ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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紹介

 大和がドラゴンの力を持つ者“D”が通う学園―――ミッドガルに学園長であるシャルロット・B・ロードの指示により、隔離される事になった。

 

 その一方で―――。

 

「……であるからして、彼は男である前に“D”―――つまり私たちの数少ない同胞なのです。性別で区分することなく、仲間として受け入れることこそ、我々が高い社会意識を持つ人類であることの証明だと――――」

 

 島の中央に位置する学園の体育館にて、全校生徒が整列し、壁際には教職員が並んでいる。その全ての視線は檀上に立ちマイクを通して語っている深月。

 

 そう、今行われているのは唯一の男の“D”である悠のミッドガル転入に関する説明を行うための全校集会が行われていた。

 

 シャルロット直々の会談の後、彼女らと別れた深月は兄である悠に関する準備を進めた。

 

 彼は語る深月の隣におり、無論男子用の学園の制服を身に着けている。

 

 あれから一夜が明け、深月に叩き起こされた悠はいきなりこの場所に連れてこられた(なお深月はマスターキーを使って扉を開けたが)。

 

 檀上に深月、悠が共に立った時、好奇の視線が悠に向けて一斉に注がれたが、現在は深月の方を向き熱心に話を聞いていた。

 

「―――勿論、それでも不安に思われることは多いと思います。ですから私は皆さんの生活を守るために、全力を尽くすとお約束致します。彼は私の兄ですが、身内であるからこそ、問題を起こした場合はより厳しい処分を――――」

 

 悠が―――本当に、生徒会長なんだなと胸の内で感心した。

 

 深月へ熱い視線を注ぐ生徒達を見回す。そこには、昨日一悶着あった銀髪の少女、イリスの姿もあった。

 

 全校生徒が六十五人いる中、九つある五人から九人の列があり、彼女は一番端―――五人の列にいた。

 

 ちなみに、悠は深月とイリスの二人はブリュンヒルデ教室だと聞かされていた。

 

「―――皆さんが彼を温かく迎え入れてくれることを私は期待しています。そして彼にも我々の誠意と信頼に応えることを求めていきます。ですからどうぞ彼を―――兄を宜しくお願いします」

 

 深月が演説を締めくくると同時に深々と頭を下げると、すぐに大きな拍手が体育館に鳴り響いた。

 

 鳴り止まない拍手の中、深月が悠にマイクを手渡した。

 

「えっと……物部、悠です。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 緊張で彼がその一言だけ話すと、拍手はより一層大きくなり、「よろしくね―!」、「私たちがついてるよー!」といったような温かい歓声が飛び交う。

 

 男が入る事に抵抗感があるであろうにも関わらず、深月は演説によって皆の意識を変えてしまった。

 

「何にせよ、これで学園全体の雰囲気は兄さんに好意的なものになるでしょう。でも―――不束者では困りますよ?」

 

「あ、ああ。分かってる。深月には迷惑はかけないよう心がけるよ」

 

 そう決意表明の言葉を述べた悠だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言っておきますが、これから兄さんが配属される教室は問題児揃いです。私の言葉もどれほど届いたのか自信がありません。受け入れてもらうには兄さん自身の努力が必要です」

 

 集会が終わった後、二人で教室へと向かう途中、深月は悠にそう忠告していた。

 

 悠も半ば予想していた。彼が配属された教室は深月と同じブリュンヒルデ教室。狭い教室の中は机が3×3で置かれている。

 

 座っているのは勿論女生徒だけだ。そんな彼女達を見回して、深月が言っていた問題児という意味がよく分かった。

 

 前列に座っている金髪の少女は何故か怒った表情で睨みつけて、ショートカットの少女は教壇に立つ悠を無視して文庫本を読んでいる。二列目にいる赤毛の少女は一心不乱にノートPCを弄り、ボーイッシュな雰囲気な彼女はむすっとした顔でそっぽを向いていた。

 

 イリス・フレイアの席は三列目。ちらちらと此方の様子を窺っているが、悠が視線を合わせようとすると慌てて顔を背けた。

 

「では、改めて紹介させていただきます。私の兄――――物部悠です。年齢は十六歳。出席番号は配属順ですから八番ということになります。……次いで、大河大和さんです。同じく十六歳で出席番号は四番となります」

 

「よろしくお願いします」

 

 深月の紹介と共に悠は頭を下げた。

 

 彼の反応にイリスだけが小さく拍手をする。だが、他の反応がないことに不信を抱いてしまう。

 

 そんな中、前列に座り此方を睨み付けていた金髪の少女の一人がさらに眼差しを強くして立ち上がった。

 

