ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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本編に戻る前に小休止を何話か挟みます。

小休止といっても、これからの話に関わる事なんですけどねw


正式に

「お世話になりました」

 

 学園長室の扉の前―――荷物を持った大和は礼をしながらそう言った。

 

「ふん。何を畏まっておる。さっさと行けい」

 

「良い学園生活を」

 

 シャルロットは拗ねたように言いながらも何処か嬉しそうに見送り、マイカもお辞儀をして見送った。

 

 失礼しますと言ってから扉を開き、閉じる。

 

 そして、目の前にあるエレベーターの前に少女―――物部深月が佇んでいた。

 

「お待たせ。待った?」

 

「大丈夫ですよ。では、行きましょうか」

 

 学園長室は時計塔の最上階に位置するため、エレベーターを下に降りてゆく。

 

 何故彼女が待っていたのかというと、大和が学園側にて学園長室の隔離から、一学生として過ごす事が決定した。その際、いつまでも学園長室で過ごすのは如何なものかと配慮したものがある。

 

「それでは、宿舎へ案内します」

 

 エレベーターを降り、先導する深月の案内の元、付いていく大和。

 

 配慮した結果―――彼は、彼女が自分で持つという宿舎へ案内されるという事になった。

 

 色々と決められていると思うところだが、これは大和が自分で決めた事である。

 

「じゃあの。時計塔もとい―――学園長室」

 

 大和は頭上を眺めながら言い放った。

 

 これは、今までお世話になっていた分。感慨深く時計塔の最上階にある学園長室に別れを言ったのだ。

 

 最も、大和は某大佐のように「もう会う事はないでしょう」と、二度と会わない訳ではない事を聞いているので、そこは安心している。

 

「しっかしまあ、前にも思ったけど広いよなあミッドガルって」

 

 海沿いを深月と共に歩いていた大和が思わずぼそっと呟く。その言葉に深月は反応もせず前を歩いていたが、対して彼はまるで田舎者のようにキョロキョロしながら歩いていた。

 

 実際、訪れてから日がそこまで浅くないとはいえ、島の風景全貌を見ていない彼にとっては感慨深いものがあった。

 

 ミッドガルがある島の中央から海沿いの道を淡々と歩く二人。尚、本日も授業はあるため今の時間帯は早朝から。大和は修学旅行かッと内心でツッコミをした。

 

 通学の時間よりも早い時間に起き、そこから移動している。故に、学園に向けて通う生徒の姿はほとんど見受けられない。

 

 そして、しばらく歩いていると大きな建物が見えてきた。近代的で何処か中世の城を連想させるデザインが施されている。

 

 大和はこの建物を一度だけだが見た事がある。それは兄である悠が異動された時に深月に案内された場所で、大和も同行しこの建物を窺った。

 

 深月はその前で足を止め、扉の脇にあるパネルに手を翳す。するとほとんど音もなく扉が自動で開いた。

 

 深月に続いて中へ入る。瞬間涼しい風が吹き、心地よい気分になる。大和は中まで入った訳ではないため、ここからは完全初見だ。

 

 中のエントランスは広いホールとなっており、家事全般をこなす円筒型のロボ―――全自動召使い(オートメイド)が隅の方で埃を集めていた。

 

「はぇ~」

 

 一度窺ったとはいえ、中まで何とも豪勢だ。天井が高く三回まで吹き抜けになっているホールを見回すと、これが深月個人が持つ宿舎だと驚きと呆れの声を漏らした。

 

「では、大和さんのお部屋へと案内します。付いてきてください」

 

「アッハイ」

 

 深月が言い、我に返った大和が棒読みの返事をする。彼女は特に気にする事なく、すたすたと部屋の方向へと歩いて行った。

 

「な、なあ深月。この宿舎ってさぁ、他にも誰かいるの?」

 

 ふと疑問に思った大和が、先程深月が喋った事を機に言ってみた。

 

「今のところは私と兄さんだけですよ」

 

 返答に応じた深月が言う。という事は住人が今自分を含めれば三人という事。

 

 なんという権力の無駄遣いだと言おうとしたところ、深月が足を止めた。場所は一回廊下右奥の部屋。

 

 各扉に部屋番号などは記されていないが、“大河 大和”と自分の名前が書かれているプレートが付けられていた。

 

