……はっ! サボってない、サボってないぞ。サボ……サボってた!(オイ)
というのも、仕事が一日しか休みなく、集中して書ける時間が……だから仕事辞めました!(それでいいのか)
今回は前回中途半端な区切りをした続きからです。どうぞ。
「―――物部悠、ティア・ライトニングは君と同じく、物部深月の宿舎で生活させる。きちんと面倒を見るように」
ティアがトラブルメーカーの如く次々と問題を起こす中、何とか持ちこたえて普段の何倍も長く感じた一日の授業が終わった。
そんな風に悠が思っている中、遥から帰りのホームルームでそう言われた。
悠はティアの教育係として、放課後に勉強を見る必要がある。が、ティアは悠から離れようとしないので妥当な処置だと判断したのだろう。
深月は不服そうな表情をしていたが、渋々といった感じで了承した。
「では兄さん、私は生徒会の仕事があるので、先に帰っていてください。ティアさんとしばらく二人きりになりますが……くれぐれも風紀を乱すような行動は慎むように」
「……分かってるよ。もうちょっと自分の兄貴を信用しろ」
深月から釘を刺された悠は苦笑交じりに頷き、ティアと一緒に教室を出た。
彼女は悠の左手を小さな右手でぎゅっと握っている。
尚、大和は既にいない。そそくさと大和が教室から出て行ったからだ。
悠は何かしら用事があるものかと思っていたが、実は違っていた。
ティアが深月の寮舎に来ると分かった以上、十中八九、悠の部屋に住む事になるだろう。
彼女は、他の“D”達に対してもそうだが、大和にほとんど関わろうとせず、一瞬だけしか興味を示そうとしなかった。
そして、遥の言葉を聞いた大和は逃げるように立ち去った。恐らく喧騒が響くかもしれないという予感がしたのを悠は知るべくもない。
歩幅をティアに合わせ、ゆっくりと昇降口へと向かう。だが一階エントランスに来た時、校内見取り図の前に立ち尽くしている女子生徒の姿が。
長い黒髪を三つ編みのおさげにし、眼鏡をかけた大人しそうな女子生徒。
―――あれ? あの子は確か……ティアと一緒に転入してきた―――。
「ユウ?」
足を止めた悠に、ティアが怪訝な視線を向ける。
「悪い、ティア。ちょっとだけ付き合ってくれ」
悠がティアの手を引いて彼女に近づく。
よく見ると、彼女が口元を動かしながら明後日の方向を見ているのが気になるが、もしかしたら何か困っているのかもしれないと、力を貸すべきだろうと彼は思った。ミッドガルはそういう精神で成り立っているのだと、リヴァイアサン戦でリーザ達から学んでいた。
そして、声をかけようとした瞬間だった―――。
「―――っ!?」
何かを呟いていたと思ったら、“もう一つ”の姿があった。
それは、先程既に帰っていたはずの大和。丁度、悠の死角にいたのだろう。彼の存在に気付かなかったのだ。
だが、大和が視界に入った瞬間、ズシリと重い空気が漂ったのだ。更に、悠の腕に伝わる震えた感触。
恐らく、ティアもこの異様な空気を感じたのだろう。声に出さなかったものの、震えていた。
「……私はこれで失礼します」
悠とティアが来たのが分かり、彼女は逃げるように立ち去った。
二人はしばらく呆然としていたが、大和が視線を此方に向きながら歩いてくる。
「悠、今の聞いてた?」
「い、いや……」
単に、あの女子生徒が困っていたような感じをしていたから声をかけようとしただけだったが、そこに大和がいるとは思ってなかったのだ。
悠は、彼の存在に軽く恐怖を覚えたが、そんな彼を余所に大和は苦虫を噛み潰したような表情だった。
「多分名前知らないと思うから言っとく。あの女子は立川穂乃花。先に帰ろうと思ったらアイツとばったり会った」
ティアのインパクトが大きかったため、彼女―――穂乃花の事はあまり印象に残っていない。名前もうろ覚えだったため、先に言ってくれた大和に悠は軽く感謝する。
「それで、色々話してみたんだけど、普通に良い奴だったよ」
「そ、そうか……」
そう言う大和に、悠は軽い返事しかできない。やはり先程の印象が大きかったのだろう。
