ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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最近カンナムスタイル 改をほぼ毎日見て草生やしてます(どうでもいい)
今回、大和とキーリが話し合うオリジナル回あります。


式典

「アリエラ殿、凄い。特殊部隊っぽい兵士を制圧するなんて……」

 

「何となく他の子達とは雰囲気が違うように感じていたけど、あなた──―かなりの戦闘技術を持っているわね」

 

 スレイプニルに所属していた時の悠の知り合いで且つ部下だったという、ジャンをアリエラは拘束した。

 

 その所業に、大和とキーリは感心していた。

 

「え? いや、ボクはちょっと武道の経験があるだけだよ。昔取った杵柄(きねづか)って奴だね」

 

 アリエラはそう言うが、正直彼女の技術は"ちょっと"のレベルではない気がした。

 

 その後、悠が何故ジャンだけがキーリ暗殺に関わってきたのかを問いかける。

 

「ジャン、久しぶりだな」

 

「……隊長、お久しぶりです」

 

 彼は頭を微かに持ち上げ、むすっとした声で答える。

 

「もう俺はスレイプニルの一員じゃないんだから、隊長っていうのはおかしくないか?」

 

「いえ、隊長は隊長ですから」

 

 苦笑する悠に、ジャンは(かたく)なに「隊長」と繰り返した。

 

「まあ、そこまで言うなら好きにすればいい。それより、他のスレイプニルはどうした? どうしてジャン一人だけで仕掛けてきたんだ?」

 

 悠は一番気になっている事を問いかけた。本気でキーリを仕留めるつもりなら、隊員全員で攻撃するべきだろうと思っていた。

 

「他の者は、いません。これはオレの独断専行……命令違反の行動ですので」

 

「命令違反? どういうことだ? ジャン達はキーリの暗殺を命じられているんじゃないのか?」

 

 昨日、ロキから連絡があり、「こちらで対処する」と言ってきた。それはスレイプニルを動かすという意味ではなかったのだろうか。

 

「昨日まではそうでしたが―――急に命令が変わったんです。スレイプニルは監視と、問題が発生した場合の事後処理のみに徹しろ……と」

 

「監視と事後処理……じゃあ作戦実行を担当する奴が、まだ他にいるんだな?」

 

「ええ……」

 

 表情を暗くして、ジャンは頷く。

 

「……オレは、奴と隊長を戦わせたくなかった。だから、その前にオレがキーリを始末しようと思ったんです。一応、勝てる見込みはありましたから……なのに、どうして邪魔するんですか! その女は、人類の敵に等しいテロリストなんですよ!」

 

 アリエラに拘束されながらも、ジャンは金色の瞳でキーリを睨む。

 

「ミッドガルがキーリを保護すると決めた―――理由はそれだけだ」

 

「そんなの建前でしょう? それだけじゃない、キーリの傍にいる男もそうですよ」

 

 すると今度は大和の方を向き、再び睨む。

 

「それって……大和の事か?」

 

「はい……一人でドラゴンを倒す男……大河大和。奴はキーリと同じで、いつ隊長を裏切ってもおかしくありません。オレは奴らに対して……信用ならないです」

 

「そんな事はない。ミッドガルに来てから、大和も身を(てい)して戦っている。確かにロキ少佐にも警戒されているが、裏表のない大和が裏切るとは到底思えない」

 

 力強く悠が言う。ここまで悠が言うのは、協力者である大和という存在を信頼しているからだ。

 

「俺は大和を信じているぞ。お前がそう言っていてもな」

 

「…………」

 

 ジャンは悠の言葉に押し黙るが、どこか納得のいかない表情だった。

 

「それとジャン、さっきの質問の続きだが、何で俺とキーリを、命令違反を犯してまで戦わせたくなかったんだ?」

 

「……殺されると、思ったからです」

 

 ジャンは悠から目を逸らし、躊躇いがちに答えた。

 

「……誰が?」

 

「―――隊長が」

 

 それは悠にとって、衝撃的な言葉だった。

 

