ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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試験()

 竜を倒した功績で、乙女達が集うミッドガルに正式に学生として受け入れられる事となった大和。彼はブリュンヒルデ教室に配属となり、配属順で出席番号が変わるので彼は九番となった。

 

 尚、席はというと机が3×3で並べられている中で三列の中央、その最前席だ。本来であれば番号順に並ぶのだが、異例の事態なので空いている席に座る事になった。

 

「さて、改めて自己紹介をしておこう。私はこのクラスの担任、篠宮遥だ。“D”関連の授業全てを受け持っている。階級は大佐。ミッドガルの司令官だ」

 

 席に座る大和に自己紹介をする黒板の壇上に立つ女性―――篠宮遥。彼は以前にも会った事がある。その時はただ鋭い眼差しで凛々しい女の人というイメージだったが、先程の件で彼女の事が“おっぱいの付いたイケメン”という印象に変わった。

 

「では、授業に入る前に―――大河大和。君には折り入ってやって欲しい事がある」

 

 普通ならこのまま授業の流れだったが、遥は大和に頼み事をしていた。

 

「何ですか?」

 

「今日、我々は現在進行形で討伐計画を練っているドラゴンがいる。それが何か分かるかな?」

 

「えっと確か……レッド・ドラゴン―――“赤”のバジリスクでしたっけ」

 

 唐突ながら遥に質問され、考える大和だが、マイカに教授された以前の知識を活かして答える。

 

 その際、何故分かったのかとクラスが一瞬だけドヨッとなったが。

 

「その通り。そう、ミッドガルは雌に飢えた雄のドラゴンを返り討ちにするための迎撃要塞だが、此方から打って出る作戦を立案している。それが“赤”のバジリスクという訳だ」

 

「ふむふむ」

 

「そこで君に対バジリスク戦を想定したテストを受けてもらう必要がある。特に竜に対抗できる人間なら尚更な」

 

 遥が言った事。それは未来に戦うであろうバジリスクに想定した適正試験のようなものを受ける必要があるという事。

 

 最も遥は、大和と“白”のリヴァイアサンとの交戦の前例があるためほとんど問題ないとは思っているが、予め受けてちゃんと見極める必要があるので、このような事を言ったのだろう。

 

「勿論、それに備えるための時間を設けている。すぐにとは言わん。君も何かと準備がいるだろう。明日でも良いし明後日でも良い。それなりに期間がいるなら一週間後も考えて―――」

 

「今日でいいっすよ」

 

 ―――やる事もない、と遥が言葉を紡ごうとしたとこに大和が言葉を遮ってそう言った。

 

「……何?」

 

 遥は困惑する。それもそうだ。時間を預けようとしたらいきなり大丈夫と言われたのだから。

 

「今日受けるって事でいいです」

 

「し、しかし、テストは高い攻撃力が必要になる。君もそれなりの準備が必要じゃないのか?」

 

「自分でも抑えられてるしそれに技をパッと出せますし大丈夫っすよ。あ、でもどのようにすればいいのか手本だとかそれだけ教えてください。それさえ分かれば大丈夫なので」

 

「……分かった」

 

 何か向こうのペースに乗せられているような気もしたが、問題ないという事が分かった。

 

 それに時間が早いと何かと好都合。遥はできれば早めの方が良いと思ったため、提案した本日に受けると言われ軽く驚きはしたが、遅くなるよりもずっと良いと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大和は昨日支給された体操服に着替え、テストを行うという第三演習場に来ていた。

 

 ちなみに着替えた場所はブリュンヒルデ教室の隣にある空き教室。手本が必要だという大和の意見により、悠と共に着替える事となった。

 

 他の皆も体操服に着替え、そして来てみた訳だが……大和はその広さに軽く驚いていた。

 

 第三演習場は学園の地下深くにある施設で、一辺が百メートル以上ある巨大な直方体状の空間。天井も壁も地面もコンクリートに覆われており、至る部分にカメラやディスプレイが取り付けられている。

 

 大和はかなり深くエレベーターで降りたぐらいだから気圧高いんじゃね? とも考えた。

 

「皆は既にやったが、テストの内容は百メートル離れた場所に設置したダイヤモンドの塊への攻撃だ。高い命中精度と破壊力が評価の対象となる。これはバジリスクにダメージを与えられるかのテスト。バジリスクは赤みを帯びたダイヤモンドの鱗を纏っているからな」

 

