IS×Z.O.E ANUBIS 学園に舞い降りた狼(ディンゴ)   作:夜芝生

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大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。
切り所が難しく、いつもの二倍以上の文章量になってしまいました(汗
そのため、前後編構成にさせて頂きます。

それでは、初となるIS同士のドッグファイトをお楽しみ下さい。


Episode.12激闘~未だ明けぬ空の上で~〈前)

「馬鹿な……こんな事が……ぐっ――!?」

 

 中央校舎で巻き起こった光の爆発、そして、それが収まった後に見えたモニター越しの光景に驚愕していた千冬だったが、突如苦しげに胸を抑えてうずくまった。

 突然の事態に、生徒達が動揺したように手を止める。

 

「先生っ!?」

 

 その中の一人が、咄嗟に駆け寄り差し伸べようとした手は、途中で止まってしまう。

 

――彼女の体の表面を、まるで血管のように脈動する紅の光が走っていたから。

 

「め、メタトロン光? でも、これは――」

 

 それは特有の燐光を放つ、整備科である者達にとっては見慣れた光。

 しかし、それは操縦者とISが神経接続を行った時のような優しい光などでは無く、何処か禍々しい印象を受ける昏い光だった。

 

「これって、一体……?」

「何を、している……貴様ら……手が、止まっている、ぞ」

 

 戸惑う彼女達を、息絶え絶えになりながらも叱りつけ、千冬は壁についた手で体を支えながら起き上がった。

 先程の光は次第に弱くなり……やがて消える。

 それに従い、真っ青になっていた千冬の顔に、再び血の気が戻っていった。

 すぐに虚が駆け寄り、その背を支える。

 

「……済まん……騒がせたな……」

「――先生、今のは……?」

「何、ちょっとした発作だ――『古傷』の、な。

……それよりも、今は先にやる事があろうだろう。ぼさっとしているな、バカ者共」

「で、でも……」

 

 千冬はそう言っていつものように生徒達を叱りつけるが、額は脂汗でじっとりと濡れ、呼吸も乱れている。

 作業に戻る者もいたが、やはり何人かは心配そうにチラチラと様子を伺っていた。

 

「織斑先生の言う通りよ――私に任せて、皆は作業の続きをやって。

セキュリティは解除されたし、代表候補生や先生方もすぐ到着予定だけど、まだ油断は禁物よ」

 

 そこへ更に虚が号令をかけて、ようやく残る者達も渋々といった様子で散らばっていく。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 『裏』として千冬の発作の『真相』を知る虚が、生徒達に見えないように顔を覗き込みながら囁く。

 だが、千冬は「心配するな」と言わんばかりに口の端を吊り上げると、そっと自らを支える手を振り解いた。

 

「――正直平気だと言えば嘘になるが……そうも言ってられん」

「はい――」

 

 険しい眼差しでモニターを見つめる二人。

 その視線の先には、恐らくは史上初になるであろうISを起動させた男――ディンゴの姿がある。

 

(――ディンゴ・イーグリット……貴様は一体何者だ?)

 

 墜落したISの如き巨大ロボットの中から現れた、ISを全く恐れない、超絶的なLEVの操縦技術を持つ男。

 そして、彼とロボットが現れるのを待ち侘びていたかのようなタイミングで襲撃してきた無人戦闘機群と、何者かに奪われ、行方不明であった筈のアラクネ。

 

……そして、極めつけがこの事態だ。

 

 まるで、転がり落ちるかのような展開――あまりにも、出来すぎている。

 神の悪戯か、それとも何者かによる掌の上なのか……虚にも、千冬にも分からない。

 ただ、分かっているのは――

 

「――遅くなりました!!」

 

 生徒や教師達の宿舎に繋がる扉が勢い良く開かれ、代表候補生のサラ・ウェルキンを先頭に、高ランクのIS適正を持つ教師達が現れる。

 整備科の生徒達が歓声を上げる――これで、ようやく本当の意味で援軍の準備が整ったからだ。

 

「これからが、反撃の時だ」

 

 やにわに激しく動き出す彼女達の姿を尻目に、千冬は力強く拳を握り締めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「う、そ……でぃ、ディンゴさん……何で……?」

 

 麻耶が物陰に隠れる事すら忘れて、呆然と立ち尽くす。

 しかし、それを咎める者は居ない――否、それを咎める前に、彼らの体は目の前の事態に釘付けになっていた。

 

――中央校舎前に集結した者達の誰もが、言葉を失っていた。

 

 戦場と化したこのIS学園に突如現れ、暴れ馬のように激しく、それでいて巧みなLEV捌きで無人戦闘機群を薙ぎ払って警備員達を救い、そればかりか僅かの間とは言え、この時代の象徴とも言えるISを手玉に取ってみせた正体不明の『男』。