 すると今度は深月が鍵を差し出してきた。

 

「これは?」

 

「部屋の鍵です。これで施錠はできますが、私がマスターキーを持っている事を予めご了承ください。勿論私も余程の事がなければ勝手に開けたりしませんので、無意味ではないと思います」

 

「どーも」

 

 大和が差し出された鍵を受け取る。

 

「続いて、施設についてですが、私が主に使っているのは兄s―――んんっ。左隣の部屋の真上にある二階の角部屋です。何かあればノックを」

 

「じゃあ一つ質問を。今、兄さんの部屋って―――「言ってません」―――アッハイソウデスネ」

 

 大和がツッコミを入れようとしたら、威圧感のある物言いで怯んでしまった。

 

「話を続けます。この宿舎内での行動は自由ですが、夜八時以降は外出を禁じます。朝食、夕食は朝夜の七時にオートメイドが三階の食堂に用意してくれます。洗濯物は籠に入れて部屋の前に出しておいてください。バス、トイレは部屋にあります。以上、何か質問は?」

 

「えっと悠の部屋はどこ? やっぱその左隣?」

 

 一気に言われたが、普段馬鹿な事ばかり考えている大和でも、頭も常人の域を超えているため、把握するのは問題なかった。

 

 彼は、ふと悠の部屋が何処か気になったため、訊ねる。最も、ほとんど答えは出てるものだが。

 

「……そうですが。分かっているなら訊ねないでください」

 

 やはり先程の事を気にしているらしく、同じ事を二度も言うなと言わんばかりにツッコミ返された。

 

「ハハッ、悪い悪い。ならもう一つ良い?」

 

「何でしょう?」

 

「授業っていつから? やっぱり今日なの?」

 

 そう、彼が懸念しているのは授業の事についてだ。今日も授業があると聞いているので、どうなのかを訊ねたのだ。

 

「いいえ。大和さんが授業を受けるのは明日からです。隔離されていた時でもある程度は授業を受けていたらしいので、進行速度もそこまで問題ありません」

 

「ほー」

 

「ですので、今日は荷造り等を済ませてください。また、のちに学生証、個人用の端末、体操服も本日中に支給する予定です」

 

「なる。おk」

 

 説明を聞き、納得した大和。

 

「それでは、私はこれで」

 

「おー」

 

 ぺこりとお辞儀をし、立ち去る深月。大和は手を挙げのんびりとした声で見送った。

 

 そして、沈黙に包まれる廊下。静寂の中に佇む大和は伸びをする。

 

「さて、と……。荷造りする前に“お隣さん”に挨拶しに行くかね」

 

 大和はまるで引越ししてきた者のように、うきうきとした気分で左隣へと向かう。最も、引越しという名目はあながち間違ってないのだが。

 

 彼は隣の部屋の前に向かうと、その部屋にだけ丸っこい字で“兄さん”と書かれたプレートが付けられていた。

 

「ドウシテドンドコド……」

 

 ついオンドゥル語を漏らす大和だが、まあいいやと言いつつ部屋の扉をノックする。

 

 本来なら、ポケモンの技で部屋に侵入―――なんて芸当もできるが、宿舎に移って早々騒ぎは流石に不味いと思い、自重しておいた。

 

 ノックしてすぐ、部屋から「はーい」という男性らしき声が届き、待つ。

 

 しばらくしていると部屋の扉が開き、お望み通りの人物が出てきた。

 

「深月か―――?」

 

「ブンブンハロー」

 

「…………え?」

 

 右手を横に突き出した後、敬礼をするように挨拶する大和。一方、対して前からこの部屋に住んでいたであろう悠は、呆然としてしまう。

 

 それもそうだ。何せ昨日まで学園長室に隔離されていたはずの大和がセキュリティも厳重な深月の宿舎に来たというのだから。

 

「オレこ↑こ↓に住む事になったから、その挨拶。こっから宜しく」

 

「あ、ああ。これはどうも。此方こそ宜しく―――じゃなくて!」

 

 いつものノリで挨拶をした大和に悠が反応したが、すぐ我に返って声を上げる。

 

「おおいいツッコミ。悠さ芸人素質あるんじゃない?」

 

「んなもんねーから! それよりも大和、お前学園長室に隔離されてたんじゃなかったのか?」

 

