―――わたしは、なあに?
辺りに立ち込める熱気。その中、瑞々しい桃色の唇を動かして、白い灰の前に座る幼い少女が問いかける。
「ティア、あなたは―――“ドラゴン”よ」
彼女の前に現れた、全てを焼き尽くす災厄の魔女が答える。
そして、その魔女が少女に手を差し伸べた瞬間だった―――。
「あーちちっ! 何でこんな毎日家を焼こうぜ的な事になってるんDA! これはきっと孔明の罠にちげぇねぇ!」
その空間にそぐわないような、一人の男らしき声がその場に響き渡る。
見れば、腕で顔を覆いながら、何故か高いテンションになっている汗まみれの少年の姿が。
「あーんもう、あっつすぎっから―――水遊び!」
掌にハンドボールサイズの水球を生成すると同時に、天に掲げてそれを潰すように握る。
するとその水球が弾け、大量の水が重力に従い降ってくる。結果的に水を被る事になったが、辺りの熱気を遮れるようになった。
雨降らしや雨乞いをする必要もなしと一言言った後、此方を窺っていた少女と魔女を見据える。
「ふう。んで、だ。さっきからこっち見てる二人。一体これはどういう状況かな?」
一息つくと、先程までとは打って変わって落ち着いた様子で話す少年。
「……あなたには関係ない事よ」
訝しげに言葉を漏らす魔女。また、事が上手く進まなかったせいか、被っていた煤けた外套の隙間から此方を睨んでいた。
「へーそうですか」
そんな一言を漏らすと、近くにある炭化した“家だったもの”を見やる。
「なーんてな。実は事のあらましは見てますた。あーあ、家どころか人を燃やしやがって……」
少年の言葉に、魔女は何故分かったとばかりの様子を見せる。尚、少女は魔女の傍で呆然としており、何が何だか分からない表情を浮かべていた。
すると魔女が手を翳す。それと同時に、手のひらの内に黒い球体が生成される。
「そう、見ていたのね。私達の事を。本当は穏便に済ませたかったけど、見られたからにはただじゃ帰す訳にはいかないわね」
魔女の素性が出てくる。そして―――警告。いつでも攻撃できるよう仕向けていた。
「どっこが穏便なのかね。ジ◯ラル星人みたいな事して。それと喧嘩なら買うぜ?」
魔女の忠告と警告に動じる事なく、首をゴキゴキと鳴らしながら此方もいつでも動ける体勢を取る。
「ふうん、あなたは見る限りただの人間のようだけど? ドラゴンと相手をするつもりかしら」
「あ? 何処にドラゴン―――あぁそっか。お前は“D”って事か」
「そうね。世間だとそういう言い方になるわ。でも、私は違う」
いつでも動けるであろう二人の間で、お互いに探りを始める。
「違う? その玉は
「
そこまで言い、魔女は少女に視線を移す。
「それにこの子だって、人間じゃないわ。ドラゴンなのよ。古びた偽物を捨て去って、本物の自分を分からせるために―――燃やしたのよ」
そして―――魔女はかつて“家だったもの”の方にもう片方の手を翳す。
「“D”は所詮、資源の有効活用でしかない。でも、ドラゴンなら話は別。“世界に対するドラゴン”として―――」
「はあもういい。話長い。くどい。そんでもって―――くだらね」
淡々と語る魔女に対して、少年がため息混じりの言葉と共に、話を中断させる。
「……なんですって?」
彼の言葉に、魔女は目を鋭くさせる。
「くだらねと言ったんですが、聞こえなかったでせうか? 耳鼻科言った方がいいんじゃないんですかねぇ? 人をドラゴンって決め付けるとか、竜だから人間や物を燃やすとかが最高に勝手でアホらしくてそう言ったんだわさ」
少年の煽り発言により、魔女の怒りが限界寸前まで昇り詰める。
だが彼は構わず言葉を続ける。
「それに、自分は“D”で且つドラゴンと決め付けてるようだが、仮にもそこに、ドラゴンを圧倒したという人間がいたとしたら?」
少年が仮定を含めた言葉を語ると、魔女は困惑の表情になる。
「何を言って……」