 

 

……そんな彼が、この時代に生きる戦う男達の夢であったISを纏い、今まで見上げる事しか出来なかった存在を地に這い蹲らせ、睥睨している。

 

 

 まだ確かな反撃をした訳では無い……だが、警備員達は知らず知らずに拳を握りしめていた。

 

「…………いけ――」

 

 誰かが、小さくポツリと呟く――けれどそこには、抑え切れない熱い胸の滾りが滲み出ている。

 

「――行けっ!! 行っちまえっ!!」

「叩きのめせ!!」

「そいつを……そいつをブチのめしてくれっ!!」

 

 それを切っ掛けに、一つ、また一つと声が上がり、それは大きなうねりとなってロータリー中を包み込んでいく。

 声の大きさも、その内容も、どれもがバラバラな、無秩序な歓声……だが、そこに込められた思いは一つだ。

 

 

『――俺達の……仇を討ってくれ!!』

 

 

 そんな彼らの言葉に答えるかのように不敵に笑うと、男はアラクネ目掛けて勢い良く急降下した。

 そして右足を勢い良く曲げ、踏み潰すかのように振り下ろす。

 

「……っ!!」

 

 オータムは文字通り蜘蛛のように地面に爪を立てながら、地面を這うような動きで回避する。

 

――僅かに遅れて、打鉄のアイゼンがアラクネの爪の一本を巻き込みながら轟音と共に突き刺さる。

 

 鋭いエッジのような爪先が、下の地面ごと爪を粉々に砕き、小さなクレーターを生み出した。

 相変わらず、そのサイズからは信じられないような馬鹿げたパワー。

 しかし、今はそれが何処までも頼もしい。

 

 男を包む歓声が、一際大きくなっていく。

 だが、それを援護する者は一人としていない――IS同士との戦いには、通常兵器による援護は邪魔なだけだからだ。

 

……普段なら、警備員達は忸怩たる思いでそれを見届けるだけだっただろう。

 しかし、自分達の力は必要無い……そんな事実すら嬉しかった。

 何故ならこれは、世界で初めて対等な、正々堂々とした『男』の反撃であるが故に。

 

 

 そして、麻耶もまたその姿に興奮を抑える事が出来なかった。

 

――颯爽と目の前に現れて、仲間達のピンチを救うだけでなく、強大な敵に対しても臆する事無く立ち向かう勇気を持つ者。

 何度倒れても絶対に立ち上がり、最後には素晴らしい奇跡を起こして全てを救う者。

 古来よりそんな者を人は「ヒーロー」と呼び、子供達はそんな彼らの話に目を輝かせた。

 

(――やっと……出会えた……!!)

 

 かつては麻耶も、そんな子供の一人だった。

 ヒーローに憧れ、いつかそんな人に会ってみたいと心を踊らせていた。

 

――LEVで皆を救い、ISに立ち向かい、果てには男である自らがISを起動するという奇跡を成し遂げたディンゴ。

 

 それは正しく、彼女が思い描く理想の英雄……ジョン・カーターそのものだった。

 

 本当ならば、IS学園教師という自らの立場を考えれば、彼の援護をするのが使命なのだろう。

 しかし、今だけは……今だけは、許して欲しい。

 

 

――ただヒーローの背中へと、心の底からの声援を送る子供に帰る事を。

 

 

「ディンゴさ――――ん!! 頑張って下さい――――!!」

 

 裂けよとばかりに喉を震わせて、麻耶はあらん限りの力を込めて声を張り上げた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 爆発的な光と同時に、金属音と共に、まるで自らのものと同じように動く篭手と脚甲、巨大な肩アーマー、翼のようなスラスターが姿を現す。

 重量に換算すれば数トンはあろうかと言うSSA(てつ)の塊を纏っているというのに、まるでそれが自分の体そのものになったのかと錯覚する程に、重さも、鈍さも感じない。

 そして、まるでこの世の全てを理解出来たかのような全能感と、人間ならば本来認識出来ない情報に対する吐き気にも似た猛烈な違和感が、一気に頭の中に注入され、次第に混ぜ合わされ、合一されていく独特の感覚。

 

――普通ならば戸惑い、暫くは行動不能に陥るであろう、数々の違和感。

 

 しかし、ディンゴはその違和感に立ち止まる事無く、即座にオータムに対して二度に渡る反撃を試みていた。

 何故ならば、彼は知っているからだ――まるで、機体が自分自身になったかのようなこの感覚と、全てを手にしたかのような全能感を。

 

「……等身大だってのに、ジェフティと――OFとほぼ同じ感覚、か。奇妙なもんだぜ」

『はい。信じ難い事ですが、私達の時代のランナーによるOFのコントロールシステムを、約63%の精度で再現しています』

 

