「ふーん、成程ね」
漆黒ボロボロの翼を生やした少年がゆっくりとした速度で水平線上を飛んでいる。
その人物は「銃皇無尽のファフニール」の世界に転生した、大河大和である。彼は飛翔しながらメガリング……もといデバイスでもあるリムから説明を聞き、納得した表情を見せる。
「簡単に要約すると……今までこの世界には七体のドラゴンが現れた。それは、ブラック・ドラゴン―――“黒”のヴリトラ、パープル・ドラゴン―――“紫”のクラーケン、ホワイト・ドラゴン―――“白”のリヴァイアサン、レッド・ドラゴン―――“赤”のバジリスク、ブルー・ドラゴン―――“青”のヘカトンケイル、イエロー・ドラゴン―――“黄”のフレスベルグ、グリーン・ドラゴン―――“緑”のユグドラシルって訳か」
リムから説明された通りのドラゴン名を大和が述べる。
「んで、この世界に存在している竜に対抗できる異能力者のタイプ・ドラゴン……略して“D”が居ると。その“D”には竜のアザがあって、それぞれのドラゴンがアザに触れると“D”も同じドラゴンになってしまう……。そういう事か?」
『はい、大方そんな所です』
「随分厄介つーか気色悪い話だなそれ。ドラゴンどんだけ飢えてんだよ。自家発電でもしてろっての」
『マスター。あまり下品な言葉はお控え頂くようお願いします』
「わあってるつうの! こっちとしても思った以上に過激だったからな」
リムの淡々とした物言いに声を張り上げる大和。この世界の知識が無かったとはいえ、その事を聞いた彼は驚きを隠せずに呆然となった。
「ま、よーするにドラゴンの動きが活発になってる時にメッコメコにしてやんよすればいい話だろ? ヘカトンケイルの時は上手くいかなかったけど、今度別のドラゴンに会ったら……そん時は覚悟しろようへへへ……」
『大丈夫なのですかねこのマスター』
ゲスな笑みを浮かべる大和にリムは率直な感想を述べた。
「うし! そうと決まりゃとっとと探索だ! 行くぜぃ!」
気を取り直して気合を込めた大和は猛速度で彼方へと消えていく。その影響により海面が叩き割られていた様子を彼は知らない。
◇
「いねぇ……」
空中を依然として浮遊している大和はダラーンと項垂れながら溜め息を吐く。
そう、彼は各地を巡り、ありとあらゆるドラゴンを探し求めたのだが、中々見つからず仕舞いに終わったのだ。
『それはそうですよ。ドラゴンは全世界を回っているのですから。しらみつぶしで見つかるはずがありませんよ』
「むぅ……よく考えたらそうだな。ならば……波導を使ってならどうだ?」
『同じことを繰り返す気ですか。そう簡単に見つかるはずが……』
「あ、あった」
『え!?』
呆れた溜息が腕輪から聞こえたが、波導を使用した大和の何気ない一言により驚愕の声を発する。その様子をよそに、大和はリムを手で小突く。
「なんだよ、簡単に見つかったじゃんかー。んじゃ、行ってみますかね~」
『…………』
感情を持たない機械なのにも関わらず、偶然の出来事に思わずあり得ないと絶句するリムは大和の流されるままになってしまった。
◇
「アイツか?」
一つの大きな波導を感じてから大和は一直線にその場所へと向かうと、当の場所は太平洋の真上。
そこには巨大な一つの姿があった。全身を白い外殻に覆われ、頭部からは大きな一本の角が生えている。口にはびっしりと並んだ鋭い牙も見えている。
“白”のドラゴン―――リヴァイアサン。
「まさかここでドラゴンの一体と出会うことになるとは。何かモーラン系みたいだな」
何事もないからか平然と泳いでいたドラゴンの一体と鉢合わせになったものの、大和の中に高揚感が生まれ、次第に湧き上がっていく。
「よし、じゃあ早速……」
そして、いざ突貫―――しようとした時、リムから声を掛けられる。
『待って下さいマスター』
「んだよリム。折角突撃しようと思ったのに」
『無闇な突撃は禁物です。ここは私があのドラゴンの情報と、その能力について説明を受けてから対処して下さい』
「りょーかい」
確かに自分は何も考えずに迎え撃とうとしたため、対処法を知ってからの方がいいと判断した大和は素直にリムの説明を受けることにした。
『分かっているとは思いますが、あれは“白”のドラゴン、リヴァイアサンです。その能力は万有斥力(アンチグラビティ)という……簡単に言えば物質を跳ね返す斥力場を自身の周辺に発生させ、ありとあらゆる物質を跳ね返してしまうものです』
「防御に特化してるって事?」
『そういった解釈でも宜しいかと。更にリヴァイアサンは斥力場によって空間を湾曲させて攻撃を弾くことも出来る……』
