触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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7話「おーおー、彼女さんかい?お熱いねぇ綾崎~」byひさ子

「・・・よし、今日はこんなトコかな」

大体バラして分かったことは、ほとんどが一から作り直さなきゃいけないことだ。

それには少しばかり材料が足りないから、今日はここで終了。

「綾崎・・・直りそうか?」

「直す、っつーよりも作るって言った方が近いけど。・・・まあ、大丈夫。」

「そう・・・か」

岩沢さんは嬉しいそうな、申し訳なさそうな何とも微妙な表情をしていた。

「あ、そうだ!ちょっとエレキ弾いていかないか?」

「エレキって、エレキギター?」

「そう、岩沢さんエレキは初めて?」

「ああ、ずっとアコギで弾いてたから・・・」

「だったら弾いてみようよ、ちょっと衝撃かも知れないぜ?」

「・・・・分かった」

そうと決まれば行動だ。

俺たちは作業場を出て店に戻った。

丁度マスターがカウンターで珈琲を飲んでいた。

「マスター、エレキ貸してくれませんか?」

「ん?お前はエレキ持ってたはず・・・あぁその子のか?」

「うん、ストラトキャスターで良いと思うんだけど・・・」

「りょーかい・・・ほれ」

マスターはカウンターの後ろの壁に掛かっていた一本のストラトキャスターを渡してきた。

「そういえばひさ子はまだスタジオにいるんですか?」

「・・・ああ、あのポニーの嬢ちゃんか?あの娘ならまだいるよ」

とりあえず岩沢さんにはちょっと待ってもらい、その間に俺は自分のギターを取りに行った。

そしてひさ子のいるAスタジオへ。

「ひさ子~はかどってるか~?」

「あれ、綾崎?ギターの修理はどうなったんだ?」

「ちょっと足りない部品とかがあってな。今日はコレで終わりだ」

「そう・・・あれ?岩沢は何でエレキなんて持ってるんだ?」

「綾崎が弾いていかないかって・・・」

「ふ~ん・・・なら私のアンプ使いなよ」

そう言ってひさ子はアンプのボリュームを落としてから、自分のギターからシールドを抜いて岩沢さんの方に差し替えた。

チューニングをすませてから、再びボリュームを上げる。

「準備OKだよ岩沢、何か弾いてみたら?」

岩沢さんは小さくうなずいて、一度ストロークをした。

~~~~~♪

「・・・!、音が歪んでる・・・」

それから、”翼をください”のコードを弾き始めた。

・・・どうやら、気に入ったようだ。

いつの間にかひさ子も別のアンプに差し直してメロディーを弾いていた。

しばらく聞いていると、二人が俺にアイコンタクトをしているのに気づいた。

”合わせてみろ”そう言っている声が聞こえてきそうな程の挑戦的な目をしていた。

オーケー、やってやるよ・・・。

ギターケースから一本のギターを取り出す。

深い青色をしたフェンダー・ムスタング。それが俺のギターだ。

チューニングをしてアンプにつなげる。

特に合図を決めていないのに、バッチリと出だしが合う。

岩沢さんとひさ子はさっきと同じくコードとメロディーを弾く。

俺はメロディーのハモりを入れたり、別のコードを弾いたりして曲全体の厚みを持たせるようにする。

・・・すげぇな。何でこんなに息がぴったり合うんだろう・・・。

まるでずっと前から一緒に弾いていたような。そんな不思議な感覚だった。

演奏が終わってもしばらく沈黙が続いていた。

とりあえず俺はギターをスタンドに立て掛ける。

その音で二人の時間も動き始めた。

「綾崎!すげーよお前!!何でこんなにぴったり合わせられるんだよ!?」

ひさ子が興奮気味に俺に詰め寄ってきた。

「俺だって驚いたよ・・・何でだろうな?」

「凄ぇよ、本当にすげぇよ・・・なあ岩沢?」

「・・・・」

岩沢さんは何か考えているらしく、ひさ子のこと言葉も耳に届いていないみたい。

しばらくして、何かを思いついたように口を開いた。

「綾崎・・・ひさ子・・・一緒にバンドを組まないか?」

・・・へ?バンド?

「つーか、岩沢さん達は組んでなかったのか?」

「あー・・・そう言えばそんな話し一回もしたこと無かったよな岩沢?」

「・・・確かに」

まあ、良いけど。

「・・・それで?バンドを組んで最終的にはどこを目指すんだ?」

「プロになる・・・絶対に」

何の迷いもなくそう言った彼女の目は、それを実現させようとする強い意志が見られた。