 ランナーの思考、判断を電磁パルスとして感知する事で、タイムラグ無しでOFへと動作を伝えるメタトロンと人体の親和性を最大限に活かしたそのシステムを、ISは完全とは言えまいまでもかなりの精度で成し遂げていた。

 そしてハイパーセンサーはジェフティにおける『リングレーダー』に酷似しており、全身に纏うSSAの装甲と、空中を自由自在に飛び回る事を可能にするPICによる重力制御……今ディンゴが纏うIS「打鉄」は、正しく『小さなOF』と呼ぶに値する代物であった。

 

――確かにこんなものが蔓延っていたとしたら、千冬があれほど居丈高にLEVの劣位を主張し、オータムが自分を見下すのも分かる気がする。

 

 だが、生憎とディンゴは調子に乗る事など到底出来なかった。

 

「――エイダ、奴の情報は分かるか」

『敵IS名「アラクネ」――数年前にアメリカが開発していた第二世代型専用機です。

 数年前に試作機がロールアウトした時点で何者かによって奪取され、その後行方不明とあります』

「専用機、ね……対してこちらは量産機、と」

『はい、装甲を除いて、こちらのスペックを大きく上回っています』

 

 この時代において「専用機」というものがどのようなものなのかは分からないが、ディンゴは大凡の検討をつけていた。

 ディンゴの時代、OFは基本的に「マス・コントロールシステム」による無人機であったが、メタトロンとの適性が高い者がいた場合、様々なカスタムが施され、有人機として使われる事がある。

――きっとあのアラクネも、そのような類のものなのだろう。

 

 そして、それを纏う(オータム)もこちらを舐めてかかるのを止め、慎重になっている。

 こちらが悠長に――とは言っても数秒とかかっていないが――情報収集をしている間も、射殺すかのような瞳でこちらを伺っているのがその証拠だ。

 かなりの手練である麻耶を破ってみせた巧者が油断を捨てる……それが意味するものがどれだけ厄介か。

 加えて、ディンゴの網膜に投射される機体情報が、状況を更に悪化させていた。

 

「――で、向こうは減ったとは言え自前の腕も含めりゃ6本足。

対してこっちはブレード一本と来たもんだ」

 

 見れば、ISのデータ領域に量子変換(インストール)されている武装は、対他IS用の実体剣……つまり近接戦用武装しか存在しなかった。

 麻耶がこれを纏っていた時は、まるで火薬庫のような武装をしていたにも関わらず、である。

 

『ジェフティとの同調により、データ領域が圧迫された結果です。

更にシールドエネルギーも通常の8割に減少しています』

 

 遥か未来の技術の結晶たるジェフティとの同調は、打鉄にとって凄まじい負担になっているようだ。

 麻耶の時点でもかなり消耗していた事を鑑みても、相当なスペックダウンと言えた。

 

――同じ土俵に立ったとは言い難い、圧倒的なスペックと経験の差。

 

 だが、ディンゴはそれでも笑みを崩さなかった。

 

「――まぁ、いつもの事だ」

 

 ジェフティとの出会いによって久しく離れてはいたが、これが本来の彼にとっての戦場だ。

 まるで故郷に帰ってきたかのような感覚――むしろ、心が踊るというものだ。

 

『しかし、ジェフティの演算能力によるサポートもあります。勝率は、「あの時」と比べれば大した事はありません』

「あの時と比べりゃねぇ……」

 

 あの時――ジェフティとの兄弟機であるアヌビスとの戦いは、確率という言葉の向こう側にある、絶望に近い戦いだった。

 それと比べられても、ディンゴとしては複雑な心境だ。

 しかし、どちらにしてもやるしか無いし――負けるつもりも、無い。

 

「まぁいいエイダ、サポートを頼むぜ」

『了解――このような場合、セオリーでは遠距離戦ですが、貴方の場合接近戦ですね』

「それしか手が無いってだけだが、その通りだ」

 

 光の粒子と共に、ディンゴの右手に刃渡り2mもの肉厚で武骨な刀身を持つIS刀が出現する。

 それを試すかのように2、3度軽く握り締め、血振りをするかのように振る。

 

――軽い。それに、良く手に馴染む。

 

 共に金属同士の柄と篭手……滑ったりしないかどうか心配だったが、どうやら掌や指に埋め込まれたメタトロン素子の空間歪曲の応用によりしっかりと張り付き、まるで素手で掴んでいるかのような感覚だ。

 後はコイツで、どれだけ戦えるか――最早思考は不要だ。

 

「……行くぜ!!」

 

 突き刺したアイゼンを足掛かりにしたディンゴの体は、次の瞬間、スラスターがもたらす推力によって爆発するかのように飛び出した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おおっ!!」