「まあね。けど明日から学生で過ごすから、学園側で配慮されて深月様の宿舎で過ごす事になったんよ」

 

「なっ……」

 

 何故自分の妹の事を様付けで呼んでいるのか不明だが、それよりも大和が学生として過ごすという点に驚きを隠せなかった。

 

「で、でもお前は“D”じゃないんじゃ……」

 

「何でも、リヴァイアサン倒した功績とかで学園に入れてくれるとか」

 

「……そうだったのか」

 

 それなら大体納得がいく。あの日、皆の活躍もあったが、大和も加わった。以前よりも強力になったというリヴァイアサンと相対し、力量差も見せつけつつ撃破した。

 

 その功績を称えたかのように、こうした昇進と言わんばかりのものがあった訳だ。

 

 何処か釈然としない部分もあるが、共に戦った仲間が来るというのは悪い気はしなかった。

 

「何はともあれ、とりまよろしく」

 

「ああ、よろしくな」

 

 こうして握手した二人は、改めて友人として打ち解け合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ですので、彼は“D”ではないのですが、特殊な力を持つ人間です。そんな彼に多くの疑問を抱くと思います。しかし彼はたった一人でドラゴンに立ち向かい、撃退した経歴を持っています。さらに、不可抗力ではありますが、竜伐隊の協力に力を尽くしました。“D”とは違いますが、彼という存在を受け入れる事も―――」

 

 ここは島の中央に位置する学園の体育館。全校生徒が整列し、壁際には教職員が並んでいた。その全ての視線が向けられた壇上で、深月はマイクを通して皆に語りかけていた。

 

 その隣に大和が立っていた。身につけているのは学園の制服。デザインは他の生徒に近いが、当然ながら性別的に男子用の制服を着用している。見繕ったのか、サイズもバッチリだった。

 

 今行われているのは、大和のミッドガル転入に関する説明を行うための全校集会だ。

 

 あれから一夜明け、深月に起こされた(技の『眠る』等で睡眠時間は問題なかったが)彼は、この場所に連れてこられたのだ。

 

 壇上に深月と共に立った時、やれ誰なの? とか、やれちょっとイケメンじゃない? など、好奇の声と視線が一斉に注がれたが―――今はその全てが深月の方を向いている。

 

「―――身内である兄の紹介の時と同様、不安に思われる事は多いと思います。ですので私は皆さんの生活を守るために、全力を尽くします。勿論兄同様、問題を起こした場合はより厳しい処分を―――」

 

 尚、どこからどう見ても大和のことについて説明しているが、当の本人は周りを眺めながら「ほえ~」と感嘆の息を漏らしていた。

 

 誰もが熱心に、私語もなく深月の話を聞いている事もあり―――これが、会長属性かッ。と内心で大和が納得する。

 

 皆に対する尊敬と信頼を勝ち得ているからこそできるもの。この雰囲気だけで感じ取れた。

 

 未だ彼女の演説が続く中、大和は暇だったので生徒達を見回した。

 

 全校生徒は六十六人。その中に悠の姿も見受けられた。つまり悠が来る前は六十五人いたという事だ。

 

 悠の近くを見ると、先日つがいとして見初められたイリスの姿もあった。それに続くように、金髪の少女やショートカットの少女の姿、さらにボーイッシュな少女が彼の事を興味津々と言わんばかりに見ている光景があった。

 

 大和が配属されるのはブリュンヒルデ教室だと聞いている。確か深月を含め、悠もブリュンヒルデ教室だと昨日聞いた。

 

 昨日、大和と悠が友人関係となった後、簡単にだがそう言った。その後、お互いに他愛ない話をしたりして盛り上がった。

 

 やはり一人だけでも同性がいるだけで気が楽になると二人は感じていた。そんな事を考えている内に話は進んでいく。

 

「―――皆さんが彼を温かく迎えてくれる事を私は期待しています。そして彼にも我々の誠意と信頼に応えてる事を求めていきます。ですからどうぞ彼を、よろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げ、演説を締めくくる深月。すぐに大きな拍手が体育館中に鳴り響いた。

 

「大和さん、軽くで良いので一言どうぞ」

 

 未だ鳴り止まない拍手の中、深月が大和にマイクを譲る。

 

