ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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ネタを知っている人なら分かる(確信)。


Assassin's manifestation

『やあ、物部少尉』

 

「ロキ少佐……」

 

 悠が服を見繕っている最中、彼の個人端末から通信の呼び出しが入った。

 

 前にも同じような事があり、ミッドガルから支給された悠の個人端末に、非通知で通信を求めてくる相手は、一人しか思い当たらない。

 

 そう思い、正直応答したくはなかったが、後で何があるか分からため、仕方なく応答のアイコンに触れる。すると個人端末の液晶画面に、ノイズ混じりの映像が映し出された。

 

 相手は予想通り、悠がニブルにいた頃の上官である、ロキ・ヨツンハイム少佐からの連絡だった。

 

 ロキは、悠にバジリスク討伐の賛辞を述べた後、残るドラゴンのうちの一つである、"黄"のフルスベルグに対し、討伐不可能なドラゴン(傍点)だと見なしている事を言ってきた。

 

 それを十分に留意した上で話を進める。

 

『君は今、エルリア公国にいるはずだ』

 

「……はい」

 

 ミッドガルの越境許可を申請した以上、悠達の行動はニブルも把握している。誤魔化しは通用しない。

 

『目的は、キーリ・スルト・ムスペルヘイムの護衛と、ミッドガルへの移送だな。全く……ミッドガルの判断には正気を疑う』

 

 ロキは深々と嘆息してから、悠に鋭い視線を向けた。

 

『―――しかし、派遣されたメンバーの中に君がいた事は都合が良かった。私の用件はただ一つ。君に、キーリの始末を頼みたい』

 

 半ば予想していた言葉を口にするロキ。しかし、頷く訳にはいかない。

 

「その要求は、ミッドガルの方針に反します」

 

『もちろん承知している。だがキーリはテロリストだ。人間にとっても、"D"にとっても、そして君自身にとっても、彼女は害悪にしかならないだろう』

 

 強い口調でロキは断言する。

 

「けれど、少なくとも今の時点では、キーリは保護対象です。こちらから敵対行動を取るような事はできません」

 

『ふむ―――あくまでミッドガルの決定に従うか。それはそれで組織の一員として正しい判断だ。自らの手を汚すのが嫌で言っている訳ではあるまいし……無理強いはすまい』

 

 含みのある言い方をしながらロキは肩を竦める。

 

「ご希望に添えず、申し訳ありません」

 

 多少の嫌味を込めて、悠は謝った。

 

『いや、いいんだ。私は単に楽をしようとしただけだからな。やはり自分の仕事は、自分で全うするべきだ』

 

「え……?」

 

 口の端を歪めたロキを見て、悠は悪寒に襲われる。

 

『キーリは、こちらで処理をする。できれば邪魔はして欲しくないが……あくまで役割を果たすというのなら、それはそれで面白い。この機会に君を―――"悪竜(ファフニール)"に()()()()しまうのも悪くないだろう―――』

 

 そう不吉な言葉を残し、一方的に通信は切られた。

 

 静けさが戻った部屋で、悠は立ち尽くす。

 

「……篠宮先生か深月に伝えにいかないと」

 

 今の会話の内容を、(はるか)か妹の深月に伝えにいこうと思い、動く。

 

 悠は部屋のクローゼットにあった服の中から、とりあえず一番無難そうなスーツを選び、手早く身支度を整えて廊下に出た。

 

 まだ晩餐会の時間まで余裕はある。両者の内どちらに相談しようか少し迷った後、深月の部屋に向かう。彼女に話せば、遥にも伝わると思ったからだ。

 

「ん……?」

 

 深月の部屋の扉の近く、腕を組みながら廊下の壁を背にして()()()()()()()()()、黒を基調としたロングコートの男性らしき姿があった。

 

(誰だ……?)

