ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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好待遇?

 深月が、ミッドガルに不法侵入の如くやって来た規格外人―――大和の処遇を考え、ミッドガルに隔離される事になり、それを拒否せず受け入れた規格外。

 

 思わず困惑したがそれから立ち直った深月は、兄の対応をしてから大和の対応をする事となった。

 

 場所を砂浜からあるところへと移動となった。その際、大和も付いてきて欲しいと言われた。

 

 きっと、一人にさせるのは色々と不安ができると思ったのだろう。そのため、深月と悠が同伴で付いている。

 

 移動していると、なんと近代的で中世の城の連想させる大きな建物という、深月個人の宿舎を持っている深月が個人で受け持っている巨大な宿舎に着いた。

 

 大和と悠は一人だけが住むにはあまりにも巨大と感じた。

 

 そこへ、兄を案内させるので、宿舎の前で待っててくださいと大和に伝え、彼はその言葉に素直に従った。

 

 いくらか待っていると、五分もせずに深月は戻ってきた。

 

「では、今からミッドガルに向かいます。行きましょう」

 

「はい」

 

 そして、大和は何故か敬語だが、返事をしてミッドガルに向かう。

 

 いや、深月が連れて行くと言った方が正しいか。

 

 あくまで目的は隔離である。しかし、大和はその事は既に存じ上げ、深月も安堵させようと思って行くだけだと述べている。

 

 こうして、大和は深月と連れて行く形だが、ミッドガルに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園長の部屋へと案内します。付いてきて下さい」

 

「おいっす」

 

 淡々と歩く深月の後を追うように歩いていた大和は、彼女と特に会話もないが、特別重いという雰囲気もなくミッドガルに着いた。

 

 何故会話がなかったというと、深月が「会話は然るべき時と場所でお願いします。誰が聞いているかも分からない道端で、軽率に話をする事ができませんので」と釘を刺すような言い方をしたためである。

 

 大和は、話ができなくとも、ミッドガルは初見なので田舎者みたくキョロキョロして観光気分でいればいいと思ったので、特に何も言っていない。

 

 と、歩を進めていた深月が不意に立ち止まる。

 

「着きました。ここです」

 

 着いた場所には立派な木製の扉がそびえ立っていた。

 

「話は着いてあります。……流石に突然の事で驚かれていましたが……」

 

「ああ、だからあんな対応していたんか」

 

 向かう前に、深月が何やら携帯らしき物を取り出し、話をしていた。てっきり大和は友達かと思っていたが、全くの見当違いであり、電話でも敬語口調で話していたのだから頷ける。

 

「万が一の事があっては困るので、私も同行します」

 

「おっ、ありがたい」

 

「ふふっ、いいんですよこのくらいの事は」

 

 正直、一人では多少だが不安のあった大和。深月はクスッと笑いながら言う。

 

 そして、いざ入ろうと深月が扉をノックすると、どうぞと女性の声が返り、大和が慎重に扉を開いた。

 

 部屋の中を見るとミッドガルの廊下よりも暗く、独特な香りがする。この場所は日当たりが良い時計塔の最上階なのにも関わらず、分厚いカーテンで日の光を遮っている。

 

 室内には三人の女性が佇んでいた。立派な椅子に腰かける金髪碧眼の少女、その脇に立つメイド服を着た女性、さらに二十代前後の風貌で髪をポニーテールに纏めている女性の姿があった。

 

「待っておったぞ」

 

 そこに、金髪の少女が不敵な様子で一つ呟く。大和は彼女の顔立ちを見て、ロリBBAの超サイヤ人か……? と大変失礼な事を思っていたりした。

 

「色々と詰まる話もあると思うが、まずは自己紹介といこう。私はミッドガルの長、シャルロット・B・ロード。それでこっちが私の専属秘書をやっている、マイカ・スチュアートだ」

 

「初めまして、マイカ・スチュアートです。以後お見知りおきを」

 

 学園長―――シャルロットとその秘書であるマイカがお辞儀をしながら同時に挨拶を交わす。

 

「あ、どうも。大河大和っていいます」

 

 向こうの方から自己紹介をしてくれたので、此方が何も言わない訳にもいかず、つられて、大和も挨拶をする。

 

「むう、清らかな乙女が集うミッドガルに男が二人も来るとは聞いてはおらんかったが……。まあ良い。単刀直入に聞く。そなたは“白”のリヴァイアサンを撃退した者だというのは本当か?」

