ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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後半、オリ回です。


晩餐会とキーリ

 最初に通ったのとは違う階段から一階へ降り、大きなホールを抜ける。両開きの扉まで来ると、いい匂いが漂ってきた。

 

 ヘレンが扉を開け、大和達は部屋の中に入る。

 

 そこには料理の並べられた長く広い食卓があり、既に四人が席に着いていた。

 

 一番奥の上座に腰を下ろしている男性は、恐らくフィリルの父―――次期国王と思われる人物。(きさき)と思われる女性とフィリルは、その左右の席に向かい合わせで座っていた。

 

 フィリルは青を基調としたドレスを着ており、首には大きな青い宝石が(はま)ったネックレスを着けていた。まさに姫と言うにふさわしい()()ちだ。

 

 そして―――妃の隣に、漆黒の衣装を纏った少女、キーリ・スルト・ムスペルヘイムが座っている。

 

 キーリは彼らの方を―――否、悠を真っ直ぐに見つめ、薄く微笑む。

 

 その表情からは、何を考えているのか読み取れない。

 

 奥に座っていた男性は、椅子から立ち上がって小さく会釈をした。

 

「ようこそ。私はフィリルの父、アルフレッド・クレストだ。戴冠式は父上の葬儀が終わってからになるため、まだ王子という立場ではあるが―――この国を代表して、あなた達の来訪を歓迎する。どうぞお好きな席へ」

 

 アルフレッドは悠達に着席を促す。

 

 悠は皆が動く前に、最も危険と思われるキーリの隣に腰を下ろした。

 

 大和も、悠に続く形で彼の隣に座る。二人共、深月達を座らせるにはいけないと思ったまでの行動をしたまで。

 

「―――あなた達が来てくれると思ってた。また会えて嬉しいわ、悠」

 

 キーリは二人に聞こえる程度の声で囁き、熱の(こも)った眼差しを向けてくる。

 

「俺は……正直もう会いたくなかったよ」

 

 アルフレッド達に聞こえないよう、悠は抑えた声で返す。

 

「あら、つれないわね」

 

「まあそう言ってやるな、悠。今、キーリとは敵対関係じゃないし」

 

「そうだけどさ……」

 

 大和が仲介役の如く割って話に入る。悠が反論しようとしたが、その前にキーリがくすっと笑う。

 

「ふふっ、本当に変わった人ね、大和。あなたが私に傷を付けた事、忘れてはいないでしょう?」

 

 そう言ってキーリは自分の腹部に手を当てる。

 

 そこは大和が竜の爪(ドラゴンクロー)で貫いた場所。彼女ははっきり覚えていたのだ、傷つけられた痛みを。

 

「まーね。ああでもしないと、止まるんじゃねぇぞ……って気がしなかったからな」

 

 大和がどこぞの団長よろしく、そんな発言をカマす。

 

「流石は人間最強っていったところかしら。余裕のある発言ね」

 

「は? 人間最強? 何それ初耳なんすけど」

 

 大和がキーリに対して珍しいものを見たような表情をする。

 

 一方、悠はそんな二人の様子にヒヤヒヤしていた。二人がフレンドリーな会話をしている辺り、まるでキーリと友達になったかのような話をしていた。

 

 大和が無警戒なのか。いや、あるいは彼が大物なのか。もしくはどちらもという事も可能性も否定できない。

 

 悠はどこか苦い想いを噛み締めながら、キーリから視線を逸らす。警戒すべき人物だが、大和と話し相手になっている辺り、何か仕掛けるつもりではない……はず。

 

 全員が席に着くのを確認すると、アルフレッドも再び着席する。それを待っていたように、今度は妃と思われる女性が口を開いた。

 

「遠方からようこそお()でくださいました。私はファリエル・クレスト。アルフレッドの妃であり、フィリルの母です。本当はフィリルの姉達も来る予定だったのですが、式典の準備に掛かりきりとなっておりまして……」

 

「いえ、お気になさらず。こちらこそご無理を言ってしまい申し訳ありません。急な来訪をお許しいただいた事、心より感謝いたします」

 