「状況を変える事も出来んのかあいつ?」
『はい』
大和は以前メガレックウザと共に戦ったヘカトンケイルも厄介な存在だと思っていたが、こいつも厄介だなと感じていた。
『ただ、大きな力をぶつけさえすれば、あの斥力場は突破できるかと思います。そこでポケモンの力の出番という訳です』
「成程。伝説級の力をぶつけさえすればダメージを与えるのも不可能じゃないと」
『はい。補足ですがリヴァイアサンはただ海の上を移動する生物ですので、攻撃は咆哮のみだと思われます。しかし、それはかなり強力だと推測します』
「当たらなければ関係ねえだろ?」
『その力で押し通るような考えは禁物です。なのでここは特性をご使用下さい』
「特性?」
大和はリムの説明を頷きながらも聞くが、ポケモン特有の持つ、『特性』について疑問を持っていた。
何故なら、ポケモンには全て『特性』を持ち、それにより戦闘に影響する。
その、様々なポケモンが持つ『特性』の何を使えばいいのか彼が疑問に思ったのだ。
『特性の一つ、「型破り」なら、相手の効果も受け付けないはずでしょう』
「……あぁ成程。特性、型破りね。確か相手の特性に関係なく技を出せる特性……」
『その特性でしたら、斥力場の効果に関係なく攻撃を与えられると思います』
「よく考えたな……」
リムはそう結論付け、素直に彼はその考えに納得・感心していた。
ポケモンの一つの特性、『型破り』。その効果が、相手の特性の影響を無視して攻撃できるというもの。 この特性は攻撃した瞬間に相手の特性を無効にする。
例えば、特性『浮遊』持ちに地震が当たる、他にも『頑丈』持ちを一撃粉砕、ポケモンの一体の『不思議な守り』という特性を持つ“ヌケニン”に対して、神の攻撃さえ全て無効化してしまうその特性を無視し、弱点以外の攻撃が当たるという点がある。
本来であれば、斥力というのは物理学で言う『反発の力』であり、その権能を操るため、一見通じないのではという疑問が残るかもしれないが、ポケモンごとに持っている特殊な能力の特性は、神と呼ばれるポケモンでさえ持っている。
そのため、操っている権能を無効化、あるいは軽減できるかもしれないという考えがリムの中にあったのだ。
「おけまる把握。よっしゃ、そうと決まれば早速行くぞ!」
大和は漆黒の翼を羽ばたかせると、高速でリヴァイアサンの元へ接近する。人間にはありえないモノが生えたが、もう用途に慣れたのか使いこなしていた。
その様子を見たリヴァイアサンは自身に近づく存在を察知し、斥力場を発生させる。
バリアの如く発生させた斥力場で空へと浮き上がったリヴァイアサンの威容が鮮明になる。
「ははは無駄無駄ァァッ! エアロブラストォ!」
しかしそれに動じない大和が、リヴァイアサンまで残り十数メートルの距離まで狭まり急停止すると、彼の前方に空気の渦が発生し、その渦はやがて巨大な風と化しリヴァイアサンに向かっていった。
本来であれば斥力場の影響により弾かれるか、消失するかの二択に選ばれるが、その渦は斥力場を容易に貫通しリヴァイアサンに直撃してその体を切り裂いていく。
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン……!』
その鋭い風がリヴァイアサンの体に直撃し、鮮血を散らす。攻撃の痛みによるものかリヴァイアサンは咆哮を上げる。
「やはりな! ゲームではあんま実感ないけど型破りの効果は絶大だな!」
リムの考えが通じたのか、ニッと笑みを浮かべる大和。攻撃の手は緩める事なく右手を前方に掲げると、手のひらに黄色いエネルギーの塊が発生する。
「気合玉ッ!」
そのエネルギーが放出されると、リヴァイアサンに直撃し爆発と爆風を起こした。
正面に回り、頭部全体を煙が包み、軽く怯んでいる様子から手応え有りとドヤ顔を浮かべながら片手でガッツポーズする大和。
しかし歓喜の思いも束の間、視界が晴れるとリヴァイアサンはギロリと大和に視線を向けると、巨大な口を開けけたたましい咆哮を上げた。
「なぐおわっはあぁぁぁ!?」
それは、海が裂けてしまう程の一撃。大和は発せられた咆哮の衝撃波に遥か遠くへと吹き飛ばされてしまう。
否、斥力場を前方に展開、砲弾として放ったのだろう、流石に攻撃自体を『型破り』で防ぐ事は出来なかった。
「いってぇ~……。くそぉ、やったな!」
衣服がボロボロになり、体中にダメージを受けてしまった大和は右手を胸に当て、回復技である『自己再生』を行う。
彼の傷は瞬く間に癒えていき、元の状態へと戻る。尚、衣服までは修復できなかった模様。
