ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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休職中でしたが、また始める事になりそうです(白目)


理想を追い求めた者

「ごほっ……」

 

 大和が顕現させた巨大な爪がキーリを貫いた。その影響で彼女は吐血し、その飛沫が彼の頬に掛かる。

 

「がはっ、こほっ……けふっ……」

 

「フッ」

 

 咳き込むキーリを見て、一つ笑う大和。

 

 同時に先程まで舞っていた爆煙は晴れ、離れていた悠達にもその様子が見て取れた。

 

「大和!?」

 

 悠は驚愕する。確かにさっきまでは自分がキーリを殺すと言っていたが、代わりとばかりにキーリの体を巨大な爪で貫いていたのだから。

 

 だがそんな悠に気にも留めず、更に爪を深々と突き立てる。

 

「がっ……!」

 

 更に口元から血を吐くキーリ。流石にこれ以上は致命傷だと悠が大和を止めようとしたが―――。

 

「流石にこれだけじゃ死なんだろ?」

 

「……え?」

 

 大和の言葉に、向かおうとしていた悠が呆然とした声を上げる。

 

「お前が生体変換ができるのは前から知ってた。首チョンパとかしない限りは心の蔵刺しても生きてられるんだからな」

 

「……ふ……ふふっ……知っていたのね」

 

 大和にもたれるような体勢で、キーリが笑った。

 

「殺せると分かってるなら、その立派な爪で首跳ねれば良かったのに」

 

「オレは基本的に人間殺さない主義なんでね。例えそれが犯罪者とかでもな」

 

 大和はどんなに極悪非道人だろうが人間相手は殺害しないという事を告白する。

 

「お前は別だが、明らかに死にそうだったら回復したりもするがな」

 

 要は万が一致命傷を負った場合、命を奪わず生命活動が出来る程度に回復する人為不殺主義である。

 

 大和は事前にキーリが生体変換をできる事を知っていたためか、治しこそしなかったが。

 

「ふうん……誰だろうと無差別なく殺すと思ってたけど、意外と優しいのね。ドラゴンは殺すのに」

 

「アレは別。あくまで“人間は殺さない”ようにしてるだけで、ドラゴンは論外。それに、ミッドガルとは共同関係結んでるしな」

 

 人間は殺さないが、歩くだけで災害になる竜に関しては例外中の例外。ドラゴン討伐計画を担っているミッドガルに協力している点もあるが。

 

「随分と惜しい事をしてるのね、あなたって。それにミッドガルと共同関係を結んでるって言ってるけど、それって“D”を守っているつもり? “D”なんて、資源の有効活用でしか使い道がないのに―――」

 

「―――ふんっ」

 

 そこまでキーリが言うと、先程まで突き立てていた爪をキーリから勢いよく引き抜く。と同時に、纏っていた巨大な爪のオーラが消失した。

 

「ぐっ!?」

 

 引き抜かれたせいで、勢いよく鮮血が舞う。彼女に空いた大きな風穴からも血が溢れ出てくる。

 

「うっせえよテロリスト。竜は悪い文明だ! ドラゴン死すべし慈悲はない! それにな、ドラゴンなんかに好き勝手させたら―――日本の(オタク)文化が潰れちまうだろうが!」

 

 本音がダダ漏れな大和。大和はゲーム・マンガ・アニメ系統が大好きだから、竜がイキってそれらを壊されたらたまった物ではない……という事。確かに困る部分はあるだろうが、今言う事ではない気がする。

 

 場違いな力説を語る大和に、キーリは乾いた笑みを浮かべる。

 

「あなたって変な人ね。今までドラゴンを馬鹿げた理由で止めようとする人間はいくらでも見たけど、あなたのような人は初めてよ」

 

 そう言いながらキーリは空いた傷口の周辺に黒い上位元素(ダークマター)の塊が湧き上がった途端、出血が止まる。キーリが血を拭うと、そこにはもう傷はなく、白い肌が覗いていた。

 

「あんなに大きな傷を治せるなんて……」

 

 呆気に取られる悠を見て、キーリは肩を竦める。

 