 遥はお礼を述べ、深々と頭を下げる。リーザや深月、大和達もそれに続いたのを見て、悠も慌ててお辞儀をする。

 

 そんな彼らを見回して、今度はキーリが言葉を発する。

 

「皆さま、今日は私―――キーリの求めに応じていただき、ありがとうございます。"D"の同胞がミッドガルから迎えに来てくださった事に、私は深い感動を覚えております」

 

 空々しい台詞にリーザや深月はあからさまに顔を(しか)めるが、キーリの正体をここで暴くわけにもいかない。

 

 悠達は一人ずつ、初対面を装って自己紹介を行った。フィリルの隣に座ったリーザから順番が回ってきたため、悠、そして大和が最後になる。

 

「―――俺は、物部悠と言います。よろしくお願いします」

 

 座ったまま名前を告げて一礼する悠。

 

「初めまして。私は、大河大和と申します。短い期間だと思いますが、何卒よろしくお願い致します」

 

 胸に手を当て、普段の彼から見受けられないような(かしこ)まった挨拶をする。

 

 彼を知っている者達が内心で軽く驚愕してる中、アルフレッドが興味深そうな眼差しを二人に向ける。

 

「ミッドガルへの出資を行っている関係で噂は聞いていたが……本当に男性の"D"もいたのだな。それに……一人でドラゴンを圧倒した事のある者もおるとは……」

 

「あなた、じろじろ眺めるのは失礼ですよ。挨拶はこれぐらいにして食事を始めましょう。料理が冷めてしまいます」

 

「―――ああ、それもそうだな」

 

 ファリエルに(たしな)められ、アルフレッドは頷く。

 

 こうして一見なごやかな晩餐会が始まったのだが、実際は団欒(だんらん)どころではない。皆、食事をしながらキーリに注意を向ける。

 

 が、大和は目を輝かせながら料理を食べていた。先程からもそうだが、キーリに対して無警戒が過ぎると言っても過言ではないぐらいだ。

 

「君達は、フィリルと仲が良いのかい?」

 

「クラスメイトですから……それなりには」

 

「右に同じく、です」

 

 そんな中、アルフレッドは何故かやけに悠と大和に話しかけてきた。

 

「女性ばかりの中に男性が二人だけというのは、大変ではないかね?」

 

「確かに転入した当初は色々と戸惑いましたが……今は楽しく過ごしてます」

 

「悠と同じく、皆と打ち解けて話せてます」

 

「ほう、だがそういった環境ではトラブルも起こるだろう。何と言うか、その―――だ、男女関係の(もつ)れなどはないのかい?」

 

「え……? いや、それは―――」

 

「なんでそんな事を……」

 

 いきなり突っ込んだ質問をされ、二人は戸惑う。

 

「あなた、下世話な質問はおよしになってください」

 

「……お父様、物部くんと大河くんが困ってる。私、怒るよ?」 

 

 だがファリエルとフィリルに睨まれ、アルフレッドは体を小さくする。

 

「―――あ、そ、そうだな。すまない。失礼なことを訊ねてしまったようだ」

 

 申し訳なさそうに謝るアルフレッド。

 

 恐らくフィリルが生活する場に、悠と大和が加わった事を不安に感じているのかもしれない。

 

「いえ、あの、大丈夫です。アルフレッドさんが心配しているような事はありませんから」

 

「そうですよ。何もないですから」

 

 悠に続いて、大和がフォローするが、フィリルは悪戯(いたずら)っぽく笑って首を傾げた。

 

「……あれ、大河くん、そうだった?」

 

「うおいフィリル氏―――」

 

 大和はフィリルの発言にその場でコケそうになる。

 

「何? やはり何かあるのかね?」

 

 アルフレッドは大和に鋭い視線を向けた。

 

「お父様、心配しないで。いざとなったら……責任を取って王子様になってもらうから」

 

「いやちょ、おま」

 