「わたくしは認めません! このミッドガルに男を招き入れるなど……深月さん、これは職権の乱用ではないのですか?」

 

「これは正式な手続きと審査を経た上での決定です。ご不満があるようでしたら十五名以上の署名を集めて臨時生徒総会を開いてください。そこで投票を行い、全校生徒の過半数がリーザさんの主張に同意すれば対応を検討します」

 

「くっ……」

 

 訴えていたリーザと呼ばれる少女は歯噛みをする。女性のみであったミッドガルに男が混じることは過去にはなかったため、こういう反応が出るのを悠は予測済みだった。

 

 だからか、悠は腹が立たなかった。

 

「あなた……そもそも本当に“D”なのですか? わたくしはまずそこが信用できません」

 

「んー……証拠を見せろってことか?」

 

 悠の問い返しにリーザは首肯する。

 

「はい、今ここでお願いしますわ。皆さんも興味がおありでしょう?」

 

 リーザが呼びかけると、他の少女達も頭を上げて一斉に悠を見据える。

 

「深月、いいか?」

 

「え? あ、はい……単純な物質変換ぐらいなら。運動エネルギーが付随する現象や不安定な物質変換は危険なため、演習場以外では禁止されていますが」

 

「大丈夫だ。失敗なんかしないから見て行ってくれ」

 

 悠の言葉に深月は不安げになりながらも頷く。了承を得た悠は手を伸ばし、意識を集中させる。

 

 イメージは世界の裏側に腕を差し入れるように構築。

 

 すると、野球ボール程の黒い球体が彼の手のひらに生成された。

 

 その様子に、教室内がどよめく。

 

 これが―――上位元素(ダークマター)。この世界におけるあらゆる物質・現象に変換できる万能因子。この上位元素を生成する事が“D”の証。

 

 悠が何千、何万回と繰り返してきた暗示動作で、失敗するはずがなかった。

 

 これで証明はしたが、悠がこれだけでは芸がないと思い、手の内に収まる上位元素は更に形を成していき、やがては独特の形状の銃が完成していた。

 

 対人兵装―――AT・ネルガル。

 

 複数のブロックが組み合わさったような銃身と、文様のように刻まれた淡く発光するライン。

 

 まるでどこかのSF映画に出てくる銃のレプリカに見えるが、これは近年ニブルでも採用された実践兵器。

 

 悠が頭の中に保存されている“設計図”―――その内の一枚を流し込んだ結果、上手く完成した。

 

 彼は軍人時代のいつもの癖で銃を手に取ると同時に構えを取り、壁に背を向けた。

 

「それ……銃、ですわよね? 上位元素の形態えを変えただけのものではなく……完全に物質化した銃に見えるのですが?」

 

 震える声でリーザが問いかけてくる。

 

「ああ、そうだけど」

 

「まさか、実弾が撃てるのですか?」

 

「何言ってるんだ? 撃てない銃を作っても意味がないだろ?」

 

 悠がそう言うと、紛れもない驚愕が皆の顔に浮かんだ。

 

「あ、有り得ませんわ! そのような精密なものをイメージだけで構築するなんて、人間には不可能です!」

 

「いや、不可能とか言われてもな……今、実際に見せただろ?」

 

「そ、それはそうですが……」

 

 悠が誤魔化すように言うと、リーザは言葉に詰まってしまう。

 

 すると今度は先程までむすっとしていたボーイッシュな少女が手を挙げた。

 

「キミ……すごいな。ボク、びっくりしたよ。練習したのかい?」

 

「まあ、それなりには……」

 

 悠は居心地が悪いながらも嘘をついた。実際の所、何千何万回の地獄のような訓練を繰り返して漸く自分のものにできたのだが、隠し通していた。

 

「へえー……本当にすごいね。でもどうしてそんな無駄なことを頑張ったんだい? そんな小さな銃なんてドラゴンには通じないじゃないか」

 

「無駄な事?」

 

「ああ、だってそんな小さな銃なんてドラゴンには通じないじゃないか」

 

 少女の言葉に、悠は彼女達との根本的な差異を理解する。ドラゴンを討伐するための訓練を受けており、銃などの物質変換は全くもってしないと言っても過言ではない。

 

 強力な攻撃方法を持つ彼女達に対して、ニブルで彼が学んできたのは人間との戦い、ドラゴンが通過した際の国や地域を武力で平定する事。この点に限るものだった。

 

「兄さん、このような危険物の持ち込みは許可されていません。よって、これは私が責任を持って没収させてもらいます。今後はこういった軽率な真似をなさらぬようお願い致します」

 