 スレイプニルのメンバーは誰よりも悠の実力を知っている。知っているからこそ、彼を隊長と認めてくれたのだ。

 

「他の者はどうか知りませんが、オレは今でも隊長を尊敬しています。こんなところで死んで欲しくありません。だから―――」

 

 そんなジャンが、悠の身を案じている。()()()()()()()()()()()と言っている。やはり……"彼"なのかと。

 

 キーリが殺されかけたという、悠に似た雰囲気の大男。

 

「そいつの特徴は?」

 

 乾いた声で問いかける。

 

「全身を装甲服で包んだ、得体の知れない男です。この国へ向かう時にロキ少佐がいきなり連れて来て―――一緒にキーリを襲撃したのですが、ロキ少佐の命令しか聞かない彼とは現場で連携が取れず、彼女を取り逃がす結果となりました」

 

 忌々しそうにキーリを見ながら答えるジャン。

 

「そいつの、名前は?」

 

 悠は唾を呑み込み、最後の確認を取った。

 

「―――フレイズマル。ロキ少佐は、奴のことをそう呼んでいました」

 

 ジャンから必要な話を聞き終えた悠は、銃を取り上げた後に彼を開放した。

 

 彼は最後まで悠の手でキーリを殺すように言って、暗い路地へと消えて行った。

 

 その後、悠達は深月達の元へと戻っていった。その際、アリエラがジャンという名前に疑問を持ったのか、「次あの子に会った時、()()()()()何だって聞いてみてよ」と言われた。

 

 偽名を使っているのかもしれないと感じた悠だが、アリエラの考えが分からず仕舞いのままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃を受けた大和達はひとまず現場を離れ、王宮に戻った。

 

 予定よりは少し早いが、夜からエルリア城で行われる"魂送祭(こんそうさい)"の開催式典に出席するため、夕方までには帰ってくる予定だったのだ。

 

 町はもう大賑(おおにぎ)わいだったが、葬儀としての"魂送祭"が実際に始まるのは、()が沈んでからのようだ。

 

 彼らはしばし部屋で体を休めた後、式典の場に相応しい服装へ着替え、エルリア城に向かった。今回はリムジンでの移動だ。

 

 女性陣は皆、昨夜の晩餐会と同様に(きら)びやかなドレス姿で、車内はとても華やいで見えた。

 

 既に大勢の人達が列を成している城壁の正門を通り過ぎ、リムジンは関係者専用と(おぼ)しき西門から城の敷地へと入った。

 

「わぁ……」

 

 ティアが窓に貼りつき、感嘆の声を漏らす。

 

 城の尖塔(せんとう)は美しくライトアップされ、荘厳で幻想的な雰囲気に包まれていた。

 

 王宮も立派だったが、ここは本当に別世界という感じがした。まるでファンタジーの世界に迷いこんでしまったみたいだと。

 

 けれど―――今の悠は、その感動に浸りきる事はできなかった。

 

 皆と笑顔で言葉を交わしながらも、意識の一部分は常に周囲を警戒している。

 

 フレイズマル―――その名をジャンから聞いた瞬間から、一瞬たりとも緊張を切らしてはいない。

 

 深月には「もう勝手な事はしないでくださいね」と念を押されたが、あの者に立ち向かえるのは恐らく悠か大和だけ。今度ばかりはキーリに協力を仰ぐべきではない。

 

「皆様、こちらへ。特別席にご案内いたしますので」

 

 ヘレンに導かれ、悠達は城内へと入る。石造りの城内は、はっきり言って寒かった。

 

 だが階段を上り、大きな扉の中に通されると、少し空気が暖かくなった。

 

 人のざわめきが聞こえてくる。そこは一階の広いホールを見下ろす事ができる観覧用のテラスだった。

 

 ホールの一番奥には巨大な肖像画が揚げられ、その下には花に包まれた(ひつぎ)が安置されている。

 

「お爺様(じいさま)……」

 

 フィリルが肖像画と棺を見ながら、小さく呟いた。

 