「どう、悠? 彼の言う通り、生体変換ができるっていうのは、こういう事なの。私を殺すのだったら、頭を狙わないと」

 

トントンと指先で自分の頭を叩いて、薄く笑うキーリ。

 

「そうは言うが、まだやるつもりか?」

 

 大和が威圧感を出しながら言うと、キーリは苦渋の表情を浮かべた。

 

「流石に状況が不利だし、悔しいけど私も引かざるを得ないわね。それに、できれば私がティアを穏便に連れて行きたかったけど、そろそろ時間切れみたいだし」

 

 後方では悠が戦闘態勢に移行していた上、リーザの傷もほぼ全快している。ティアも敵対心を向けていたので、四対一と圧倒的不利な状況だった。

 

「ここまで滅茶苦茶しておいて……穏便に、なんてよく言えるな。それに……時間切れだと? 一体何の事だ?」

 

 大和の近くまで来た悠はどういう意味か分からず、構えを崩さぬまま問いかける。

 

「私はね……これでも“D”の損害を最小限に抑えようとしていたの。けれどあなた達が邪魔したせいで、彼女は痺れを切らしたみたい」

 

 キーリがそう言った直後、大地が揺れる。

 

「っ……ヘカトン、ケイル―――」

 

 彼らが視線を上げると、ずっと動きを止めていたヘカトンケイルが、こちらへと体の向きを変えようとしていた。

 

「ティアは私が確保するからと、彼女には持ってもらっていたの。けれど、もう自分で動くことにしたらしいわね。覚悟しなさい―――彼女は私みたいに優しくないわよ?」

 

「彼女? それに待ってもらっていたって?」

 

「……お前とヘカトンケイルは、どういう関係なんだ? あれは……お前の架空武装じゃないのか?」

 

 青い燐光を放つ巨人を見ながら、大和と悠はキーリに問いかける。

 

「ふふっ―――まさか、さすがの私でもあんな巨大な架空武装は作れないわ。というか……あなた達にはもう、彼女の事を色々と教えてあげたはずなんだけど?」

 

 悠はヘカトンケイルが誰かの架空武装かもしれないと考え、敵の狙いがティアだと推測した。しかし先程の言い方だと、ヘカトンケイルは少なくともキーリの制御下にはないように聞こえる。

 

「ああ……確かにそういやそうだったわ」

 

「え? どういう事だ大和?」

 

 納得する大和に問う大和。

 

「分からないの? 悠は察しが悪いわね」

 

 皮肉げに笑うキーリ。

 

「悠……想像力が足りないよ。多分奴からも聞いてると思う」

 

 大和もそう言ったが、悠には何の事かさっぱりだった。

 

 はぐらかされているのか、真実を口にしているのか、判断ができない。

 

 だがこの様子では、ヘカトンケイルはやはりドラゴンと見なした方がいいのだろうと、悠はそう思っていた。

 

 そして、またしてもミッドガルが鳴動する。ヘカトンケイルが足を踏み出したのだ。悠達のいる方へと向かって―――。

 

 その光景は三年前を否応なく思い出させる。悠達の町へと向かってきたヘカトンケイル。無慈悲に響く破滅の足音。あの巨体が近づく程に、夜空は狭まっていく。

 

 更に、キーリと接触前に大和から受けた大打撃も、既に全快していた。

 

「……結局、あいつを倒さなきゃいけないわけか」

 

「そういうこったな」

 

 悠と大和がヘカトンケイルの方に気を取られていると、キーリはティアへと視線を向ける。

 

「―――ティア、最後に聞くわ」

 

 彼女の問いにびくりと肩を震わせるティアを、リーザが庇うようにして立ち塞がる。

 

「もう……またあなた? こちらには攻撃の意志はないわ」

 

「そのような物言いが信じられるとでも?」

 

 うんざりとした様子で話すキーリに、明らかな敵意を剥き出しにするリーザ。

 

