触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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8話「あ~ん、コウ君ってば強引なんだから~」by唯

キーンコーンカーンコーン・・・

「唯、一緒に帰ろ」

「あ、和ちゃん。ごめん、私今日から部活なんだ~」

「そう・・・なら仕方ないわね。じゃあ、また明日」

「うん、バイバ~イ」

そんな会話を背に俺は教室掃除を始める。

せっせと床を掃いているときにトコトコと、唯が近づいてきた。

「・・・と、ゆー訳で一緒に帰れませんコウ君!」

・・・わざわざそれを言いに来たのかコイツは。

「分かったから行ってこい・・・」

「寂しくなったらいつでも電話してね~」

「はいはい・・・わーったから早く行け!」

箒の柄で唯の背中を押して教室から追い出した。

「あ~ん、コウ君ってば強引なんだから~」

・・・・何てことを言いながら唯は部室に向かっていった。

「・・・・・ったく」

「へぇ、あれがドジで天然な幼馴染みか?」

いつの間にかひさ子が俺の横に立っていた。

「・・・見てたのか?」

「まぁね・・・ふ~ん純粋で良い子そうじゃないか」

「そこは否定しない・・・」

あの純粋さは俺には眩しすぎるくらいだ。

「綾崎・・・前側のゴミ取り終わったぞ」

そう言って岩沢さんはちり取りを俺に渡した。

「お疲れさん、俺もすぐ終わらせるからちょっと待ってて」

「・・・分かった」

俺もさっさとゴミを取って掃除を終わらせる。

それから教室の端に置いてある荷物と、ロッカーと掃除用具入れの間に立て掛けてあったギターケースを肩に掛けた。

今朝唯にしつこく質問されたが適当にごまかしておいた。

「・・・じゃ、行くか」

互いにうなずいて軽音楽部の部室、音楽準備室に向かった。

 

「・・・綾崎、本当にここで合ってるのか?」

「そのはずなんだけど・・・」

音楽準備室からは全く練習とおぼしき音が聞こえてこない。

その代わり、紅茶の良いにおいが・・・。

とりあえず入らないと話にならないので不安を感じながら扉を開けた。

ガチャ・・・キィ・・・。

「失礼しまぁす・・・」

「ん~誰か来たぞ・・・・って、み、澪!ギター持った生徒が三人も来たぞ!!」

「律、さすがにそんなことあるわけ・・・って、ホントウダ!?」

「お、お茶お茶~」

「あれ?何でコウ君がいるの?」

俺たちの登場で、軽音部と思われる三人(唯を除く)は無駄に動転している様子だった。

「あの・・・入部希望なんですけど」

「と、とにかく座って座って。ほら唯!席空けろ!」

カチューシャが唯を反対側の席に移動させて、俺たちをその列の椅子に座らせる。

軽音部は相向かいの列に座った。

そして、金髪のおっとりとした女子生徒が人数分の紅茶を煎れて出してきた。

「どうぞ~ミルクと砂糖はお好みで」

「・・・どうも」

とりあえず全員紅茶を一口飲んで一息入れる。

軽音部をちらっと見たが、どうやら全員一年のようだ。

「・・・それじゃ、自己紹介からしよっかな。私は部長の田井中律」

なんだ、てっきり黒髪の方が部長かと思った。

「わ、私は・・・秋山・・・澪」

何とか秋山の名字は聞き取れたが、肝心の名前がだんだん小さくなって聞こえなくなった。

「ごめんな。澪は人見知りが凄いんだ」

カチューシャがフォローをしてきた。・・・名前は澪ね。

「私は琴吹 紬です。よろしくね」

「この紅茶とティーセットとお菓子はムギが持って来たんだぜ~」

・・・それって大丈夫なのか?つーか、このティーセット、絶対高いだろ。

「私は平沢唯って言います!」

「コイツは昨日入部したばっかでな。まだ音楽初心者だ。」

えっへんと胸を張る唯。・・・威張るなよ。

「・・・コレで全員?」

「そ、去年で最後の部員全員卒業しちゃってな。廃部寸前だったんだぞ?」

確か部の最低人数は四人だったはず・・・・うわぁ、めっちゃギリギリじゃねーか。

「じゃ、今度はこっちの番だな。俺は綾崎 紅騎。ギターをやってる。」

「・・・それだけか?」

「・・・他に何を言えと?」

「べっつにー・・・じゃあ、次は?」

そう言って田井中はひさ子の方を見た。

「ひさ子ってんだ。ギターをやってる・・・よろしく!」

「うん、よろしくな。じゃあ、最後は・・・」

「岩沢 まさみ・・・ギターだ。よろしく」

「う、うんよろしく・・・って、全員ギターなのか!?」

「・・・何か問題でもあるのか?」

「いやいやいや!!無いよ、むしろラッキーだよ!!」

・・・だったら良いんだけど。

「綾崎、そろそろ本題に入るけどいいかい?」

「ああ、分かった」

ここからひさ子にバトンタッチ。口が上手いのは昨日の岩沢さんの件でよく分かっている。だから任せた。

「へ?本題?」

「そ、本題だ。・・・そっちのベースとドラムって誰?」

「ドラムは私で、ベースは澪だけど・・・それがどうかしたのか?」

へぇ・・・コイツがベースか。

秋山はちょっと視線があっただけですぐにうつむいてしまう。・・・俺、何か悪いことしたかな?