 澄ました顔でとんでもない台詞を口にするフィリルに、大和は途切れ途切れに返事をする事しかできない。

 

「なっ……ま、まさか君とフィリルはそのような関係なのか!?」

 

「違います! 何もないです! 何も……ない」

 

 大和は思い当たる節に葛藤しながらも、いきり立つアルフレッドを必死に(なだ)める。

 

「大和さん、その話を詳しく聞かせてもらえませんか?」

 

「深月まで!?」

 

 不純異性交遊といった部類に厳しい深月が、大和を睨みつけ、追求してくる。

 

 そんな風に和気藹々(わきあいあい)―――と表現していいものかは分からないが、ひとまず平和に晩餐会は進行した。キーリが妙な事をする様子もない。

 

 一番食べるのが遅かったレンの皿も空になり、皆の会話が途切れたところで晩餐会は終了となる。

 

「―――我々は彼女と明日以降の打ち合わせをしたいので、もう少しこの場所を使わせてもらってもいいでしょうか?」

 

 席を立ったアルフレッドに遥が言う。

 

「ああ、構わんよ。後で飲み物を運ばせよう」

 

 頷き、アルフレッドとファリエルは部屋を出て行った。先程までは笑い声が響いていた室内に沈黙が満ちる。

 

 両親の前でいつもより口数が多かったフィリルも表情を固く引き締め、キーリに視線を向けていた。当のキーリは皆の視線を浴びながらも、余裕を感じさせる微笑を浮かべる。

 

 しばらくして飲み物を運んできたヘレンが退室したところで、遥がキーリに向かって話しかけた。

 

「それで、君の目的は何だ?」

 

「……いきなり不躾(ぶしつけ)ね。私がミッドガルに保護を求めたから、あなた達は来てくれたんじゃないの?」

 

 アルフレッド達がいた時とは、がらりと口調を変えて答えるキーリ。

 

「その通りだ。しかし理由が分からない」

 

「理由もテレビで言ったはずだけど? 私、命を狙われているの」

 

「それは、昨日今日に始まったことではないのだろう」

 

 キーリはずっと"ムスペルの子ら"のリーダーとして活動していた。今更ミッドガルに保護を求めるのは、あまりに不自然というもの。

 

「確かにね。でも、私は今、かつてないほど追い詰められているのよ。だから―――助けて欲しいの」

 

 キーリは最後の一言を口にした時だけ、遥ではなく、悠と大和に視線を向ける。

 

「キーリにそこまで言わしめる奴がいるって事か」

 

「……お前が、命の危機を感じるほどなのか?」

 

 大和は考え込む表情を見せ、悠は彼女と目を合わせたまま、問いかける。

 

「まあね」

 

「一体、何をそこまで警戒しているんだ? スレイプニルか?」

 

「スレイプニル?」

 

 初めて聞く単語だというように、キーリは眉を寄せる。

 

「以前ティアの確保にニブルが動いた時、お前を足止めした部隊だよ。(おぼ)えてないか?」

 

「ああ―――あの妙に手強かった部隊の事ね。彼らも脅威の一つではあるわ」

 

「その言い方からすると、他にもあるんだよな?」

 

「ええ、もちろん。ただ、一つ一つ挙げていくとキリがないわよ。私には敵が多いの。その全てから逃れ、安全を手にするためには、あなた達の助けを借りる以外に方法がなかったという訳」

 

「……テロ活動なんかしなきゃいいのに

 

 キーリは悠達全員を見回してから、遥に視線を戻す。

 

 その際、大和が一人愚痴っていたが。 

 

「ならば、まず知っている事を全て話して欲しい。特に君とヘカトンケイルの関係を確かめん事には、ミッドガルへ招き入れることなどできるはずもない」

 

 遥は強い口調で言う。

 

 およそ一ヶ月前、キーリはティアを奪還するためにミッドガルへ潜入した。そしてまるで彼女が招きよせたかのように、突如としてヘカトンケイルがミッドガルに出現したのだ。

 

 キーリはヘカトンケイルを見て"お母様"と言っていた。それが言葉通りの意味とは思えないが、何か深い関係がある事は間違いない。

 