 面々は整列し、その前に佇む大和が遥から内容を教えられていた。その遥が指し示した先には直径十メートルほどのダイヤ塊が設置されている。恐らく、“D”である深月が物質変換したものだろう。

 

「“D”ではない大河大和は、上位元素(ダークマター)生成能力は愚か、物質変換もできないだろう。だが君はドラゴンを攻撃した大きな力を持っている。あの力を以て今回の試験に臨んでもらいたい」

 

「了解です」

 

 遥が言った事に大和が返事をする。今彼女が言った大和の力。それはポケモンの能力の事だろう。

 

 特に遥は彼の力を垣間見ている。その力を出して今回の試験に十分に臨んで欲しいと。

 

「補足として、今回の試験には補助試験が用意してある。此方はバジリスク戦における防御隊の役割を想定し、五十メートル先にできるだけ大きな防壁を作るというもの。これは上位元素の物質変換の制御が苦手な生徒に合わせたものだ」

 

「ほう……」

 

 大和は感嘆の声を漏らす。

 

「君には最低どちらかのテストで基準点をクリアしてもらいたい。万が一、両方不合格の場合、バジリスクを対象とした作戦行動から除外されるため、注意するように。……最も、君は既に白の竜と相対しているため心配はないと思うがね」

 

 遥が淡々と指摘した後、最後の言葉に笑みを浮かべた。これは既に何度も竜と対峙した大和の所業を評価して言ったもの。特に“白”のリヴァイアサンにとっては二回もだ。

 

「さて、これから皆にはテストを行う前に新人に合わせた演習を行ってもらう。希望者から前に出ろ」

 

 遥が言うと、長い金髪をかきあげながら前に出る少女の姿。

 

「最初はわたくしからいきますわ」

 

 一番手はリーザ・ハイウォーカーのようだ。

 

「よく見ていなさいタイガ・ヤマト! あなたにわたくしの力がどのようなものか、思い知らせてあげますわ!」

 

 何処か対抗心があるのか、リーザは大和を見て言い放つ。

 

「お、おう」

 

 とりあえず彼は淀んだ返事はしておいた。

 

 リーザが自信満々の様子で胸を張って歩き、ダイヤを狙う位置に移動する。

 

射抜く神槍(グングニル)!」

 

 リーザの架空武装は槍のようだ。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)じゃないのね」

 

 伝説の槍違いに小さく声を上げる大和だが、誰の耳に届く事もなく、そんな事を知る由もない金色に輝く槍を腰だめに構えたリーザは、鋭い穂先をダイヤ塊に向けた。

 

「貫けっ、閃光!」

 

 穂先が眩く輝き、一筋の閃光が迸る。その光はダイヤ塊を貫通し、後ろの壁に大きな穴を開けた。

 

 ダイヤは高温にそれ程強くないため、熱量で勝負した。更にダイヤに一瞬で大きな風穴を開けるというのは、並大抵での出力ではない事が分かる。

 

「……レールガン?」

 

 しかし大和はそんな陽電子砲に近い技を見て、検討違いなビリビリ少女を思い浮かべていた。

 

「ふふん」

 

 難なくクリアしたリーザが得意げな顔で待機場所へと戻り、大和が驚いていたと思ったのか得意げな表情だった。まるで「思い知ったか」という視線。対抗心と挑発を含んだもののようにも思える。

 

 しかし大和はただ考えていただけなどいざ知らず、壁に背を預ける。

 

 次に臨むのは文学少女のフィリル・クレスト。何処か眠たげな眼差しで遠くのダイヤ塊を見つめ、胸の前に片手を上げた。

 

「来て―――架空の魔書(ネクロノミコン)

 

 彼女は上位元素を大きな本の形態にして持ち、まるで呪文のように告げる。

 

「エアロ・ブラスト・カルテット」

 

 鈍い音が間を置かず四回連続で鳴り響き、砕けたダイヤが宙を舞う。

 

 極限まで圧縮した空気の砲弾を同じ場所に四発叩き込んだのだろう。

 

(何やそれ、まんまエアロブラストのパクリやないかい!)

