(どうだ?敵は周囲に居るか?)
遠坂から逃げるように帰路に就いた士郎は、自宅近くで念話でキャスターに話しかける。
(居ないようね。普通に帰ってきて頂戴)
(了解)
(それと、どうしても耳に入れておきたい事があるのよ)
そう言うキャスターの声はどこか疲れた声だった。
(解った)
そう言って念話を終えると士郎は10分程歩いて帰宅した。
「ただいま~」
玄関の扉をあけながら挨拶すると……
「な、何だお前は!?」
入口に上半身裸の巨体の男性が正座して士郎を見ると頭を下げた。
「■■■■■■■■■」
その様子はまるで挨拶をしている様子にも見える。
「えっと~、挨拶してくれてるのか?」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
まるで自己紹介をしているような上半身裸の男性。
その男性を見ていると……
「お帰り~士郎♡」
的確にボディーブローを食らったように鳩尾に衝撃が走る。
「グフッ!!」
衝撃が走った腹部から原因のもとを除ける。
「やっぱり、あんたかイリヤ姉!」
銀髪赤い眼をした妖精のような小さな少女の肩を掴み、腹部から離す。
「だって、だって!アイリったら酷いんだもん!士郎のお嫁さんに成る!とか言って私を爺ちゃんの所に置いたまま城から出て行っちゃったんだもん!」
「ハア!?あの人は何言ってんだよ。爺さ……切嗣の妻だろ!人妻が何言ってんだか」
「だから、私リズとセラと一緒に城から逃げ出して来ちゃった♡」
「来ちゃった♡じゃない!ハア~何やってんだよ。俺がアハト爺さんにまた逆恨みされるじゃないか」
「だって~、爺ちゃん加齢臭するし」
「おい、それアハト爺さんが聞いたら泣くぞ」
「まあ、それはそれで面白そうね!」
「切嗣…爺さんとアイリの件でただでさえ爺さんの関係者で逆恨みされているのに、これ以上逆恨みの要因を作らないでくれよ」
「そうよね~。切嗣がアイリと駆け落ちして前回の聖杯戦争の戦いでアイリを死なせて、それで結局お爺様に頼んで魂を別のホムンクルスに繋いで貰ったのよね~」
「いや、元からアイリの心臓を聖杯の核にしてたらしかったんだけれども、まあいつの間にかアイリLOVEにアハト爺さんがなって聖杯戦争に参加させる気がなくなって城の中に閉じ込めといたんだっけ?んで、アハト爺さんもボケが進んでアイリの心臓の処置をするの忘れて、爺さんとアイリが駆け落ちしてアイリを人間にする為に前回の聖杯戦争に参加したんだっけ?」
「うん、そうそう。全くお爺様の認知症にも困ったものよねえ。魔術は健全だけど」
「イリヤ姉、頼むからアハト爺さんが俺に逆恨みする要因を作らないでくれ。流石にまだこの年で死にたくない」
「え~、それじゃあ、イリヤと結婚して~」
「ダメだって。俺にはキャスターという伴侶がいるんだし」
「愛人でもいいから~お願い~士郎」
ポカポカと士郎の胸を叩くイリヤの反応に士郎は吹いた。
「ブハッ!?イ、イリヤ姉いつの間にそんな単語を覚えたんだよ」
「んと~、セラとリズから昼ドラを見して貰いながら教えてもらった」
「おい~、セラ!リズ!!」
イリヤの後ろに来て突っ立っていたリズとセラを睨んだ。
「……イリヤが教えてと言ったから教えた」
「セラは悪くない」
無表情で抗議する二人のホムンクルスメイドに士郎は頭が痛くなった。
これで、またアインツベルン当主のアハト翁にまた命を狙われる逆恨み要因が増えたのだ。
「ハア、近い将来胃潰瘍に成るか剥げそうだ」
自身の近い将来のことを考えると眩暈がしそうになる。
「士郎~」
ガラリと閉めた筈の玄関扉が開き、一人の女性が士郎の背中に抱き付いた。
「ア、アイリ母さん!?」
「んもう!アイリって呼びなさい士郎」
腰に手を当てプリプリと怒るイリヤの母 アイリス・フィール。
ホムンクルスゆえ、若く見えるがれっきとした衛宮士郎の義母であり、義父である衛宮切嗣の妻である。
「あんたもこっちに来たのかよ!城はどうした!?アハト爺さんがいる城は!」
「そんなもの抜けて来たに決まってるじゃない!」
堂々と胸を張って言うアイリ。
そんなアイリを前に士郎は溜息を吐いた。
「ハア、頼むから俺の命を散らす要因は作らないでくれよ~。アハト爺さんこの前城を訪れた時なんか涙目で俺を睨んでたじゃないか!あの眼、絶対に殺してやる!って眼だったぞ」
「大丈夫よ。士郎を殺そうとしたら私とイリヤでお爺様と縁を切って城から出ていくから。絶縁状でも叩きつけようとすれば大丈夫よ。士郎を殺そうとすればイリヤと私がお爺さまと縁を切るって解っておけばあの方も士郎に手を出そうとする事を躊躇うでしょうし」