 彼は人見知りだとか、コミュ障ではないが、こうして全校生徒に視線を向けられると流石にすくんでしまうところがある。

 

「ど、どうも大河大和です。皆さんの助けになれるよう、頑張っていきます。よろしくお願いします」

 

 悠が緊張で上手く話せなかった時同様、いつもの軽いノリで話せなかった。

 

 だがそれが功を奏したのか、拍手はより一層大きくなった。「よろしくねー!」「かっこいいー!」など、歓声が飛んだ。

 

 本来なら悠が男という時点で、彼がミッドガルに入学する時に抵抗感がかなり大きかったはず。しかし、生徒会長である深月の演説と、悠の力のよるものか定かではないが意識が変わってきていた。

 

 すぐさま二人で一礼。舞台の袖に引っ込んだ。

 

「これで兄さんの時同様、学園全体の雰囲気は、大和さんに好意的なものになるでしょう」

 

「そうかなぁ」

 

「大丈夫だと思います。別にふざけたり問題を起こしたりした訳ではないですから」

 

 正直実感があまりなく多少は不安がっていた大和。ただ深月が悠という前例があるためか大丈夫と伝えてきた。

 

 が、彼女は次に忠告をしてきた。

 

「最初に言っておきますが、これから大和さんが配属される教室は、兄さんの影響か以前よりも柔らかくなりましたが、問題児揃いです。もしかしたらですが、大量の質問が飛ぶかもしれません。ですが、是非とも受け入れるために感情的になってしまわないようお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なるほど、問題児というのがよーく分かったマン)

 

 大和が配属されたのは深月や悠と同じブリュンヒルデ教室。

 

 狭い教室に机が3×3で置かれ、そこに座っている女子生徒(プラスα)を見回して彼はそう感じた。

 

 何故なら、悠とイリスを除いた生徒達から凄い凝視されているのだ。まるで珍しいものを見るかのような。

 

 これで一気に不安度が増した大和だったが―――。

 

「では、改めて紹介させて頂きます。彼は大河大和さんです。年齢は十六歳。出席番号は配属順ですので九番です」

 

「よろしくオナシャス! ……あ、やっべ」

 

 雰囲気に馴染もうと手を挙げ元気良く挨拶しようとしたら噛んでしまった。

 

 深月は吹き込みそうになるが、下品なので肩を震わす程度で済んだ。が、なんてこった転校初日で噛んでしまったら印象最悪なのにと大和が葛藤していた。

 

「大和さんの紹介は以上です。皆さんから何かご質問はありますか?」 

 

 ―――きた。ここが正念場。深月と大和が最も懸念していた事。彼はどんな質問でも来いと覚悟を決める。

 

 すると、最初はボーイッシュな少女が話しかけてきた。

 

「ねぇキミ、一人でリヴァイアサンを倒したって本当かい?」

 

 少女―――アリエラから早速質問が飛んできた。

 

「まあね。倒したんじゃなくて瀕死にしたに過ぎなかったんだけど」

 

「すごいな……。“D”じゃないのに空を飛んだり、“白”のリヴァイアサンに攻撃する事が出来るなんて」

 

「はっは。照れるな」

 

 アリエラに言われた事に照れて胸を張る大和。

 

「照れてるんじゃありません!」

 

 しかしそこに金髪の少女―――リーザがガタッと立ち上がり物申す。

 

「まず、そこのモノノベ・ユウはクラスメイト見習いとして不本意ながら認めはしましたが、そもそも“D”ではないあなたが何故ミッドガルに?」

 

「んーとね。オレ実は学園長室に隔離されてたのよ。それはそれは、まるで天然記念物みたいに……ううっ」

 

 演技で悲しい素振りを見せた後、嘘泣きで語る大和。

 

 しかしそんな事はどうでもいいとばかりにリーザが言葉を紡ぐ。

 

「隔離……それは本当でしたのね」

 

 隔離されているという事は、会長の深月、知り合った悠、そして教職員関係が知っているが、他の生徒達には伝わっていない。

 

 最も、その事が広まって噂になったりでもしたら不味いと思っての事だろう。何故かアリエラはいち早く情報を汲み取っていたが。

 

「もう一つ気になる事があります。あなたは戦闘の場に居合わせましたよね? あの時は急な事で驚きましたが、何故隔離されているのにあの場に?」

 

