ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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今回、中々思いつかなかったというのもありますが……ごめんなさい! 少し サ ボ っ てました!
まあ、というのも、仕事が何連勤続いたか覚えてない事、台風の件、そして地震の被害に遭った件もあって、停電になった事もない訳ではなかったのです。ノートPCからの執筆ですので電気が供給できなくなれば、PCの充電が切れたら使えない、スマホからも同様なので……
とまあお騒がせしました(してない)。どうぞ。



問題児

「―――ティア・ライトニングが物部悠と引き離される事を強く拒んだため、彼女はこのブリュンヒルデ教室で引き受ける事となった。皆、仲良くするように」

 

 全校集会が終わった後のホームルーム。遥は事務的にそう告げる。

 

 悠はティアと一緒に教壇の上に立っていた。ティアがどうしても悠から離れようとしないためである。今もティアは悠の腕にしがみ付いて、幸せそうに目を細めている。

 

 その様子を見ていた大和は、飼い主に懐いている子猫のようだったと語る。

 

 一方の悠は、昔彼が助けた“D”だと疑問を浮かぶ。以前会った事があるかのような反応と、悠自身の既視感による事から、その可能性が高いように思えた。

 

 が、確証はないし、皆のいる前で問い掛ける訳にもいかないので今は抑えている。

 

 それにもし彼の予想が当たっていれば、過去に“D”を見逃した事が公になれば、悠だけではなく深月の立場まで悪くなってしまうだろう……と。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! ティアさんは初等教育を受ける年齢ではないんですの? わたくし達の授業についてこれるとは思えませんわ」

 

 リーザが困惑した様子で遥に問い掛ける。

 

「そうではあるのだが……彼女の発言と容姿、攻撃的な態度に、生徒の多くが怯えてしまった。無理に同年代の“D”と一緒にしても、上手くはいかないだろう。それならば唯一心を開いている物部悠に任せた方が確実だ」

 

 ―――俺に、任せる?

 

 遥の言い回しに、彼は嫌な予感を抱く。

 

「そういう訳で物部悠、彼女の教育は君に任せる。基本的な勉強と常識、ミッドガルで生活するためのルールを、君が教えてやってくれ」

 

「な……お、俺がですか? まだ俺、ミッドガルに来て一ヶ月くらいしか経ってないんですよ?」

 

 悠は焦って抗弁するが、遥は有無を言わせぬ口調で言う。

 

「困った事があれば、他の者に聞け。これは対バジリスク戦に関連した任務の一つだと考えてもらって構わない。もしも彼女がミッドガルで大きな問題を起こせば、ニブルに引き渡すしかなくなる。その意味が……君ならば分かるはずだ」

 

 “D”はミッドガルに所属し、適切な管理を受け入れる事で、正式に人権が認められる。そのミッドガルから追放されるというのは、災害認定とほぼ同義という事。ニブルは彼女を容赦なく処分して、今回の事態を収拾するだろう。

 

「…………分かりました。自信はないですが、できるだけの事はやってみます」

 

 新入りの悠には責任が重すぎる任務。

 

 けれど幼いティアを見殺しにはできない。それに何故か彼女は、悠に強い好意を向けているのが窺える。そんな子をどうでもいいと思える程、悠の心は冷え切っていなかった。

 

「んー? お話、終わったの?」

 

 ティアが上目遣いで問い掛けてくる。自分に関する話だというのに、ほとんど聞いていなかったらしい。

 

「ああ、今日からティアは俺達のクラスメイトだ」

 

「そうなの? じゃあここでもずっと一緒にいられるんだ! ねえ、ユウの席はどこ?」

 

「え? 一番後ろの列の真ん中だけど―――」

 

 彼は3×3で並んでいる席の後列―――深月とイリスに挟まれた席を指差した。

 

 というか気付かない振りをしていたが、先程から二人の視線が悠に突き刺さって痛かった。深月は咎めるような、イリスは不満げに頬を膨らませて、悠を睨んでいる。

 

 大方、嫉妬を含めたものだろう。

 

「じゃあティアも、そこにするのっ」

 

 そう言うとティアは悠の腕を引っ張る。

 

「そこって……どうしても後ろが良ければ、俺が席を代わるが」

 

「違うの、ユウもここでいいの。ほら、座って」

 

「……?」

 

 ティアに促され、悠は自分の席に腰を下ろす。

 

「ふふ、それじゃあティアも座るのっ」

 

 ぽふんと、ティアが悠の膝に座る。

 

「お、おい?」

 

「いい座り心地なのー」

 

 戸惑う悠に構わず、ティアは背中を預けてくる。

 

 そこで遂に堪忍袋の緒が切れたのだろう。イリスが勢いよく席から立ち上がり、ティアに向かって言う。

 

