士郎君は、メディアさんに恋をする   作:zeke

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キャスターとの遭遇

「…何なんだよあれは!?」

 

「マスター?」

 

学校に来ていた士郎の友人であり、此度の聖杯戦争の参加者であるライダーのマスター間桐慎二は、廊下の端で信じられないものを見たと言いたげな表情を浮かべていた。

 

彼の背後には霊体化したライダーが彼を警護しており不思議そうな表情でマスターである間桐慎二を見ていた。

 

彼の視線の先にあるのは学校のアイドルとも言われる遠坂凛が士郎と楽しそうにしゃべっている様子が窺える。

 

「……ふざけるな、ふざけるなよ!!」

 

「あの、ま、マスター?」

 

英霊であるライダーも恐れる様な覇気を纏い、慎二は憤怒の表情を浮かべる。

実際にライダーは見る者全てを殺さんとする様な覇気を出す慎二に怯えて2,3歩後ずさっている。

 

生物としての本能がライダーを後ずらさせたのだ。

 

それほどまでに慎二は怒れ荒ぶっていた。

 

狂戦士という言葉はまさにこの時の慎二の為に作られていたのかもしれない。

 

慎二から発せられる英霊であるライダーすらも後ずらせる異様な覇気に彼の近くを通る人は立ち止まり廊下の隅へと移動しびくびくと怯えながら慎二の為に道を作った。

 

その様子はモーゼの十戒を人で歴史再現させたの如く人が割れた。

 

 

「来い、ライダー!」

 

「マスター、どちらに行かれるのですか?もうすぐ授業とやらが始まりますよ?」

 

士郎と凛が楽しそうに談笑している様子を見た慎二は覇気を纏い踵を返すと向かっていた方向と180度旋回して疾風の如く廊下を駆け抜ける。

 

ライダーもその後に続いて慎二の後を追う。

 

時間はもうすぐ8時45分。

あと5分で予鈴が鳴る。

 

だと言うのに慎二は来た道を戻っていく。

 

 

 

「んな物は後回しだ!授業なんて今の僕にはどうでも良いんだよ!!」

 

どうでも良くは無いけどとぼそりと呟く慎二。

しかし、そう呟いている間も走っており今の彼ならばランサーと徒競走でいい勝負が出来るかも知れないほどの速度な為ライダーはついて行くのがやっとといった状況だ。

 

人間やればできる物なのだ。

 

 

慎二はライダーを引き連れ学校の校舎を出ると駐輪場に走った。

 

「乗れ、ライダー!お前の名がライダーに相応しいならばその力を見せてみろ」

 

「……はい!」

 

ライダーに駐輪場に止めてあった自分の自転車を乗せると自分は荷台に跨った。

自転車に乗ったライダーの目が輝き慎二にライダーの名に相応しい力を見せる事と成る。

 

大きく前輪が浮き、慎二は地面に引っ張られるような感覚に陥るが地面に落ちる事は無く、宙に浮いた前輪が地面に着地するとともに自転車は加速の一方となる。

 

学校の校門が閉まり始めようとする時に土煙を上げながら校内を爆走する自転車に気づいた校門を占めていた警備員のオッチャンが驚いて作業を中断させたために校門は自転車がちょうど一台分ぐらい入れるスペースで停止した。

 

そのスペースをライダーは見事な自転車さばきで減速する事無く通過する。

見事な神技。まさにライダーに相応しい名を持つだけある。

 

土煙を巻き上げながら慎二は学校を後にした。

 

◆◆◆

 

「それじゃあね。衛宮君」

 

銀のプレタブを自身の英霊に渡した遠坂は予鈴が鳴ったため俺の前から姿を消した。

 

「ハア、少し憂鬱だ」

 

昼休み屋上で待ち合わせを約束したんだが何処から話していい物か悩んでしまう。

 

恐らく予測ではあるが遠坂には未だ俺が契約しているキャスターの事に気づかれてはいないだろう。

 

遠坂から見れば俺がセイバーのマスターだと思うように見えるはずだ。

 

そう、その方が都合がいいのだ。

何故なら、俺とキャスターの令呪を合わせると全部で6つ。

つまり、他の人よりも令呪多いのだ。

 

令呪とは、物理的に不可能な距離を聖杯が令呪を使用する事によって可能にしてくれると言う素敵アイテムであり、絶対命令権。

 