「それについては―――この国を出てから話すわ」

 

「では今すぐにでも()ちたいものだ。先程得た情報では、既にニブルの部隊が君を狙って動き出しているらしい。安全を求めるというのなら、早々にこの国を離れるのが得策だ」

 

「そうね―――そうしたいところではあるけれど、アルバート王の葬儀に参加するって約束をしちゃってるのよ。最終日にはスピーチをする予定だし」

 

 肩を(すく)めて答えるキーリ。

 

「追い詰められている割に……ずいぶん悠長だな」

 

「匿ってもらった恩もあるのに、迎えが来たらすぐサヨナラなんで薄情でしょう? それに今さら私がボイコットしたら、"D"に対するイメージが下がっちゃうわよ?」

 

「……あくまで本当の目的を明かすつもりはないわけか」

 

 遥は深々と息を吐く。

 

「疑い深い人ね。私は本当の事しか言ってないのに」

 

 薄く微笑んでキーリは嘆息する。 

 

「仕方ない―――では予定通り葬儀が終わるまで君を援護し、国外へ出た後に改めて話し合いの場を持つ事にしよう。その時には約束通り、ヘカトンケイルとの関係を含めた全てを話して欲しいものだ」

 

「ええ、約束するわ」

 

 本心の読み取れない笑みを浮かべつつ、キーリは頷く。

 

「―――期待させてもらおう。それでは明日のスケジュールだが……」

 

「私、しばらくこの宮殿に缶詰だったから、外に行きたいわ。この国の観光スポットとか、色々案内してくれない?」

 

 遥の言葉を遮り、キーリがフィリルに向かって言う。

 

「……あなた、さっきの話を聞いてたの? 狙われてるんだよ?」

 

 困惑した表情でフィリルは訊ねた。

 

「狙われているからこそ、よ。部隊が動いたなら、どこにいたっていつかは攻撃される。だったら、戦いやすい場所を選んだ方がいいでしょう? 私の戦い方は、屋内向きじゃないのよ」

 

「でも……」

 

「まあ、宮殿内で周囲の被害を考えずに戦ってもいいのなら―――じっとしていても構わないわ。けどその場合、あなたの大切な人が巻き添えになっちゃうかもしれないわね」

 

「…………」

 

 キーリに畳み掛けられて、フィリルは黙ってしまう。

 

「話は纏まったわね。じゃあ明日、朝食後に出発って事で」

 

 勝手に予定を決め、キーリは椅子から立ち上がった。

 

 軽い足取りで部屋を出て行く彼女を誰も止められず、ぱたんと扉が閉まる音が響く。

 

「―――いいように利用されている気がしますわ」

 

 リーザが苦々しく呟き、席を立った。

 

「そうだね。彼女、明らかに何かを隠してるよ」

 

「ん」

 

 アリエラとレンが同意し、他の皆も頷く。

 

 皆で部屋を出て、三階まで階段を上がったところでフィリルと別れた。彼女の部屋は四階にあるらしい。

 

「少し時差ボケが辛いかもしれませんが、明日は寝坊しないように」

 

 疲れた表情をしている悠達に、深月は声を張って注意する。

 

「う、うん……頑張る。自信ないけど」

 

 苦笑しながら頷くイリス。

 

 その時、何かを思いついたような表情をした大和の「あれ、時差の関係上ログボ貰えたっけ……」という言葉を聞き流し、皆がそれぞれの部屋に入る。

 

 とりあえずシャワーでも浴びるかと、ネクタイを緩めつつバスルームに向かう悠だったが、そこでノックの音が響いてきた。

 

 深月が何か連絡事項を忘れたのだろうか。そんな予想をしつつ扉を開けるが―――。

 

「……な」

 

 部屋の前に立っていたのは、黒いドレス姿のキーリだった。

 

「どうしてここに……」

 

「こっそりと後を付けて来たのよ。あなたに話があったから」

 