「本当に攻撃しないわよ。あったら上位元素を展開しているわ。私はティアに聞きたい事があるだけ。―――ティア、自分からバジリスクのつがいになるつもりはない? それが誰にとっても……あなた自身にとっても、幸福な選択よ」

 

「何を勝手な事を!」

 

 キーリの問いに、リーザは声を荒らげながら架空武装を展開しようとするが、その前にティアが小さく呟いた。

 

「……嫌」

 

 キーリが眉を寄せる。

 

「今更、人間として生きるつもり? 止めておきなさい、あなたはもうドラゴンよ。人間の中には混じれない。あなたの両親が、何をしようとしていたのか―――」

 

「分かんない! ティア、そんな難しい事、分かんないの! ティアはただユウやリーザ達と離れたくないの!」

 

 ぎゅっとリーザの服の裾を掴むティアは叫ぶ。

 

「皆、あったかかったの……今までで一番、楽しかったの……だから、ここにいたいの! それに、ティアはユウのお嫁さんになるの! バジリスクなんかより、ずっと、ずっと大好きなのっ!!」

 

「ティア……」

 

 あまりにも真っ直ぐな感情の吐露。悠は感嘆すると同時に顔が熱くなる。

 

 キーリは真正面から拒絶の意志を示したティアをじっと見つめ、深々と嘆息した。

 

「そう……残念ね。私は本当に、あなた達のためを思って、行動していたのだけれど」

 

「俺達のため、だって? ミッドガルを襲撃して、リーザを傷つけて、よくそんな事が言えたもんだな」

 

「そーだそーだ」

 

 キーリの勝手な言い草に、悠は我慢できずに声を上げ、大和も乗っかる。

 

「―――バジリスクを上陸を許せば、こんなものでは済まないわ。全ては塵に還り、誰一人生き残れない。だから私は多くの“D”が損耗してしまう前に、ティアを連れて行くつもりだったのよ。()()よりも優しい方法で」

 

 真面目な口調でキーリは語り、ヘカトンケイルをちらりと見上げた。悠達を心配している風にも聞こえるが、やはり“D”を資源としてしか見ていないのが伝わる。

 

「余計なお世話だ。俺達はバジリスクを倒して、ティアを守る」

 

「だったらまず、彼女を何とかしないとね。私は巻き添えで潰されてしまう前に、退散させてもらうわ。中枢を破壊されて一時的にダウンした環状多重防衛機構(ミドガルズオルム)も、そろそろ別ルートで再起動する頃でしょうし」

 

 キーリはそう言うと、炎を纏って空へと舞い上がる。空気ではなく、燃焼噴射を物質変換で作り出して飛んでいるのだろう。

 

 上空から悠達を見下ろしながら、キーリは言葉を続ける。

 

「一つ忠告しておくわ。彼女は―――お母様は優しくないから」

 

 ―――お母様……?

 

 そういえば穂乃花―――否、キーリは母と一緒に世界中を回っていたのだと言っていた。それはまさか、ヘカトンケイルの事を指していたのだろか。

 

 徐々に高度を上げていくキーリに、悠は問いかける。

 

「キーリ……お前は一体、何者なんだ?」

 

 人間の脳では処理しきれないという、生体変換を使いこなし、更にヘカトンケイルを母と呼ぶ少女―――大和も思っていたが、とても普通の“D”とは思えない。

 

「さあ、私は誰なのかしら。もしよかったら、あなたが決めてくれない?」

 

「……答えるつもりはないってことか」

 

「別にはぐらかしているつもりはないんだけど。なら―――あなたならどうかしら」

 

 悠から目線を外し、大和にちらりと目を向ける。

 

「……さあ、なんだろうな」

 

 思わせぶりな口調の大和だが、キーリは彼も分かってなかったと思い込んでいたようで。

 

「……まあいいわ、じゃあね―――もしも三年前と同じ事が起きたら、またどこかで会いましょう」

 

 そう言ってキーリは、赤い軌跡を描いて星空へと昇っていった。

 

「アイツ、前に悠がヘカトンケイルと戦った事を知ってるみたいだったな」

 

「ああ……なんで知っているんだろうな」

 