つまり、無茶が利く素敵アイテムがマスター一人に聖杯から3回だけのその素敵アイテムが支給されるのだが、俺とキャスターの策略により令呪が普通の人よりも3つ多い。

 

無論、令呪はその特性上無茶ぶりな為そのマスターの技量にもよるが、普通は永続的な物は効果が薄く一回だけの単発的な命令は叶い易いらしい。

 

まあ、今この学校内でセイバーが必要と成り令呪を使用してセイバーを召喚するとなるならば、俺→(令呪使用)キャスター→(令呪使用)セイバー召喚と、一度に2つも令呪を使用しなければならないが、それは、他のマスターの眼を欺くために必要な儀式だと割り切るしかない。

 

それに、キャスターが例え裏切ったとしても俺の願いは成就する。

 

つまり、どの道キャスターが裏切ろうと裏ぎまいと聖杯への願いは成就する。

キャスターが生き残ってくれさえすれば。これは、キャスターすらも知らない事だ。

無論、男として最後の一画の令呪を残したままこの聖杯戦争に無事勝利し、聖杯が顕現した時に令呪を使いたいがどうなるか分からない。

だが、キャスターが生き残ってさえすればこの聖杯戦争は勝ちだ。

 

ふと瞼を閉じると、思い出される幼い日の記憶。

 

『僕はね、正義の味方に成ろうとしたんだ。正義の味方は期間限定だったけどね』

 

かつて爺さん衛宮切嗣は、俺、衛宮士郎にそう言った。

だから、俺は、

 

『なら、俺が正義の味方に成ってやるよ』

 

そう約束した。

幼い日の約束。

 

あの灼熱の地獄から救われた衛宮士郎と言う幼い子供の約束。

それは、その日灼熱の地獄で救われた恩を感じたのかもしれない。

それとも、あの地獄で命を救ってくれた恩人にあこがれを抱いていたのかもしれない。

 

今と成っては解らないし、忘れたが衛宮士郎は確かにそう約束した。

 

 

場所は移り、雨が降る人気の少ない通り道で初めてキャスターと出会った時彼女は酷く傷ついていた。

 

ローブの下から所々切り傷があり、

 

「おい、大丈夫か?」

 

 

俺が声をかけると彼女は

 

「誰!?」

 

警戒心MAXでこちらを見た。

その吐息は息切れをおこし、瀕死の状態なのは素人の俺の眼から見ても明らかだった。

 

「お、落ち着け。俺は敵じゃない」

 

彼女の周囲に浮かぶビームの弾丸の様なものが浮遊する中俺はその場で右手に傘、左手に学生バッグを持った感じで万歳をして彼女に敵意が無い事を現した。

 

「……追手ではなさそうね。良いわ。今見た事は忘れなさい坊や」

 

彼女はそう言って踵を返すとろかたのかべを使ってゆっくりと移動を開始した。

素人の眼から見ても彼女は重傷だった。

 

何せ、脚を一歩動かすたびにの彼女の足元に血が一滴、また一滴と流れていっているのだから。

 

「ほら、しっかりしろ。肩を貸してやるから歩け。俺の家がもうすぐだからそこまで歩けば応急手当位は出来ると思うぞ」

 

気が付けば衛宮士郎は彼女に肩を貸していた。

当時の俺にとって正義が何なのか解らない為、困った人を助けると言う事に専念していた。

 

命を助けられた衛宮士郎にとって正義の味方に成るという目標が衛宮士郎の存在価値だと言う強迫概念にかられたからだ。

 

「……」

 

彼女は驚いた表情で衛宮士郎を見た。

 

「何が目的なの?」

 

何が目的なの?と聞かれてもどう答えていいか反応に困るわけでして、まさか正義の味方に憧れて頑張ってます!って言えるはずも無く…ただ、

 

「困っている人を助けるのに理由なんていらないだろ?」

 

あああ!!思い出しただけでも恥ずかしい!!

あの時の俺に出会えるならば殴りたい!

