触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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9話「・・・そうだ、夕飯食ってくか?」by紅騎

「・・・よし、何とか完成だな」

次の日の土曜日、一日がかりでやっとギターが完成した。

「本当か、綾崎?」

この日は岩沢さんも来ていた。

理由を聞いたら「暇だから・・・」だって。そうですかい・・・。

「じゃあ、試しに弾いてみる?」

ストラップを付けて岩沢さんに渡す。

数回ストロークした後いくつかコードを弾く。

「・・・うん、なかなか良い感じだ」

気に入ってもらえたようだ。

「ありがとう、綾崎・・・!」

今まで見たことのない笑顔でお礼を言われた。

初めて見た岩沢さんの笑顔にちょっとくらっと来た。・・・なんか変なところで可愛いなこの人。

「あ、そうだ。修理代・・・」

いらないって言ったら怒りそうだしな・・・この人。「特別扱いなんてするな!」なんて言って。

「いらないって言ったら怒る?」

「・・・・・・」

はい、怒るんですね。・・・ゴメンナサイ。

本当のコト言うと一からほとんど作り直したから結構な値段になる。・・・それこそ一学生が簡単には払えないくらいに。

「・・・このくらいになる」

俺は作っておいた明細書を岩沢さんに見せた。ざっと言うと1×10の5乗くらい。

「・・・小分けにして払うのは駄目か?」

「本当は断るところだけど、同じバンドメンバーとしてこれくらいは・・・ね」

「・・・助かる」

結局全額払うき満々なんだな・・・。まあ、良いけど。

時計を見てみると午後の六時を回っていた。

「・・・そうだ、夕飯食ってくか?」

「お前の家族に悪いだろ・・・他人が同じ食卓にいるなんて」

「あ~・・・その、その家族は今日外で食ってくって連絡が先ほどあったのですが・・・」

マスターは知り合いと飲みに行くとか言って夕方くらいから出かけていった。

レナは、土日の間友達の家でお泊まり会だそうだ。

「・・・分かった。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらう」

・・・さて、何作るか。

冷蔵庫、チェック・・・ピーマン・トマト・牛乳・鶏肉を確認。

よし、大体のメニューは決まった。

まずは、水を張った鍋を火に掛けた。

次に鶏肉を一口大に切ってから油を引いて焼く、塩コショウを忘れずに。

まんべんなく火が通ったらトマトをさいの目切り、ピーマンを半月(?)切りにして鶏肉と一緒に炒める。

鍋が沸騰し始めたら塩を適量入れてパスタを二人前ぶち込む。

そして炒めたフライパンにだし汁(自家製)を浸すくらいに入れて煮込む。

十分柔らかくなったら牛乳を入れて弱火でさらに煮込む。

 

待つこと十数分。

 

パスタがゆであがったので水を切ってから先に皿に盛る。

それから煮込んだ方のスープだけ皿に入れて麺と絡める。盛りつけをして完成。

何てことはないただのスープパスタだ。

最後にパンを切って岩沢さんの待つテーブルに持って行った。

「お待たせ~・・・はい」

「・・・イタリアン?」

「丁度パスタがあったからね。・・・ほら覚めないうちに食べよう。いただきます」

「いただきます・・・」

パスタを一口・・・うん、一応人様には食べさせられる味にはなってるな。

「綾崎・・・」

「ん?何?・・・味が合わなかったかな?」

「美味いな・・・これ」

真顔で言われると逆に照れる・・・。

「そ、そりゃどーも」

「特に出汁が良い味出してるな・・・綾崎が作ったのか?」

「一応・・・ね。あ、レシピは秘密だぞ~」

俺は冗談交じりで言った。

「そうか・・・じゃあ、また作ってくれるか?」

「!?・・・な、何言って」

「クス・・・冗談だよ」

・・・やられた。

けど俺は「そうか・・・」のところで少し残念そうな顔を一瞬見せたのをしっかり見ていた。

案外顔に出やすいんだな・・・岩沢さん。

 

 

岩沢さんの提案・・・というより強情さに負けて食器は岩沢さんが洗ってくれた。

その間に電気ポットで湯を沸かして紅茶を煎れた(茶葉で)

「綾崎、私のギター・・・預かっててくれないか?」

お茶を一口飲んだ後突然そう言ってきた。

「・・・また、壊されるかも知れないから?」

「・・・・」

岩沢さんは黙ったまま首だけを縦に振った。

「別に良いけど、これから毎日部活で使うんだぞ?」

「取りに行く・・・毎日」

そうか・・・毎日取りに来るのか。

「・・・って毎日!?」

「・・・?当然だろ?」

「それだと毎日一緒に登校することになるんだけど・・・」

「当たり前だろ・・・一緒の学校なんだし。それとも何か不都合があるのか?」

いや、一緒に登校する時点で問題がある気がするんですが!!

・・・なぜ分からない!?天然か?天然なのかこの人も!?

「・・・駄目か?」

捨てられた子犬のような目で訴えないでくれ!もう、なんか言いようのない罪悪感が・・・。

「・・・分かったよ」

「ほ、本当か!?」

・・・これが犬だったら尻尾を全力で振ってるんだろうな。

気のせいだろうか・・・本当に尻尾と耳が見えてきた気がする。

 

夕食を食べ終わって、さすがに夜遅いこともあり岩沢さんを送っていくことにした。

「岩沢さんってどこに住んでるの?」

「電車で二駅くらい行ったトコ」

「ふ~ん・・・」

近いような遠いような微妙な距離だな。

「送ってくれるのは駅まででいいから・・・降りる駅からもさほど遠くないし」

「分かった」

俺の家から駅まで大体十五分くらいだな。

「岩沢さんはずっとここら辺に住んでるの?」

「引っ越しはしたけど、場所的にはあんまり変わらない・・・かな?」

「ふ~ん・・・」

「綾崎が音楽を始めたきっかけって何?」

「・・・親父・・・かな?ああ、親父って言っても本当の親父な」

「父親?」

「昔・・・ミュージシャンだったんだよ。親父」

「ミュージシャン・・・」

「ガキの頃から音楽が身近にあってさ、必然的だったんだよ・・・たぶん」

「それで・・・か」

「本格的に音楽にのめり込んだのは今の親父に会ったときだよ。・・・物心ついたときからあのライブハウスに通ってたよ」

「羨ましいな・・・その環境は」

「確かに幸せだったよ・・・あのころは」

「・・・今はどうだ?幸せか?」

「・・・・・・」

ちょっと考えてみる・・・小学生時代、中学生時代、そして今。

「幸せでもあるけど・・・ちょっと怖い。今の幸せが」

「また不幸にならないか・・・って?」

「ああ・・・」

それから俺たちは一切言葉を交わさずに駅に向かった。

 


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