 

 大和は内心で関西弁も交えながらツッコミをした。

 

 続いてはレン・ミヤザワ。聞いた話に寄ると十三歳だという話だが、恐らく飛び級だとされる。

 

 飛び級なんて初めて見たわと大和は彼女に若干尊敬の念を抱いていた。

 

 そんな彼女も補助試験ではなく、ダイヤ破壊の方に挑むらしい。

 

「……粉砕する灼鎚(ミョルニル)

 

 レンが細い手を空に掲げ、ぼそっと呟くように形成する架空武装の名を告げる。するとその手にレンの体の数倍以上はある鎚が現れた。

 

 鎚はさらに巨大化していき、天井まで届きそうな程になる。質量のない上位元素だとしても、それはあまりにアンバランスな光景だった。

 

 恐らく、レンの上位元素生成量が並の“D”とは比べようがない程尋常ではないのだろう。物質変換すれば十トンどころか、その百倍に達するかも知れない量だった。

 

「ん」

 

 レンは巨大化したハンマーを無造作に振り下ろした。落下中にもその鎚は大きくなっていき、その先端はダイヤ塊の上に到達した。

 

 そこで鎚の先端部分が赤く輝き、物質化を始めた。質量を得た鎚は重力に引かれるまま速度を増し、ダイヤ塊へと激突した。その衝撃と質量を受け止められず、ダイヤ塊が砕けてしまった。

 

(ゴルディオンハンマーかな?)

 

 またも大和は見当違いな事を思い、更には光になれえぇぇ!! というテロップさえ思い浮かんでしまう程だった。

 

「ボクはこっちで」

 

 平然とした顔で戻ってきたレンと入れ替わりに、今度に出てきたのはアリエラ・ルー。彼女は補助試験用の立ち位置へ向かう。

 

 どうやら防壁の構築をするらしい。アリエラは右腕を肩の高さまで上げて告げる。

 

牙の盾(アイギス)

 

 上位元素がアリエラの右腕を包み込む。彼女の架空武装は手甲のようだ。

 

(まさにテイル・オン……)

 

 またも見当違い―――これ以上は野暮なので伏せておく。

 

「防壁、展開」

 

 右手を振るってアリエラが告げると、五十メートル先のマーカー上に球体状の上位元素が出現する。どうやら彼女は距離感を掴むのが上手いらしく、離れた位置に防壁を作るという難しい高度を事をやり遂げた。

 

 上位元素は巨大な壁へと変換されていく。それも一枚ではなく何層もの多重構造だ。

 

 アリエラも危なげなく成し遂げ、此方側に戻っていく。

 

「最後はあたしだね」

 

 最後に登場したのはイリス・フレイア。ダイヤを狙う位置に立った後、上位元素の杖を生成した。

 

双翼の杖(ケリュケイオン)!」

 

 杖の先端をダイヤ塊へ向け、集中し始めるイリス。

 

 彼女は何でも爆発させてしまうという稀有な才能を持っている。一見欠陥・無能なものに感じるが、悠は彼女と特訓してその見方を変えた。

 

 空気は愚か、理論上は最も頑丈で安定した物質であるミスリルですら爆発させてしまう事を、一種の才能と見なした。

 

「来たれ、来たれ、彼方の欠片―――」

 

 黒い球体状の上位元素がダイヤの周辺に複数出現し、優れた空間把握能力を持っているイリスは百メートルもの距離を正確に認識していた。

 

「聖銀よ、弾けろ!」

 

 そして、イリスが告げると上位元素が一点に収束し、銀色に輝くミスリルに変換される。

 

 そのまま変換途中のミスリルが膨張し、爆発―――。

 

 その破片がダイヤを砕き、貫き、バラバラにさせてしまった。最高の強靭さを持つミスリルだからこそできるものだ。

 

 これは“爆発する事を前提”とすればある程度の制御は可能で、破片を前方に集中させる事ができた。

 

 悠はこれを“尖った才能”と名づけた。ドラゴンの立場からすれば、目の前に突然ミスリル製の手榴弾が出現するという見方もできる。

 

 竜の脅威となるこの技術を“白”のリヴァイアサン戦で使用し、十分に奮った。

 

「やった……。上手く物にできたよ、モノノベ!」

 

「ああ。やったな、イリス」

 

 イリスが喜びながら悠の方向を向き、彼もその言葉に応えてやる。

 

 一年間、ずっと落ちこぼれだった扱いだったイリスも、悠との特訓の成果によって遥かに上達した。その賜物だろう。

 

 何はともあれ、これで現竜伐隊にも抜擢されているメンバー達の演習過程は特に何の問題もなくクリアした事になる。

 

 余談だが、以前にやった竜伐隊選考試験では、この他にも悠も合格している。

 

 唯一男の“D”である悠の場合は、意識を集中して右手に上位元素を生成、空気のように軽い大口径の装飾銃へと形態を変化させてからの出来事だった。

 