 深月がジト目で悠の物質変換した銃を取り上げられ、彼は静かに了解と素直に頷いた。

 

 銃を後ろ手に持った深月は、クラスメイトを見回す。

 

「これで兄さんが“D”であることの証明は出来たと思います。ホームルームの残り時間も少ないですし、簡単な自己紹介に移りましょう。私は飛ばして、出席番号順にお願いします」

 

 そう言って、深月はリーザを見た。リーザは不服そうな表情を浮かべながらも立ち上がる。

 

「出席番号一番、リーザ・ハイウォーカー。十六歳ですわ。わたくし、まだ納得した訳ではありませんからね!」

 

 悠と深月を指差して、リーザは荒々しく着席する。

 

 次に立ち上がったのは、ずっと本を読んでいたショートカットの少女。

 

「出席番号二番、フィリル・クレスト……十五歳。趣味は読書です。よろしく」

 

 ぺこりと小さくお辞儀をして、フィリルと名乗る少女は静かに着席した。

 

 続いてボーイッシュな少女が起立する。先程悠に「そんな無駄な事を」と言った生徒だ。

 

「ボクはアリエラ・ルー。十五歳。出席番号は五番。できれば足手まといにはならないで欲しい。弱い人はキライだ」

 

 いきなり厳しい事を口にする少女―――アリエラ。先程もそうだったが、思った事をそのまま口にする性格なのだろう。

 

(五番……?)

 

 同時に、悠がアリエラの出席番号は五番と、一人抜けている事に気がついた。それは四番がいない事。深月の出席番号は三番なはず。

 

 だが、特に誰が注意する訳でもなく、次の生徒―――ずっとPCを弄っていた赤毛の少女が起立する。

 

「ん」

 

 立つと一際小柄な事が分かる赤毛の少女は小型の携帯端末を取り出し、悠に画面を見せる。

 

 目を凝らさないとよく見えず、身を乗り出して画面に現れた文字を読み出す。

 

「出席番号六番……レン・ミヤザワ……十三歳。年下だからって舐めるなよ……お前の十倍、頭はいいんだからな……?」

 

 悠が読み終えると少女―――レンはこくんと無言で頷き、着席した。

 

 隣の深月が小声で補足する。

 

「クラスは基本的に近い年齢の生徒が集められていますが、レンさんはいわゆる“天才”で、飛び級して私達のところに配属されたんです」

 

 また対応に困りそうな女の子だ。どんどん上手くやっていける自信がなくなっていくと悠は感じた。

 

 そして最後に起立したのは悠が先程、浜辺で出会った少女―――イリス・フレイア。

 

 意を決した様子で悠と視線を合わせる。

 

「改めて―――出席番号、七番、イリス・フレイア。モノノベ、よろしくね」

 

「あ、ああ。よろしく」

 

 昨日、裸で遭遇した件について忘れているらしく、というか途中で“ある者”の遭遇のインパクトが凄まじかった影響で、水に流すような形に収まった。

 

 自己紹介はこれで終わりになった。

 

「な、なあ深月」

 

 悠は自己紹介が終わり、午前の授業が始まる前に教室を出て行った深月に質問を投げかけた。

 

 尚、本日の午前は選択式の一般教養科目で、出席は任意だったが流石に出ない訳には行かないと思い、悠は受ける事にした。

 

 本格的な授業は午後からの“D”として必要な事を学ぶ必修科目があるという事らしい。

 

「何ですか、兄さん」

 

「昨日会ったあいつ……大和はどうしたんだ?」

 

 そう、聞いた質問は昨日、ミッドガルに侵入した大和の事だ。特にクラスメイトが話題にする事がなかったので気になったのもあったが。

 

 彼がどうなったかを素直に気になった悠は深月に訊ねてみた。

 

「……彼は、このミッドガルに隔離される事になりました」

 

「な―――」

 

 隔離。その言葉を聞いて悠は戦慄した。

 

「隔離といっても、そこまで大層なものではありませんよ。保護のようなものです。この学園の意向によって決まりました」

 

「そ、そうか」

 

「ただ、無許可で“D”と接触される事が現時点では禁止されています。彼が今後どうなるかは私にも分かりません」

 

 深月は真剣な面持ちで答える。

 

 確かにそうだ。彼が今は隔離されているものの今後の意向がどうなるかが分からない。

 

 このままミッドガルでボーッと生き続けるか、あるいは島流しの如く追い出される事も無きにしも非ず。

 

 ―――どうなるかは、全て彼次第だ。

 

 悠はそれを聞いてから、渋々ながら納得した様子で、教室に戻ったのだった。

 




大和の出番ェ……。

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