 

 宮殿の関係者だろうか。だがそれにしては謎の違和感があった。フードを目深(まぶか)に被っている様から、誰なのかを判別できない。まるで気配を感じさせない不気味さがあった。

 

 悠が近づいても、男に動きはない。どうやら、自分に何かするつもりではないようだ。

 

 しかし、自分は今やるべき事がある。ロキとの会話を妹の深月に伝えるべく、彼女の部屋をノックする。

 

「無視とは酷くな~い?」

 

「うわぁっ!?」

 

 ―――その時だった。背後から急に声が掛かり、悠は思わず悲鳴を上げてしまう。

 

 心臓が跳ね上がろうかと言わんばかりの驚愕だったが、悠は体中の激しい鼓動を落ち着けさせながら後ろを見やる。

 

 そこには、いつの間にか悠の至近距離まで来ていたフードの男。

 

「へっへー、ビックリ作戦大成功ー!」

 

 そう子供のような口調で、フードを下げる男。そこには―――。

 

「や、大和……」

 

 バクバクと血が激しく巡っている中、悠は声を絞り出す。

 

 そう、先程まで気配がまるでなかった男の正体は、大和だったのだ。

 

「どう? 悠、今の感じ」

 

「どうって……」

 

 ビックリしたとしか言えない。

 

「気配を消して背後に迫る感じ。めっちゃアサシンぽくてステルスできてるでしょ?」

 

「……急に驚かすのは止めてくれ」

 

 何故か興奮している大和に対し、悠は彼に注意する。

 

「というか、その衣装って……」

 

「ん? 普通にあったよこの服」

 

 大和が選んだ服。それは膝下(しっか)まであるロングコート(フード付き)。先程まで悠が選んでいる中にもあったという。

 

「マジか……」

 

 悠は訳が分からなくなって、そんな事しか言えなかった。

 

『兄さん? 何かあったんですか?』

 

 その時、扉の向こうから深月の声が上がる。部屋からどうやらさっきの悲鳴で深月が不審に思ってきたようだ。

 

「い、いや何でもない。それより今、話いいか?」

 

 ここで本来の目的を思い出し、深月に訊ねた。

 

『え、今ですか? ちょっと待ってください、今は―――あ……いえ、よく考えたらちょうど良かったです。は、入ってきてもらえますか?』

 

 何だか少し慌てた様子ではあるが、入室の許可が貰えた。

 

「大和は―――あれ?」

 

 横にいるはずの大和の気配が完全に消えた。三百六十五度周りを確認してもいない辺り、既に去ったらしい。

 

「いつの間に……」

 

『兄さん?』

 

「ああいや、今行く」

 

 大和に翻弄されっぱなしだったが、悠は気を取り直して部屋の扉を開けて入室する。

 

 

 なおこの後、大和が廊下で再び悠や深月を同じ方法で驚かせて、怒られたのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晩餐会の直前になると、ヘレンが彼らを迎えにやってきた。

 

 部屋から続々と出て来た女子達は皆、それぞれに似合った雰囲気のドレスを(まと)っている。

 

「うー、何だか変な感じだな」

 

 黄緑色のドレスを着たアリエラは、ひらひらしたスカートの生地を触りながら言う。

 

「んぅ……」

 

 レンもそわそわしながら、赤毛に合わせた深紅のドレスを何度も確認していた。

 

「大丈夫です、お二人とも似合っていますわよ」

 

 薄い黄色の上品なドレスを着たリーザが、二人を褒める。

 

 だが―――悠にとって似合っているというのならば、リーザが一番だった。何だか、とても着慣れている感じがした。むしろ普段の制服姿より、違和感がなかった。

 

「何を見ているんですか、モノノベ・ユウ」

 

 悠の視線に気付いたリーザが、不機嫌そうな声音(こわね)で問う。

 

「え? ああ―――リーザはすごく自然だなって思ってさ。ドレスを着こなしてて、すごく素敵だよ」

 

 悠はカッコいいと言おうとしたが、女性を褒めるのにその表現は適さないので、別の言葉で代用する。

 