「おいおい、まさか知らない訳じゃないよな? しゃあねぇ、言い方を変えると同時に大ヒントだ。―――二年前、“白”のリヴァイアサンを追い込んだという人間がいるとしたら?」
少年が指を立てながら言うと、魔女はハッと驚愕の顔を浮かべる。
「ッ!? まさか、あなた……!」
「ようやっと分かったか。これはニュースや新聞にも載るぐらいだったからな、流石にこれだけ言えば分かるか。とりま、そういう訳で―――」
そして、少年がそこまで言うと、二人の身の毛がよだつ程の“プレッシャー”を発生させ―――。
「お前がドラゴンだって言うんなら、リンチしても構わねえよなぁ!!」
少年がその場から飛び、魔女に襲いかかったのだった。
◇
時、そして場所は移り変わり、ミッドガルの体育館。
天井の一部が瓦礫となって崩れ落ち、体育館内周辺に散乱している。
そして壇上付近、そこに積み上がった瓦礫から、突然バゴッと音と共に勢いよく手が生える。よく見ると、手首に黒い腕輪が付いている左手である。
握り拳となっている手が開くと、瓦礫に叩くように手を付いた。が、それだけで積み重なっている瓦礫が粉砕された。
粉々になった瓦礫の影響で粉塵が舞う。程なくして粉塵が晴れると、少年の姿が。
「いって~。あんにゃろう、オレをぶっ叩きやがったな」
痛いとか言っておきながら、参ったとばかりの表情で余裕そうな大和の姿が、そこにはあった。
そこから、右手を付いて起き上がろうとするが―――動かない。
「ありゃ、折れてるかコレ」
上手く動かせず、力も入らないので、これは折れてるなと判断。そこへ、左手首に装着している、メガリングである腕輪形態のリムから声が発せられる。
『それもそうですね。ヘカトンケイルの攻撃が右腕に直撃、体育館に激突する際も右腕から、落下した時も右手から先に付きましたから』
「どんだけ悪運なんだよそれ。てか、よく骨折だけで済んだな」
普通に考えれば骨折どころでは済まない話だが……というか、全身にダメージを受けて命に関わる状態になるだろう。“常人なら”。
または、ヘカトンケイルの平手を喰らった時点で潰れていてもおかしくない。“常人なら”。
大事な事なので、二回(以下略)
ともかく、それだけ大和の体が相当に頑丈だという事が改めて感じられた。
大和が動かない右手の代わりに、左手を付いて上半身を起き上がらせる。すると、起きた次の瞬間にはダラーンと垂れている右腕に白い粒子が集まっていく。粒子が纏わり付くと、右腕全体が白く染まって光り始める。
【大和の自己再生】
技を心の中で言ったのだろう。白い光が収まると、右腕が問題なく動き始め、手の握り開きを繰り返す。
それをどうって事なく見送った大和は、むくりゃと変な声を上げながら立ち上がる。
「さてと……まーた借りを作ってしまったなあヘカトンケイルさんよぉ。今度は……消し飛ばす」
口元を不気味なまでに歪ませると、足に力を込めるが―――。
「あっそうだ(唐突)。三十億年……いや、三年ぶりの再開なんだ。
そう言った大和が、いつもの如く腰に巻いてあるポーチに手を忍び込ませる。
「悠や深月達も奴を倒すのに必死こいてるだろうけど、ここは一つ、オレも仲間に入れてもらいましょうかね」
◇
「よっと……」
空いた大穴から、砕けていない天井に着地する大和。
彼は体育館内から天井まで跳躍で飛び乗った後、遠距離にいるヘカトンケイルを見据える。体育館自体、島の中央に位置するので、そこまで大和が吹っ飛ばされたのだろう。
「ふうん☆ では、殺すか」
一目見ただけで躊躇なくそう言う大和。
あれが正式なドラゴンとは言い難い。だが、あれが何にせよ、消し飛ばす事自体は変わらない。
そう思った大和は―――リミッターを解除する事にした。
「リム、限界突破のサポート頼めるか?」
『了解です』
リムが発すると同時に、メガリングのキーストーン部分から青紫色の閃光が放たれる。メガリングが白く光り、形状を変化させていく。
やがて大量の粒子に分離し、左手全体を纏わりつくように覆っていく。その際、大和は多少の異物感があったが、すぐに治まった。