「ちょっとティアちゃん! そんなところに座ったらモノノベの邪魔になるじゃない。ちゃんと空いてる席に座らなきゃダメだよ!」

 

「む……お姉ちゃん、誰?」

 

 先程から意識が悠に集中していたのか、それとも他人に興味がないのか定かではないが、ティアが頬を膨らませながら逆に問う。

 

「あたしはイリス・フレイア。モノノベの……友達だよ!」

 

 イリスは誇らしげにそう名乗る。だがティアは怯んだ様子もなく、言い返す。

 

「友達なら、そっちこそエンリョして欲しいの。夫婦の問題に口を出すのは、ヤボなんだよ?」

 

「ふ、夫婦って……ティアちゃんとモノノベはさっき会ったばかりじゃない! あたしの方がずっとモノノベと仲がいいんだから!」

 

「違うの。ティアとユウは、ずっと前から、運命の赤い糸で結ばれてるの。誰もティア達を引き離せないの」

 

 そう言うと、ティアは体勢を変えて悠の首に手を回し、ぎゅっと強く抱き着いてくる。

 

「ティ、ティア、ちょっ……苦しいって」

 

 それまでは子供相手だからと鷹揚に構えていたのだが、ここまで密着されると流石に少し動揺してしまう。華奢で小さな体の軽さと、肌の柔らかさを感じ、この年でも既に女の子である事を意識する。ティアの髪から漂う甘い香りが、鼻腔をくすぐった。

 

「―――ティアさん、自分の席で授業を受けるというのは学園のルールです。従ってください」

 

 そこに深月の鋭い声が響く。援軍を得たイリスの顔が輝いた。

 

 ティアは再び不機嫌に頬を膨らませ、深月に視線を向ける。

 

「また……ティアにイジワル言うの?」

 

 どうやらティアは、全校集会での一件を根に持っているらしい。

 

「あれは意地悪ではありません。そういう決まりだと言っているんです。兄さんの事を、あまり困らせないでください」

 

「兄さん? もしかしてあなたは、ユウの家族なの?」

 

 びっくりした顔でティアは目をぱちくりさせる。

 

「ええ、私は物部深月。兄さんの妹です」

 

「そっか……だったら、仲良くしないとだね。旦那様の妹なら、ティアの妹なの」

 

 ティアは気勢を弱め、深月に微笑みかける。

 

「……私は、自分より年下の姉を持った覚えはありませんよ」

 

「んー、じゃあお姉さんでもいいの。それとも、お姑さんになる?」

 

「おままごとじゃないんですから、配役を適当に変えないでください。全く……先生からも何か言ってもらえませんか?」

 

 深月は呆れた顔で溜め息を吐き、遥に助けを求めた。

 

「そうだな……君の言う通り、決まりは守らなければならない。しかし、現時点で彼女にそれを理解させるのは難しい。故に、今は授業の邪魔をしないという条件付きで、彼女の行動を容認しよう」

 

「そんな……」

 

 深月とイリスは唖然とした表情を浮かべるが、ティアは両手を挙げて喜ぶ。

 

「やったっ! じゃあティア、静かにしてるね。いいお嫁さんは、旦那様に迷惑をかけないの」

 

 姿勢を戻し、ちょこんと悠の膝に座り直すティア。一応じっとしてくれれば前も見えるし、授業も何とか受けられそうだ。

 

 しかし遥は、悠に鋭い視線を向けて言う。

 

「物部悠、言っておくが彼女の特別扱いは今日だけだ。この件は、君が明日までに解決するように」

 

「ええっ!?」

 

 つまり、悠が今日中にティアを学園のルールに従うように教育させろという事。

 

 ―――前途多難になりそうな嫌な予感を抱きつつ、途方に暮れる悠だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そしてその任務は、想像以上に大変だと思い知らされる。

 

 あの後、ホームルームではリーザ達が自己紹介を行ったのだが、片時も彼の側から離れようとしないティアは興味なさげに悠の顔ばかりを見上げていた。

 

「も、モノノベ・ユウ……わたくし、負けませんわよ!」

 

 リーザには妙な対抗心を抱かれ―――。

 

「……ロリコン?」

 

 フィリルからは不名誉な疑惑を掛けられてしまう。

 

「物部クンばかり、ずるいな」

 

「ん」

 

 アリエラとレンには、不満そうな視線を向けられた。特に年の近いレンは、授業が始まってからもチラチラとティアを気にしていた。

 

 ―――そして大和からはというと。

 

「悠マジやばくね? Tsuuhou☆し、ま、し、た、っと……」

 

「おい待て! 何か変な言葉が聞こえたぞ!?」

 