 

 雄叫びを上げながら、ディンゴがIS刀を大上段に振りかぶり、突進の勢いを乗せて叩きつける。

 動きだけ見れば、隙だらけの力任せの斬撃――だが、その速さと、込められた気迫は凄まじいの一言。

 それはオータムに思わず回避を選択させる程のものだった。

 

「……ッ!!」

 

 凄まじい剣圧が彼女の頬を叩く――標的を外れた肉厚の刀身は、まるで豆腐のようにアスファルトを打ち砕きながら突き刺さる。

 本来ならばその時点でディンゴは死に体……が、間髪入れずに彼はめり込んだままの刀を強引に捻ると、そのまま逆袈裟に振り上げた。

 

「おらよっ!!」

 

 砕かれたアスファルトは大小の瓦礫となってオータムに殺到し、その後に必殺の威力を秘めたIS刀が続く。

 瓦礫を防げば刀に切り裂かれ、避ければすぐさま間合いを詰められて追撃を受けるという、不利な二択を迫る一撃。

 

「いい加減にしろっ!!」

 

 しかし、オータムは咆哮を上げながら臆する事無く瓦礫へと逆に突進した。

 砲弾の如き瓦礫が次々とアラクネに、オータムに叩き付けられるが、絶対防御によってその身を傷つけるには至らない。

 続いて襲いかかったIS刀は、アラクネの爪を三本束ねる事によって作り出した盾で受け止め、残る一本の爪をカウンターで突き出す。

 

「ちっ!!」

 

 顔面に迫る爪の先端を、ディンゴは辛うじて顔を傾ける事で回避するが、爪はすぐさま翻って彼の首を薙ぐように振るわれた。

 

「ぐあっ!?」

 

 強引に振るわれた事で爪の威力が減じていた事と、張り出した肩の装甲が盾になる事で、ディンゴの首は辛うじて泣き別れせずに済んだが、引っ掛けられた爪によって勢い良く地面に引き倒される。

 しかし、オータムもディンゴの斬撃によって装甲脚の一本を犠牲にしながら大きく吹き飛ばされ、追撃するには至らなかった。

 すぐさま両者は体勢を立て直すと、再び間合いを取って構える。

 

『――ダメージ20。残りシールドエネルギー370。

実体ダメージはありませんが、もう少し慎重に戦闘して下さい』

「ゲホッ……分かってる。だが、そう悠長にやってられねぇのも事実だしな」

 

 エイダの報告と忠告に、ディンゴは咳き込みながらも頭を振る。

 時間を掛ければかける程、相手は冷静になっていく――ISによる戦闘の経験が圧倒的に不足しているディンゴにとっては圧倒的に不利な状況だった。

 IS学園からの援軍を待つ、という手もあるが、明らかに手数が違いすぎるため、エイダのサポートがあったとしても捌ききれるかどうかは保証出来ない。

 

……それに何より――

 

「――あれだけ傷めつけられたんだ、こっちも殴り返さねぇと気が済まねぇ」

『――了解。打鉄の装甲と云えども、アラクネの火力とパワーは受けきれません。

回避を重視して作戦を組み立てて下さい』

「OK」

 

 ディンゴの言葉に、エイダは忠告では無く最大限のサポートをするという形で答える。

 ジリジリと間合いを詰めながら簡潔に答えると、ディンゴは警備員や麻耶達を巻き込まないように、一際高く舞い上がった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 長年の訓練の賜物か、(ディンゴ)の攻撃を掻い潜り、反撃も加える事が出来たオータムだったが、その思考は未だに混乱の極みにあった。

 男はまだ間合いが遠いため攻撃しては来ない……が、それはオータムが敢えて間合いを空けるように移動しているからに過ぎない。

 

――無意識に、彼女は男から逃げていたのだ。

 

 空に飛び上がった事で視界が大きく開けるが、オータムの頭は逆に激情の海に沈もうとしていた。

 

(――何でだ……何でだ何でだ何でだ!! 何でISを男が扱える!?)

