ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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再侵攻までの間

「とうとう警戒レベルAになりやがりましたか……」

 

 大和がシャルロットの自室で呟く。

 

 学園がリヴァイアサンの侵攻警戒レベルをAと断定し、彼にも伝わった。

 

 シャルロットの説明によると、どうやら竜紋を変色したという者は、イリスらしい。大和は「あれ、ミッドガル来た時にいたような……」とうろ覚えでいた。

 

 ブリュンヒルデ教室でも悠がイリスを伴って教室へと戻り、彼らにも事情にも説明したらしい。リヴァイアサンはイリスというつがいを求めている、と。

 

 故に、彼女はシェルターに隔離されるようになった。否、隔離というよりは大和のように保護に近いもの。

 

 イリスの側に付くブリュンヒルデ教室の“D”達は、彼女の傍にいてあげたりする等クラスメイトとして力になってあげたり、悠が彼女の護衛役に抜擢された。

 

 大よそだが、リヴァイアサンがミッドガルに再接近する時間帯は、大体三十三時間後だと予測されている。

 

 最も、今回はミッドの“D”達が戦うと言われており、彼はシャルロットに待機と以前にも言われている。

 

「しっかし、環状多重防衛機構(ミドガルズオルム)ってこんなにあるんだな」

 

 深夜、窓から外を眺めている大和は周りを見渡して言う。

 

 環状多重防衛機構。それはミッドガルに設置された対空、及び対海上兵器。更には建物の窓には対衝撃波用のシャッターが下っている。起動したそれは無数と言える程多数あり、学園を覆い隠す程だ。

 

 重要設備が集中する学園の校舎や時計塔は地下に格納し、ミスリル製の隔壁で閉ざされている。

 

 尚、学園へ行くには、各宿舎や非常口から続く地下通路を通る必要があり、普通に行くにはかなり面倒だと感じた。

 

「これをラティアスと共に越えたんだよな……。改めて思うとよく躱したなと思うわ」

 

 大和はポケモンの凄さに感嘆する。

 

「って言ってる場合じゃなかった。アレだけじゃどう見てもリヴァイアサンを止められる気がしないわな。だろ? リム」

 

『そうですね。流石にパワー不足です』

 

 二人(?)はそう言い合う。実質、あの物体にはレーザーユニットが配置されてあるが、斥力場を展開しているリヴァイアサンを倒すには十中八九至らないだろう。

 

 そこで竜伐隊が派遣される訳だが―――。

 

「んで、竜伐隊も出るって話だけど……倒せないよな、多分」

 

『はい。恐らくですが、撃破するのは困難です。足止め程度に収まってしまうかと』

 

 まるで予言しているような口ぶりであるが、これは実体験をしている彼らだから言えるのである。

 

 “型破り”という特性を有していたため、斥力場を難なく突破したのだが、いくらドラゴンに対する強力な攻撃方法を持っている“D”だとしても、あれに阻まれると彼は考えていた。

 

「くっそ……。オレも出れればなぁ」

 

 大和は歯痒い思いだった。実際、助太刀できればと思うが、彼の動きは制限されている。

 

 更に言うなら、リヴァイアサンが来る前にシャルロットとゲームしたり、マイカの講義を受けていたりしたが、二人も忙しいらしく、彼一人だけという事が多くなった。

 

「……積み技でもすっか」

 

 あまり暇が出来ても問題だと思った大和は、己を鍛えるために胡座をかいた。

 

 ―――否、座禅を組んでいた。

 

 といっても、あまりに派手なのはシャルロットやマイカに迷惑がかかると思われかねないので、瞑想で精神力を高める事にした。

 

 これなら時間も潰せる上、周りに迷惑を掛けずに特攻と特防を上昇させられる―――と大和が考えて行ったまで。

 

 しかし、幾らか瞑想で精神力を高めていると、此方に近づいて来る波導を感知したので、中断し寛いだ姿勢を取る。

 

 その途端、自室の扉が開かれ、マイカが入ってきた。

 

「マイカさん?」

 

「大河さん。今日は一人、面会者が来られました」

 

「面会者? 急にどうして」

 

 突然の報せに戸惑いながら彼女に聞く。

 

「その方は、あなたに聞きたい事があるらしく、真面目な事だったので、面会を許可しました」

 

 大和は首を傾げる。彼が知っているのはシャルロットと目の前のマイカだが、二人は既にいるし違う。

 

 なら他に誰か。大和の脳裏に浮かぶのは、生徒の物部悠か、イリス・フレイアか、物部深月か、教師の篠宮遥か。彼が知っているのはその人物らである。

 

 彼が誰かを考えていると、マイカがゆっくりと扉の前から移動し、告げる。

 

「どうぞ、お入りください」

 

「失礼します」

 

 扉が開かれ、入ってきたのは―――。

 

「おめえは確か……深月だったか?」

 

「はい。お久しぶりですね、大和さん」

 

 長い黒髪を靡かせる少女―――彼の予想の一人、深月が佇んでいた。

 

 何やら、少々複雑な面持ちが気になるが。

 

「私は、部屋の外で待っています。大河さんの立場上、外からロックさせていただきますので、深月さんが退出する際にはノックでお知らせください」

 

