今回はいつもより短めに感じた……けど8千字越え? (・3・) アルェー?
少女は呆然と、白い灰の前に座り込んでいた。
泣き声を上げず、涙をぽたぽたと零していた。
少女が幸せに暮らしていた家は完全に炭化し、床には溶けて丸く固まった窓ガラスの欠片が転がっている。
もうすぐ収穫の時期を迎えるはずだった畑は、
―――やっと手に入れた幸せが……あの人がくれた幸せが、全部消えちゃった。
少女はそれがどうしようもなく悲しくて、ただ涙を流し続けた。
「悲しむ必要はないわ。だって"それ"は本物ではないんだもの」
そんな少女に、全ての元凶である炎の魔女が告げる。白い灰を冷たい瞳で見下ろし、
「本物じゃ……ない?」
意味が分からず、掠れた声で問い返す少女。辺りに満ちた熱気で、喉はからからに乾いていた。
「ええ、だってあなたは人間じゃないんだから。古びた偽物は全部捨て去って、本当の自分になりなさい。そうだ―――私が新しい名前をあげる」
そう言って、魔女は少女の頭に手を乗せる。びくりと少女は体を竦ませた。
「あなたは今から、ティア。“ティアマト”のティア。かつてマルドゥークに討たれた、銀竜の名よ。あなたには資質がある。きっと、その名前にふさわしい存在になれるわ」
人間ではないと言われ、ティアという名を授けられた少女は、震えながら魔女に問う。
「……わたしは、なあに?」
「ティア、あなたは―――“ドラゴン”よ」
少女の質問に、魔女は強い口調で答える。
「ドラゴン……」
「そう、そして私たちの母は“黒”のヴリトラ。あなたは、まだ何も失っていないの。お母様は、今もずっと私たちを見守ってくれている」
少女は目を見開く。
「……ママが?」
「ええ、“ドラゴン”のティアは一人じゃない。お母様と、多くの姉妹がいるのだから。さあ、私と行きましょう」
埋めようのない孤独を抱えた少女は、魔女の囁きに縋り付くしかない。
たとえそれが、間違いだと分かっていても―――。
「あーちちっ! 何でこんな毎日家を焼こうぜ的な事になってるんDA! これはきっと孔明の罠にちげぇねぇ!」
そう、その声が響くまでは。
誰にも入り込む余地がないようなその状況に、一人の男の声がその場に響き渡ったのだった。
◇
ティアが暴れた事で演習場はボロボロになってしまったが、幸い怪我をした者はいなかった。
加えて悠や深月、大和が必死に取り成した事で、ティアへのペナルティは一先ず保留された。
ただし遥には、次はないぞと釘を刺されてしまったが。
―――演習場、補修しないと使えそうにないもんな。
悠はティアを背負って保健室へ向かいながら、床から天井まで電撃で損壊した演習場の様子を思い出す。
大和が「時の神の力を使えばすぐ直せる」と言っていたが、そんな事をしてしまえば更に珍獣扱いされるとリムに釘を刺されて止めたが。
設備に大きな損害が出たせいで、今回の
ティアがミッドガルの一員に———本当の意味でクラスの仲間になるために、この子を“人間”にする必要があると悠は常々思っていた。
―――起きたら、ちゃんと話をしないとな。
静かな廊下を歩き、保健室の前までやって来る。ティアを運んでいると、自分が転入した時の事を思い出す。
午後の実践演習でイリスが物質変換に失敗して、悠が保健室に運んだのだから。
「失礼しまーす」
悠はガラガラと横開きの扉を開くが、室内にいたのは何度かお世話になっている養護教諭ではなかった。
「……え?」
ポカンとした顔で此方を見たのは、大和が昨日言葉を交わしていた女子生徒―――立川穂乃花。名前は大和から教えてもらっていたので、すぐに分かった。
体操服の少女は椅子に座って上着を捲り上げ、脇腹の擦り傷を自分で消毒している。
「きゃっ!?」
穂乃花は捲っていた上着を元に戻し、悠に背を向ける。悠は驚きのあまり棒立ちになっていたが、その悲鳴で我に返る。
「あ……その、悪かった!少し外で待ってるから」
悠はティアを背負ったまま扉を閉めようとするが、穂乃花は慌てた様子で声を上げた。
「ま、待ってください! 背中のティアさん、具合が悪いんでしょう? わ、私なら気にしませんから……どうぞ、中へ」