 大和がいつの間にか携帯端末(のリム)を取り出し、何やら不穏な言葉と共に打ち込んでいる様子の姿が。

 

「だからよぉ悠、止まるんじゃねぇぞ……」

 

「それは何に対してだ!?」

 

 挙句の果てにはとある団長が死に際に発した台詞を交えて言われる羽目に。

 

 悠は訳が分からないが、何故か大和の言い分にツッコミを入れざるを得なかった。

 

「ねえユウ。この人、だあれ?」

 

 そんな中。今まで誰とも興味を示さなかったティアが、そう言ってきた。

 

 恐らく、女性ばかりだった空間に悠以外の男がもう一人いるという事に、流石に疑問を持ったのだろう。

 

「あ、ああ。こいつは大河大和。“D”じゃないけど、俺の友達だ」

 

「よろしくナス!」

 

 悠が簡単に大和を自己紹介した後、彼はよろしくとティアに挨拶する。

 

「ふーん……あなた、“D”じゃないんだ。珍しいの。ここにいるみんな、女の子ばっかりなのに」

 

 素直な疑問を持つティア。もっとも彼女がミッドガルに来たのはつい先日なので、分からないのも当然だが。

 

 だが、それ以上興味を示そうとせず、大和から目を離す。その様子に大和は「あるェー((・3・))?」と、それだけ? と言わんばかりの表情になっていた。

 

「ふわぁ……」

 

 授業中のティアは深月に言われた通り、悠の膝の上で大人しくしていた。退屈そうに何度も欠伸をし、四時限目にはぐっすり眠ってしまったが、聞き分けができない子ではなかった。

 

 が、その間悠がティアにクラスメイトに話しかけてみたらどうかと申したが、彼女の赤い瞳には悠しか映っていなかった。

 

 更に、昼休みにはクラス全員でカフェテリアに行ったが、先程争ったみたく、イリスとティアが悠を取り合いの如く食べ物で争った事があった。

 

 どちらが子供か分からないその光景には、流石にリーザ達も呆れた顔をしていた。結局、ランチタイムが微妙な空気で終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……あの幼女には困ったもんや」

 

 放課後。大和は一人、溜め息を吐きながら校内を歩いていた。

 

 ティアによるトラブルはランチタイム後も続いた。

 

 悠が昼休みの残り時間で学園を案内しようとしたところ、時計塔で悠がちょっとトイレに行こうとした時、ティアが一緒についてこようとして揉めに揉めた。

 

 深月が何とか説得し、ティアは悠の手を離すものの、外からずっと「ユウ、いるの?」と何度も呼びかけられていたため、悠は落ち着かない気分で用を足す羽目になった。

 

 ちなみにだがミッドガル内で男子勢が使えるトイレは、二箇所のみ。ミッドガルの中枢部である時計塔には外部の人間も時たまに訪れるため、ゲスト用の男性トイレが設置されている。もしくは宿舎の自室に備え付けられたトイレも。

 

 更に午後の授業中に今度はティアがトイレに行きたいと訴え、悠が女子トイレまで引っ張ってなんやかんやあった。

 

 だが、悠の任務はこれからが本番らしい。何故なら―――。

 

「―――物部悠、ティア・ライトニングは君と同じく、物部深月の宿舎で生活させる。きちんと面倒を見るように」

 

 帰りのホームルームで遥がそう言った。悠はティアの教育係として、放課後に勉強を見る必要がある。それにティアは悠から離れようとしないため、妥当な処置でもある。

 

 深月は不服そうにしていたが、渋々といった感じで了承していた。

 

 しかし、彼女の宿舎に住むもう一人の住人はそうはいかない。

 

 恐らく、信頼されていないか興味がないのかと思うが、ティアはその人物の素性を知ろうとも関わろうともしなかった。

 

 それに悠が住んでいるのは隣の部屋だ。ティアが関わるとなれば十中八九隣から喧騒が湧く。

 

 それを見込んだ大和は遥の言葉を聞いた直後、逃げるように教室から出たのだ。故に、こうしていち早く一人で歩いていたのだ。

 

 部屋にいる間、音に関する技のダメージや効果を無効化する特性“防音”になっておこうかなと思いながら昇降口へと向かっていた。

 

 だが一階エントランスに来た時、校内見取り図の前で立ち尽くしている女子生徒が目に留まる。

 

 長い黒髪を三つ編みのおさげにし、眼鏡を掛けた大人しそうな雰囲気の女の子。

 

 記憶が正しければ、ティアと一緒に転校してきた子―――同時に、大和が怪しさをプンプンさせている人物。

 

「…………」

 

 大和はその人物を眺めた後、その者に向かって歩いて行った。




中途半端な切り方をして済みません……。

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