ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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ドラゴンズ・エデン
竜の力を持つ者達の学園・ミッドガル


 砂浜に佇んでいた悠、イリスの二人の元に大和がスタイリッシュに登場し、さらにそこへ悠の兄でもある深月もやってきた。

 

 ちなみに、先程まで一緒にいたイリスはいない。堤防の上に置いてあった自分の荷物を持って、去っていった。しかも結局、悠のシャツを着たままで。

 

 お陰で悠は最初に暑くて脱いだらしい長袖の上着を再び着る羽目になった。その事に大和は「悠暑くないの? こ↑こ↓暑いのに? プークスクスー」と悠に小馬鹿にしたように笑った。「お前な……!」と流石に悠は怒ったが。

 

 なお大和は、イリスの下半身は裸という事を悟ったので、彼らと話をしている時は下半身より上をずっと見ていたという。

 

「えーと……つまりだ、お前―――大和は三年前にヘカトンケイルが俺たちの町を襲ってきた時に関わっていたんだな?」

 

「まあ、そうなるわな」

 

 悠は状況を整理するために、先程深月から聞いた説明の元、判断し言う。

 

 大和が肯定している辺り、嘘偽りはないとされる。

 

 三年前、物部の姓を持つ兄妹、悠と深月が住む町にヘカトンケイルが襲来し、偶然とはいえ大和もその場に居た事から、ヘカトンケイル撃退の件については彼も介入した。

 

 事実上、悠がヘカトンケイルを倒したことになっているが、大和の活躍は二人にとって偉業ともいえる、実に刺激的なものでもあった。

 

 人間には生えないであろう翼、しかもその上ギラティナというポケモンの翼。更にはレックウザという蛇のような形のドラゴンを召喚させて、ヘカトンケイルを完全とはいかないまでも圧倒させて見せたのだ。

 

 最早、人間でありながら人間の領域を超えているのではないか? 深月はあの時の出来事が鮮明に焼き付いているため、気が気でなかった。

 

「しかし驚きました……。まさかあの時私達ではどうにもならないような相手に立ち向かった人と再会できるなんて」

 

 “壁に耳あり障子に目あり”を気にする程の真面目な性格の深月だが、現在は立場上よりも驚きの方が大きかったためこうして普通に会話をしている。

 

 “D”でもない普通の人間でありながら、ドラゴンの一体を圧倒したのだ。その人物に再会できるものだから驚くのも無理はないだろう。

 

「いやぁ、本当はアイツ、俺が倒したかったのに自己再生ばっかしやがるもんだからなぁ。滅ぼしてやる! って勢いでやれば良かったかなぁ」

 

 しかも当の本人は、偉業に近い行為をやったのにも関わらず、詫びれもなく名残惜しい様子といった始末。

 

 それも、人間爆弾となったとある博士を、船外に放り出して爆発させるという所業をした鬼畜ヒーローの台詞も交えて。

 

「んんっ!」

 

 そんな風に大和が言う中、深月は咳払いをして話題を変えてきた。

 

「本来であれば、ミッドガルは“D”を教育する場でもあります。しかし、“D”という条件を満たしていればこのミッドガルで教育を受けることも可能で、兄さんは唯一の男姓としての“D”ですが、条件を満たしているので男とか女という事は関係ありません」

 

「な―――」

 

 淡々と言う深月に悠は言葉を失くす。

 

 それもそうだ。理由は分からないが、“D”として生まれるのは女性ばかりだ。すると必然として、ミッドガルに通える生徒は女性のみとなる。

 

 完全な女学校。女の園ともいえる学園に悠が通うとなると、問題がある。

 

 だが、“D”であれば性別関係なくミッドガルに通えると深月は言った。つまり、悠もその条件を満たしているという事。

 

 悠は例外として、発見と同時に存在を秘匿された―――唯一、男の“D”。

 

「だ、だけどさ、俺の存在を公にしてもいいのか? アスガルは俺みたいな奴がいる事を隠したかったから、ニブルに送ったんじゃ……」

 

 国境を越えて発生するドラゴン関連の諸問題に対処するため、二十年前に設立された国際機関アスガル。その傘下には現在、二つの組織がある。

 

 一つは対ドラゴン戦を想定した武装・戦術の研究開発や、日常的に起こる竜災害への対応を行っている軍事組織ニブル。

 

 もう一つが“D”達の自治教育機関であるミッドガル。

 

 少し前までミッドガルはニブルの管理下にあったらしいが、現在は完全に対等な立場となっていると聞いている。

 