 

 ISを扱えない『男』、汚らわしい癖に力の無い『男』、弱い『男』。

 

……そんなクズのような存在を、まるで藁を刈るかのように簡単に捻り潰す事が出来る、ISを纏う事の出来る『女』である自分。

 

 オータムはそれだけをひたすら支えに、掃き溜めのような闇の世界で生きてきたのだ。

 しかし、目の前の(ディンゴ)は、彼女が唯一この腐った世界で支えにしてきた根幹を侵しているのだ。

 崩壊しかけるアイデンティティは、オータムの思考を次第に使命とは全く関係ない、純粋な殺意へと追い込んでいく。

 

「……消してやる……消してやる……斬り殺して、叩き潰して、殺して殺してコロシテコロシテ――!!」

 

 再び視界と思考が真っ赤に染まっていく――それは先程までのような生易しいものでは無く、全てを狂気に委ねるような危うい光を秘めていた。

 しかし、そんな彼女を押し留めるかのようなタイミングで、秘匿回線(プライベートチャンネル)から愛しい女性からの声が響いた。

 

『――落ち着きなさいな、オータム』

「す、スコール……!!」

 

 その瞬間、オータムの表情は何かに怯えて誰かに縋りつく幼子のような顔へと変わる。

 それだけで、彼女にとってスコールという女性がどれだけ重いかが窺い知れた。

 

「なぁ……何なんだよアレは……こんなの、聞いてねぇぞ……!!」

『そうね――これは流石の私にも、予想外の事態よ。

『J』の破壊、もしくは確保だけが目的だったのに、まさかこんな事になるなんて、ね」

 

 オータムの言葉に答えるスコールの声は、いつものような飄々としたものでは無く、何処か真剣味を帯びている。

 それこそが、この事態が本当の意味でのイレギュラーである事を教えてくれた。

 スコールの立てる計画はいつも完璧だった。今回もその筈だった。

――それにイレギュラーが起こったという事は……即ち、この場所における作戦が失敗した事に他ならない。

 

「スコール……済まねぇ、私は――」

 

 オータムの沸騰しそうになっていた頭が急激に冷えていく。

 確かにあの男がISを動かせるなど、誰も予想出来ない事であったとしても、このイレギュラーは避けられた。

 自分が調子に乗り過ぎなければ……さっさとLEVごと男を殺していれば……この事態は避けられた筈だ。

 

『――ここ以外の目標は、全て抑えたわ。

「エム」も「Z」を確保したし、私達の計画は概ね成功と言えるから、気にする事は無いわよオータム』

「……っ」

 

 犬猿の仲とも言える同僚の任務成功を伝えられ、オータムの顔が悔しさと怒りに歪む。

 スコールとしては慰めているのだろうが、『あの女』を引き合いに出されると、こちらが無能だと言われているような気がしてしまう。

 

『……そんな顔しないの。本来の任務は失敗だけれど、貴女にはまだやって貰う事があるのよ』

 

 秘匿回線(プライベートチャンネル)越しにもそれが伝わったのだろう、スコールがクスクスと笑いながら告げる。

 と、同時に激しいノイズが耳を打つ――恐らくは、戦闘による衝撃。

 ハイパーセンサーの分析は、計画通りならばスコールが戦闘を行なっている区画の付近で大きな爆発が巻き起こったのを捉えていた。

 

「……っ!? スコール!?」

『悪いわね……ちょっと手こずってるのよ。

「この子」が未調整なのもあるけど……流石はIS学園最強の生徒会長にして、ロシア現代表なだけはあるわ』

 

 口ではそうは言っているものの、あくまで口調には余裕が滲み出ている。

 世界レベルの猛者を相手にしていても尚揺るがない優雅さ――それは彼女の実力と身に纏うISの性能の高さの証左に他ならなかった。

 

『まぁ、離脱するだけならば何とかなるけど……ただ脱出するだけなんてちょっとシャクじゃない?』

 

 珠を転がすように美しく、何処か悪戯好きな童のような、不思議な笑み。

 それはいつも、彼女が自分達エージェントに向かって困難な任務を伝える時のものだ。

 スコールが立てる計画の中には、まるで実行者が捨石になるかのような過酷な内容のものもある。

 

――しかし、彼女は決してその笑顔を崩さない。

 

 まるで買い物を頼むかのような軽い調子で、エージェントを死地へと送り込むのだ。

 

『――眼の前にいる、恐らくは世界初であろう男のIS操縦者……戦闘を通じて彼のデータを可能な限り集めて欲しいのよ。

可能な限り長く、多く、私の脱出準備が整うまで。

そして、可能だったら捕獲して頂戴な』

 

 事実、伝えられた任務は過酷という言葉では足りないものだった。

 増援が整いつつあるこの敵地のど真ん中で、何時とも知れない時間、目の前の獣の如き眼光を殺気を放つ男を相手に戦い、データを収集しなければならない。

 男の実力は完全に未知数――しかし先程の攻防から察するに、相当な実力者なのは疑いようが無かった。

 

「ああ、分かった」

 

 だが、オータムは一瞬たりとも躊躇などしなかった。

 少々血の気が多すぎるきらいはあるものの、そもそも彼女は一流のエージェントであり、自らが使い捨ての駒である事など疾うの昔に承知している。

 きっと彼女は、その内自分をボロ雑巾のように容赦無く使い捨てるだろう……その心に誓った大いなる使命のために。

 