 キーリは妖しく微笑み、するっと室内へ入ってくる。そして後ろ手に扉を閉め、俺を上目遣いに見た。

 

「……話?」

 

「あなたが言っていたニブルの部隊―――スレイプニルは、多分もう国に来ているわ。実は少し前に外出した時、襲撃を受けたの。その相手がそうだったと思う」

 

 悠はキーリの言葉を聞いてやっぱりかと思う。大和の言う通り、どうやら既にこの国に潜入していたようだ。ロキがまるで今から部隊を動かすような口ぶりだったのも頷ける。

 

「ただ、問題はその後。彼らの仲間なのか……それとも別口かは分からないけど、顔をフードで隠した大男が乱入して来て―――私はそいつに殺されかけた」

 

「お前が……本当に?」

 

 すぐに信じられず、悠はキーリに問い返す。

 

「本当よ。そいつは何だかあなたに似ている気がしたわ」

 

 ―――自分に似ている。ロキが、"彼"もこの作戦に投入したのかと、悠は戦慄を覚える。

 

「その様子を見ると、心当たりがあるのかしら?」

 

「いや、それは―――」

 

 軽々しく話せるような事ではないため、悠は言葉を濁す。

 

「まあ、いいわ。私はあなたを……信じるだけ」

 

 キーリは微かな笑みを浮かべ、右手で俺の頬に触れる。思いの外ひんやりとした感触に少し驚き、同時にキーリの右手に布が巻かれていることに気が付いた。

 

 それは手の甲から手首の少し上までを覆う白い包帯。指先には巻かれておらず、更に袖の長い服を着ていたため、今まで見落としていたのだろう。

 

「右手……怪我しているのか?」

 

 彼はキーリに問いかける。キーリなら生体変換で傷を一瞬で治してしまえるはずだ。

 

「ああ―――これは、そういうのじゃないの」

 

 キーリは苦笑を浮かべると、悠から離れて右腕を体の後ろに隠す。

 

「じゃあね、悠。あなたならきっと、私を守れるわ。たとえ……どんな敵が相手でも」

 

 そんな言葉を残して、キーリは悠の部屋から出て行った。

 

 彼女の目的が何なのかは、未だに読めない。けれど悠へと向ける眼差しの中には、(わら)をも(つか)もうとする必死さが垣間見えた。多分彼女が助けを求めているのは、確かなのだろうと。

 

「けど、買い被りすぎだ」

 

 悠は小さく呟く。キーリを殺しかけたという大男。もし彼の予想通りの人物だったとすれば―――悠は決して彼には勝てない。

 

 いや、より正確に言うと―――()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった……とりあえずログボ貰えないって事はなさそうだし、朝のうちに今やってるソシャゲログインしてて助かったわ」

 

 大和が自室に戻り、携帯端末状になったリムを眺めながら言う。……いや、正確には"画面"を見ながら、だ。

 

「折角ログイン皆勤賞狙ってるのに、たかが時差でログボ取り損なったら、滅茶苦茶もどかしいしな」

 

 独り言を淡々と呟く大和。彼は自室に戻った後、急いでリムをスマホ型携帯端末にさせ、大和が現状でやっているソシャゲを調べたのだ。

 

 エルリア公国に発つ際、朝早くから全てのソシャゲを起動し、念を押したのだ。

 

 その甲斐あってか、時差があってもログインボーナスを取り逃す、という事はなく安堵する大和。

 

 ちなみに、リムはミッドガルから支給された携帯端末を取り込んでいるので、いつでもゲームが可能である。

 

 メガシンカが可能なメガリング、腕時計にもなれる事ができる辺り、どこぞの上位互換版のトランスフォームができるロボットが身近にできたなー(棒)と常日頃から思う大和。

 

「よし、んじゃあリム、時計型プリーズ」

 

『はいマスター』

 

 そんな大和はリムを端末型から時計型になるように促す。彼女(性別=一応女性となっている)は有無を言わず、画面点滅という名の返事をして白い粒子に分解、すると共に腕時計に変形する。

 