そんな大和は苛立ちを露わにした表情のまま、再びリヴァイアサンに勢いよく肉薄する。
「お返しだ! ハイパーボイス!!」
大和がリヴァイアサンの数十メートル地点へ詰め寄ると、そう言いながら目に見える程までの大量の空気を吸い込む。
「■■■■■■■■■■―――――ッ!!!!!」
お返しとばかりに凄まじい大声を上げると、一直線上に空気や海を切り裂く程の巨大な衝撃波がリヴァイアサンに向かい、直撃しその巨体が仰け反った。
声を張り上げたため、大和は嘆息する。
「……やりおるな。型破りで斥力場は無効化されているとはいえ中々タフなもんっすな」
彼はリヴァイアサンの耐久力を素直に感心していた。威力九十以上の強力な技を三連続で繰り出し、ダメージを受けているのにも関わらず、耐えている。
……レジ系統が積み技をし、防御力を特化している並に強いなと感じた。まぁもしかしたら斥力を完全に無効化していないのかもしれないという考えもよぎったが。
「だがねえ。こっちとしてはあまり長く戦闘はお控え願いたいのでね……。色んな技でちゃちゃっと終わらせてもらうよ」
大和はそう言った後、連続としてシャドーボールや波動弾といった技を繰り出し、リヴァイアサンのダメージを蓄積させる。
本来であれば、現時点でかなりの火力を持つ大和は、『型破り』無しでダメージを与える事も無きにしも非ずであったが、念には念を押すというリムの考えによるものである。
「こいつで終わりだ……」
既にボロボロになっている白の竜に向け、締めとして彼は目付きを鋭くさせる。その途端に体が桃色の光に包まれ始めた。
更に、その行動と同時に大和を中心とした周辺の空間が歪曲している。
そして、右腕にバチバチと唸るエネルギーを蓄積し、剣のような形状に変化した直後―――。
「亜空切断ッ!!!」
彼が腕を四方八方に薙ぎ払った瞬間、リヴァイアサンを中心にした空間に亀裂が走り、斥力場ごとリヴァイアサンが切り裂かれたのだった。
空間を司ると言われる神と言われしポケモン―――“パルキア”の専用技でもあり、空間もろとも相手を切り裂くという無慈悲な技でもある。
リヴァイアサンを覆う程の大きさの斥力場は、空間を湾曲させて攻撃を逸らすという応用を効かせたこともこなせるが、亜空切断によって空間自体を切り裂かれてしまっては意味も為す術も無くガラス細工の如く砕け散る。
更にその余波によって、リヴァイアサンを中心とした海が、水柱の如く巨大な水飛沫を上げていたのだった。
それにリヴァイアサンにも影響は及んでいた。体の至る箇所には巨大な切り裂けられたような跡、銃火器では到底付ける可能性は皆無と言ってもいい程の、強靭な肉体に幾多もの傷を生んでいた。
幸いにも斥力場が防壁としての役割と成していたのか、致命傷までには至らなかった。しかしそれでも重傷なのは免れず、リヴァイアサンは悲痛の叫びを上げながら海の底へ沈んでいった。
「勝ったッ! 第一部完!」
『勝手に終わらせないで下さい』
左腕を天に掲げ、某スタンド漫画のような勝ち誇った台詞を零すと、リムが呆れたようなツッコミが大和に入る。
「まあいいだろ。ドラゴンちゃんをこの手でメッコメコにしてやったんだから」
『……ですが、まだまだ実力不足です。今回は倒せたものの、マスターが油断して倒される可能性もないとは言えません。なので、これからの期間にみっちりと対策と戦略を勉強していく予定なので、そのつもりで』
「………え?」
リムの申し出。それは、今回大和が対峙したドラゴンを倒せたとはいえ油断して攻撃を受けてしまった。その慢心が命取りになると考えた彼女は大和の頭に色々叩き込んで鍛えていくと申した。
これは彼女なりの心配に過ぎないが、勉強という言葉自体が苦手な大和は硬直し涙を見るはめになった。
こうして、何処かの島に立ち寄り、大和は様々な人のお世話をしつつ心身ともに鍛え抜かれることとなった。
―――しかし。
この人間でありながら人間を超えた存在が龍を倒したこの所業は、様々な国家・組織に知れ渡り震撼させたというのは―――。
言うまでも、ない。
そして―――あっという間に三年の月日が経った。
はい、という訳で今回は他のドラゴンを倒してみせました。あ、リヴァイアサンはまだ生きてます。死んだわけではございません。ご了承下さい……
ですが、このおかげでリヴァイアサンの侵攻が暫くなくなり、イリスの親が死んでしまう展開は回避されました。良くやった。
しかし……ポケモン無しでドラゴンを相手にし、且つドラゴンを倒してしまう主人公の所業……あっぱれ(合掌)
漸く次回から原作突入です。