 非常時はアスガル指示の下で合同作戦を行う事が想定されているため、深月やイリス達学園生にもニブルと共通した軍階級が与えられている。

 

 ちなみに、深月はミッドガル学園の生徒会長であり、竜伐隊の隊長でもある。そして階級は中佐である。

 

 アスガル直轄の組織、ニブルに所属していた頃の悠は、階級が少尉。つまりは悠よりも深月の方が上という事。

 

 ただ、ミッドガルはあくまで“学園”であるため、階級は関係なくなる。

 

 話が逸れたが、アスガルがそういう組織構造であるからにして、いくら深月が中佐でも組織の決定には逆らえないと悠は思った。

 

「兄さんの存在を隠したのはアスガルではなく、ニブル。現地で兄さんを確保したのをいい事に、アスガルへ情報を上げず、勝手に処遇を決められたんです」

 

 悔しげに奥歯を噛みしめる深月。さらに彼女は言葉を続けた。

 

「なので、ミッドガルの異動は私の権限で行いました。」

 

 そう聞くと、かなり強引な手を使ったと思われるが、兄の身を探し回り、守りたいという気持ちがあったからこその彼女の行動だろう。悠は渋々ながらも納得した。

 

「何かそう聞くと、ニブルって汚いって思うわ」

 

 大和が呟く。それを聞いた深月も首肯したのか、頷く。

 

 彼は「じゃああの時、クロスフレイムとかで滅ぼした方が良かったかな……」と物騒な考えを小さい声で呟いていた。

 

「さて、話は一旦変わりますが、大和さんについてです」

 

「オレ?」

 

 大和は自身を指差しながら呟き、深月は頷く。

 

「人間という名目ではありますが、あなたは“D”ではないので、ミッドガルで教育を受けるどころか、何も出来ません。この土地に勝手に不法侵入した件もそうです。本来なら重罪が負われます」

 

「ヴェ……」

 

「しかし、大和さんは三年前のヘカトンケイル撃退の件、それに………あなたは一人だけで“白”のリヴァイアサンを撃退したという報告があります」

 

「何だって!? 初耳だぞそれ!」

 

 話を聞いていた悠が驚愕の表情を見せる。時期的には悠がニブルに拉致されてからすぐ後の出来事のため、分からないのも仕方のない事だと思うが。

 

 外見も雰囲気も普通と感じていた、少年がドラゴンの一体を倒したと驚愕していた。

 

「まあ一応」

 

 そしてたった一言のまあ一応で済ます大和も大概である。

 

「ていうかそれもバレていたのね」

 

「はい。この事については既に公にされています。“D”でもない人間が、ドラゴンを倒した……と。ただどういう人物なのかは完全に把握している訳ではございませんので、今の所で知るのは私ぐらいかと」

 

「良かった……世界中に知れ渡っていると思った」

 

 深月の言葉を聞いて、取りあえず安堵する大和。以前ニブルに立ち入った時、ロキ・ヨツンハイム少佐に顔は見られたものの、リヴァイアサンを倒した人物だったとは、その一時では判別し難かったため、バレずに済んだ。

 

彼女は、三年前のヘカトンケイルの件と照らし合わせて、リヴァイアサンを倒した大和だと思い浮かべ、それが辻褄が合うと判断した。その事を現時点で知るのは深月のみである。

 

そこが救いか。

 

「それでですが、他の勢力があなたの存在を知ってしまった以上、身が狙われる事があると思います。しかも、その情報が知られてしまうのも時間の問題だと思います」

 

「…………」

 

「なので、大和さんには、正式に学生としてではなく、ミッドガルに隔離される権利があります」

 

「か、隔離って……」

 

 悠は冷や汗を流しながら言う。

 

 ―――隔離。言ってしまえば監禁。多少素性を知っているならまだしも、周りからすれば何者であるか一切不明だ。

 

 そんな者を、安易に他の“D”と接触させてはいけないだろう。下手をすれば、衝突が生じ、タダじゃ済まされなくなるかもしれない。

 

「これは私個人の意見ではありません。ミッドガル側が判断した事です。男性が混じる事で様々な問題が生じる事を想定しました。兄さんもそうですが、私は兄さんを責任を持って管理致します」

 

 悠が「か、管理?」と冷や汗を流し、悠が学園内の風紀を乱さないよう、監視し、問題が起こらぬようにする管理を深月は説明した。

 