 

 最初はぶっすと口元を尖らせて駄々をこねる子供のような表情をしていたが、すぐに切り替えて真剣な面持ちとなる。

 

「はい、本当っす」

 

 事実は事実。間を入れずきっぱりと答える大和に、深月とシャルロットを除いた者達が驚愕の表情を示す。

 

 尚、普段は楽観的でおちゃらけている大和でも、目上の相手となると流石に敬語であった。

 

「ほう。間髪入れずに答えるとはな。相当の自信があるのだな」

 

「まあ、ドラゴンが歩くだけでかなりの被害を出すと言われてますし、ただ止めただけに過ぎないっすよ」

 

 この情報はリムからの受け売りだが、実際、ニュースなどでも取り上げられている事があるため、こうしてきっぱりと答えられる。

 

 三年前の“青”のヘカトンケイルの事案を生で見たし。と、大和が考えているとシャルが続けざまに疑問をぶつけてきた。

 

「しかし、そなたは普通の人間にしか見えぬが?」

 

「……今その証拠を見せるっすよ」

 

 シャルロットの質問に答えるように、大和は背中から黒い『もや』を発生させ、やがてそれは形を成し巨大な翼と化す。

 

『!?』

 

 その光景を見届けた大和以外のこの場にいる一同は一斉に驚愕した。特に深月は一度見た事があるにも関わらず。

 

 何故か三つの赤い棘のようなものがない(・・・・・・・・・・・・)数メートル以上の巨大な形状をしている“アナザーフォルム形態のギラティナ”の翼を一対、生やしたと同時に威圧感が増したのは言うまでもない。

 

「……これは驚いた。まさかこんな不気味な翼を生やす人間など見たことがない」

 

「でしょ? だからオレはこの…………まあ、異能の力? を使って倒したんですよ」

 

 ポケモンの力と言っても恐らく……いや絶対分からないと思うので、ここは場の雰囲気を配慮して、ある程度考えて彼は言った。

 

「失礼」

 

「はい?」

 

 彼が一通り話すと、不意に側に居る女性から話し掛けられる。

 

「私は物部深月のクラスを担当している篠宮遥という。一つ聞きたい事があるのだが……構わないか?」

 

 軍人のような鋭い眼差し、男性口調で話す女性―――遥は大和に問う。

 

「問題ないっすよ」

 

「済まない。そのような異能の力をもって、君自身が“白”のリヴァイアサンを撃退した者だとは分かった。だが環状多重防衛機構(ミドガルズオルム)を突破した時、君は“何か”に乗っていた。私はその正体を知りたい」

 

「……ッ」

 

 大和は心当たりがあるのを思い出し、息を呑む。まさかメガシンカしたラティアスに乗っていた光景が見られていたとは思わなかった。

 

 バレてしまった以上隠し通せないだろう。故に大和は一つ息を吐いた後に言う。

 

「まあ、オレはドラゴンに対抗できる獣という奴を出すことが出来るんすよ」

 

「獣?」

 

「はい。オレの出す色んな獣は、ドラゴンの力と対等……かどうかは分かりませんけど、強い力があるのは確かです。で、オレもその獣の力と同等の力を使えるって事っす」

 

 絶対という確証はないが、恐らくポケモンの力がドラゴンの力よりも遥か下や、底辺にいく事はないと思い、即席で考えた。

 

「失礼だが、差し支えなければ見せては貰えないだろうか?」

 

「そうだな。ハルカの言う通り、私も気になる」

 

 シャルロットも同様だったようで、便乗してきた。

 

「…………」

 

 大和は考える。今ここでポケモンを出しちゃってもいいのかと。

 

《マスター。ポケモンを出す程度であれば問題ないかと》

 

《そ、そうなん?》

 

《はい。あまり派手にいかなければ》

 

《リム……さんきゅーデス》

 

 内心葛藤していた大和に、念話でリムが大和に伝える。彼もメガリングの状態で念話送りの彼女に礼を言った。

 

「分かりました。ですけど他の人には言わないでください」

 

「うむ、勿論。他言無用なのは承知している。他の組織に漏洩させない事を約束する。だから安心してくれ」

 

「ありがとうございます。えーとじゃあどいつにしようかな……。まああいつでいいか」

 