 ()の人物こそ、アルバート国王。

 

 白い口髭を蓄え、鋭い眼光を絵の中から向けてくる老人は、いかにも意志が強そうに思える。大和はこの人が国と世界を変えたにも等しい事をやってのけたと、肖像画からも感じる事ができた。

 

 ホールが一杯になると、フィリルの父であるアルフレッドが登場し、挨拶を述べる。

 

 式典は思った以上に、厳かな雰囲気で始まった。まず長い黙祷(もくとう)が捧げられ、ざわついた城内が、しんと静まり返る。

 

 フィリルも真剣な表情で目を閉じていた。きっと心の中で祖父への想いを念じているのだろう。

 

 ―――あなた様のその勇姿、その魂に、栄光あれ。

 

 今のミッドガルがあるのも、"D"が人権を持てるようになったのも、全て彼によるもの。これまで成し遂げた素晴らしい所業に大和も、精一杯の謝辞を送った。

 

 黙祷が終わると、少し控えめだったホールの照明が明るくなり、脇に控えていた楽団が和やかな音楽を奏で始める。

 

 ホールは見る間にパーティー会場へ様変わりし、ダンスを行う人々も現れる。

 

 城内には他の会場もあるらしく、案内に従って密集していた人々は散って行った。

 

(何という切り替えの速さ。オレじゃなきゃ見逃しちゃうね)

 

 これがこの国なりの死者への手向けである事はもう知っているが、王の棺を前にして舞い踊る人々の姿は、どこか切なくもあった。

 

「―――見ているだけじゃ、つまらないわね。ねえ、私達も踊りに行かない?」

 

 テラスからホールを眺めていたキーリが大和達に言う。

 

「あまり目立つことは避けるべきかと思いますが……あなたは狙われているんですよ?」

 

 けれど深月は難しい表情を浮かべた。

 

「大丈夫よ。王族もいる城内は警戒厳重で、なおかつ人目も多い。こんなところで襲ってくる程、敵も馬鹿じゃないでしょ」

 

 キーリは楽観的にそう言うと、悠の手を掴む。

 

「さ、私と踊りましょう」

 

「お、おい!?」

 

 悠は引っ張って観覧席を出ようとするキーリ。

 

「あーっ! モノノベを連れて行かないでよ!」

 

「ティアもユウと踊るの!」

 

 イリスとティアが悠とキーリの後を追って行く。

 

「……仕方ありません。リーザさん、私たちも行きましょう」

 

「彼女から目を離すわけにはいきませんからね」

 

 深月とリーザも溜息を吐いて、歩き出した。

 

「大河クン、レン、ボク達も行こっか。美味しい料理もたくさんありそうだし」

 

「おk」

 

「ん」

 

 アリエラと共に、大和とレンも後に続く。

 

「……私はここで見てるね」

 

 だがフィリルは遥やヘレンと共に、観覧席に残った。

 

 フィリルがエルリア公国の姫であり、"D"でもあることを知る者は、この会場に少なからずいるだろう。彼女がパーティーに出て騒ぎになれば、ミッドガルが迎えとして"D"を派遣したことも(おおやけ)になってしまう。それを考えた上での行動のはず。

 

 一階のホールに足を踏み入れ、大和は料理が並ぶテーブルの方へ歩いていった。

 

「美味いンゴ……」

 

 庶民的な感覚が抜けきらない大和は、料理の美味さに感動していた。

 

 次々と食べ進める中、彼はホール内を見渡す。

 

 アリエラとレンも彼と同じく、食事に夢中になっていた。

 

 悠はキーリとダンスを踊っていた。最初こそおぼつかない感じの悠だったが、次第に上手いリズムでキーリと踊っていた。その際、フレイズマルの事について話していたのが大和の耳に届いたが、今は楽しむべきだと聴かないでおく事に呈した。

 

 また、少し離れた場所でイリスとティアが二人を睨んでいた。深月も酷く不機嫌な顔つきだった。

 