 戦闘の場というのはリヴァイアサンとの戦闘の事だろう。大和は学園長室を抜け出し、竜に来襲した。その後も終始圧倒し続け、遂には倒されたのがあの日。

 

 対して、隔離されているのにただ抜け出したという意図が分からなかったのだ。

 

「ん? ンなの決まってんだろ? オレが奴をぶっ倒したかったから。ただそれだけよ」

 

「……え?」

 

 リーザが「え、それだけ?」と言わんばかりの表情になる。

 

 もう一度言うが、“D”ではない人間がリヴァイアサンを撃退し、二度目はほぼ完膚なきまで圧倒し、そして倒した。

 

 ただの人間に見えるのに、その自信の有り様に軽く驚愕したが。

 

「んま、というのも、どうやら一回戦闘不能にしちまったせいか、パワーアップして帰ってきたからさ。サイヤ人みたいに」

 

 野菜人? という言葉が気になったが、考えに耽ってしまっていては彼の話を聞きそびれると思い割愛した。

 

「それを女の子達にやらせるのも何か申し訳ないと思ってな。後を任せるっていうのはあまり好きじゃないし」

 

 “D”達に尻拭いさせるみたいにならないよう、自分のケツは自分で拭く。と言おうとしたが、流石に多少ではあるが配慮して言わなかった。

 

「そうでしたのね……」

 

「そうでしたのん」

 

「真似しないでくださる!?」

 

 オウム返し(ポケモンの技にもあるが)で言葉を真似たが、リーザからツッコミを受けた。

 

「おほん……。理由は分かりましたわ。ですが、言葉だけでは信じられません。ですので、あなたの力を見せて頂けますか?」

 

 咳払いをしつつ大和に訊ねていく。内容は、大和が使用した力―――ポケモンの能力と技についてだ。

 

「力だぁ?」

 

「はい。何も全部とは言いませんわ。“D”にも引けを取らないような力を見せてくだされば。皆さんも興味がおありでしょう?」

 

 リーザが呼びかけると、最初から気になっていたアリエラは勿論、多少ながら気になっていた者達が頷いた。

 

「深月、何か頼まれたんだけど。いいの?」

 

「……はい。そうですね、実のところ私も気になっていたので。周りに危害がない程度でお願いします」

 

「はいよ。りょーしょー」

 

 間の抜けた声でそれに応じる大和。皆が彼の行動に目を向ける中、大和は一人考える。

 

「よぅし。んじゃあ目ん中かっぽじってよーく見ててくれよ……」

 

 大和は手を差し出すように掲げると、手のひらを上に向ける。

 

 ―――次の瞬間。掌に漆黒の球体が出来上がっていた。

 

「なっ……」

 

 ―――ォオォォォと不気味な音が響くその球体に驚きながら注目する中、彼は説明する。

 

「これはシャドーボール。一見、上位元素(ダークマター)に見えるけど違うんだよな~。コイツで放ってぶつけたりして攻撃できるンゴ」

 

『…………』

 

 皆は絶句する。それもそうだ。おちゃらけている彼が行っている事は、もはや人間ではできない事をやってのけているのだ。

 

「んでもって」

 

 彼が一言を漏らすと球体―――『シャドーボール』を霧散させる。

 

「コイツが、オレが持つ力だぁぁ……!」

 

 大和が歯を食いしばり、力む姿勢を取ると、背中から先程の黒い球体と同じ色の“もや”が発生。積み技であれから更に力が上がったせいか、変革している時点で火花が散っている。

 

 そこから形を成していき、輪郭が現わになったと思ったその時、ボロボロの巨大な翼と化す。その様子に皆がギョッと目を見開いてしまう。特に、何度も目にしている深月ですらもだ。

 

 これぞ反骨ポケモン―――“ギラティナ”の翼。だが、三つの赤い棘のようなものはない。

 

 あれを生やすまでだと、『本気モード』となって威圧感マシマシになってしまうからだ。実際、それを目の当たりにしてしまった深月は軽く恐怖した。

 

 未完成な状態と完成した状態との二つに分けている大和。つまり、これは未完成の状態という訳だ。

 

 だが、“人間にはありえないモノ”が生えている時点で言葉にできない。それをこの場の者は理解した。

 

 翼が意志を持っているかのように軽く羽ばたかせると、中腰で力んでいた大和が脱力し、顔を上げた。

 