 どんな“D”でも最低十トンは生成できるのに対し、悠が一度に出せる上位元素の量が一般の“D”よりも少ない、たったの十キロの生成量だ。更にこれは上位元素の生成力に応じて竜紋の大きさにも関わる。つまり、端的に言えば悠の竜紋が小さいという事になる。

 

 上位元素の物質変換のみでしか作り出せないもの―――その中でも特に有用なのがミスリルと反物質だとされるが、悠が十分な防壁を作る事ができないと深月が判断したため、ダイヤ破壊に挑んだのだ。

 

空圧弾(エアー・ブリット)”という悠が言葉をイメージして放った架空武装の上位元素は全て空気の弾丸へと変換させた。だが、悠の生成量が十キロでも空気に変換すれば一万リットルもの体積に及ぶので、それを圧縮して十分な硬度と膨大な熱量を持つ。

 

 それが放たれた後、ダイヤ塊にあからさまな分かりやすさはなかったが、ダイヤには小さく炭化している箇所があり、これは、ダイヤ塊が弾丸が貫く瞬間にプラズマ化した現象。

 

 もっとも、悠が何度もそんな高度な芸当をできるという自信もなく、偶然上手くいったと言い、補欠合格となった。

 

 

 

「大河大和。君はここまで見て何か気付いた事があるか? 些細な事でもいい」

 

 そこへ彼女達の一連の行動から、遥が訊ねてくる。

 

「え、えーと? とりあえず言えるのは皆遠距離攻撃だというのは……」

 

 悠とイリスを除いた“D”達の攻撃に対し、さっきから大和は見当違いのものばかりを想像していたため、その場凌ぎでそう言った。

 

「まあ、そういうものでもあるな。彼女達が使うのは―――魔法だ」

 

「魔法……」

 

 大和は彼女の言い分に感嘆の声を上げる。

 

「生徒の中には魔法を使うイメージで物質変換を行った方がやりやすいという者もいる。女というのは想像力が随分と働くからな。付け加えるなら上位元素の形態変化は伝説上の武具・道具を模す事を推奨している」

 

 確かに皆は上位元素で伝説上の武具・道具の名前を有していた。更にそれは本当にあるかどうか定かではない架空で作られたものが大抵だ。

 

「だから架空の物を―――ですね」

 

「そういう事だ。さて、話が脇道に逸れたな。次は君の番だ」

 

「よっしゃーやったるでー」

 

 能天気な口調で一言吐いてからつかつかと前に歩み出る大和。

 

 尚、先程彼女達がダイヤに大きな傷を残したので、移す形で深月が新しいダイヤ塊を生成していた。

 

(いよいよ、リヴァイアサンを一人で撃退し、尚且つダメージを難なく与える事ができる者の力が……見れるのか)

 

 遥は能天気に歩む彼の力を間近で見た事はなかったため、内心で期待していた。しかしそれは、彼女“だけ”が考えている訳ではなかった。“この場全員”が考えていた。

 

 何故なら竜伐隊に至っては、彼の力を間近で見た事もあり、悠とイリスも同様にその力の片鱗―――否、全貌を見たといっても過言ではない。

 

 大和が持つ不可思議ながら途轍もなく強力な力。それを今は普通の人間にしか見えない彼から発せられたのだから、それは疑問も尽きない。

 

「……あ、先生」

 

 そんな中、ダイヤを狙う位置に着いた時、不意に何かを思いついた大和は遥に声を掛ける。

 

「どうした? 何か不具合でも?」

 

「ダイヤ破壊の時、オレが持ってる技の数が多いんで、一つだけじゃなくて何回かに分けてやってもいいですか?」

 

「……どういう事だ?」

 

 遥は大和の言ってる言葉がよく分からず、小首を傾げる。

 

「言い方が悪かったですね。リヴァイアサンを攻撃した時の技以外にも、他にも技があるんですよ。なので、皆に見せる形で色んな技を使ってもいいんですか?」

 

 要は大和が持つポケモンの技の数が膨大のため、リヴァイアサン戦時に使った『気合パンチ』や『ギガインパクト』などといった技以外のものを悠達に見せたいと思ったため、遥に許可を申し出たのだ。

 

「なるほど、そういう事なら許可しよう」

 

 彼の意図が伝わった遥は納得し、許可した。

 

「ありがとうございます。それと、もう一つだけいいですか?」

 

「何だ?」

 

「先に防壁の方をやってから、ダイヤ破壊に移ってもいいですか?」

 

『!?』

 