それでも、悠が先程感じた解せぬ疑問があったため、さっき見たものを考えないようにし、大和に問う。
「なあ、さっき立川が逃げたみたいに去ったんだが……もしかして聞かれちゃ不味い事か?」
そう、穂乃花と話していたのなら、自分達にも多少は気を遣いそうなものだと悠は感じていた。だが、二人の姿を確認したら、即そそくさと立ち去った。
悠は何処か疑問に思い、聞いてもいい範疇で大和に訊ねた。
「んー……そんな大した事じゃないゾ。ただの立ち話っす。気にしなくておk」
「そうなのか? ならいいんだが……」
別に揉めてた訳じゃないなら、あの重い空気はなんだったんだろうという疑問も浮かぶが、大和が軽いテンションで話しているのなら、別に今気にしなくても良いのかなと悠は思った。
「んじゃ、話は終わり。先に帰るっす。じゃあの」
「ああ。じゃあな」
大和がヒラヒラと手を振りつつもそそくさと昇降口から校舎を出た。
ここで立ち往生もなんだし、彼らも帰る事にした。
その間、ティアはずっと不安そうな顔で、悠の手を強く握り締めていた。
「……ちょっと怖かったの」
そんな中、ティアがそんな事を口にした。
「まあな。俺もそう思った。だけど、ああ見えて割といい奴なんだ。話してみるとティアにとっても面白い奴かもしれないぞ?」
悠が先程まで感じていた考えを払拭し、大和の話題を言う。
「違うの。さっき見たあの子と何か同じみたいだったの」
「……え?」
さっき見たってあの子っていうのは、立川の事だろう。だがその彼女と大和が同じみたい? どういう事だ?
悠は疑問が尽きなかったが、それ以上ティアは話そうとしなかった。ただあまり問い詰めてもしてもティアが嫌がるかもしれないし、これ以上は追及しない事にした。
悠達は校門を抜け、深月の宿舎へと向かった。
◇
―――時は遡り、悠とティアが穂乃花と大和に出会う前。
大和は一人の女子生徒に向かって歩いて行く。
「ハロハロ~何か困り事かい?」
「……え? あ―――」
彼女の後方からお気楽そうに声をかけると、振り返った彼女は此方を見て目を丸くした。
だがいきなり初対面の人物に対して、そんなナンパ染みた言葉をかけるのもどうかと思うが。
「確か転入生の子だよね? 立川穂乃花=サン」
「あ……私の事、ご存知だったんですね」
いきなりフルネームで訊ねられ、僅かに動揺したが微笑みを浮かべながらそう返してくる。
最も大和にとって学園に来て間もない人物や、クラスの生徒達の名前を知るのも造作もない事だったが。
「あなたは……確か、大河大和さん、でしたよね?」
今度は女子生徒―――穂乃花が確認するような口調で訊ねてくる。
「お、ワイの事知ってるんか」
「(ワイ……?)はい。学園で唯一、二人しかいない男性がいると噂していました。一人は“D”の物部悠さん、そしてもう一人が竜を打倒したという大河大和さん。それにお二方の姿を朝の全校集会でお見かけしました」
一部の大和の言葉に疑問を感じたが、そのまま穂乃花は話していく。
今朝は激昂したティアを止めるために悠と大和は壇上に躍り出た。あれだけ派手な事をした以上、彼らの話題が持ちきりだっただろう。
「悠の事も知ってるのか。て事はティアの事も?」
「はい、お会いしたのは全校集会が初めてで、まだ挨拶もしていません。生徒会長さんのご紹介は聞いていましたが……」
大和の言葉に対し、穂乃花がそう言う。
「そうかい。まあティアなら嫌々言いそうだけどな。あの子、悠に懐いているし」
「ふふっ、そうですね。ティアさんも悠さんのお嫁さんと言ってましたし」
二人して笑う。傍から見ればお互い他人ではあるが、何の変哲もない男女の談笑。
「んで、穂乃花サン」
「呼び捨てでいいですよ」
彼女は気安い感じで言う。
外見からは内向的な雰囲気に見えたが、案外気さくな性格なのかもしれない。
「ん、おかのした。んで? その穂乃花がここで何をしてたんですかね」
大和が何処か試しているような口調で彼女に問う。