 こうしておく事で自分が身につけているものだと分かる上、メガリングや独りでに点灯する携帯端末型に比べて疑われにくい。

 

 ……明らかに以上の三つより大きい人型にもなれるのに、体積だとか質量保存の法則はどうなっているんだという疑問は割愛。

 

 そして、シャワーでも浴びて寝ようかと思った矢先、不意にノック音が響く。

 

「ん? ああ、アイツね」

 

 "波導"で誰なのかを察知し、扉を開ける。

 

「こんばんは」

 

 部屋の前に立つのは、先程まで悠の部屋にいたキーリだった。

 

「ああこんばんは。何か用?」

 

「ええ。ちょっとあなたと話がしたいと思ってたのよ」

 

「話? まあいいけど」

 

 こちらには特に急ぎの用事もないので、即、了承する大和。

 

 それからキーリを部屋に招き入れ、ベッドに座るようキーリを促す。大和は部屋にあった椅子をキーリのいる近くまで持ってくる。

 

「……別に隣に座ってもいいのに」

 

 何故同じベッドに座らないのか困惑するキーリ。

 

「あくまで客人だからな。ベッドに座っていた方が疲れにくいだろ」

 

 どうやらキーリをベッドに座らせたのは配慮していたらしい。

 

「それで? 話って言ってたけど」

 

 そして、本題に移る。

 

「―――単刀直入に聞くわ。あなたは何者?」

 

「何者って言われてもなぁ」

 

 思い切った質問を投げかけるキーリ。流石にどう答えればいいか困惑する大和。

 

「……言い方が悪かったわね。一人だけでドラゴンを撃退した経歴を持ち、私やお母様もあなたに適わなかった。"D"でもない人間にね。言い方が悪いけど、あれは化け物級の強さよ」

 

「化け物? 違う、オレは人間death☆」

 

 キーリの言葉に反応した大和はおちゃらけた感じで反論する。が、彼女はそれを無視するが如く話を続ける。

 

「それだけじゃないわ。私もお母様も、見た事のない力を使ってる。その力の名前が―――"ポケモン"、よね?」

 

 確信をついたキーリの問い。それに対して大和は「ほほーう……」と感嘆の息を吐く。

 

「凄いな、そこまで分かってるのか」

 

 大和は先程までのふざけた雰囲気が消え、代わりにどこか不敵な笑みが滲み出る。例えるなら、獲物を前にしたかのような目付き。

 

「名前はね。でも、詳しい事は知らないわ。こっちが知ってるのはあなただけが持つ特有の力って事だけ」

 

 キーリは可能な限り諜報員等を使って大和の情報を知り、どんな人物かを把握しようと試みていた。それでも知る事ができたのは、"ポケモン"という言葉のみ。

 

 だから知りたがっていた。彼という人物を。

 

「そこまで知ってるなら、隠す必要はないか。保護されている以上、ある程度知っておいた方がいいかもだし」

 

「そうね。是非教えてくれないかしら」

 

 大和が「ほいほい」と言いながらキーリに説明する。

 

「まずキーリが知りたがっているポケモンについて。ポケモンっていうのは、ポケットモンスター……縮めてポケモンって略されているからなんだ」

 

 大和が指を立てながら言うと、キーリは眉根を寄せる。

 

「モンスター……そういえば、確かか分からないけど、他にも獣を使役している情報があったわ。その事と関係あるの?」

 

「そうさな。それについては……実際に見た方が早いか」

 

 そう言って大和は、傍のテーブルの上にあるポーチの中からモンスターボールを取り出す。

 

「それは?」

 

「これ? モンスターボールっつーもの。簡単に言えばこの中からポケモンを出したり、戻したりできるのさ」

 

 説明しながら大和はその場にボールを軽く放り投げる。白い光と鳴き声と共に出てきたのは―――。

 

「イーブイッ!」

 

 茶色と薄茶色の体毛を持ち、ウサギのような長い耳と、首の周りを覆う襟巻きのような毛が特徴の哺乳類(ほにゅうるい)型ポケモン、イーブイだった。

 

