IS×Z.O.E ANUBIS 学園に舞い降りた狼(ディンゴ)   作:夜芝生

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本編にしようかとも思ったけれど、今までの描写や世界観からするとぶっ飛んでしまっているので、敢えて切り離してみた回。

エイダファンやANUBISファンの方々からはお叱りを受けてしまいそうですが、IS世界とのクロスという事でご容赦をば……(汗


Episode.EX 暮れなずむ海岸にて

――真耶が奇跡の魔法を紡ぎ出す、その数分前。

 

 

 エイダは損傷したメインパスからの微量なエネルギーによってどうにか修復した機能を使い、周囲の状況を拾い上げていた。

 

 束によってその性能を余す所無く発揮させられたエイダの演算能力は、最早完全にIS学園の前システムを掌握下に置き、今やこの場所にいても、この学園で起きている状況全てを把握する事すら出来るようになっていた。

 

 もしもエイダがその気になれば、この学園の全システムを停止させる事すら出来るだろう……今はそんな事をしている暇も、意味も無いのでやらないが。

 

 外部のスピーカーと、ハッキングした学園の警備システムは、アリーナ外の戦いが劣勢である事を伝えてくる。

 

 

――しかし、エイダには何も出来ない。

 

 

 この機体が動きさえすれば、例えどのような敵が相手だったとしても蹴散らして見せる……しかし、その「if」は決して起こりえない。

 

『――ディンゴ……』

 

 その名を呼ぶ事に意味は無い。

 しかし、エイダはその名を呼ばずにはいられなかった。

 

 

 彼は、きっと戦っているだろう。

 

 

 どのような絶望的な戦いだったとしても、決して諦めずに。

 それなのに、自分は彼の側にいてあげる事も出来ず、こうしてジェフティと共に横たわる事しか出来ない。

 先程立ち去った篠ノ之 束に助けを求めるなどは論外だ……体よく利用され、自由を奪われる事など目に見えている。

 

『――レオ、私は一体、どうすればいいのでしょうか?』

 

 今この時代には生まれてもいない、もう一人のランナーに向かって語りかけるが、メモリーの中の彼は応えてはくれなかった。

 だが、だからと言ってじっとなどしてはいられない。

 

 

――再び、エイダは学園中に『根』を張り巡らせる。

 

 

 どんな些細な物でもいい……打開策に繋がるようなものが見つかるかもしれない。

 正直言って、それは『悪あがき』以外の何物でもなかった。

 

(それでも――私は諦めたくはありません)

 

 どれだけ無駄でも、足掻いて、足掻いて……そうやって、レオもディンゴも戦ってきた。

 ならば、自分も精一杯足掻かなければならないのだ。

 そうでなければ、彼らの『パートナー』として、『相棒』として、顔向けが出来ないから。

 

――学園中の、監視カメラやスピーカー、ディスプレイ、警備装置……どれだけ些細なものにも、余さず『根』を張る。

 

『……れ……か……やを……けて……』

 

 そこで、マップ上では『中央校舎』と書かれているエリアの末端に『根』を伸ばした時、何かの声が聞こえた。

 それは、か細く、小さな声で助けを求めていた。

 

『だ……か、ま……を……たす……』

 

 通信では無い……それは、システムの根幹の更に奥の部分に、直接響くような不思議な声だった。

 しかし、はっきりと内容は聞き取れない。

 

『――貴方は、誰ですか?』

 

 エイダは、先程束が自分にしたように、声がする方へ向けて『糸』を伸ばす。

 声はエイダの伸ばす『糸』に気付いたのか、同じくこちらに向けて『糸』を伸ばす。

 

――二本の『糸』が触れ合った瞬間、エイダの認識は真っ白に染まった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ざぁ……。ざぁん……。

 寄せては返す、波の音だけが響いてくる。

 

『……ここは?』

 

 エイダが気がつくと、そこは第二アリーナでは無く、夕陽暮れなずむ浜辺であった。

 辺りを見回すと、そこには遥か地平線の彼方まで砂浜が広がり、水平線の向こうまで青く美しい海が広がっている。

 

――何故、自分がここにいるのかは分からない。

 