 その後、キーリは順番待ちの子がいると言い、悠の腕から抜け出た。

 

 離れていくキーリを悠は引き留めようとするが、彼女は彼の手をひらりと(かわ)す。

 

 キーリは(つや)やかに笑いながら、大和の方へと歩み寄った。

 

「ん、随分とご機嫌ですねご婦人。そんなに悠と踊れたのが嬉しかった?」

 

 キーリの表情はどことなく嬉しそうで、大和は彼女をからかう。

 

「ええ、そうね。彼とのダンスは楽しかったわ。その証拠にほら、ティアも嬉しそう」

 

 キーリは首肯し、悠の方向に指差す。

 

 悠は彼女の言う通り、満足そうな表情を浮かべるティアと踊っていた。身長さに苦労しているが、歩幅を合わせる事でスムーズに踊っているようだった。

 

「大和は踊らないの?」

 

 と、キーリが訊ねる。

 

「オレ、こういうのは柄じゃないんだよなぁ」

 

「ふぅん、そう」

 

 彼の言葉の後、キーリは手に持ったグラスを傾け、口に含む。

 

「……なあ、改めて聞きたいんだけどさ」

 

 今度は大和が訊ねる。

 

「何かしら?」

 

「いや、単刀直入に聞く。お前は……"黒"のドラゴンから生まれた存在だろ?」

 

「っ……どうしてそう思うのかしら?」

 

 キーリは軽い動揺を見せる。

 

「一年前、初めてお前と会った時。ティアに対して言ってた、お母様……って単語に引っかかってな―――」

 

 

 

 

 

『ティア、あなたは―――“ドラゴン”よ』

 

『ドラゴン……』

 

『そう、そして私達の母は―――』

 

 

 

 

 

「―――"黒"のヴリトラ。そうだろ?」

 

「そうね」

 

 ティアに"教育"するために()()()()()言い放った言葉。自身をドラゴンと称するキーリが母と呼ぶ、それが"黒"のヴリトラ。

 

「そして、お前は他の"D"にはできない生体変換を可能とする。つまり……お前はヴリトラが上位元素(ダークマター)で生み出した存在。違うか?」

 

 上位元素からの変換による命の創造。生体変換を行えない"D"にそのような芸当は不可能だ。

 

「……ご名答。流石ね大和。もうそこまで知ってるなんてね」

 

「別に、ただ単にオレが考えたキーリの正体を聞く必要があると思ってな」

 

「そこまで答えてくれれば十分よ」

 

 キーリは満足そうに言う。

 

「ねえ、大和、そこまで言うならこの間の続きを話したいのだけれど」

 

「この間の続きって?」

 

「私が何者かって話」

 

 それは再三訊ねられる話題。キーリ自身、自分は何者なのかを決めて欲しいという事だった。

 

「またそれか……」

 

「これを聞く事で、あなたが私をどう思ってるか、確かめられるから」

 

 キーリは大和に詰め寄る。

 

「そうなんだけどさ……んま、もう答えは出てるようなもんだけどな」

 

「へえ、じゃあ言ってくれるかしら?」

 

「了解、と言いたいとこだけど……これを話すのはオレの役目じゃない気がする」

 

「……? どういう事かしら」

 

 彼女は彼の言い分に首を傾げる。

 

「あれを見れば分かると思う」

 

 そう言って大和はある方向に指を向ける。

 

 キーリが指の方向を見ると、そこには先程までティア達と踊っていたはずの悠がいたのだ。誰かを探しているのか、周りを見渡している。

 

「悠?」

 

「そう。オレや悠に散々聞いてると思うから、きっとアイツからも同じ回答が得られると思う」

 

 彼がそう言うと、キーリは納得の表情を見せる。

 

「なるほどね。後でまた踊る約束をお願いしてたから、その続きをしてこようかしら」

 

「そうしてちょ」

 

 キーリはそのまま悠の元へと歩み寄り、二人で扉の向こうへ行った。

 




次回から再びバトル回です。

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