 多くの疑問が渦巻く悠だったが、先程より近づいた大きな足音に意識が引き戻された。

 

 ヘカトンケイルはその巨体を揺らしながら、一歩ずつ迫ってくる。その周囲では眩い爆発が連続して起こっているが、ヘカトンケイルの歩みは鈍らない。恐らく集結した竜伐隊が海へ押し返そうとしているのだろう。

 

 キーリの言った事が本当であれば、ヘカトンケイルの目的もティアの捕獲。

 

 本来はヘカトンケイルが中枢を破壊して皆の目を引きつけ、その間にキーリが環状多重防衛機構の麻痺したミッドガルからティアを連れ去る手筈だったのだろう。

 

 しかし、リーザと悠に邪魔をされ、大和に圧倒された事で、ヘカトンケイルは自ら動き始めた。

 

 だが、あの巨体でどうやって、指先よりも小さなティアを捕らえるというのか。

 

「兄さん!」

 

 深月の声が聞こえて、視線をそちらへ向ける。

 

 宿舎の横手から現れた深月とイリスが駆け寄ってくるのが見えた。

 

「済みません、合流した竜伐隊に指示を出していて、来るのが遅れてしまいました。大丈夫でしたか?」

 

「俺は何とか大丈夫だ。大和にも助けてもらったから」

 

 悠が大丈夫と意思表示すると、深月は大和に目を向ける。

 

「そうでしたか……大和さんもご無事でしたか?」

 

「ああ。あれぐらいの平手打ちじゃ、どうって事なかったよ」

 

「……申し訳ございません。遠回しながら、あなたに救ってもらう形になってしまって」

 

「気にすんな。それよりも深月が無事で何より」

 

 謝罪をする深月に、快活に笑う大和。巻き添えを喰らうよりはいいと大和は語る。

 

「ところでタイガ、その姿は?」

 

 イリスが大和の姿を不思議に思ったのか、そう聞いてきた。

 

 見れば、他の面々も割と興味津々そうだった。

 

「簡単に言っちゃえば、ポケモンの能力解放だな。ホワイトキュレムっつーポケモンなんだけど―――まあ詳しい事は後で話すよ。それよりも、今はアイツだろ?」

 

 ポケモンの能力開放をする事で、フルパワーに近い力を出せるとも言おうとしたが、そこまで詳しく話している時間はないと、大和は迫り来る青い巨人を指指す。

 

 悠達も視線を青い巨人へと向ける。

 

「既に竜伐隊は、全員持ち場についています。ヘカトンケイルが急に移動を始めた事で、少し足並みが乱れていますが……上手くタイミングを合わせれば今度こそ押し返せるはずです。皆さん、力を貸してください」

 

 深月が悠達に呼びかける。

 

「ああ、もちろんだ」

 

「うんっ! 何でも言って、ミツキちゃん!」

 

 悠とイリスは頷き、応じる。

 

「わたくしもやれますわ」

 

「任せてちょ」

 

 リーザは再び架空武装を生成し、大和は自信ありげに胸を叩いた。

 

 

「ティアも……戦う」

 

 

 そこにティアの声が響き、皆は驚いた顔でそちらを見る。

 

「大丈夫なんですの? また暴走するようなことがあれば、手伝うどころか皆の足を引っ張る事になりますわ」

 

 リーザは遠慮なく皆が抱いているであろう不安を口にした。

 

「―――うん、大丈夫。ティアは角があって、もう人間じゃないかもしれないけど、それでも……ユウやリーザと一緒にいたいの。おんなじように、生きたいの!」

 

 はっきりと言い切るティア。

 

 自分の在り方は変えられない。それでも生き方は選択できる。

 

 ティアは自分の意思で、彼らと共に歩く道を選んでくれたのだ。

 

「分かりましたわ。では仲間として―――共に戦いましょう」

 

 表情を和らげてリーザは手を差し出す。ティアは満面の笑みを浮かべると、ぎゅっとリーザの手を握り返した。

 

 その様子を確かめた深月は通信機に手を当て、皆に指示を出す。

 