 

 それでも構わない――オータムは、既にスコールに身も心も全て捧げているのだ。

 

 

 あの地獄から――砂埃だらけの忌々しい赤い星から自分を救い出し、偽りかもしれないけれども、愛情を注いでくれた愛しき女性。

 彼女が死ねと言うのなら、喜んで自らの心臓を抉り出して彼女に捧げよう。

 

「…………行くぜ」

 

 一言そう呟くと、オータムは逃げるのを止めて空中に静止し、こちらへと間合いを詰めてくる男に向き直る。

 思考がクリアになっていき、今までの激情が嘘だったかのように澄んだ眼差しのまま男を迎え撃つ。

 もうここにはオータムという女性は存在しない――ただ愛しき女性からの命令を実行し、ただ本能のまま獲物を喰らう蜘蛛がそこにいた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 こちらから逃げるかのように距離を取り続けていたアラクネが、動きを止めてこちらを振り向く。

 

「鬼ごっこは終わり……ってか」

 

 皮肉げに笑いながらオータムを挑発するディンゴ――だが、彼女の様子が先程とは全く違う事に気がついていた。

 表情はまるで能面のように無表情となり、先程の激情が嘘であったかのように静かで冷たい眼差しでこちらを見つめている。

 しかし、放つ殺気は先程とは比べ物にならない程に研ぎ澄まされていた。

 

「チッ……」

 

 空に飛び上がったこの数十秒で彼女に何があったのかは知らないが、数少ないこちらのアドバンテージの一つが無くなったのは確かだ。

 相手が冷静になってしまった以上、迂闊には近付けない……IS刀を胸元に構えながら間合いを測る。

 しかし、攻めあぐねるディンゴを尻目に、まず動いたのはオータムであった。

 

「来ねぇのか?……なら、こっちから行くぜ?」

 

 今までとは全く違う、静かで、殺気だけを押し固めたかのような冷たい声。

 

――しかしそれは、虚空に置き去りにされる。

 

 一瞬にして、オータムの体はコマ送りのように消え失せ、ディンゴの死角へと回り込んでいた。

 

『――敵、瞬間加速(イグニッション・ブースト)を発動、回避して下さい』

「……っ!?」

 

 全身が総毛立つかのような殺気を感じ取ったディンゴは、咄嗟に構えていたIS刀を、担ぎ上げるようにオータムの回り込んだ方向に向かって滑りこませる。

 

――甲高い音を立てて、何かが勢い良く横殴りに叩き付けられる感触。

 

 ハイパーセンサーが捉えたものは、弧を描くように湾曲した片刃の曲刀――シミター。

 オータムは今までフリーにしていた両手に、まるで鋼鉄をも切り裂けそうなほどに鋭い光を放つシミターを出現させていた。

 続けざまにもう一本の手に握られたシミターが、今度は股下から跳ね上がるように振るわれる。

 

「くっ……!!」

 

 ディンゴは咄嗟に左右のバーニアの片方だけを噴かして、まるでバレエダンサーのような円の動きで迫る刃を躱す。

 しかし、それを安堵する暇など無かった――耳障りなアラートと共に、エイダの警告が響き渡る。

 

『――警告、アラクネの装甲脚にロックされました』

 

 ハイパーセンサーが映しだしたのは、シミターに僅かに遅れて、ディンゴ目掛けて砲身を構えるアラクネの3本の爪。

 

「……っ!?」

 

 悲鳴や呻きを上げる暇も無く、唸りを上げて砲弾が火を噴いて放たれる。

 

 

――まるで花火のように、IS学園の空に巻き起こる爆発。

 

 

 その爆煙を切り裂くように、ディンゴは下方へと勢い良く吹き飛ばされるが、バーニアを噴かしてどうにか踏み止まるように静止する。

 

『――絶対防御発動。肩部、腕部装甲損失17%。残りエネルギー250』

「ぐ、はぁっ……!! い、生きてられるのが信じられねぇぜ……」

 

 衝撃に揺れる頭を振りながらゼェゼェと荒く息を吐くディンゴの額には、冷たい汗が伝っていた。

 直撃した砲弾の内、2発は腕と肩でガードする事が出来たものの、残る1発は頭――というよりは顔に命中していた。

 しかもハイパセンサーと鍛えられた動体視力によって、『死』を連想させるモノを刹那の間際まで見せられたディンゴは、正直生きた心地がしなかった。

 

「…………こいつが絶対防御とやらか」

『――はい、原理としてはアーマーンや飛行戦艦の動力炉を覆っていたものとほぼ同じです。

……この時代のレベルを遥かに超越する技術と言わざるを得ません

「ああ、確かにな。確かに凄いが……死ぬほど心臓に悪ィ代物だな」

『――私もそう思います』

 