「わ、分かりました」

 

 大和は不信に思いながらも答えた。それと同時にマイカは返事は聞かずに部屋を出ていく。

 

 残ったのは、複雑な表情の深月と、思い当たる節がない大和だった。

 

「確かに久しぶり。んで、何か知らんけど、話あるんだったか?」

 

「……はい。私は、仕事に戻る前にあなたにいくつかお聞きしたい事があるのですが……宜しいですか?」

 

 仕事というのは、竜伐隊の隊長の事だろう。だがその前に深月は大和に何か聞きたい事があるらしく、訊ねてきた。

 

「ん。特に忙しい訳でももねぇし、いいよ」

 

「ありがとうございます。では、いくつかお訊ねします。三年前、大和さんが“青”のヘカトンケイル、それから“白”のリヴァイアサンで使用した技……とでも言うのでしょうか。あれについてお聞きしたいのです」

 

 大和が二体のドラゴンと対峙した際、幾つかポケモンの技を使用した事。それを詳しく聞きたいと申してきた。

 

 “D”でもなければ、唯の人間でもない。更に加えるならば、そもそも“D”の面々ですらドラゴンを倒すのは容易ではないのにも関わらず、三年前の“青”のヘカトンケイル、そしてミッドガルに侵攻中の“白”のリヴァイアサンを打倒したという。

 

 普通は信じられない話だが、深月はミッドガルに進学する三年前にもヘカトンケイルを蛇のような緑色の竜と共に立ち向かった場面を目撃している。

 

 本来は、この規格外の人物と、ポケモンという未知の生命体を使役している事に不信感を覚えるのだが、それは同時にドラゴンに匹敵する程の力を有している。

 

 詰まる所、それは途轍もなく深く、強い意味を持っている。

 

 何はともあれ、聞き出す事には変わりはない。深月は考えつつも彼の返答を待つ。

 

「……つっても、あれは元々オレが使えるものとしか言いようがないけど」

 

「ですが、あなたは“D”ではないのですよ? 上位元素は生み出せませんし。少なくとも私はああいった人間を見た事はありません」

 

「けど、そういう技とか能力を持ってるとしか言いようがないんだけどなぁ」

 

 大和は、まさか前世は死に趣き、ポケモンの技と能力と特性、更に召喚できる力を手に入れたなんて言える訳もなく、言葉を濁す。

 

 彼としては、単純な性格故かこの世界で自由奔放に生きていこうとしたのだが、ここまで壮大になるとは予想もしていなかった。

 

 もう少し自重しておけば良かった……と今更になって考えるが、後の祭りであるため、胃がキリキリと痛む感覚を覚えた。

 

「……では以前、三年前にヘカトンケイルと対峙して、竜に乗った異能の力を持つ人間、と私が言った事、覚えていますか?」

 

「え、あ、ああ」

 

 質問の趣旨が変わったのか定かではないが、話が変わるもののフーディンの一度記憶した事物を忘れない能力で、記憶を掘り返して理解する。

 

 それは隔離される前に、ミッドガルにやって来た時の話。メガシンカしたレックウザの背に乗り、共に攻撃した事がある三年前の話。

 

「あなたがした事、全部とはいかないまでも、ある程度なら覚えています。あなた自身が“青”のヘカトンケイルに放った強力な攻撃方法。それは、リヴァイアサンと対峙した際に同じ方法で撃退しましたか?」

 

「あー……要は、三年前のヘカちゃんと戦った時、リヴァイア=サンを倒した技と同じか、って言いたいのか?」

 

「ヘカちゃん……。大方、そんな所です」

 

 深月が大和の言葉に半ば呆れるが、彼の物言いに断定する。

 

「確かに技は色々違うけどな。見た目とか大きさとかも色々違うし。それに技って言ってもいっぱいあるし」

 

 傍から見れば、何処かハイレベルな会話をしている二人だが、その点は割愛。

 

「……そうですか。本当に不思議な方ですね、あなたは」

 

「よく言われる」

 

 深月の遠回しな不思議発言に気にした様子もなく、笑みを浮かべる大和。

 

「分かりました。まだまだお聞きしたい事はあるのですが、私もこれからお仕事があるので」

 

「ん、そうか」

 

「色々お聞きしてしまって、済みません」

 

「なんの。どーせ、この事は誰かに怪しまれると思ってたし」

 

 全部は明かせないが、ある程度話さなければならないと、大和も感じていた。単に自分から語るのを戸惑っていただけなのだが。

 

「それでは、失礼します」

 

「おう、仕事頑張れよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 深月は一礼し、二人がそう話しながら先程マイカが言っていた通りに行い、彼女は去っていった。

 

「…………」

 

 大和は深月の様子を見送りながら、何かを思っていた。

 

 その一つが、深月は会長属性持ちながらも竜伐隊の隊長を務めている。

 

 大変だと思いながらも、この学園の平穏を守るために奮起している。

 

 大和はやっぱり、こうしちゃいられないと決心した様子だった。

 

「よし! もう少ししたら白いあんにゃろうが来る頃だな。その前にもう少し、積み技しとくか」

 

 そう何かを思いながら、積み技で時間を費やしていったのだった。

 




次回からは戦闘が入るかと思います。

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