「実は私たち・・・元々バンドを組んでてね。それで」

「なにいいいい!?私と澪を引き抜きに来たっだてぇぇぇぇ!!!??」

・・・人の話を最後まで聞け!カチューシャ!

「そっちの方が手っ取り早くて良いんだけどね・・・そうだと困るんだろ?ぶちょーさん」

「ま、まーな!私は高校は行ったら絶対軽音部に入るって決めてたんだからな!!」

・・・どうやら、思ってたよりは音楽に熱心なようだ。

「・・・だろ?だから私たちはあんたらと練習して、ベースとドラムは別で探そうって思ってるんだよ」

「ちょっと待てー!!つまり私たちは練習の道具ってことか!?」

やっぱり怒った。・・・まあ、誰だって怒るよな。

「んなコト言ってねーけど、そっちがそう思うんならそう受け取ってもらっても構わないけど?」

「だ、だったらアンタ達の演奏を見せてもらおうじゃないか!!そんな大口叩いて下手くそだったら・・・・」

「下手くそだったら?」

「あー・・・えっとぉ・・・な、何かしてやるかんな!!」

「だってさ・・・早いトコ準備しようぜ綾崎、岩沢!」

ひさ子に促されて、俺と岩沢さんも準備を始める。

岩沢さんのギターは現在進行形で修理中だから、今日は歌だけだ。

「ひさ子、お前もしかしてこうなるように話を進めたのか?」

ふと疑問に思ったので、聞いてみた。

「ふふふ、頭で分からせるよりも手っ取り早いだろ?」

いたずらっ子のような笑顔で返答してきた。

・・・ったく、しょうがねーなー。

チューニングをしてから、アンプにシールドをさして、ボリュームを調節する。

「じゃ、今日はリードがひさ子でリズムが俺ね。」

言うまでもないがとりあえず確認のために聞いておいた。

二人はもちろんと言ったような感じでうなずく。

「よし、始めるか」

俺たちは岩沢さんを真ん中にして逆三角形の配置で並ぶ。

何てことはない、そっちの方が互いにアイコンタクトが取りやすいからだ。

「ワン・ツー・スリー・・・」

まずはひさ子のリードギターで始める。それから俺のパートを重ねていって、最後に岩沢さんが歌い始めた。

初めてすぐに、部屋の空気は俺たちが握っているのを感じた。

・・・そういえば岩沢さんの歌を聴くの久しぶりだな。

「この大空に~翼を広げ~飛んでいきたいよ~♪」

やっぱり上手いな。今はギターだけだが、コレにリズム隊が加わったら俺たちはどこまで行けるんだろ?

そう思うだけで、全身に力がみなぎってくる。形容しがたい何かが俺を身震いさせる。

・・・ああ、合わせるってこんなに楽しいんだ。

ひさ子を見る。俺の視線に気づくと、不敵な笑みでどんどん自分のパートをかっ飛ばしていく。

岩沢さんを見る。彼女は前翼をくださいはカラスだと言っていた。

確かに、コレは岩沢さんでしか歌えない翼をくださいだ。

この歌はたかだか2~3分の短い歌だ。

だけど、確実に軽音部の奴らを納得させるには十分だろう。

 

予想通り、演奏が終わってもしばらく沈黙が続いた。

 

 

「それじゃあ、明日からよろしく。じゃあな、唯。」

「うんバイバ~イ、コウ君。」

入部届を書いた後、アイツらは帰って行った。

私はアイツらの書いた入部届をぼーっと眺めながら、もう一度あの演奏を思い出していた。

とても私たちと同年代とは思えないほど、上手かった。・・・それはもう残酷なほど。

同じ土俵に最初から立たせてもらえないと、言葉で言われるよりもストレートに感じた。

・・・けど、コレはチャンスだ。あんなにレベルの高い奴らと一緒に演奏できるなら私たちはどんなに上手くなれるのだろうか。

そう考えただけでわくわくしてきた。

私は思いきり椅子から立ち上がった。

「よーし!また部員が増えたぞ!!」

「・・・けど律。本当に良いのか?」

「なにが?」

「さっきの人たち・・・本気で音楽の道を極めようとしてる。微妙な温度差で空中分解ってコトもあるかもしれない・・・」

「そんなことは私がさせないぜ!」

「おぉぉかっこいい、りっちゃん!!」

「へへへ~何たって部長でございますから!」

「・・・そう言えば、唯はどんな楽器をやりたいんだ?」

・・・ああ、そういえばそうだな。

「あ!そうだった。私音楽やるんだっけ!!」

「・・・忘れてたんかい」

「そうだ。せっかくだからギターやってみればどうだ?」

「ぎたー?・・・私が?」

「良いじゃん。やってみれば?」

そうと決まれば話は早い。早速楽器屋に行こう。

 