「っ! この子が……そうなの?」

 

 キーリは軽く動揺しながら大和に訊ねる。

 

「まあコイツもポケモンの一体ではあるな。つまりコイツだけじゃなくて、他にもいっぱいポケモンはいるって事。そして、コイツらは一匹一匹に特有の能力や技を所持している」

 

「ブイブイッ!」

 

 イーブイが、座りながら話している大和の足の上に乗り、丸くなる(技に非ず)。

 

 それを微笑みながら一瞥すると、キーリに向き直って再び説明する。

 

「そんな数多くいるポケモンの中、オレはそんなポケモンと同じくその能力や技を扱う事ができるのさ」

 

 イーブイを撫でながら言う大和に対して、キーリは物珍しそうな顔をしていた。

 

「実に興味深いわね、ポケモンって。だから、あなたが()()()()()()()()()()()()()()()()()()訳ね。そんな力をいつあなたが手に入れたところが気になるけれど」

 

 あの時というのは、キーリとの二回目の対峙。そして彼女の言う氷の鎧―――大和がホワイトキュレムに模した姿形を取っていた事。

 

「これはオレが元々持っている力だとしか言えない。このモンスターボールやポケモン達も、気付いたらオレが手にしていた」

 

 流石に転生して手に入れたとは言えず、適当にはぐらかして話す。

 

「……あなたでもそれらを入手した経緯が分からないって事?」

 

「まーな」

 

 やれやれと言わんばかりに両手を出す大和。

 

「そっか……あなたでも知らないというなら、それまでだものね。それじゃあもう一つ、いいかしら」

 

「何かな?」

 

「あなたとポケモンが使えるその、技? を見たいのだけれど」

 

「技? 別にいいけど」

 

 大和はそんなのお安い御用だと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「―――ドラゴンクロー」

 

 大和が胸の前に手を掲げた瞬間、手に緑色で巨大な三本ある爪のオーラを纏う。

 

「っ!? それは……!」

 

 それを見たキーリが驚愕する。()()()を鮮明に覚えている。間違いない、あれは……自身を貫いた竜の爪!

 

「驚いた? これがキーリにぶっ刺した技さ」

 

 バチバチと火花が唸り、猛々しくも異様さが残る鋭利な竜の爪。キーリは戦慄しながらも何故か笑う。

 

「ふ……ふふ……そう。それが、そうなのね」

 

 何だコイツキメェ。と笑うキーリに対して大和が訝しむ。

 

「まあこれ以外にもいっぱいある訳だけど、今見せたのがその内の一つって事」

 

「……それ以外のも沢山あるって凄いわね。通りで私を翻弄させただけあるわ」

 

「ご謙遜を」

 

 そう大和が話し、キーリが納得した表情を見せた。

 

「中々興味深くて面白い話だったわね。そこまで話してくれるなら私の能力も言いたいと思うのだけれど」

 

「それは追々話してくれると。ミッドガルに戻ってからでもいいんでない? 皆の前で言えるし」

 

「そうね。そうするわ」

 

 そう言ってキーリはその場から立ち上がる。

 

「もう行くん?」

 

「ええ。あまり長居してると怪しまれるかもしれないし」

 

「確かに」

 

 イーブイを抱っこしながら大和も立ち上がり、キーリを見送る。

 

「ねえ大和」

 

「ん?」

 

 扉へ向かっている途中、キーリが大和に言葉を掛ける。

 

「悠と一緒に……私を守ってくれる?」

 

「当然。今のお前は仲間だからな」

 

 大和はきっぱりと言った。

 

「助かるわ」

 

 キーリは微笑みながら去っていった。

 

「さて、シャワー浴びて寝よか」

 

 大和は寝る支度をしようと、イーブイを下ろしてそのままシャワーを浴びに行こうとする。

 

「ブイブイ(ご主人! ボクも)!」

 

「おっ、イーブイも浴びるか?」

 

「ブーイッ!」

 

 こうして、一人と一匹が浴びに行く事になった。

 




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