「―――それでは皆さん、タイミングを合わせて、全員で最大規模の空気変換をお願いします。重心である腹部に狙いを定めてください! カウント9(ナイン)!!」

 

 深月の号令と共に、イリスとリーザが架空武装を構える。

 

 ティアも周囲に上位元素を生成し、自分の架空武装を形作っていく。

 

 以前と同じく現れた上位元素はティアの体へと集まるが、象られる輪郭は違う。

 

 具現するのは、紅に煌めく大きな翼。

 

 人の姿のまま、竜の翼を背に生やしたティアは、どこか神々しくさえあった。そしてそれは、大和が権限する翼にも酷似している。

 

 力を求めた場合、姿がドラゴンに近づくのは、ティアにとって必然なのだろう。だがそれを誰も咎めたりはしない。何故ならティアは、それでも彼らと同じように―――人間として生きると言ってくれたのだから。

 

 何よりも大和が前例としてあるかもしれないのだが。

 

「7、6、5———」

 

 カウントが進む。悠は自分の出番に備えて意識を集中する。

 

 大和も両手をコキコキと骨を鳴らしながら準備万端と巨人を見上げていた。

 

 急に攻撃が止んだことで異変を察知したのか、ヘカトンケイルがその巨大な右腕を持ち上げた。

 

 ―――大丈夫だ。まだ距離に余裕はある。彼らのいる場所までは届かない。

 

 と、悠はそう思っていたのだが―――。

 

 空が暗くなる。星が見えなくなる。黒い何かに―――塗り潰されて。 

 

「え―――?」

 

 巨大な掌が、いつの間にか頭上にあった。

 

 遠近法の狂った絵画のように、ヘカトンケイルの腕は不自然に伸びていた。

 

(いや―――()()()()のか!?)

 

 今まで、ヘカトンケイルが体を変形させた事例など皆無。だが元々未知の存在であるドラゴンに、未確認の能力があっても不思議はない。

 

 全体の質量は一定なのか、伸ばした分、腕は細くなっていた。それでも掌は逃れようがないほど大きく、大気を押し潰すように落ちてくる。

 

「おい―――ここにはティアもいるんだぞ!?」

 

 掌を仰ぎながら、悠は叫ぶ。けれど、彼の言葉が通じるはずもない。

 

 それに万が一、ヘカトンケイルがティアを摘まむだけの繊細さを持っていたとしても、周囲にいる悠達は潰されてしまう。

 

「目標、対象の右腕に変更! カウント繰り上げ! 放てっ!!」

 

 カウントは間を合わないと判断した深月が、早口で叫ぶ。

 

「烈風よ、轟けっ!」

 

 イリスが圧縮した空気を破裂させる。

 

(はし)れ、風槍(ふうそう)っ!」

 

 リーザが束ねた風を撃ち放つ。

 

「飛んじゃえっ!!」

 

 ティアが、紅の翼を広げて暴風を巻き起こす。

 

「暴風ッ!」

 

 大和も文字通り、掌から暴風を発生させる。この『暴風』という技は飛行タイプの特殊技では最高の威力を持つ技で、『風起こし』よりも遥かに強い。尚且つ、特殊攻撃力が高いホワイトキュレムの恩恵で、威力を底上げしていた。

 

 命中率が低いのがネックだが、空を飛んでいる相手にも命中させる事が出来る技で、追加効果で相手を『混乱』状態にする事も可能。

 

 島全体が大きく騒めく。皆が生み出した大量の風と空気が、突風となってヘカトンケイルの右腕を上方へ弾き返した。

 

 しかしヘカトンケイルは、間髪なく左腕を伸ばしてくる。

 

 再び空が、青い掌で閉ざされる。

 

 皆、全力で攻撃を放った直後のため、次弾を放つ余裕がある者は少ない。

 

 即座に二撃目を放つことができたのは、深月とリーザだけだった。

 

「リーザさん、左腕は消し飛ばして対処します。最大威力で攻撃を!」

 

「了解ですわ!」

 