「……いいのか?じゃあ……お邪魔するぞ?」
他人の部屋に招かれた気分になりながら、保健室に足を踏み入れる。まずは奥のベッドへ真っ直ぐ向かい、眠るティアを背中から降ろした。
ベッドに優しく寝かせ、布団を被せてから、悠は穂乃花の方に向き直る。
「えっと、他に誰もいないみたいだけど……先生はどこに行ったんだ?」
悠は穂乃花とは初めて話すが、まず思った疑問を訊ねる。
「あ、先生なら医務室の方です。私より大きな怪我をした子がいて、その治療をしています」
「大きな怪我? 何か、事故でもあったのか?」
穂乃花の腕や足には、いくつか絆創膏が貼られていた。悠が保健室に来る前に自分で処置をしたのだろうか。
「……実は、実習中に私が物質変換を失敗してしまったんです。それで、クラスメイトの方にも怪我をさせてしまいました」
それが医務室で手当てを受けているという生徒のことなのだろう。
穂乃花達のクラスは悠のクラスとは別に、演習場で実習授業を受けていたらしい。
「そっか、失敗は誰にでもある事だけど……人に怪我をさせたのは、しんどいな」
「はい……後で、きちんと謝ります。許してもらえるかは分かりませんが」
「そうだな。結果がどうなるにしても、それが一番だと思う」
悠がそう言うと、穂乃花は苦笑を浮かべた。
「……物部悠さんって、下手な気休めは言わない方なんですね」
「悪い―――励ますべきだっていうのは分かってるんだが」
「いえ、無責任な事を言う人よりも好感が持てますよ」
そんなことを言われると照れ臭くなってしまう悠だったが、再度疑問を感じていた。
「立川は俺の事―――知ってたんだな」
「穂乃花でいいですよ。学園でただ一人の男性の“D”がいるって噂で持切りだったので。学園で数少ない男性ですし、それに昨日の朝の全校集会でも、あなたの顔をお見かけしました」
そういえばそうだ。昨日の朝に激昂したティアを止めるために悠は壇上へ躍り出した。次いで大和ははその間に皆を守るために体を張っていたのだから。
「……じゃあ俺達の自己紹介はいらないな。ティアの事は、もう知っているだろうし」
「はい、お会いしたのは全校集会が初めてで、まだ挨拶もしていませんが……生徒会長さんのご紹介は聞いていました」
今なおもティアは気絶しているので挨拶できそうにもなかったが。
「では悠さん、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく」
俺は笑顔で応じる。
「―――それにしても、他に怪我人がいるからって穂乃花を放ったらかしか? 人手不足な訳でもないはずなのに……」
常勤の医師は養護教諭一人だけだが、非常勤の専門医は大勢いるはずだ。“D”達の健康を保つため、ミッドガルには万全の医療体制が敷かれている。
「いえ、本当に大した怪我じゃなくて……自分で手当てすると私から言ったんです。消毒して、絆創膏を貼るだけですから」
穂乃花はそう言って手にした消毒液とガーゼを示してみせる。
「でもさっきの様子じゃ、手の届きにくいところを怪我してるんじゃないのか?」
先程の彼女は、脇腹の傷を消毒するために、かなり無理をして体を捻っているように見えた。
「確かに……ちょっと難しい箇所もありますが……あっ、そうだ。その……もし良ければですが……手伝ってもらえませんか?」
「え? お、俺が?」
唐突な穂乃花の思いがけない言葉に、悠は目を丸くする。
「はい、背中の……この部分だけで構わないので」
そう言って穂乃花は体操服の上着を少しだけ捲り上げた。
白い肌に目が惹き付けられる。
「まあ……君が気にしないのなら」
悠は戸惑いながらも彼女に近づく。応急処置に関してはニブルで一通り習っている。これぐらいの手当てなら気後れすることもない。
だが、問題はそこじゃない。もっと別のところにある。
「じゃあ、消毒するぞ。本当にいいんだな?」
消毒液とガーゼを受け取り、彼女に念を入れる。後でセクハラ扱いになっては敵わない。
「お願いします。優しく……してくださいね」
「あ、ああ……分かった」
ごくんと唾を呑み込んで頷く。
悠は椅子に座る穂乃花の後ろにしゃがんで、手当てを始める。
「……っ、ぁん……」