 シャルロットに礼を言った後、大和が腰に巻いていたポーチから多少迷いながらも上下が赤と白を基調としたモンスターボールを取り出す。

 

「む? そのボールはなんだ?」

 

 シャルロットがモンスターボールの事を疑問に思ったのだろう。問いただしてきた。

 

「ああこれは、モンスターボールって言って、この中から獣を出せるんす」

 

 手に持つモンスターボールをもう片方の手で指差し、述べる。

 

 しかし、流石に言葉だけだと、原理が不可解だ。何故、拳程の大きさのボールから、獣が出せるのか。シャルロットは小声で「……旧文明の遺物か……?」と思考に耽っていた。

 

「カモン、ラティオス!」

 

 そして、大和が声を上げながらボールをその場に軽く放り投げる。

 

 ボールが何度も回転し、地に着くと同時にボールから白い光が飛び出した。否、光のシルエットが出てきた。

 

 その輪郭が現わになると、そこには青と白を基調としたデザインに、戦闘機のようなシルエットをもつポケモンが浮遊していた。

 

『しゅわーん!』

 

『なっ……』

 

 そのポケモンが鳴き声をあげた瞬間、この場の全員が驚く。深月に至ってもだ。

 

 それもそのはず。見た事もない特殊な形状をしている生物が現れたのだから。

 

 皆は世界に蔓延(まんえん)しているドラゴンに似ると思い、少し覚悟していたのだが、考えていた事よりも全然違うものだった。

 

 深月は、てっきりレックウザと似たような存在を出すのかと思いきや、予想より斜め上をいっていたが。

 

「えーと。こいつはオレが持ってる(ていうか第六世代までのポケモンは全部出せる訳だけど)むげんポケモン、ラティオスです」

 

「ふーむ……こいつがか……」

 

 シャルロットは目の前の存在(ラティオス)がとても物珍しく感じたのか、自ら椅子から降りて此方に歩み寄る。

 

 そして、顎に手を添えながらラティオスの体を撫で回すようにマジマジと見ていく。

 

《なあ、ご主人》

 

《ん、どうしたラティオス?》

 

 そこへ、ラティオスが未だに見据えている彼女に向けていた顔を大和に移し、念話で訊ねてきた。

 

 彼は“エスパー・ドラゴン”タイプのポケモンだ。エスパータイプを持つポケモンは大方、念話やテレパシーが使える。

 

 大和とて例外ではない。エスパータイプの能力を用いれば同じく念話が可能である。最も、ほぼ全てのポケモンと会話は可能ではあるが。

 

 それはそうとして、何事かと疑問に思った大和は、咄嗟ではあるが念話に切り替えて訊ね返す。

 

《さっきからこの人の視線がいやらしいんだけど》

 

《いやまあ、それはしょうがない。だってラティオス見た事ないんだし》

 

《それにしてもさ。ボクの体に何か付いてるみたいに見てるじゃないか》

 

《この場を乗り切るのにお前を出したんだよ。何とか耐えてくれ》

 

《……ご主人がそう言うなら》

 

 どうやらシャルロットの視線に厭らしいものを感じたらしく、大和に言ってきたらしい。

 

 ちなみに、主とされる大和と念話という名の会話では、割とフレンドリーな間柄で話していたが、それは元々大和が上下を気にしていないためだ。

 

 相棒、あるいは友人……のような立場でやっていこうという意思を持っていた。故に、ラティオスが『主人』とは呼んでいるものの、話は友達とするような感じである。

 

「……一通り見てみたが、とても興味深いな。しかもそなたは色々な獣を出せると言った。彼奴(きやつ)だけに限らず様々な奴等を保有しているのだろう?」

 

「保有っていうか……まあそんな感じっす」

 

 言葉を濁すが、間違いじゃないので肯定する大和。

 

 余談だが、ポケモンを見せて欲しい切り出した女性―――遥はシャルロットと同様、興味深そうに見て、深月は思ったよりも可愛く感じたのか、触れたそうにしていたのを隠していたが。

 

 ラティオスがこれ以上いてもアレだと思い、大和は彼女らにラティオスを仕舞っていいか訊ね、承諾を頂いたので、ラティオスをボールに収めた。

 

「それにしても……、だ。そなたはもう人外で、それに加えてドラゴンと同等の力を誇る獣を出すことが出来るとは……。もう何でもありに見えてきたぞ」

 