私たちの音楽のために。

 

 

 

「・・・綾崎、エレキってこんなに種類があったのか?」

「まあな・・・」

学校を出た後、俺と岩沢さんで楽器屋に来ている。ひさ子は用事があるらしく先に帰った。

どうやら岩沢さんはエレキの虜になってしまったらしい。

楽器屋に入るなり、一目散にエレキが置いてある場所に向かっていった。

「俺はストラトキャスターがベストだと思うんだが・・・」

「昨日私が弾いたヤツだな?」

「そうそう・・・あ、すみませーん!試奏しても良いですか?」

「あ、またいらしたんですね?どうぞうどうぞ・・・楽しみにしてますよ」

・・・やっぱり覚えてたか。まあ、こっちとしては好都合だけど。

「じゃあ、そうだな・・・岩沢さん、気に入ったギター見つけた?」

「あ、ああ・・・これなんだけど」

岩沢さんが指さしたのは、フェンダー・ムスタング。

「綾崎が使ってるから、ちょっと気になってて・・・」

・・・まあ、良いけど。

多少癖があるからどうかと思うけど、そこら辺は個人差だからあえて言わないでおこう。

「じゃあ、弾いてみる?」

「ああ・・・」

試奏だから特に二人で何かを弾こうとはしない。俺たちは別々の曲を弾き始めた。

「お~いっぱい種類あるね!」

「唯は手が小さいからコイツが良いんじゃないか?」

「おぉぉぉ!澪ちゃんコレ何!?」

「ツインネック・・・それは、止めておいた方が・・・」

・・・聞き慣れた声が聞こえるのだが。

つーか出来れば今日は会いたくないんだが・・・。あんな空気だったし。

「あれ?綾崎と岩沢じゃん、何やってんの?」

「ちょいと、岩沢さんのギター選び」

「ふーん・・・あれ?そういや何で岩沢はギター持ってないのにギターやってるって言ったんだ?」

「ちょっと事情があってね・・・修理に出してるんだ」

「へ~・・・あれ?じゃあ、なんで楽器屋に?」

「修理に出してるのは・・・アコギだから。・・・それに、エレキもおもしろいかなって」

「・・・で、お前らは何やってるんだ?」

「ん?・・・ああ、唯のギターを見に来たんだ」

・・・へ?唯がギター?

「・・・大丈夫なのか?」

「・・・さあね。まあ、本日よりギター奏者が三人も入ったことだし~い?」

つまり俺たちが唯に教える羽目になるんだろうな・・・、しかも幼馴染みとか何とか言って俺に押しつけられる予感が・・・。

「綾崎・・・お前の幼馴染みだろ。世話は任せた」

・・・ほらやっぱり。

「・・・俺の出来る範囲でな」

「じゃあ、さっそく唯のギター選び手伝ってくれ!」

田井中に引っ張られるがまま、俺は唯がギターコーナーでう~んとうなってる所に連れてこられた。

「唯、何か気に入ったギターあったか?」

「あ~コウ君~・・・やっほ~」

唯はちょこっとこっちに顔を向けただけで、すぐある一点に視線を固定させた。

ギブソン、レス・ポール。女子が扱うにはかなり癖がある。

「可愛い・・・」

・・・やっぱり。

「気に入ったのは分かったが、良く値札を見てみろ唯・・・」

「ご、五十万円・・・!?」

・・・高いな。

「こ、こっちならどうだ?これなら五万だし・・・」

「う~ん・・・」

田井中達があの手この手で唯の説得に試みるが、いっこうに心を動かす気配がない。

「・・・そうだ、ならバイトをすればいい!」

秋山がそう提案してきた。

「・・・バイト?」

「そう、バイトだ。」

「・・・そうだね。私、頑張ってお金稼ぐよ!」

・・・単純だな。相変わらず。

「よ~し、じゃあ早速本屋に直行だー!!」

「「おー!」」

俺と岩沢さんを除く四人はバタバタと楽器屋を去っていった。

「綾崎・・・私そろそろ帰る」

「ああ、また明日。・・・ギター、何か見つかったか?」

「いや・・・何も。強いて言うなら綾崎の家で弾いたギター・・・」

「あのストラトキャスターか?」

「まあ・・・な。無理なのは分かってるけど」

・・・あとでちょっとマスターに言ってみるか。

「じゃあ、俺も帰るな」

 


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