「ふぅ……。これがオレの力だ。分かった?」

 

「わ、わかりましたわ」

 

 普段通りに話す大和だが、皆は戦慄しているのかただただ頷く事しかできなかった。それに何とか平静を保ち、リーザが声を振り絞った。

 

「やはり凄まじいものを感じますね……。思ったのですが、それは架空武装ですか?」

 

 そこへ、深月も疑問に思ったのか彼に訊ねていく。

 

「ん? 架空武装って“D”が物質変換で作り出す武器……だっけ?」

 

 大和は以前マイカに習った内容を思い返す。その名の通り、“D”が生み出す上位元素は人の意志に呼応するため、それを武器の形で維持し、変換の方向性を絞り込むものでもある。

 

 そのため、それぞれ自身が武器を用いるイメージと共にさらなる物質変換を行い、それが自動的に攻撃となる。

 

 そうして物質変換して架空の物などを象った武器―――それが架空武装。使い方によっては強い自分などとイメージして形を象る事で出来るものもある。

 

「その認識で良いです」

 

「んーや? これは正真正銘の翼やで」

 

 あっけらかんと関西弁風に言う大和だが、やはり絶句してしまう。

 

 皆が予想より遥か上に行っていた事に驚きと呆れに近い、何とも言えない表情をしている中、大和はあれ? と多少困惑していた。

 

「ん、んーと。あっそうだ。これ言っとかんと竜との戦いの時に皆困るよな」

 

 大和が唐突に閃いた顔をし、その言葉に反応した教室のクラス全員が一斉に見る。

 

「オレはポケモンっていう……通称ポケットモンスターって名前で、日本語に訳せば携帯召喚獣って奴を出すことが出来るんだ」

 

「ぽ、ぽけもん?」

 

 イリスがポカンとした声を上げる。

 

「まあ論より証拠って言うし、一匹出してみることにしよう。ピカチュウ、君に決めた!」

 

 腰に巻いてあるポーチからモンスターボールを取り出すと、その場にボールを軽く放り投げた。

 

「ピカ、ピカチュウ!」

 

 鳴き声と共に出てきたのは、体毛に黄色・背に茶色の縞模様、耳の先端が黒く尻尾が雷の様にギザギザな電気ネズミポケモン、ピカチュウだ。

 

 世界的に愛されているポケモンで無論大和も知っているが、この世界では言わずもがな。

 

 地に降り立ったピカチュウは四つん這いになりながら、大和の方に走りながら向かって行き、サ○シのように肩に乗る。

 

 その光景を見届けた女子勢(特にイリス)が目をキラキラと輝かせた。

 

(可愛い……)

 

 面に出して言わなかったが、内心ではそう思った。

 

 そんな中、遂に我慢が出来なくなったのか後ろの席に居るイリスが突然立ち上がり、大和の方へ歩み寄っていく。

 

「ねえねえ! その子、抱っこしてもいい?」

 

「いいけど……あまり過剰なことはしないでな?」

 

 ずいっと身を乗り出してくるイリスに若干引きながら、大和は左肩に乗っているピカチュウを両手で持ち、彼女に手渡す。

 

「ありがと! うわぁ~……本当に可愛い! このクリッとした目と赤い頬っぺたが特に!」

 

 イリスはピカチュウを両腕で抱き締めながら、強く頬ずりをする。

 

「あっ、だから過剰なことはしないでって……!」

 

「ピカ……」

 

 大和はそんな様子のイリスに咄嗟に声を出すものの、時既に遅し。ピカチュウ独特の赤い斑点の頬がパチパチと電気を帯びており――――。

 

 

 一瞬にして、イリスとピカチュウを中心に電撃が、拡がった。

 

 

 大和の隣に居る深月はギリギリ当たらずに済んだ。が、電撃が治まるとそこには、プスプスと目を点にしながら黒焦げと化したイリスの姿が。

 

 彼女の腕からスルリと抜け出したピカチュウは、もう一度大和の肩に乗りイリスを睨む。

 

 しかし当の本人は、黒焦げのまま硬直しており、数秒もした後にそのままフラッと見事に崩れ落ちた。

 

 仰向けに寝そべったまま目を回しながら気絶したイリス。よく見ると口から黒い煙が出ているのも窺えた。

 