沁みるのか、妙に色っぽい声を出す穂乃花。悠はできるだけ自分の気を逸らそうと、彼女に話かける。
「そういえば穂乃花は、バジリスクの進行方向上にある町で保護されたんだよな? どう見ても日本人なのに、何でそんな場所にいたんだ?」
悠が全校集会の時に感じた疑問を投げかけると、穂乃花は沁みるのを堪えながら答える。
「母が……んっ……世界を飛び回っている人で……あっ……私は母と一緒に、各地を転々としていたんです」
「すごいお母さんなんだな……いきなり引き離されて、寂しくないか?」
「いえ……私たち、結構ドライな関係でしたし。私には父や親戚がいないので……んっ……仕方なく一緒にいた面もあるんですよ。だから寧ろ、自立できてホッとしています」
穂乃花の答えは淡々としていた。強がっているわけではないらしい。
「……しっかりしてるな。よし、終わったぞ」
丁寧に消毒した傷口に絆創膏を貼り、手当てを終える。
「ありがとうございます、悠さん」
上着を元に戻し、穂乃花は礼を言う。
「別に大した事はしてないさ。まあ……ちょっと照れ臭かったが、これからも友達を頼るのに、遠慮なんていらないからな」
「友達……ですか?」
予想外の言葉を聞いたのか、目を丸くする穂乃花。
「ああ、俺はそのつもりだ。少し押し付けがましかったら、謝る」
「いえ、そんな事ありません。とても……嬉しいです」
穂乃花は表情を綻ばせ、首を振る。
「だったら、良かった。これからも、よろしくな」
「は、はい。よろしく……お願します。で、では……私、クラスメイトの方の様子を見に医務室へ行ってみようと思います」
ぺこりと頭を下げ、少し慌てた様子で保健室の出口へ向かう穂乃花。
「ああ、それじゃあな」
悠が片手を上げて応じると、穂乃花は目を細めて微笑む。
「はい―――また、お話しできると嬉しいです。それでは……」
扉が閉まり、部屋が急に静まりかえる。
―――また、か。
悠はそう思った。
偶然顔を合わせるのを待つより、こちらからメールなどをするべきかもしれない。
(そういえば、昨日の件について聞くのを忘れていた)
悠が思う、昨日の件。それは大和が穂乃花に対して何やら一触即発しそうな空気だった事。
大和は別に揉めてた訳じゃないと言っていたが、重い空気を醸し出していたのは悠は逃さなかった。どういうやり取りがあったか訊ねたかったが、よく考えば自分から友達宣言した矢先、聞くのは気が引ける。
(今はその時じゃないかもな。ほとぼりが冷めたら、改めて聞くか)
それに今回、クラスメイトに怪我をさせた件もあり、今聞くべき話題じゃないとも思える。ただ悠は友人として、できる限り彼女の力になりたいと思い、相談相手がいた方が何かと良い。その方が、今後役に立つ。
そんな事を考えながら、ベッドの方に視線を向ける。
ベッドの方に視線を向けると、ティアはまだすやすやと眠っていた。
だがその時、保健室の内線モニターからプルルと電子音が鳴り響き、コールサインが点灯する。
「……出た方が、いいのか?」
迷いながら保健室の扉に目をやる。まだ養護教諭は戻ってきそうにない。
―――俺に用事って可能性もあるか。
悠は考えていた。ティアを保健室に連れて行く事は、遥に伝えてある。
もしかしたら悠に何か連絡事項があるのかもと思い、躊躇いつつもモニターの応答ボタンを押した。
軽い電子音が鳴り、画面が切り替わる。
だが、モニターに現れた顔は全く想定していなかった人物のものだった。
『やあ、久しぶりだな。物部少尉』
「……ロキ少佐?」
ニブルにいた頃、直属の上官だった男の名前を口にする。
少佐であるロキは画面の向こうから切れ長の目で彼を見つめ、柔らかな笑みを浮かべた。
『先ほどまで、篠宮大佐と打ち合わせをしていてね。そのついでに、君のいるところへ回線を繋いで貰ったのさ。君が異動する際には、言葉を交わす暇もなかったからな。ずっと話したいと思っていたんだ』
「え……?話なら、この前も———」
『何を言っているんだい、物部少尉。私が君と話すのは、ミッドガルに異動してから初めてだろう?』
それを聞いて悠は、これが公の回線である事を思い出す。