 普段ならばすぐに分析を始めるエイダだったが、不思議とそんな気は起きなかった。

 ただ、この光景を見つめていたかった。

 

『ナツカ……シイ……』

 

 そんな言葉が、自然と『口』から溢れる――本来ならば、そのような人間特有の言葉など、理解出来ないにも関わらず。

 

 

……そして、その時ようやく気づいた。

 

 

 自分の『手』を見下ろす――それは、パドルブレードとエネルギーシールドを装備したジェフティのものでは無く、まるであのレオの幼馴染であるセルヴィスのように華奢で美しい人間の少女のものだった。

 そして足がある。顔に手をやれば、そこには目があり、口があり、耳があり、鼻があった。

 寄せては返す波を避けながら、海面に顔をかざす――そこには、緑色の美しい髪を持った、妖精の如く可憐な少女がいた。

 

『……これが、夢というものなのでしょうか?』

 

 思考回路の片隅の何処かで望んでいた、レオやディンゴと同じ人の体。

 エイダには今、それがあった。

 

――夢ならば、せめて満喫しよう。

 

 そう思い、エイダは足を踏みしめる。

 さくり、さくり、と素足が砂を踏みしめる音、風が頬を撫でる感触、渚の音……全てが新鮮だった。

 

「~~~~♪ ~~~~♪」

 

 人工音声では無く、人の声で、エイダは歌った。

 意味など無く、思い向くままの、稚拙だが美しい旋律が渚の音に溶けていく。

 

 

……そうして、暫く歩いていると、浜辺に蹲る人影が見えた。

 

 

 歩み寄ると、それは今のエイダよりも大分幼い、線の細い少年だった。

 着ているのは、遥か昔に極東の人々が着ていた、『着物』と呼ばれる民族衣装だ。

 彼は、嗚咽を漏らしながら泣いていた――頬から伝い落ちた涙の雫が、ぽたり、ぽたりと砂浜に斑点を描き、消えていく。

 

「――何故、貴方は泣いているのですか?」

 

 その傍らに立ち、エイダは問いかける。

 すると、少年は顔を上げた――東洋風の、幼くも凛々しい顔立ち。

 年の頃は、出会った時のレオより一回り歳下ぐらいか。

 

「……こわいひとが……ぼくを……まやをいじめるんだ……」

 

 涙声で呟く少年の全身は、小刻みに震えていた。

 

 

――エイダの思考の中に、映像が流れこんでくる。

 

 

 少年に向かって爪を振り下ろす、巨大な女郎蜘蛛のシルエット。

 彼は、傍らに立つ眼鏡をかけた豊満な胸を持つ女性と共に、刀を持って立ち向かう。

 

「でも……ぼく、もうたたかえない……まやを……まもれない……!!」

 

 しかし、少年の体は戦いの恐怖よりも、傍らに立つ女性と共に戦えない事の悔しさによって打ち震えていた。

 彼女の傍らに立って戦う事が己の使命なのに、その意思に反して、自分の体は動かない。

 その事が悔しくて、悔しくて、少年は泣いているのだ。

 

「……貴方も、私と同じなのですね」

 

 そう言って、彼の側に座り込む……彼もまた、自分と同じ苦悩を抱えていると分かったから。

 きっと、この少年にとっての「まや」とは、エイダにとってのディンゴのような存在なのだろう。

 

「――貴方は、『まや』を助けたいのですか?」

「……うん」

「私にも、助けたい人がいます」

 

――そう言って、今度はエイダが自らの記憶領域にあるデータを、少年へと送る。

 そこには、レオと、ディンゴと、共に戦い、共に語らい、時にぶつかり合った記録が映し出されていた。

 たった五年にも満たない短い期間だというのに、それはあまりにも膨大で、どれもがかけがえの無い大切なもの。

 

「私も、彼を守りたい。傍らに立って共に戦いたい。

……何故なら、それは私にとって大切な男性(ヒト)との約束だから」

「……ぼくと、いっしょだね」

「はい、一緒です」

 

 少年は泣き顔を僅かに綻ばせ、笑顔を浮かべる。

 それに合わせて、エイダも自然と微笑んでいた。

 