そして、数秒もするとその輪郭が露わになっていく。
「これで完成?」
『はい』
そこにあったのは、全体的に黒く染まった鋭い爪の籠手。が、それに加えて手の甲の中心部分には、キーストーンが埋め込まれている形状。
「いいんじゃないの。素直に格好良い」
マジマジと籠手を見渡す大和。彼にとってお気に召したようだ。
『この状態をマスター風に言うのであれば、仮に“戦闘モード”としましょう。その状態であれば普段出せない力も発揮できます』
「……どういう原理なんだそれ」
『マスターの力をリンクし、そこから私がサポートさせて頂き、コントロールしています』
要は大和の精神や力に同調し、そこに関与したリムがコントロールしているという事。言ってしまえば遺伝子組み換えに近い形だが、彼自体には何の影響もない。寧ろ全力を出せるというメリットが大きい。
「ふーん。ツッコミどころ満載だけど、今はそれでいいか。オレと互角だったリムがそう言うなら」
半ば納得した大和は以前、リムの力を試したいという意見により、彼女と模擬戦で戦った事がある。その際、戦闘慣れしていない大和にとっては互角以上の戦いを強いられていた。
最も、リムは機械的な動きであり、大和もまだまだ未熟であったのもあるのだが。その後の対戦では、互角の戦いを繰り広げる事ができるようになった。
「ようし。なら早速、“全力で”奴をぶちのめますか」
ニヤリと嗤った大和は右手を天に掲げる。次の瞬間には掌に黒い渦が集束されていく。ヘカトンケイルに向けて『破壊光線』を撃つ気のようだ。
だがその力は計り知れない程だった。まず、その規模が凄まじく強力だ。周辺には風がザワめき、溜めている奔流の周りが歪んでいる。
大気を揺らし、地が騒ぎ、時折空間をノイズの如く暗転させていく。やがて、掌に収まりきらない程の巨大な黒い塊が顕現させていた。
トンでもなく強大で巨大な力をゆっくりとした速度で前に向ける。よく見ると、黒い渦は同じ色の火花を散らしていた。
未だに空間に影響を及ぼしているその途轍もなく膨大なモノを放とうとした、その時だった―――。
此方に向けて赤い閃光が放たれていたのだから。
「!」
完全に目前の敵にしか意識がなく、そちらには眼中にも留めてなかったので、気付いた頃にはその閃光をモロに浴びてしまった。
大和を中心に爆発し、乗っていた体育館の天井が更に破壊され、崩れ落ちるものもあった。
「霧払いッ!」
舞う爆煙。しかし、その煙はすぐさま霧散する事になる。
「けっっっ――――――むかったぁ。誰だよ、ビーム撃った奴は!」
そこには、宙には浮いているものの、五体満足な大和の姿が窺える。制服が焼け焦げた事以外、めぼしいものはない。
物理防御力も特殊防御力も異常なまでに鍛え抜かれた体により、傷は一切ない。
「折角"破壊光線"撃とうとしてたのによ―――ってあれ、これは……」
悪態を付きながら波導で付近を探索していくと、
「…………」
黒い塊を持っていた腕を下げる大和。そして考える表情を見せたと思ったら、口角を吊り上げニィと白い歯を見せる。
「そうかそうか……まさか“アイツ”がいんのか。
宿舎側に顔を向ける大和。次いで、持っていた黒い塊はいらないとばかりにヘカトンケイルに向けて投げつけた。
「軽く」放り投げたにも関わらず、黒い塊は勢いよくヘカトンケイルに向かっていき、着弾した瞬間には特大の爆煙を上げていた。
「いいぜ……殺しはしない。けど、ムスペルなんちゃらとかいうテロリストなら、メッコメコにリンチしても問題ないよなぁ?」
ヘカトンケイルから大爆発を上げているのも気に留めず、まるでテロリストに人権はないとばかりに理不尽な事を言う大和。
なら……と、とあるポケモンの力を開放。擬人化とは程遠いが、戦うには十分だ。
そして、大和は体育館の天井から―――前から倒れる形で落ちていく。否、空を翔る。