「な……」

 

 リーザは途端に顔を赤くした後、睨んでくる。

 

「べ、別にあなたに褒められても嬉しくなんてありませんわ! いくら褒めても、何も出ませんから」

 

「別に何も要らないさ。そのドレス姿を見られただけで十分だ」

 

「……っ!? あ、あなた、わたくしをからかって遊んでいませんか!?」

 

「あ、遊んでないって!」

 

 何故か怒り出したリーザを見て、悠は慌てる。

 

「おーおー、罪作りだねぇ悠は」

 

 そんな様子を見て、小馬鹿にしたように(フードを被っていない)大和が言う。

 

「余計な事を言うな大和!?」

 

 悠がツッコみの声を上げる。

 

「タイガ・ヤマト、その衣装は何ですの?」

 

 リーザが、大和の格好に問いかける。スーツではない事に違和感を抱いたのだろう。

 

「ああこれ? 中世のロングコートみたいだなって思って。しかもフード付きだし。別にこの格好でも問題ないだろ?」

 

「……まあ、そうですわね」

 

 特別浮いている衣装でもないので、リーザは納得する。

 

 最も、フードが衣装の下に隠れているため、気配も隠せるとは言わないでおいた。

 

「……ん」

 

 そこへ、レンが何か疑問に思ったのか、携帯端末を大和に見せる。

 

『アサシンクr―――』

 

「いや言わないよ?」

 

 端末の文字は正式に最後まで書かれてたが、何故か全て言ってしまうといけないと思った大和はズバッと言葉を切り捨てる。

 

 その際、ブレードもあったら完璧なのは否めないけど、とよく分からない事も付け足しておいた。

 

「ところで、ティアはどうしたんだ?」

 

「ティアさんなら、部屋で熟睡中です。キーリにいきなり合わせるのは心配ですし、無理に起こさないようにしました」

 

 リーザと同室になったはずのティアは、廊下に出て来ていなかった。彼女は未だ不機嫌そうな表情を浮かべつつ、悠の問いに答える。

 

「そっか―――確かにそれがいいかもな」

 

 ティアとキーリにはとても深い因縁がある。まずは自分達がキーリの出方を窺うべきだと悠は悟る。

 

「イリス・フレイア、準備はまだか?」

 

「イリスさん、みんな待ってますよ!」

 

 大人っぽい藍色のドレスを着た遥と、紫のドレス姿の深月が、イリスの部屋を覗き込んで中に呼びかける。

 

「―――わ、ご、ごめんね! 今行くから!」

 

 慌ただしく、バタバタと部屋からイリスが出て来た。

 

 新雪のように真っ白なドレスの裾が、ふわりと翻る。

 

 着飾ったイリスは、本当にお(とぎ)の国から抜け出た妖精のようで―――その浮世離れした美しさに目を奪われた。

 

 じっと見つめていると、悠と視線が合う。

 

「も、モノノベ……どう?」

 

「―――綺麗だ」

 

 それ以外の感想は出てこない。イリスは安堵した様子で息を吐く。

 

「良かった……」

 

 そのやり取りを見ていたリーザが、どこか不機嫌な表情で彼を睨む。

 

「わたくしの時よりも、ずいぶんと率直な感想に思えますわ」

 

 深月も不満げな眼差しを向ける。

 

「兄さん、私には似合ってるとしか言ってくれなかったのに……。あれは、お世辞だったんですね」

 

「い、いや、そういうつもりじゃないって!」

 

 悠は慌てて弁解する。

 

 遥はそんな悠達の様子を見て小さく苦笑し、ヘレンさんに視線を向ける。

 

「―――手間取ってしまって申し訳ない。案内をお願いする」

 

「かしこまりました。どうぞこちらへ」

 

 ヘレンは頷き、大和達を誘導していく。




中途半端な区切りになって申し訳ございません……。
次回はキーリと対面の巻。

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