あの時の過剰なストレスにより俺は自分を忘れてしまったのだ。
気がつけば俺はあの出来事以前の記憶を無くしたのだ。爺さんに助けられてからの記憶はあるのだがそれ以前の記憶が全く無い。思い出そうとすると激しい頭痛に苛まれるのだ。
ガチャリと扉が開く音が聞こえ、俺は視線をそちらに向けると
「あら?衛宮君、もう来てたの?」
そこには学園のアイドルがいた。
「時間前に来るなんて感心感心」
「別に普通だろ。そんな事よりも遠坂、用件を済ましてくれ」
「まあ、良いわ。早速で悪いんだけど衛宮君、私と組む気は無い?」
それは突然の出来事だった。
「俺が遠坂と組む?」
「ええ、そうよ。一人より二人の方が良いでしょうしね」
「……」
「何よりも駒が多い事の方が良いもの」
そうか。遠坂は、こいつは俺の俺らの事を駒としか見ていないのか!?
英霊という強力な存在を駒と考え、聖杯を得ようとしているのか…
「衛宮君、貴方半人前の魔術師でしょう?私が-―」
「その前に一つ聞かせてくれ、遠坂」
「何?」
「お前は聖杯に何を望むんだ?」
「え?特に無いけれども」
予想外の事を聞かれたのか不思議そうな表情をする遠坂。
「ほら、私個人としては特に願いは無いけれども聖杯手にすることは遠坂の悲願なの」
そうか。遠坂は、こいつはー
「だからね」
ー何の願望も無く、ただ家系の為に動いているだけなのか!?
「私はー」
ならば、
「聖杯を」
俺は
「手に入れる」
倒す!
己の欲望も無い人間に勝利を譲ってやる程のお人好しではない。キャスターの為にもこいつは倒さなければいけない。
「そうか……すまない、遠坂。だったらお前に協力は出来ない」
「……」
「俺には叶えたい夢がある。願望が……だからお前に協力をしてやる事は出来ない。ただただ、家系に縛られてこの戦いに参加するお前に聖杯を譲るつもりはない!!」
俺がそう宣言すると遠坂はハアと溜息を吐きながら「仕方ないか」と呟いた。
「まあ、あなたも魔術師みたいだしね。令呪が現れたのもあなたに願望があり聖杯があなたを選んだから。当然っちゃ当然か~。まあ良いわ。次に会った時は敵だから覚悟しておいてね、衛宮君」
遠坂はそう言い残して屋上を後にした。
一人になった屋上で俺は
「って事なんだが、良かったか?キャスター」
俺がそう何もない所に話しかけるとキャスターが現れた。
紫のローブを頭まですっぽり被った俺のエルフ耳の魔女妻(仮)さん。この姿も良いがやはり頭を隠すのはやめにして貰いたいな。折角のエルフ耳が台無しだ!
爺さんと正義の味方になると言って何度見た事か!日曜の朝8:00のテレビ番組を正義の魔女である女の子達を!!
そう!おジャ魔女ド〇ミを!!
リアル魔女――略してリア魔が俺の嫁(仮)となった今俺の元趣味はイリヤ姉に受け継がれている。
俺はド〇ミちゃん達と過ごすであった時間を嫁さんとイチャコラとリア充生活をしながら過ごしています。さらば俺の正義の味方ド〇ミちゃん達!二次元も悪くはなかったが、俺が生きる世界は三次元なんだ!!すまない!君たちとは生きる次元が違うんだ!!
等と考えているとこつんとキャスターに頭を叩かれた。
「……ハア、あのそろそろしょうもない思考の海から帰って来てくれるかしら?」
呆れたようにそう話しかけて来るキャスターだが、心なしか顔が若干赤い。
「ああ、すまない」
あ~、流石先生。俺の思考がバッチリと読まれていますね~。
うん、自重せねば。
ごほんと咳払いをして気持ちを切り替える。
「それで、先ほどの件なんだが」
「ええ、マスターの判断は正しいかと。こちらにはセイバーとバーサーカーが居ます。アーチャー一人位ならどうにでもなると思いますが」
「ああ、だが他のマスターと手を組まれたら少し厄介だぞ?」
「ええ、ですから戦力を少しでも増やすために準備をしているんですよ」
妖しくローブの下から微笑むキャスター。
その笑みは背筋から嫌な汗を流す笑みで――
「さあ、帰ったら魔術と体術の特訓ですよ?マスター」
――俺の将来の人生を悟らせた。
拝啓、爺さんへ
どうやら俺は将来嫁さんの尻に敷かれそうです。
これも衛宮の魔術刻印を受け継いだ弊害なのでしょうか?
生きていればまた会いましょう――