 軍人であるディンゴにとって――いや、普通の人間ならば『生身で砲弾に撃たれる=死』である。

 にも関わらず、このISとやらは殆ど生身の状態でその砲弾を受ける事を計算に設計されているのだ。

 無論、例え砲弾が直撃したとしても耐え切れるからこそ、このような設計にしているのだろう――事実、ディンゴの体はあれだけの質量の砲弾の直撃と、猛烈な爆炎に晒されながらも全くの無傷だ。

 しかし、搭乗者の精神状態に関しては、全く考慮されていない。

 

 

……最初に戦った時にも馬鹿げた兵器だと思っていたが、認識を改めよう――これを作った奴の頭は、完全にイカれている。

 

 

 だが、そんなディンゴの感想も、瞬く間に迫り来る影によって中断を余儀なくされた。

 

『――敵機接近。砲撃、来ます』

 

 エイダの警告とほぼ同時に、爆煙を切り裂きながら飛び出したオータムが、砲弾を矢継ぎ早に放ちながら迫る。

 

「ちっ!!」

 

 バーニアを吹かし、時に体を捩り、装甲で受け流しながらそれらを躱していくディンゴ。

 しかし、3本の爪から全く別々のタイミングで放たれる砲弾と、オータムの巧みな機動によって、徐々に回避スペースを削られていく。

 

「クソッ!!」

 

 完全に誘導されている――しかし、残りのシールドエネルギーを考えれば、下手に防御を選択すれば圧殺されかねない。

 しかし、だからと言って攻撃に転ずるのも論外だ……こちらの刀が届く前に、砲撃の雨に晒されるのは目に見えている。

 それ故に、ディンゴは避け続ける。

 

――そして回避スペースが一箇所の空間のみに限定された瞬間、アラクネの爪の一本から赤熱するワイヤーが放たれた。

 

 それはディンゴの打鉄の腕へと伸び、装甲を焼きながら巻き付いたかと思うと、すぐさま凄まじい勢いで巻き取られる。

 

「ぐっ……!!」

「――捕まえたぜぇ!!」

 

 咄嗟にスラスターを吹かして抵抗を試みるが、パワーは圧倒的にあちらが上だ。

 為す術無く引き寄せられ、その間に再び爪に砲弾が装填され、動きを止めたディンゴ目掛けて砲口が向けられる。

 

――その瞬間、ディンゴは覚悟を決めた。

 

 スラスターを反転させ、今度は引っ張られる方向へと全力で解き放ち、腕と肩の装甲で体と顔をガードさせながら猛スピードで突進する。

 

「――何い!?」

 

 一瞬驚愕したオータムだったが、すぐに立ち直って砲弾の雨で迎え撃つ。

 しかし、バーニアの推進力に、アラクネがワイヤーを巻き取る力をプラスした事で通常よりも素早い動きを得た打鉄を完全に捉えきる事は出来ない。

 直撃したいくつかの砲弾も、腕と肩の装甲を犠牲にする事で耐え切り――ディンゴはIS刀が届く間合いにまで踏み込む事に成功していた。

 

「おおおおおおおおっ!!」

 

 右肩に担ぐように振り上げたIS刀に突進の勢いを全て乗せて切りつける。

 空中という踏ん張りの利かない状況であるにも関わらず、その威力は先に地上で見せたものと何ら遜色を感じさせない。

 

「甘ぇ!!」

 

 しかし、オータムはその苛烈な斬撃を、シミターの細い刀身を巧みに使って受け流した。

 彼女の逆の手に握られたシミターの切っ先が、空いた脇腹目掛けて突き出される。

 

「――っ!!」

 

 ディンゴは身を捩って腰の装甲に刃を当てる事で辛うじて直撃を避けるが、大きくシールドエネルギーが削られるのが分かった。

 

『――敵装甲脚、近接クロ―を展開。回避』

「分かってる!!」

 

 カウンター気味の刺突に思わず息が詰まりそうになるが、既にアラクネの背には爪の先端の全てをこちらに向ける装甲脚が待ち構えている。

 

――ここで臆すれば押し潰される。

 

 ディンゴは怯む事無くそのままの勢いで、オータム目掛けて激しいショルダータックルを加えた。

 

「がはっ!!」

「ぐっ!!」

 

 激しい金属音と共に激突し、弾き飛ばされる両者。

 先にバランスを取り戻したのはディンゴ――その右腕には未だに絡みついたままのワイヤーを思い切り引き寄せる。

 

「……ぬあっ!?」

 

 オータムは咄嗟にワイヤーを切り離して逃れようと試みるが、ディンゴがワイヤーを引くのが一歩早かった。

 ISの全力を使った牽引力はPICでも完全に殺しきる事は出来ず、凄まじい勢いで、アラクネはディンゴに向かってつんのめる。

 