リヴァイアサン侵攻の際、迎撃態勢に移った
「そう……でしたね。ロキ少佐の元で戦っていたのが、まだつい最近のことに思えて、勘違いしていました」
悠にとっては仕方ないため話を合わせる。下手な発言をして問題が発生すれば、それは彼自身を監督する深月の責任になってしまう。
『はは、私もだよ。もう部下ではないというのに、君のことが心配になってしまったね。少し、耳に入れておきたいことがあるんだ。聞いてくれるかな?』
「はい……何でしょうか?」
嘘臭いロキの笑顔を見ながら、頷く。公の回線で言えることならば、以前ほど不穏な内容ではないはず。
『ドラゴン信奉者団体“ムスペルの子ら”が、ティア・ライトニングの奪回を画策しているらしい。ミッドガル側にも注意を促したが、君も気を付けてくれたまえ』
“ムスペルの子ら”……それはティアを事実上の軟禁状態に置いていたテロ組織の名である。ドラゴン信奉者が集まっており、ドラゴンを倒そうとしている国や組織にテロを仕掛け活動を妨害し続けている。アスガルやミッドガルもその対象の一つ。
彼らが“D”のドラゴン化について知っているのなら、ティアを取り返そうとするのも理解できるのも頷けるが……。
「奪回……? このミッドガルからですか? 近づいた瞬間、環状多重防衛機構に排除されると思いますが……」
『そうだな、ミッドガルの守りは堅牢だ。けれど物資や人員の行き来はある。厳重な検査があるとは言え、絶対ではない。それに今回は……間違いなくキーリも動く』
ロキはそこで初めて笑みを消す。
「あのキーリが……」
キーリ・スルト・ムスペルヘイム。それは“ムスペルの子ら”のリーダー。災害指定された“D”。環状多重防衛機構を突破できるとは思えないが、確かに大きな脅威ではある。
『キーリは強いぞ、物部少尉。今回“ムスペルの子ら”の施設に“D”がいるとの情報を得て、ニブルは可能な限りの戦力を投入したが―――キーリたった一人に大半が制圧されてしまったのだからな』
「な……」
初めて聞く情報に、悠は息を呑む。
『善戦したのは、私の部隊―――スレイプニルだけだ。彼らがキーリを引きつけている間に、施設の裏手から脱出した武装車両を別働隊が確保した。運転手はバジリスクの元へティア・ライトニングを連れて行くよう命令されていたそうだ』
「じゃあ“ムスペルの子ら”は、“D”のドラゴン化について知った上で……」
『捕らえた団体員は詳細を聞いていなかったようだが、少なくともキーリは知っていると見るべきだな。ティア・ライトニングは他の施設から移送されたばかりだったらしい。バジリスクの来訪を待たず、自らの手でつがいを差し出すつもりだったのだろう』
つまりティアは、“生贄”として送られる途中だったという事。ほんの少しニブルの動きが遅ければ、既に二匹目のバジリスクが誕生していたに違いない。
「そこまでしてドラゴンを増やそうとしているのなら……確かに、このまま諦めるとは考えにくいですね」
『ああ、キーリは必ず何らかの行動に出るはずだ。もしもミッドガルに侵入を許した場合は、甚大な被害が予想される。くれぐれも気を抜かないでくれたまえ。スレイプニルで仕留め損なったことを考えると、彼女は恐らく今の君よりも強いだろうからな』
「っ……」
息を呑む。悠を誰よりも強い怪物に育てようとしたロキ少佐の言葉だからこそ、キーリという“D”がどれだけ異常な存在なのかが伝わってきた。
『できればそちらにスレイプニルを送りたいところだが、ミッドガルはそう簡単にニブルの干渉を許してくれなくてね。ゆえに、万が一の時は物部少尉―――君に期待する他はない』
「キーリは俺より強いのに……ですか?」
『ああ、それでも彼女を“殺せる”可能性があるのは君が適任だ。もしも、君の傍に守りたいものがあるのなら―――下らない
全てを見透かしたような眼差しを向け、ロキは言う。
「……憶えて、おきます」
心臓を鷲掴みにされた心地で、彼は声を絞り出した。
『そうしてくれると助かる。まあ、あくまで念のためではあるが、現在までの蓄積されたキーリのデータは、君の端末に全て送っておく。時間のあるときにでも目を通しておいてくれ』