 

何が困っている人を助けるのに理由なんていらないだろ?だよ!恥ずかしすぎて涙が出そう。

 

でも、彼女はその言葉を聞くと倒れた。

おれはただ、彼女がけがを負わない様に倒れる彼女の体を抱きとめた。

 

 

「……ここは、何処?」

 

その後、自分の荷物を片手に持ち、彼女を背負いながら俺は家まで帰ると彼女のローブを悪いと思ったが剥ぎ取り傷に消毒液を塗って液体ばんそうこうで傷止めをすると布団を敷いて彼女を寝かせた。

 

こんな時に女手が居ると彼女の濡れた服を着替えさせてやる事も出来たんだろうが俺がやると犯罪臭がする、というか犯罪に成るため俺は布団に寝かせる事しかできなかったのだが、布団に寝かせて二時間半ぐらいたち、近くのコンビニでスポーツ飲料を買ってきて彼女の様子を見に行くと彼女は目を覚ました。

 

彼女の起きる姿に息をする事を忘れた。

 

ローブを脱がさせて貰った時に彼女が普通の人と違うと言うのがすぐに分かった。

何故なら彼女の耳が、漫画とかでたまに出て来るエルフ耳だったからだ。

 

だが、彼女の起きる姿に更に神秘とも言える美しさがあった。

 

「…ああ、すまない。ここは、俺の家。せめて応急手当だけでもしたかったんでな。俺の家に連れ込ませてもらった」

 

その姿に一瞬我を忘れてしまった。

 

―――欲しい

 

 

(はっ!!!何思ってんだ俺は!?)

 

その姿に心を奪われそうになった。

 

(ああ!クソッ!クソッ!!一体どうしちまったんだ俺は!!!)

 

 

キャスターの前で自分を落ち着え思考を正常にさせる為に畳みにがんがんと頭を打ち付ける士郎。

 

「あ、あの、坊や?」

 

その奇行を少し引きながら士郎の顔を見ると

 

「……!!!」

 

士郎は顔を真っ赤にさせてズザザーと座ったままの状態で驚いて引き下がる。

何故なら、キャスターと顔を上げた士郎の顔の距離が近く、キャスターを意識してしまう士郎にとっては意識するなと言うのが無理な話だったからだ。

 

「ああ、すまない。目の前に凄い美人が居たもんだからつい意識してしまった」

 

「お世辞でもありがとう…と言うべきなのかしら?」

 

「お世辞なんかじゃないさ。実際凄い美人だしな。それよりもお前、傷の具合は大丈夫か?」

 

「ええ、お陰様で。でも坊や、貴方馬鹿ね」

 

そう言うとキャスターは士郎の目の前に左人差し指を突きだした。

 

「貴方が私に介入したせいで貴方の記憶を消さなきゃいけないじゃない」

 

それが何らかの魔術か暗示であることは解るが半人前の魔術師である衛宮士郎には何をされそうになっているのか解らない。

もしかしたら骸に成るかもしれないし、廃人に成るかもしれない。

 

だが、半人前の魔術師である衛宮士郎でも今理解できる事がある。

 

それは―――

 

「こら!怪我人なんだから休んでなきゃ駄目だろうが」

 

目の前にいる美人が怪我人であると言う事と動こうとしている事。

キャスターの両肩を掴み押し倒す様に敷き布団に寝かせる。

 

キョトンとするキャスター。

 

それもそうだろう。

何せ記憶を消そうとした相手に逆に気を使われたのだから。

 

「何が食いたい?刺身か?あ~、でも見た目外国人っぽいしな~。生魚食うか怪しい所だ。あ、外国人って言えば箸も使えないかもしれないだとしたら箸を使わない料理が良いか?箸を使わない料理…ラーメンは箸を使うけどフォークで食えなくもない。しかし、今からラーメンを作るとなるとチャーシュー作りから始めて麺を生地から作らなきゃいけなくなる。ん~と~、そうなると食事は22時ぐらいに成りそうだな。うん、ラーメンは無理。他に特異な料理は……肉じゃが、ピザ、カレー、オムライス、パエリア、餃子、から揚げ、炒飯。ハンバーグは誰でもできるだろうし、スパゲッティ―も楽だから作った気がしないので却下。鍋…は、具材をぶち込むだけだから楽かつ、処理する人数が居ないので却下」

 

あ~だこうだとキャスターの為に今日の献立を考え思考を張り巡らす士郎を見て、キャスターは顔を半分だけ布団から出した状態でクスリと笑った。

 

「どうした?」

 

不思議そうに尋ねる士郎を見てキャスターは

 

「坊やって……馬鹿よね」

 