対象の場所へ向かっていく内に、程なくして見えてきた。男一人に三人の女の姿。
「―――吹雪ッ!」
大和は“このポケモン”の登場オマージュとして、吹雪を発生させた。後方から吹く風が移動速度を後押しし、彼らの中心に位置するところに華麗に着地。
何故か至るところに氷の塊があるのは知らないが、吹雪が弱まるのが分かった大和は声を上げた。
『ヒュラララ……』
―――ちゃう。これポケモンの鳴き声や。
大和は間違ったのか、キュレムの咆哮を上げていた。能力を開放しているのだから咆哮を上げられない事もないのだが、無意識に咆哮になっていた。
今度はちゃんと人語で話そうと整えていると、目の前の一人―――穂乃花らしき少女から淀んだ声をかけられる。
「あ、あなた……一体何者」
あれは穂乃花ではなく、もっと別人。だがしかし、そいつの名前を存じている。
「……クク」
大和が彼女に目を向けると口元を歪め、小さく呟く。
「随分と久しぶりじゃねえかぁ」
「なっ!? その喋り方……大和、なのか?」
性格が変わった訳ではないが、敢えてゲスい声で言う大和。
悠もいた事も既に分かっていたが、今は目の前の奴の方に集中していた。
「初めてあったのはァ、一年前だったか。それと、そこにティアがいるって事は……」
大和は、倒れているリーザを横目にティアを一瞥する。
リヴァイアサン戦後、彼は寝ている最中に夢を見た。辺りに満ちた炎と熱気の中、少女が座り込み、その中で煤けた外套を靡かせ、女性らしき何者かが少女へ歩み寄っていた光景。
―――“何か夢で泣いてる幼女が炎の周りで座っていたのと、コートっぽいの着てた奴が立ってたのあったけど、あの女どっかで見た事あんだよなー……気のせいかな”。
「……そうか。ハハ、そうか。やっと辻褄があった」
納得し、軽く頷きながら微笑する大和。
「“あん時”にティアと一緒に見たのはやっぱお前か! キーリ・メルト・セキ○イハイム!!」
高らかに宣言し、思いっきり名前を間違えて気に障ったであろうキーリが爆発を起こした。
大和は解せぬと後に語る。
◇
「出会い頭、名前を間違えないでくれるかしら? 人間最強さん」
「ゲッホゲホ……」
青筋を浮かべながらキーリが手を翳したまま言い放ち、大和は爆煙の中で咳き込んでいた。
「あら、やっぱりこの程度じゃ死なないのね」
「エッホ……開幕直後にオレを爆発させるなんて、あまりも失礼な希ガス」
「適当に付けた名前とはいえ、そうも間違われると失礼だと思わない?」
「フッ、どうだか」
煙の中から既にボロボロの制服姿で出てきた大和はふと、悠を見ると怪我をしていたのが窺えた。
「ん? 悠ケガしてんじゃん」
一切警戒していないのか、キーリに背を向ける大和。悠はそのような行動は決してしないので、どれだけ無警戒なのか。
「しかもリーザまで……どれ、ちょっと治してやる。特性“メガランチャー”からの―――癒しの波動」
そのような悠の心情はいざ知らず、リーザまで負傷しているのが分かった大和は指を一度鳴らした後に両手を広げる。すると、彼を中心に桃色の波紋が大きく広がっていく。
「これは……」
「あたたかいの……」
悠とティアが思わず声を上げる。悠は全身の痛みが引いていき、意識が鮮明になっていく。左腕に突き刺さっている防壁の破片があったが、大和が怪我を治しているのだと理解し、この状況を利用して痛みを堪えながら引き抜く。そこから今のうちにボロボロになった服の袖を千切り、端を歯で噛んで傷口に巻き付けた。
これで大和に加勢できる状態。不意に悠がリーザの方を見やると、彼女も同様に傷がなくなっていく。額から流血していたが、その傷も癒えていく。
実に不思議なものだと感嘆していると、気絶していたであろうリーザが目を開ける。
「……あら? わたくしは確か……」
「リーザっ!」
「きゃっ!? ティア、さん?」
付近にいたティアがリーザを飛び乗るように抱き締める。その様子にリーザは驚きながらも、胸の中のティアから小さな嗚咽が聞こえた。