「えっと、これからここで生活するので、この学園案内の図を見て、何処に何があるかを頭に入れておこうとしていたんです」
「ふうん? クラスメイトに案内してもらってないん? あ、それともぼっちなんか。可哀想に」
「い、いえ決してそんな事は……。クラスメイトからは、大変よくしてもらってます」
大和の煽りに、穂乃花は汗を掻きながら焦り口調で答える。
しかし、大和は何処か引っ掛かりを感じていた。確かに、学園案内はクラスメイトが率先してやる事が多い。大和はそのテンプレを知っている。
「じゃあよくしてもらってるならなんで学園案内させてもらってないの? そういう誘いあったんじゃないの?」
大和は、先程の楽しそうな話し方から一変、散々厳しい口調で穂乃花に問う。
「ひ、一人で見たかったんです。私、ここに来たのは初めてですし、一度見たぐらいでは覚えきれないと思って……」
「ふぅん」
彼女はそう答えるが、大和は何故か納得できなかった。
―――怪しい。
彼は穂乃花が何か隠し事をしているかのように思い、率直にそう感じた。
転入生にこんな事をするのは気が引けるが、ティアよりもずっと怪しさ満点の彼女からは何か問い詰めないとという、何故かそういう使命感に駆られていた。
本能なのか全く分からないが、ボロを出さないかと少しカマをかけてみようと思った。
そして、今度は威圧感―――もとい、ポケモンが持つ特性“プレッシャー”を出した丁度その時だった。
不意に、二つの気配を感じた。
(タイミング悪いなぁオイ)
大和は即座に悠とティアの二人と感じ取った。同時に、穂乃花も二人の方を一瞥する。
「……私はこれで失礼します」
そう言った彼女は逃げるように立ち去った。
(ッチ、上手く逃げたな)
色々と問いそびれた大和は内心で舌打ちしていた。
一方、二人はしばらく呆然としていたが、威圧感を解いた大和が二人の方に歩いていく。
「悠、今の聞いてた?」
「い、いや……」
悠は、何故か自分を見て少し青ざめていたようだが、そんな事よりも穂乃花の事を思い返す。
何かを隠しているようで納得がいかず、だからといって彼女の教室まで行くのも気が引けた。
多分だが、同じ“D”であるため、所属する教室中の女子達に匿うようにされるだろうと思ったから。
それに、そんな事をしてまで問いただす必要もない。二人になった時にまた聞けばいい話。
「多分名前知らないと思うから言っとく。あの女子は立川穂乃花。先に帰ろうと思ったらアイツとばったり会った」
流石に悠も穂乃花の事はあまり印象に残っていないだろうと思い、彼女の名前を言う。
「それで、色々話してみたんだけど、普通に良い奴だったよ」
「そ、そうか……」
そう言う大和に、悠は軽い返事しかしなかったが、今度は大和に問う。
「なあ、さっき立川が逃げたみたいに去ったんだが……もしかして聞かれちゃ不味い事か?」
「んー……そんな大した事じゃないゾ。ただの立ち話っす。気にしなくておk」
「そうなのか? ならいいんだが……」
大和がいつも通り軽いテンションに戻り、悠に安心させるように言う。
最も、大和が言葉を濁したのは言うまでもないが。
「んじゃ、話は終わり。先に帰るっす。じゃあの」
「ああ。じゃあな」
大和がヒラヒラと手を振り、早足で昇降口から校舎を出た。
「……優しく“D”を出迎えるとは言ったけど、こうして考えると、中々難しいもんだなぁ」
宿舎までの道を歩きながらそう呟く。恐らく今になって、前に自分が言った事に悔やんでいるのだろう。
二人の“D”が来るまで、どんな“D”が来ても温かく出迎えた方がいいと言ったのは自分だ。
それを、転入生を問いただそうとしたのだ。そうなると、矛盾が生じてしまう。
あんな堂々と、大見得を切ったように言った自分を恨んでいた。
「うーん……んー……」
周りから不思議なものを見るような目線を感じる暇なく、大和はうんうん唸りながら宿舎に帰っていった。
最近ポケモン要素が足りないなーと思い、サブタイトルに状態以上を付けてみました()
はい、今回は核心に迫るお話でした。穂乃花って一体、何ヘイムなんだ……