大和がこの世界に転生してから三年が経過した。
その間に彼には様々な出会いがあった。
様々な町へ赴き、拠り所の世話になったり、ポケモンが
……まあ、リムが以前に大和を鍛えると言った手前、彼の基礎能力向上を図ったに過ぎないが。
他にも対ドラゴン戦に向けた武装・戦術の研究開発、竜による災害を防ぐべく対応を行うという軍事組織ニブルの管轄地に偶然とは言え不法侵入してしまったこともある。
その時、兵隊達に銃を向けられ、組織の少佐でもあるロキ・ヨツンハイムにニブルに入隊しないかと半脅迫的紛いな目に遭い、(物理的に)拉致されそうになったが、そこはポケモンの力で何とか逃げ出すことに成功した。
―――等々、前途多難な出来事がありつつも長いようで短い三年間を過ごした。
そして、現在はというと……。
「ヒャッハー! ラティアス、かわせかわせぇぇぇ!!」
絶賛、メガシンカしたラティアスというポケモンの背に乗りながら海に浮かぶ四角い砲台らしき物体による攻撃を避けていた。
様々な地方を旅していた大和は“D”を集めて管理をしており、教育を行うと言われているミッドガルを訪れては如何だろうか―――という提案をリムから聞き、物語の基盤となる場所でもあったため、直ちに行ってみることにした。
その際、折角だからとラティアスをモンスターボールから召喚しメガシンカさせ、背に乗りながらその場所に向かう最中、ミッドガル周辺に製造されている―――
しかし、メガシンカしたラティアスは体を錐揉み回転させながらその迎撃をことごとく躱していた。光の速さで迫るレーザー光線ですらも容易く避けていた。
そこは、流石に準伝説級とはいっても、あくまでラティアスは伝説のポケモンであるためか、成せるものだろう。
「ハッ! この程度の弾幕、ルナティックに比べたらどうってことないぜ!」
ラティアスにしがみつきながら声を張り上げる大和。実際、何度もラティアスが回転しているため顔面蒼白になっているのは割愛。
そして、凄まじい速度で第一次から第三次まで及ぶ防衛ラインを無傷のまま見事突破し、ミッドガルに進入成功したのだった。
◇
一方、場所は変わりミッドガル内の時計塔の地下にある司令室。コントロールルームとも言っても過言ではない場所でもある。
「第三次防衛ライン、突破されました!」
司令室に居るオペレーターらしき女性が焦り口調で言う。
当初は確認されているドラゴンでもなければ、かと言って船舶や航空機でもない。警戒レベルもタイプも未知の領域の存在なためそれぞれ『E』と“UNKNOWN”と示された。
それでも見逃す訳にはいかなかったが、如何せん相手の動きが早すぎるため、竜伐隊を派遣する時間がなく、環状多重防衛機構だけを発動させて迎撃態勢に入った。だが、攻撃をいとも容易く避けられて簡単にミッドガル内への侵入を許してしまった。
ミッドガル司令官の
「何者なんだ、この者達は……?」
映像を拡大し、侵入を果たしたあるモノを見据える。
それは巨大な腕と翼が一体化し、体色が薄紫色に強調された戦闘機に酷似しているデザインされた生物(?)。更に生き物なのかどうか分からないその背に乗るボロボロの翼を生やした少年。
この者達が何者なのかと混乱していたが、会ってみれば分かるだろうとミッドガルに立ち入った侵入者達をこの目で確かめるために踵を返したのだった。
◇
「ふう……よくやったラティアス、戻れ」
さざ波が漂う白い砂浜の上に降り立ったラティアスと大和は、激励を掛けながらボールをラティアスに掲げて内に戻す。
ミッドガル内に難なく降り立てた大和は南の島のような情景を見据えながら感嘆の息を漏らした。
「へえ~……ここがミッドガルとやらか……。まるっきりオアシスじゃん」
先程の嵐のような出来事はどこ吹く風、この風景を眺めて楽しんでいた。
「さて、これからどうしようかな~。折角だし、ミッドガルの地を探検してみるかぁ」
おちゃらけながら踵を返す大和。この地に無断で入り込んで侵入者として認識されているにも関わらず、適当に歩いてみるという始末。
メガリングとして大和の左腕に携えているリムはマスターである大和の意向に従い、ただ無言を貫き通していた。
全く危機感を抱いていない大和は、翼を展開し、空を飛んでミッドガルがどのような場所なのかを確認しようとした。
「……ん?」
しかし、ふとこの近くに二人の波導を感じた。人間かと思われたが、人間とは少し違うような気だ。
もしかすると、“D”かもしれない。そう思った大和は眼前に暗黒の空間を発生させ、進入するとその場からその空間ごと一瞬で姿を消した。
尚、この動作は一秒も掛からなかった。
◇
一方その頃、大和が居た場所から離れた地点に二人の男女が佇んでいた。
一方が青髪の少年、もう片方が衣服を何も羽織っていない白髪の少女。
本来ミッドガルに男はいないはずなのだが、何故かこの場に居るとは信じられず、少女が交戦形態となる。