 そして続けざまにジト目で「イリスさんを口説くといったような破廉恥な行為をさせないように」と、釘を刺した。

 

「ふーむ……」

 

 大和が唸る。多分、いやかなり重大に関わる案件だろう。

 

 興味本位でミッドガルに来た事を重要視されている。

 

 当初、『“D”の教育を行うと言われているミッドガルを訪れては如何だろうか』というリムの提案に乗り、彼女にも問題があると思われたが、あれはリムなりの勧めであり、その言葉を聞いた大和は即、有無さえ言わずに突っ走って向かったのだ。

 

 このような事態になったのは、紛いもなく彼が原因だろう。

 

「この事は絶対という事ではありません。大和さんの不注意だったという事もありますから。しかし―――」

 

 深月は、もしかしたら大和の不注意という事も想定し、絶対ではないという。

 

 ただ、その後の言葉が重く響き渡る。

 

「大和さんにとっては、他の勢力には狙われ、最悪、このミッドガルも敵に回すかもしれませんね」

 

「深月!?」

 

 悠が何を言っているんだとばかりに声を上げる。

 

 最早、彼女の言った事は、脅迫紛いのものだ。

 

 しかも、悠は見逃さなかった。深月の掌に僅かだが、小さいながらも黒い球体―――上位元素(ダークマター)が集まっていた事を……。

 

 上位元素とは、この世界におけるあらゆる物質・現象に変換できる万能因子。それを“D”である深月が生成は愚か、物質変換するのは造作もない事。

 

 しかし“D”は、ドラゴンを討伐するための訓練を受けている。彼女らの物質変換させたものは、ドラゴンに対する強力な攻撃方法だ。

 

 その事を理解した悠は、大和に対する警告のものだと瞬時に感じ取れた。

 

「私は、この方がお互いにとっても穏便に済むだろうと言ったまでです。言ってしまえば、忠告でもありますが」

 

「…………」

 

 大和は未だに俯きがちにダンマリだ。やはり、迷いがあるのだろう。

 

 もし、このまま彼が拒否をしたりすると、少々、此方もそれなりの対応をする可能性もない訳ではない。

 

 だが大方、拒否的な反応が彼から出るだろう。それが“普通の”反応である。

 

 深月としても平和的解決を望んでいる。生徒会長としての矜持(きんじ)を保ち、彼女なりの慈悲のような気持ちを持って。

 

 ただ、もし彼がこのまま拒否すれば、彼女から手を出すという暴挙も無きにしも非ず。そのため、僅かながらの上位元素を出したのだ。

 

 いきなりこんな事を言われて戸惑っているであろう大和の出方を待っている。深月は覚悟する―――。

 

「うん、分かった」

 

「―――え?」

 

 だが、あっけらかんとした彼の口から出たのは、此方が予想していたものの真逆のものだった。

 

「いやだから、お縄につくんだよ。ほら、手錠でも何でも出して」

 

 大和は両手を握り、腕を手錠にかけられたような態勢になる。

 

 ―――まさか、彼が素直に此方の言う事を聞いてくれるなんて。

 

 大方、嫌がると思ったのだ。それが“普通の反応”。

 

 では彼は“普通”じゃないと? しかし、感性は至って人間そのもの。

 

 深月は、逆に困惑してしまった。

 

 ―――その一方で、大和の方はというと。

 

(さっきちょっち暴れすぎて今賢者タイムだし、ここは素直に従っとこ。深月サンがお巡りさんみたいに見えるし)

 

 深月が警察官のように見えるという、どうしてそういう発想に至ったのか不明だが、どうやら聞く耳持たないって訳ではなさそうだ。

 

 大和は元々から凄まじい強さを持っている。三年前、積み技を一切していないにも関わらず、“青”のヘカトンケイル、“白”のリヴァイアサンを圧倒した。

 

 そしてその三年越しで、彼は更に強くなった。

 

 故に、『ちょっと本気』になれば深月の痛めつけが聞かないどころか、ミッドガルを消し飛ばす事すらできる。

 

 圧倒的な攻撃力と防御力を控えているのに、ここは握手のような友好関係を築く道に出た。

 

 彼が元々“普通”じゃないため、このような事になったのだが、少なくとも、力に溺れていないって事は窺える。

 

 力だけが全てじゃない……と、母みたくリムから教訓を教わった。

 

 ひとまず、何故か硬直してしまった深月を悠が収める形となり、事は進んでいった。

 




本文から抜粋したもので、「ほら、手錠でも何でも出して」
>ん? 今何でもって……

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