「はい、色々と……ありがとうございます」
『気にするな、好きでやっている事さ。それと、バジリスクは未だアフリカ大陸を横断中だ。リヴァイアサンの時は急な事態にニブルも混乱していたが、今回は余裕がある。だから余計な心配はしなくて構わない』
ロキは含みを込めた口調で告げる。この前はイリスを殺すためにニブルから部隊が送られたが、今回はまだそういった動きがないことを示唆しているのだろう。
「……分かりました」
引っかかる部分はあるが、悠はとりあえず頷きを返す。
『そうそう、奴を殺せるといえば“もう一人”の存在を忘れてはならなかったね』
「もう一人……」
ロキが唐突に切り出した内容に悠は疑問を浮かべる。
『私が毎回口にしている者の事だ。アスガルから色々と彼の情報を調べたが、名前を大河大和というそうだね』
「っ!?」
大和の名を口にしたロキの言葉に、悠は再び息を呑む。
『彼の存在はアスガルでもよく分からないそうだ。国籍も不明。経歴を挙げるとするなら―――三年前のヘカトンケイル襲来の件、リヴァイアサンとの接触、そして奴と二度目の接触といったところか』
そこまでは悠も知っていた内容。
『それから間もなくして、ニブルに不法侵入した件か。全く、不謹慎ながらも威風堂々としていたよ』
それも前に聞いた話だ。それが意味するものは悠が送られてきて間もなく、大和が来たという事。
『だが機密にされている情報もあった。“ムスペルの子ら”及び、キーリと交戦したという記録もあった』
「なっ……」
それを聞いた悠は開いた口が塞がらなくなってしまった。キーリと、“ムスペルの子ら”と交戦?
『何でも、派手にやり合ったそうだ。それも、近くにティア・ライトニングもいたとされている。もっとも、そういう記録だけが残っていると言うしかないが』
悠は驚愕に打ち震える。じゃあ既に大和とキーリは勿論の事、ティアは定かではないがもしかしたら面識があるかもしれないという事。
『彼は単体でドラゴンを圧倒できる程の脅威だが、キーリとの交戦記録がある事から、恐らく奴との繋がりはないだろう。もし彼がニブル所属なら、最高司令官になっていたかもしれないな』
ロキはおかしそうに嗤う。遠回しにだが、悠はどうやらこの少佐は未だに大和の事を固執していると理解できた。何処となく末恐ろしかった部分が見受けられる。
『それでも、用心するのに越した事はない。引き続き、彼の警戒と監視を頼む。それでは、そろそろ失礼しよう。また、話せる機会があることを願っているよ―――物部少尉』
口元を皮肉げに歪めて笑うロキ。そして通信はプツンと途切れ、モニターはブラックアウトした。
「…………」
悠はブラックアウトしたモニターを眺めていた。
「キーリ、か……」
口の中で小さく呟く。訓練では仮想敵に定められる事も多かった相手だ。戦う事自体に躊躇いはない。が―――。
「問題は、大和の事だよな……」
悠が危惧している点、それはロキに言われた警戒と監視。決して忘れてた訳ではないが、それでも友人である事には変わりないし、彼は無用心というか無警戒というか、そういう人物だった。
余程大物なのか、それともただただ能天気なだけなのか。それは悠も知る由もない。
「ユウ……?」
何も映っていない画面を見ながら物思いに耽っていると、背後から声が聞こえた。
「ティア、起きたのか」
ロキと通信していた声で目覚めたのかもしれない。ティアはベッドの上で上半身を起こし、戸惑った顔で悠を見つめていた。
「どうして……ティアはこんなところにいるの? さっきまで、ユウ達と練習してたはずなのに……」
「―――憶えていないんだな。そのことも含めて、これから少し話そう。ここじゃ何だし、砂浜に行かないか?」
悠がそう提案すると、ティアの表情が輝く。
「うんっ、またユウと一緒に海が見たい!」
その笑顔が曇る事を考えると心が痛んだが、彼は駆け寄ってきたティアの手を取った。
ドラゴンのお嫁さんと旦那さま。
きっともうすぐ―――このチグハグなおままごとは終わると悠は確信していたのだった。
大和が出てない……(´・ω・`)
最近インフルエンザが流行ってますね。皆さんも体調管理には気をつけてくださいね。