少年が彼女を“D”だと分かり、構えを取ろうとしたその時、突如として周辺に警報が鳴り響き、二人が動揺して硬直する。と思えばすぐに鳴り止んだ。
警戒レベルが『E』でタイプが“UNKNOWN”という未確認物体であるため何事かと思ったが、その後一旦落ち着いた二人は取りあえず少年が脱ぎ捨てたシャツをその少女に羽織らせる。
その時にお互い自己紹介をする。少年が“
そして、紆余曲折あった事態は収給した……かに思われたその時だった。
二人から離れた空間に亀裂が入り、ガラス細工の如く割れると暗黒の空間が出現する。更にその箇所から一つの影が出現し、地に降り立つ。
その光景を見届けた二人は臨戦態勢となるが、姿が露わになると共に驚愕の表情となる。
「だ、誰だ!?」
悠が声を張り上げる。姿を現せた者は黒いオーラに染まった人らしき者。しかしこんな芸当が出来る人物など一人のみ。
「ふう。やっぱシャドーダイブは移動が楽ちんだな。……っておろ?」
黒いオーラが解けて輪郭が現わになった少年らしき人物は、掻いていない汗を拭うような動作をした後、目の前に背丈が人間である男女が二人居た事に今更気づき、目を丸くさせる。
―――そう、紛れもなく大和だ。
“反骨ポケモン、ギラティナ”の専用技、『シャドーダイブ』により“D”かと思われる二つの波導が佇む地点まで一瞬で移動し、短縮した。
「お、お前……今のは一体……」
上手く状況を理解できていない悠が大和に訊ねる。
大和は『シャドーダイブ』という技により空間から空間へ移動し、二人が居る地点まで移動したに過ぎない。
「フッ、空間から空間まで移動したに過ぎないさ」
「……何だそれ」
ナルシスト風に言う大和に訳が分からず悠はそう言う。
「あ、あの……」
二人が話している内にイリスがふと間に割り込み、大和に訊ねる。
「もしかして……えと、二人は知り合い?」
「いやそんな事ない、か?」
「……何故に疑問形なんだ?」
おずおずと自信なさげに答える大和に悠は言葉を濁し返す。
「そ、それよりもなんでミッドガルに男の人がいるの!? しかも二人って!」
イリスがハッと我に返り、先程までの思い出したかのように言う。悠は溜息を吐きながらその少女に言う。
「だからさっきから何度も言ってるだろ? コイツの事は知らないが、俺は軍事組織ニブルに所属していて、今日ミッドガルに異動になったんだ」
「え、ニブル……?」
「ああ。この通り指令書もある」
ニブルという言葉を聞き、びしりと硬直した大和に対し、悠はポケットからびしょ濡れになった指令書を取り出した。
「……はぁニブルか……。嫌な思い出しかない……」
「え? もしかして来た事あるのか? あそこは、普通じゃ簡単に立ち入れる場所じゃないんだが……」
「ああ。実は、一回ニブルに来て、兵隊に銃向けられて、少佐とか訳分かんない人にあったからそいつ以外全員薙ぎ倒してから逃げた。この落とし前、どう付けてくれんの?」
「知らねえよ!? ていうか何しちゃってくれてんのお前!?」
ニブルに所属していたという事実をダシに、悠にジト目で睨みつけると声を張り上げたツッコミが響き渡った。思い当たる部分が多すぎる事で、悠は最早キャラを捨ててしまう程に。
開いた口が塞がらないとはこの事―――の悠を余所に、イリスが恐る恐るといった様子で大和に訊ねる。
「そ、それであなたは?」
「オレ? オレは大河大和。取りあえず、このミッドガルとやらに旅しに来た奴っす」
「「旅!?」」
悠とイリスが驚愕の表情を浮かべる。
「そんな! ミッドガルは環状多重防衛機構で船とか飛行機じゃ来られないはずだよ!」
「だから、攻撃全部躱した」
「「……え?」」
あっけらかんと答える大和に呆然となる二人。
「まあ色々知りたい事はあるだろうけどさ―――そこに居る人が出てきてからにしようか」
「「!?」」
言葉を一旦区切った後に振り返る大和。二人は第三者の人物がいたのかと再び驚愕の表情になるが、大和は既に波導を感じていたため、隠れていても何処に居たかなどすぐに察知出来る。
「よく分かりましたね。……正確には今来たんですが」
すると砂浜と道路を隔てる防波堤に一人の少女が立っていた。長い黒髪を風になびかせている少女が此方に向けてやって来た。
「
「お待ちしておりました。お久しぶりですね、兄さん。それと―――」
悠が深月という少女を見据えると、微笑みながら答える。そして視線を悠から大和に向けると、彼に一言訊ねる。
「三年前、“青”のヘカトンケイルと対峙し、竜に乗った異能の力を持つ人間―――それが、あなたですね?」
「え―――」
「ひょ?」
悠が言葉を失くすが、大和が無意識に間抜けの声を出し、すぐ後、「上手く逃げたと思ったらあの時、バレていたのか―――――!」 とその場で頭を悶えたのであった。
何故最初に出たのがラティアスなのかというと、持っているゲームが……後は察してください。