「五月蠅い。ほっとけ」

 

図星を突かれ、子供みたいに拗ねたようにそっぽを向く士郎。

そのままそっぽを向いた状況で

 

「怪我人は大人しく俺に世話をやかれてろ。それと、俺の名前は士郎。衛宮士郎だからな!坊やって言われるような年じゃないし、言われて喜ぶようなそんな特殊性癖も無いからな!?」

 

顔を真赤にさせながらキャスターを寝かせている部屋から出て行く。

今日の献立も決めてないまま。

 

 

「……誰もそこまで言ってないし、深い意味なんてなかったのだけれども」

 

ハアと布団に横に成った状態で溜息を吐くキャスター。

キャスターからしてみれば別に他意は無く、士郎の事を癖で坊やと呼んでいただけなのだ。

 

でも、

でも、と思ってしまう。

 

(―――気持ちが良い)

 

サーヴァントとして現代の魔術師によって聖杯戦争に勝ち残るための道具として召喚された。

無論、それが正しいのだろう。

だが、意志を持っている。自我を持っている。例えその命が、仮初の命であろうと身体であろうと自我を意志を持っているのだ。

 

道具として扱われていた少し前の記憶と今の現状を比べてみると、人間扱いされている。

 

天と地ほどの差だ。

 

(―――相手は半人前の魔術師みたいだし、特に脅威には成りにくそうね)

 

神代の魔術師である彼女からしてみれば現代の魔術師は特に脅威に感じない。

子供が精いっぱい大人に見えようと頑張って爪先立ちで経っている様にしか思えない。

 

(まあ、助けて貰った恩もあるし名前で呼んであげても良いわよね。うん、不自然では無いわよね?)

 

半分自己便宜をするように自分に言い聞かせ、取りあえず小さい声で「……し、士郎」と呼んでみる。

 

(ええ、変では無いわね!?彼も坊やと呼ばれるのは嫌いみたいな口調だったし、士郎と呼んでも構わないわよね?)

 

そして、もう一度

 

「……士郎」

 

と呼んでいると当の士郎本人が「え~と~、カレーにしようかと思ったんだが食えるかな~」と呟きながらキャスターの横に成っている部屋に入って来た。

 

ばったりと視線が合う二人。

キャスターの「士郎」と呼んだ奇麗な音色の声は士郎の耳に入り、士郎はその声を聴いて顔を真赤にさせる。

キャスターもキャスターで士郎に聞かれた事が分かると顔を真赤にさせて布団の中に潜り込んだ。

 

士郎は士郎でキャスターの部屋から逃げるように出ると部屋の扉を背にした状態で互いの姿が見えないようにすると、

 

「あ、あのさ、今日の夕食の献立はカレーにしようかと思うんだけれども米って食えるか?」

 

「え、ええ!!勿論よ!ありがたく戴くわ!」

 

互いに顔を真赤にさせた状態で気まずい空気が流れる。

士郎は、キャスターの様な美人に「士郎」と呼ばれた事で嬉しくて顔を真赤にさせ、キャスターはキャスターで当の本人である士郎に名前を呼ぶ練習をしていた所を見られ恥ずかしさがキャスターを支配していた。

嬉しさと恥ずかしさが入り混じり気まずい空気が二人の間を流れる。

 

その様子を見ていた衛宮邸に植えられている観葉植物ソテツさん(♂16歳)は、イチャイチャしやがって!こちとら観葉植物なんだから俺の前でイチャイチャしてんじゃねえよ!根を張って動けない独り身の俺に対する嫌味か、こら!?と負のオーラを醸し出し、電線で一休みしていた永遠の一匹烏、通称孤高の八咫烏さん(♂24歳)は、カー!こちとら24年の歳月を生きてるのに雌が寄ってこず、逆に強い雄が己が強さを証明するために寄ってくる状況なのに高々18位の餓鬼に春が着やがって!!糞喰らえ!と逆恨みで士郎目掛けて糞を落とした。

 

無論、糞は衛宮邸の屋根に落ちるだけで士郎に掛る事は無く、その様子を見た孤高の八咫烏さんは、絡んでくる雄で憂さ晴らしするカ―!とその自慢の翼を羽ばたかせ衛宮邸を後にした。

 

これは、遠坂とそのサーヴァントと遭遇する3週間前の出来事だった。


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