 深月は虹色の弓に上位元素の矢を番え、リーザは金色の槍を空へと向ける。

 

(つい)の矢―――空へ落ちる星(ラスト・クオーク)!」

 

「射抜け、神槍(しんそう)っ!!」

 

 深月とリーザの放った攻撃が空を白く染め、ヘカトンケイルの左腕を蒸発させる。その破壊力は凄まじく、膨れ上がった光はヘカトンケイル本体までも呑み込んだ。

 

 爆風と閃光が収まった時、残っていたヘカトンケイルのパーツは、空中にある右腕と遠くに見える下半身だけ。

 

 だが下半身の輪郭は突如として崩れ、あぶくのように弾けて消える。

 

 その直後―――残された右腕が膨れ上がり、ヘカトンケイルが復元した。

 

 ズゥゥゥゥゥゥンン―――――……。

 

 大地を揺らし、悠達のすぐ傍に降り立つヘカトンケイル。

 

「きゃあっ!?」

 

 激しい衝撃と風圧に深月達は転倒し、悠も立っていられずに地面に膝を突く。

 

 しかも復元した左腕は、既に悠達のすぐ傍まで迫っていた。

 

 大和は唯一平気だったようで、体勢を一切崩さず微動だにしなかった。

 

 しかし余りにも行動が迅速。目的意識を持ったヘカトンケイルは、三年前よりもずっと強大な敵と化している。

 

 転倒した事で、皆は架空武装を手放してしまっていた。

 

 ―――このままでは全員、ゲームオーバーとなってしまう。

 

 どうすれば―――!

 

「ふん、そんなに……オレの力が見たいのか」

 

 この絶望的な状況で、大和が呑気そうに答える。

 

「いいぜ……見せてやる。“理想”を追い求めたポケモンよ! その力を見せてみろ!」

 

 そう言い放ったホワイトキュレム状態の大和が、尾部に炎ではなく電気の塊が生成される。

 

 “虚無”を司る器に“真実”を埋めてくれた英雄。そしてもう一つ。“理想”を追い求めた英雄が自身の失った体を埋めてくれるのを待っている。

 

 神話に名立たる理想の英雄よ、抜け殻にその力を証明してみせよ―――!

 

 電気の塊を取り込んだ大和から膨大な量の放電が発生する。やがて体が青白い電気の球体に包み込まれ、“ソレ”は飛翔する。

 

 すぐ傍まで迫ってきたヘカトンケイルの左手ど真ん中に直撃。手のひらがまるで“く”の字になると同時に、周辺に雷電が巻き起こる。

 

 次の瞬間には巨人の手を破壊した―――“ソレ”は留まる事を知らず、ヘカトンケイルの腕を容易く抉っていく。

 

 そして肩口まで到達直後には吐き出されるように“ソレ”は脱出する。電気で膨張し、手が欠損した左腕―――それは瞬く間に破裂した。

 

 電気を含めた爆発と爆風に包まれるヘカトンケイル。その上空に佇む“ソレ”が纏う電気は弾け、輪郭が露わになる。

 

 それは、先程まで白い体色が窺えていたのが、黒く染まりゴツゴツした質感のものへと変化しており、筋肉質なシルエット。

 

 ホワイトキュレム時とは反対に、左半身は至る部分が氷に覆われ、尾部はタービン式の発電機の如き形状。

 

「バリィバキュロムッ!!」

 

 “ソレ”は咆哮を上げる。

 

「見せてやるぜ。この……ブラックキュレムの力をッ!」

 

 ハイなテンションになった大和が、高揚によるものか不気味な笑いを含めながらそう言った。

 

 そう。これが伝説のポケモン、“ゼクロム”が“キュレム”と合体し、フォルムチェンジした姿―――“ブラックキュレム”。

 

「ここからが本当の戦いだぁ……!」

 

 最強のドラゴンポケモンの力を有した人間は……容赦なく牙を剥く。

 




次回、大和(と+α)無双。

え? なんで前回のサブタイに真実の言葉が入ってないのかって?
A.前回の登場がアレだったから(震え声)
というガバガバ理論。

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