 大和のその言葉に、この場の全員が驚愕の表情を浮かべる。何故なら、大抵はダイヤ破壊か防壁を建てるかどちらか一方を行うのが普通。

 

 なのにも関わらず、彼は両方行うと宣言してきた。

 

「……いいだろう。許可する」

 

 遥は大和の意見に承諾し、同時運用を認めた。

 

「ようし。じゃあいきまーす」

 

 大和がそう言うと、まずは両腕を天井に向けて上げる。

 

 それからすぐに腕を下げて五十メートル先のマーカー上に掲げる。

 

「横長防壁機構……ワイドガード!」

 

 大和が呟くと同時に、腕を“大”の形になるように広げる。瞬間、マーカー上に光が灯り、それは左右に大きく拡がっていく。

 

 上にも無い訳ではなく、天井にまで届く程の広さはなかったが、それでも大和が姿勢を保っていると早い速度で横に光が展開されていく。

 

 やがて、光は何重もの細かい一つ一つのバリアの形になり、演習場の端から端まで届きそうなまでに広がった。

 

 本来、この『ワイドガード』というのは、『波乗り』や『地震』といった全体攻撃から味方を守る技なのだが、あくまでそれはポケモンバトルの時の話であり、図体の大きいドラゴンから繰り出される攻撃を防ぐというのは造作もない事。

 

 防壁というよりも、巨大な極長のバリアではあるが、先程アリエラが作った防壁にも劣らないモノを見て、その場の者達は再三驚く。

 

「じゃあ、ダイヤ破壊に移りまーす」

 

 展開していたバリアが消失すると、大和が後ろを振り返り言い放った。もうこの時点で合格のようなものだが、特に疲弊する様子もなく続ける様に遥は軽く動揺する。

 

「まずはっと……」

 

 彼が呟くと同時に、右手を掲げるとその掌の中に赤黒い塊が渦巻いて収まっていく。

 

「竜の波動ッ!」

 

 そして、手を突き出すと塊が東洋龍を象ったような形の奔流が放たれ、ダイヤに勢いよく向かっていった。

 

 傍から見てもまるで巨大な竜がダイヤを噛みつくような形に見え―――ダイヤに直撃。爆発に包まれる。

 

 包まれた爆風の中、爆煙が晴れると、ダイヤの至る部分が欠け、先程の爆発した影響か一部が消失していた。

 

「次だ次ィ! 大地の力ァ!」

 

 しかし―――大和の猛攻は止まらない。彼が急に姿勢を落としたと思うと、地面に手を添えていた。

 

 ただ触れていただけだと思えば、地面から光のようなものが彼を中心に波紋状に広がっていく。やがてダイヤが置かれている下の地面が揺れると同時に罅割れ、そこからエネルギーが噴出した。

 

 大地を活性化させ、まるで火山の噴火の如く射出されるそのエネルギーは、ダイヤを容易に砕いた。

 

「まだまだぁ! ハードプラントォォ!」

 

 ほぼ半壊しているダイヤだが、大和は更に技を繰り出す。足を上げ、地面を強く踏みつけると、先程割れていた地面が盛り上がり、数本の巨大な樹木がダイヤを勢いよく貫いていた。

 

 地下深くに閉鎖する空間だが、自然の力というものは凄まじく、活き活きとしたその樹木は意思を持っているかのように動いている。

 

「これで締め―――破壊光線!」

 

 ダイヤだから生きていないが、風穴が空いていたり、大きく欠けたりと生物だったらとっくに瀕死以上であろうその物体の状態に、大和は止めをかけようと手元に巨大な漆黒のエネルギーが渦巻いていく。

 

 そこから腕を突き出した時には、あまりに凄まじい速度で黒い光線がダイヤに放たれていった。

 

 そして―――着弾。

 

 接触した次の瞬間には閃光と共に凄まじい爆発が発生する。その影響で爆風が此方側にも向かってきた。大和は佇んだまま平然としているが、他の者達は爆風に吹き飛ばされないよう踏ん張ったり、顔を覆ったりして耐えていた。

 

 爆風と爆煙が止むと、そこにあったはずのダイヤ塊が消え失せていた。それは一瞬のうちに灰塵となって消滅した事を意味する。

 

 ―――その場が沈黙で包まれる。彼の行動に誰もが戦慄、鮮烈という感情を覚え口が開けないまま―――。

 

「大河大和―――合格だ」

 

 遥が驚き冷めやらぬ様子で、結果を告げたのだった。


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