きっと、自身が怪我をしてしまい心配をかけたのだろう。リーザは優しく抱き締め返す。
「ふう……」
大和は一つ息を吐く。この『癒しの波動』という技は、対象の体力を半分回復させるという技。対象一体につき使用できる技だが、大和は応用して波動の量を多くして対象範囲を広くする事によって、広範囲に回復する事ができた。
更に特性“メガランチャー”は、波
ただ今回、広範囲に広げたので敵であるキーリまで回復させてしまう欠点があった。主に先程まで対峙していたリーザから受けたものが大半。まあ終始余裕を見せていたのでそれも微々たるものだが。
「ありがとう大和。助かった」
技が止み、怪我を回復させた悠からお礼を言われる。そんな中、クスクスとキーリの笑い声が聞こえてきた。
「ふうん。何をやっていたのかは知らないけれど、私まで回復させて良かったの?」
「それでいい。万全なお前を叩きのめす。前回は倒し損ねたし」
彼の言い分に悠はキーリと戦った事があるのかと軽く驚きを覚える。そう、大和は一年前、キーリと対峙した事があった。
キーリも応戦したが、彼の猛攻により苦戦を強いられていた。だが大和が善戦していたが、潜んでいたのであろう彼女の所属しているテロリスト組織―――“ムスペルの子ら”の部下による邪魔が入ってしまい、事が上手く進まなかった。
そのリベンジを果たしにきたという訳だ。
「言ってくれるわね。“D”でもない人間に」
「その人間に圧倒されたのはお前だろ? 爆発女」
因縁の相手を見つけたと言わんばかりに、大和がキーリを睨みつけながら戦闘体勢を整える。
「大和、俺も……」
そこへ、悠が加担しようと大和に声をかけるが、大和は待てとばかりに手を横に出す。
「悠、下がってろ。お前怪我してんだからリーザ達守ってろって」
「だが、奴は……」
「遅れてきた分それぐらいの事はさせてくれ。だから二人と一緒に安全なとこまで離れててくれない?」
大和はツケを払うような言い方だが、何故だろう、彼なら頼れる気がしてきた。
「……分かった」
「助かるよ」
そうして悠は、リーザ達のところに行った。
「あら? 彼の力を借りなくていいの?」
「オレ一人で十分だ」
「随分と自信ありげね。でも簡単に止まる気はないわ。ティアはバジリスクのつがいになるんだから」
まるで勝つ事を見越しているような口ぶり。キーリは余裕の笑みを浮かべていた。
「前回のリベンジだ。圧倒的な力を見せてやる」
そして彼は―――ゆっくりと歩き出す。
「言ってくれる―――じゃない!」
周囲の気温が一気に上昇していく。キーリが肉眼では捉えきれない上位元素を辺りに展開し、
だが……歩みは止まらない。
その瞬間、大和は爆発を回避する事なく受けた。上位元素から変換された熱エネルギーを浴びる事になった。
しかし、ヌッと平然と爆炎の中から歩き出てくる大和。爆発をもろともしない強靭な体には通じていなかったのだ。さらには、制服までも無傷。
その後もキーリは、何度も禍炎界を維持し続け、何度も大和から赤い炎を発生させていく。
爆発。止まらない。
爆発。止まらない。
爆発―――止まらない!
「なん、で―――!?」
先程の余裕から一変、キーリは驚愕の表情を浮かべる。
「くっ、こうなったら―――!」
キーリは咄嗟の判断で、目に見える程の上位元素を周囲に展開する。
そして―――爆発、と同時に炎が燃え上がる。
彼女は爆発という一時的なものでは彼には通じない事が目に見えていたので、爆発と共に炎を作り出したのだ。
キーリは前回の事例があるため、本気でやらないと返り討ちに遭う。本能的に危機感を抱いていた。
ならばと、炎の渦を作り出して大和を呑み込ませるという考えに至った。
同時にそれは、生き物の弱点を突くもの。
炎の中に閉じ込め、焼き尽くせればそれでよし。逆にそれが効かないのであれば―――酸素を燃やして相手を窒息させる。
回避する様子は一切見せなかった。ならば、受けないはずがない!