「……とまあそんな感じで、オレはこういったポケモンを使える訳でっす」

 

 冷や汗を掻きながらも、気絶状態のイリスをスルーしながら説明を続ける大和。

 

 混沌とした空気になりつつも、短い様で長い大和の自己紹介が終わった。

 

「んでリーザ……でいいんかな。何か試していたようだけど。これって受け入れたって事で良いのかな?」

 

 そして大和が訊ねた点。それはこのクラスが大和を受け入れたという事。その点が気がかりだったのだ。

 

「それは……」

 

 リーザは考える。どう見ても危険極まりない人物をこのクラスに入れるか。

 

 だが、クラスメイトであり家族でもある(立ち直った)イリス・フレイアを救った事に尽力した。それに、彼が「助けになる」と言った事もあながち信用できるものとなる。

 

 戸惑い葛藤している中、深月が追い打ちをかけてきた。

 

「大和さんがミッドガルに転入する事は学園側の意向で決まりました。ですので、リーザさんが彼をどうこうする権限はありません」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 何がぐぬぬだ。大和が唸るリーザを見てそう感じた。

 

 だが、しばらくすると諦めたかのように肩を落とした。

 

「はあ……。仕方ありませんわ。あなたもわたくし達の家族を救った功績があります。ですのであなたも、不本意ですが“クラスメイト見習い”として認めますわ」

 

 どうやら受け入れてくれたようだ。

 

「よっしゃ!」

 

 思わずガッツポーズを大和が取った―――その時。

 

「ふっ。やはりそうなったか」

 

 そこへ、閉めていたはずの扉が開き、ある人物が入ってきた。

 

「なっ……篠宮先生?」

 

 そう。入ってきた人物というのは、ブリュンヒルデ教室を受け持つ担任教師―――篠宮遥だった。

 

「済まないな物部深月。つい先程から話の内容が気になり聞き耳を立てていたんだが……皆は君を受け入れてくれた。どうやら私の杞憂に終わったようだ」

 

 そして遥がゆっくりと大和に歩み寄り、肩を軽く叩く。

 

「ああはい、どうも……?」

 

 逆に大和はどう返事していいのか分からず、とりあえずお礼を言う。

 

「男子生徒が二人という異例の事態だ。だがそんな事は関係なく、リーザ・ハイウォーカーの言葉通り、イリス・フレイアの命を救った功績は大きい。―――感謝する」

 

 今度は感謝の印として頭を下げられた。

 

「い、いえ! 恐れ多いッス! オレ一人で倒した訳じゃないし……」

 

 思わず頭を下げるなんてティーチャーにあるまじき行為。と思い、何か罪悪感を感じたためそう言った。

 

「それでも、だ。私は今回の事で二年前の誤ちを繰り返したくなかった。先の戦いであの時の出来事が脳裏に浮かんだよ」

 

「…………」

 

 自嘲する笑みで遥が話していると、深月に暗い顔が浮かぶ。

 

「そこで君はとても良い働きを見せてくれた。二年前のあの時、君がいてくれればという淡い期待を持つ程にな」

 

「先生……」

 

 そうか、と大和が内心で納得する。確かリヴァイアサンと第二ラウンドを交える前、大和もそうだが悠も事情を知っていた。それも二年前に、遥自身の妹に及んだ出来事。

 

「“D”ではない君に恥を承知の上で言う。是非君にはこの学園に居てもらいたい」

 

「そこまで仰るなら……というか、学園長から直々にそう言われたので、留まる他ないです」

 

 遥の率直な頼みに大和は断る義理もなく、素直に受けざるを得なかった。

 

 尚、シャルロットから学生として留まるよう直接言われたので、拒否権がなかったのだが。

 

「はは、そうだったな。それでも残ってくれるのは嬉しい。ありがとう」

 

「いえ」

 

 遥と大和はお互いに友好関係を刻むとばかりに握手をする。

 

 こうして上の者に頼まれては他の生徒達も口出し不可能になったようで。

 

「皆も異論はないな?」

 

『はい!』

 

 大和を正式に受け入れられる事になったのだった。




最初の頃のイリスは物質変換で爆発してたから、ピカチュウの電撃くらい何てことないよね!(ゲス顔)

そして、イリスはアホっ娘確定(白目)

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