「いやあ、照れますね」

 

「別に褒めてる訳ではないのだが……。まあ良いだろう。そして、だ―――」

 

 そこでシャルロットが大和の力とポケモンの話題から切り替えた。

 

「我が校、ミッドガルに不法で侵入した件についてだ。話は既についている。そなたの処遇についてだが……隔離、だったな」

 

「……はい」

 

 シャルロットの物言いに、大和は姿勢を整え一つ返事をする。

 

 そう、彼女の言う通り、大和がミッドガルに無許可で侵入した件。彼の隔離。それは学園側で決められた。

 

 ただ竜の一体、“白”のリヴァイアサンをたった一人で撃退した報告が挙げられ、生徒会長である深月の報告によれば彼は三年前に“青”のヘカトンケイルを足止めした報告もある。

 

 最初こそそう聞いただけで半信半疑だったが、生徒会長として嘘は吐かない深月の信念強さに加え、学園長であるシャルロットがその場で大和の力を垣間見た。

 

 流石にシャルロットも、この者が竜に匹敵するのも頷けた。

 

 元々ミッドガルは「“D”の隔離施設」でもあった。そのため、大和を隔離という名目上、この学園に居座らさせる事を良いとした。

 

 というか、国際機関アスガルや軍事組織ニブルに手渡せば、その力に漬け込んで、人体実験など利用される事待ったなしだろう。

 

 また、唯一男性の“D”である物部悠は、“D”なのでミッドガルに送られるのが普通だが、ニブルに確保された上に彼の情報をアスガルに上げなかったため、強制的にニブル所属となっていた。

 

 そこで、妹の物部深月の権力によってミッドガルへ異動となった。学園側も承知の上である。

 

 大和が学園に隔離すると同時に学園側が今度はその“裏”を返してやろうと思った。つまり、ニブルの似た事返しという事だ。

 

 悠を勝手にニブル所属にされた事を、今度は此方が大和を隔離する。ニブルの時同様アスガルに報告する訳にはいかないし。

 

 尚、学園側は一般人としての立場で見ているが、大和は他勢力の脅威を無自覚に敵にしない・自身は気にしないほど楽観的だったのを知る由はない。

 

「隔離といっても、そこまで身構えなくてもよい。そなたを地下にまで送るつもりはない」

 

「そ、そうなんすか?」

 

「ああ。地下に一人だと何かと不自由だろう。なのでそなたを私の“監視下”に置く。その代わりに外出を除けば私の私室で好きにしてて良い」

 

「…………」

 

 何という好待遇。シャルロットの監視下に置かれる代わりにシャルロットの私室で何をしても良いときた。外出は除くが。

 

 大和は多少ながら覚悟していたため、彼女の言葉を聞いて拍子抜けしたか、もしくは大きく安堵したのか、呆然としていた。

 

 地下という言葉を聞いて何となく悪寒を覚えたが、聞くのが怖かったので聞かずにいた。

 

「どうした?」

 

「ああいや……」

 

「それとも、もっと良い扱いがいいのか? しかし、私にもできる範囲が……」

 

「そうじゃなくて! 十分過ぎるぐらいに良い扱いで拍子抜けしたんです!」

 

 どうやら拍子抜けの方だったらしい。

 

 隔離というのは名目上だ。更に大和は無許可侵入したとはいえ客人に近いもの。

 

 さらに何も被害を出してない上に、“D”には会ったが一切手を出していない。

 

 それに、此方としても報告にも「何もなかった」として扱える。それなら、此方も相応の扱いをして良いとも言える……はず。

 

「そうか? だが私個人としては一生徒として残ってもらいたいのもあったが、流石にそういう訳にもいかないのだ……済まぬ」

 

「いやいいっすよ、全然。オレは問題ないと思いましたし」

 

 申し訳なさそうにするシャルロットに大和が手を振って応える。

 

「ふ……そうか。なら良い。そなたらもそれで問題ないな?」

 

「はい」

 

「意義ありません」

 

「シャルロット様の意向に従います」

 

 シャルロットの問いに深月、遥、マイカが反応する。皆、絶対権のある学園長が従うまで。

 

 こうして大和は、ミッドガルに入学とはならずだったが、保護されるが如く、隔離されるのであった。


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