彼女の考えは見事に的中。炎を作り出した後、中から出る様子が見られない。炎の中に閉じ込められ、巨大な熱量で火達磨に―――既に骸に成っているか、あるいは酸素がなくなり呼吸ができなくなっているか。
どちらにせよ、舞い上がる炎に太刀打ちできなかったという事。所詮は人間。生物の弱点を突かれればどうにもならない。
向こうで悠達が何かを叫んでいるが、炎に遮られてよく聞こえない。それでも、キーリは目の前の
勝った―――。余韻に浸りたかったキーリだが、まだ自分にはやる事がある。ティアを奪還し、バジリスクのつがいにする事。全快したリーザと悠がいるが、幸い此方には傷が一切ないし、大和に比べれば大した事はないと、余裕を持ちながら彼らの元へ向かおうとした―――。
―――
「……?」
謎の不信感を抱き、キーリは作り出した炎を見つめる。炎は普通、熱いもの。近くにあるだけで熱量が肌で感じ取られるもの。
しかし、その炎は熱いどころか、何故か冷たい。見てくれは普通の炎なのに、どうもおかしい。
だがその不信感の正体は、次に聞こえてきた声によって、鮮明になっていく―――。
『バァーニキュラムッ!!!』
その咆哮は炎の中から。そして―――炎が、勢いよく弾けた。
「なっ!?」
キーリは再び驚く。あれだけあった炎も一斉に霧散し、その中から現れた大和の姿が変貌していたのだから。
その姿は、先程まであった氷の鎧から更に風変わりしている。全体的に白を増やし、右腕から氷の翼、左腕が白い翼が剣の如く生えている。
また右半身の至る部分が冷気によるものか凍りついており、尾部も白い体色・フサフサした質感に変化している。更に両肩も氷に覆われ、プロテクターのようにもなっており、その肩の氷には二つの透明なトゲのようなものが生えていた。
「これがホワイトキュレムの姿だ……!」
牙が生え揃った口を開けた大和が言うと、燃え盛るオーラが彼から放たれた。
これは伝説のポケモン、“レシラム”と“ホワイトキュレム”が持つ、独自の特性“ターボブレイズ”。相手の特性の影響を受ける事がない、言わば型破りと同等の特性。
傍から見ればただ姿が変わっただけのようだが、有無を言わさない威圧感が感じ取られた。
「さあて、また姿が変わった訳ですが、それでも向かってくるんですかい?」
「……っ!」
遠回しにだが敵に情けをかけるような言い方をした大和に、たじろぐキーリ。
「それでも来るっていうなら―――オレにも考えがある」
そう言った途端、ジェットエンジンのような尾部が紅く発光し始める。同時に左翼も紅くなり、加えて両肩の氷からトゲ部分がチューブ(またはコード)状に伸び、それが伸びて尾部に接続される。
するとどうだろうか。大和から膨大な量の炎が湧き始める。しかも放たれたばかりの炎は熱気があったが、次第に纏う炎は冷気を含めたものに変わっていく。
「とっておきをくれてやる」
腕を組み、縮こまった体勢を取る彼の一言により危機感が増したキーリは勢いよく手を翳す。
「
彼女から赤い閃光が放たれる。
「コールドフレアッ!!」
同時に、体を"大"の字にした大和から冷気を含んだ激しい炎が放たれたのだった。
お互いの攻撃はぶつかり合い、次の瞬間には大爆発を発生させていた。その規模はその場全ての者を爆煙で覆ってしまう程。
「―――シッ」
その中で大和は―――爆煙の中を駆けていく。キーリの姿は見えずとも、波導で位置は把握していた。
一瞬のうちにキーリへ肉薄した大和は右手に巨大な緑色の爪のオーラを纏わせた。
【大和のドラゴンクロー!】
「っ!?」
来るとは思っていたが、余りにも早い行動により驚愕するキーリ。
そして―――その爪はキーリの体を瞬く間に貫いたのだった。
ティアが9歳の頃に悠に救われて、キーリとティアが接触したのが10歳の頃で、大和がリヴァイアサン(ついでにヘカトンケイル討伐にも加担)を倒したのが三年前で……あれ、悠がニブルに行ってから初めてティアと会ったのっていつだっけ……。
という訳で、ティアと初めて会う頃に悠はその年ニブル所属という事にしました。これもうわかんねぇな。
で、中盤以降の出たであろうポケモンが出ていないって? それは次回以降で分かります()
また、今回登場した籠手型の腕形としては、手の先が『ブロンズリンク・マニピュレーター』の黒verと思って下されば幸いです。