「何だか急にアハト爺さんが可哀想に思えてきた……」
ぼやく士郎のもとにフードを被った魔術師の英霊キャスターが廊下を歩いて近づく。
「お帰りなさい、士郎……準備は出来ているわ」
「そうか、解った。すぐ行くから待っててくれ」
そう言うと士郎は抱き着くイリヤとアイリスフィールを引きはがした。
「どうしたの士郎?何をするの?」
引き剥がされたイリヤが士郎の顔を覗き込むように問う。
「ああ、ちょっとな。義母さん、あんたが前回の聖杯戦争で使わなかった蔵の魔法陣使っても良いか?」
「?良いけれども何をするの?士郎、あなたキャスターと契約しちゃってるわよ」
「ちょっとな。まあ、OKくれてサンキューな」
士郎はそう言うと玄関で靴を脱ぎ、廊下を歩いて自分の部屋に行き鞄を置いた。
そして、そのままの足取りで庭にある土蔵まで行くと
「来たわね」
土蔵の中にある魔法陣の前でキャスターが待っていた。
「ああ。それじゃあ、始めようキャスター。宝具の使用を許可する。手筈通りにやってくれ」
「解ったわ」
そう言うキャスターの手には稲妻を形にしたような短剣が握られていた。
その短剣をキャスターは自分の胸に突き刺した。
その結果、士郎の手にあった令呪と呼ばれる痣のような模様、自身が使役する英霊を絶対命令権が消えうせた。
「良し!始めよう」
自身の手に令呪が無くなった事を確認すると士郎はそう言って土蔵の中の魔法陣に視線を向ける。
キャスターもそれに頷くとマントを翻し、消えた。
制服のポケットからカッターナイフを自分の左手首に突き立てて、左手を斬りつける。
左手から鮮血が迸り、魔法陣にかかると魔法陣に変化が現れた。
魔法陣が徐々に赤くなり、やがて真っ赤に反応すると
「来てくれ!セイバー!!」
声高らかに叫んだ。
やがて魔法陣の上に一人の鎧を纏った少女が現れた。
「サーヴァント セイバー。あなたの呼びかけに応じ参上ち……噛みました。参上しました」
セリフの途中で噛んだのがよほど恥ずかしかったのかセイバーと名乗る彼女は、顔を赤く染めた。
士郎の手には先程無くなった令呪と呼ばれる痣が再び出現している。
「来てくれたか、セイバー。早速で悪いんだくれども…」
士郎がそう言うとセイバーの後ろに、フードを被った魔術師の英霊 キャスターが現れた。
そして、キャスターの手には先程自身の胸に突き刺した稲妻を形にしたような短剣が握られており、容赦なくセイバーの背中に突き刺した。
「……マスターチェンジだ」
セイバーの出現によって現れた令呪も消え、逆にキャスターの手に令呪が出現する。
そして、セイバーのマスターは目の前の衛宮士郎という男性から突如現れた魔術師の英霊 キャスターへと主を変えられた。
そして、キャスターはセイバーの背中から短剣を抜くと今度は士郎に手を向ける。
すると、士郎の手には先程失われた令呪が現れた。
「!!??」
突然の事に驚くセイバー。
召喚され、背後からブッスリと短剣を突き付けられた挙句、マスターチェンジをされた事に驚きを隠す事は出来なかった。
「上手くいったな、キャスター」
「ええ、勿論よ」
セイバーの目の前にいる二人は驚く様子はなく、寧ろ事が済んだ事に喜んでいる様子だ。
コホンと一つ咳払いをすると士郎はセイバーに向かって状況を説明する。
「突然の事ですまない、セイバー。俺は衛宮士郎、見習い魔術師だ。んで、こっちが俺の伴侶で魔術の先生 キャスターだ。俺はキャスターを手に入れてから聖杯戦争の事を知った。そして、自分の今の実力を。今のままじゃ、聖杯戦争で苦戦するという事を知り、キャスターと一つの策を思いついたんだ。俺がキャスターのマスターとなり、魔術に秀でたキャスターがセイバー。君のマスターになるという事。これで聖杯戦争を乗り切ろうと思う」
「……」
「すまない。だまし討ちのような形で事を運んで」
頭を下げて謝る士郎。
そんな彼の前で立つセイバーは……
グウウウウウウウウウウウウ
お腹から凄い音をだし、顔を赤く染めて無言で立ち尽くしていた。
「セイバー?」
「士郎、ご飯にしましょう。お腹がすきました。先程から話が一つも頭の中に入ってきません。最早、話等どうでも良い。腹の足しにも成りません。私はご飯を要求します」
「そ、そうか」
呆れる士郎。
三人は土蔵から出て衛宮邸の中へと入って行った。
マスター
士郎=(キャスター)
(キャスター)=(セイバー)
解りづらいかも知れないので書きました