「さっきのお返しだ!!」

 

 そして、ディンゴはカウンターの要領でIS刀を再びアラクネへと叩きつけた。

 シミターが間に滑りこむが、バランスを崩した状態では受け流す事も出来ない。

 

 

――身の毛もよだつような鈍い音が響き渡った。

 

 

「~~~~~~~っ!!!!」

 

 オータムが声にもならない悲鳴を上げる。

 叩きつけられたIS刀は、シミターの刀身と共に、アラクネの装甲ごとオータムの右腕の骨を粉々に砕いていた。

 しかし、赤熱した鉄棒をねじ込まれたかのような激痛に苛まれているであろうにも関わらず、オータムはアラクネの装甲脚に命令を下す。

 全く別々のタイミングで繰り出された爪の連撃は、捨て身の攻撃で体勢の崩れていたディンゴの全身へと突き刺さった。

 

「ぐああああっ!!」

 

 鋭い爪が装甲を穿ち、砕き、ディンゴの体を数十m吹き飛ばす。

 PICとスラスターによって踏み止まった時には、彼の体のあちこちからは血が飛沫いていた。

 

『――絶対防御貫通。出血部位の止血を開始。残りシールドエネルギー、僅かです』

「チッ……『絶対』とやらじゃ無かったのか、エイダ?」

 

 痛みに顔を歪めながら、皮肉げに問いかける。

 が、帰ってきたのは相も変わらず素っ気ない、理路整然とした分析であった。

 

『――あくまで理論上であり、便宜上の名称に過ぎません。

シールドエネルギーが減少した状態でISの武装など大出力の攻撃を受ければ、今回のように貫通してダメージを負う危険があります。注意してください』

「……だろうと思ったぜ。そうそう美味い話は無いって事だな」

 

 呆れたような表情で溜息を吐くディンゴだったが、内心は正直穏やかでは無かった。

 身を守る筈だった盾が不完全と分かった以上、もう迂闊に無謀な突撃をする訳にはいかなくなってしまった。

 そして何より、『間合いを再び開けられてしまった』。

 幾度もダメージを与えられながら、ようやく一撃を加える事が出来た先程の攻防……これ以上の被弾を受けずに今一度出来るかと問われれば、難しいと言わざるを得ない。

 

 見れば、オータムの右腕は完全に使い物にならなくなっているのか、だらりと垂れ下がったままだ。

 が、未だにこちらの手数が圧倒的に足りないのが現状である。

 特に厄介なのが、あの砲塔兼近接武器である背に浮かぶ装甲脚――あれがある限り、今のディンゴが近付くのは至難の業と言える。

 

 

……せめて、あれを壊すまでいかないまでも、引っぺがす事が出来れば――。

 

 

「――ちょっと待て。引っぺがす、か」

 

 そこまで思考した所で、ディンゴの脳裏に閃くものがあった。

 手元を見下ろすと――そこにはあれだけのドッグファイトを展開したにも関わらず、一度たりとも引き剥がされずにIS刀を握り締め続けていた「打鉄」の腕がある。

掌のメタトロン素子は一際強く光り輝き、しっかりと、しかし生身で掴むかのように柔らかい保持を維持している。

 そして力を込めれば、まるで強力な磁石で貼り付けたかのように絶対に引き剥がされない。

 

――この力をもう少し強くしたら……それは、自分が慣れ親しんだジェフティの『とある武装』に酷似していた。

 

 『コレ』を使う事が出来れば、あの装甲脚をどうにか出来るかもしれない。

 

「――エイダ、出来るか?」

『三秒間だけの展開ならば、二回のみですが使用可能です。タイミングに注意してください』

 

 ディンゴの提案を、エイダが瞬時に判断して告げる。

――それが聞ければ後は十分だ。

 

「了解!!」

 

 その言葉に口の端を吊り上げて答えると、ディンゴは再びスラスターを吹かして蜘蛛(アラクネ)の巣へと踏み込んでいった。

 




という訳で、ディンゴにはエイダ&ジェフティの演算能力のサポートの代償として、以下の制限プレイを強いられる事になりました。

・ブレオンがデフォ。

・シールドエネルギー、各スペック大幅ダウン

・ジェフティに似通ったアクションも出来るは出来るが、とんでもなくエネルギーを食う。

これでもかなり強いですが、この話の通り、敵が専用機を持っていて、尚且つ操縦者がそれなりの実力と胆力を持っていたりすれば、高い確率で勝てません。
無双とは程遠い状況ではありますが、このぐらいやらないと操縦者の基本スペックだけで圧倒してしまいますので……ご了承下さい。

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