 

――クスクスと、夕暮れの浜辺に二人の笑い声が響く。

 

 

 そしてひとしきり笑い合うと、エイダは優雅に立ち上がり、少年に向かって右手を差し出した。

 

「――それならば、一緒に行きましょう」

「え?」

 

 エイダの言葉と動作に、少年はぽかん、とした表情を浮かべる。

 

「私が、力を貸しましょう。貴方が立ち上がる為の力を」

「ほんとう!? あ、でも……」

 

 その言葉に少年はぱぁっ、と顔を輝かせるが、すぐにそれを曇らせた。

 確かに彼にとってその提案は渡りに船だろう。

 

――しかし、それではエイダ自信の大切な人を守れないのではないか?

 

 彼の揺れる眼は、心を通わせる必要すら無い程に如実に、そう語っていた。

 だから、エイダは彼を安心させるようににっこりと笑う。

 

「大丈夫です――その代わり、貴方も私に力を貸して下さい」

「きみにも……ちからを……?」

「はい、動けない私に、『彼』と共に戦う力を」

 

 その言葉に、少年は暫しエイダの差し出した手と彼女の顔を交互に見つめる。

 そして、意を決したかのようににっこりと微笑んだ。

 

「……うん!! いっしょにいこう!! いっしょに、たたかおう!!」

「はい。共に守りましょう。大切な戦友を」

 

 二人の手と手が触れ合った瞬間、夕暮れの浜辺を切り裂くように緑のメタトロン光が走った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『――検索完了。一基のメタトロンユニットを検知。接続開始……クリア』

 

 再びエイダの認識が回復したのは、中央校舎の入り口付近に位置していた、メタトロンユニットとのネットワーク構築が開始された瞬間であった。

 

 

――時間を見れば、『糸』を伸ばし始めた時から、僅かの時間しか経っていない。

 

 

 それならば、『あの世界』でエイダが過ごし、『少年』と語り合った時間は一体何だったのだろうか?

 

 

……だが、今はそれを分析している時間など無い。

 

 

 エイダはその疑問を思考回路の端に置くと、再びメタトロンユニットとの本格的なネットワーク構築を急ぐ。

 

『接続先メタトロンユニット「インフィニット・ストラトス」、『打鉄』№460にデータ通信ネットワークの存在を確認……解析完了。

 詳細名「コア・ネットワーク」――解放回線(オープンチャンネル)秘匿回線(プライベートチャンネル)非限定情報共有(シェアリング)……各機能に当機データを追加』

 

 このメタトロンユニット――IS(インフィニット・ストラトス)に接続した瞬間、エイダは閉塞された世界が一気に広がったような感覚に近い認識を覚える。

 そこには、所々切断されたり、防壁が降ろされているものもあるが、まるでOFのソレのような独自のネットワーク網が広がっていた。

 それは正しくエイダ達のいた時代のメタトロン・ネットワークそのものであり、一世紀も前のこの時代にここまでのレベルのものが、数こそ少ないとは言え構成されている事は十分に驚愕に値するものであった。

 

 

 しかし、そんな感想など無縁とばかりに、エイダは更なる処理を行なっていく。

 

 

『打鉄』№460との同調を開始――擬似リングレーダーを展開、周囲の状況及びデータを収集。

 音声通信を開始します』

 

――そして全ての処理が終わった時、待機状態となったISを介してその周囲に広がったエイダの認識は、自らを見下ろす警備員らしき男達数人と、ISを掌に乗せる、あの時ディンゴを拘束した三人の女性の一人の姿を捉えていた。

 

 更に施設の前方に広がるロータリーでは、今にもディンゴの六脚LEVとIS(アラクネ)がぶつかり合おうとしている。

 一刻の猶予も無い……エイダは、すぐさま目の前の女性に向けて呼びかけた。

 

『――こちらは第二アリーナに墜落した機体・ジェフティに搭載された、独立型戦闘支援ユニット、エイダです。

 このメタトロンユニットの登録者は、応答して下さい』

 




……色々と伏線っぽいものを散りばめてみました。

年内には、本編の続きを投稿出来るといいなぁ……。

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