そんな目をされちゃ、断れるわけ無いじゃないか。・・・それにおもしろそうだ。

「分かった・・・その話乗るよ。・・・それで、ベースとかドラムはどうするんだ?」

リズム隊がいなきゃ話にならない。

「・・・・あっ、」

・・・考えてなかったか。

「じゃあ、まずはリズム隊探しからだな。」

「待て、それじゃあその間練習が出来ない・・・」

・・・だよなぁ。どうしたもんか。

すると、ひさ子が何かを思いついたように手を打った。

「そういやぁ、今日どっかの部が演奏してなかったっけ?」

「あぁ、あの”翼をください”のトコ?」

「・・・確かにしてたけど。どうするんだ?」

「とりあえずその部に入って、練習して別でリズム隊を探すのはどうだ?」

・・・確かに効率は良さそうだ。ちょっと、その部には申し訳ないけど。

「俺は良いと思うよ。そっちの方が効率が良い」

「私は反対だ・・・バンドは部活動でやるような甘い物じゃない。ましてや、生徒同士の馴れ合いの道具でもない」

「岩沢・・・プロを目指すヤツがそんなに視野が狭いこと言ってどうするんだよ」

「だってそうだろ?・・・私は本気でやっているんだ」

「音楽だって色々な付き合い方がある。岩沢みたいに本気で音楽をやってるヤツもいれば、息抜き程度にやってるヤツもいる」

「・・・そうだ、だから・・・」

「だから一緒に本気でやれるようなヤツじゃないと演らない・・・そう言いたいのか?」

「・・・・・・」

ひさ子は強かった口調を優しい口調に変えて言った。

「岩沢・・・ちょっと肩の力を抜く時間くらい誰だって必要だ。そう言う奴らと一緒に演って息抜きをする時間だってたまには必要だ」

「肩の力を・・・抜く?」

「ああ、せめて学校にいる時間くらいは楽しく過ごして欲しいんだ」

・・・その言葉は岩沢さんが特殊生だからって理由もあるはずだ。

俺は岩沢さんの家庭の事情は知らないけど、それなりに酷い環境だと予想できる。

・・・自分の子供の夢を奪いされるほどイカレてるってことくらいは。

岩沢さんはしばらく黙った後、ゆっくりと首を縦に振った。

「分かった・・・」

「・・・・で、ひさ子。その部活がどこだか分かってるのか?」

「え?・・・軽音部じゃないの?」

「ジャズ研の可能性だってある。・・・間違えたときにどうやって断るつもりだ?」

「う・・・そこまで考えてなかった」

・・・やれやれ。

すると、突然俺の携帯がなり出した。

電話の主は平沢唯。・・・とりあえず出てみた。

「もしもし、唯k・・・」

「コウ君コウ君!!私軽音部に入ったよぉ!!」

突然唯の興奮気味の声が俺の鼓膜を振動させた。

「・・・知ってるよ」

「違うよ!そうじゃなくて!」

・・・どう違うんだよ!?

「あのね、私軽音部の部室に行ってホントは難しい部活だって知ってね。・・・辞めさせてもらうつもりだったの」

「ふ~ん・・・」

「それでね、軽音部の人たちに辞めますって言ったら。翼をくださいを演奏してくれたの~」

どこの誰だか知らないが、大変だったな。軽音楽部・・・。

「・・・って、翼をください?」

「うん、そだよ~・・・それでね、みんなとっても楽しそうに演奏してて私もこんな風に演ってみたいって思ったんだ~」

「で、結局そのまま入部したと・・・」

「うん!・・・あ、そう言えばコウ君今どこに住んでるの?前言ってたアパートの人に聞いたら引っ越ししたって・・・」

あー・・・そういや言ってなかったな。養子になったこと。

「それなんだけどな・・・おれ、マスターのトコの養子になったんだよ」

「え、そうなの!?良かったねコウ君!!」

今までで一番馬鹿でかい声が俺の鼓膜をマグニチュード10で襲ってきやがった。

あぁ・・・くそ、耳がキーンとする。

「・・・アリガトヨ」

「それじゃ、私憂にお買い物頼まれてるから切るね。バイバ~イコウ君!」

ブツッ・・・ツーツー・・・。

一方的に掛けてきて一方的に切られた。・・・ったく、あの天然娘は。

「おーおー、彼女さんかい?お熱いねぇ綾崎~」

ひさ子が妙にニヤついた顔で聞いてきた。

「ちげぇよ。・・・ただのドジで天然の幼馴染みだ」

「なんだそりゃ・・・」

「・・・それって、同じクラスの平沢?」

「そう、その平沢さん・・・って、知ってたのか?」

「そりゃぁ、同じクラスだし入学式であんなに目立ってて綾崎にベッタリだったら名前の一つくらい覚えるさ」

俺にベッタリって、そんなに目立ってたか?・・・・あー、目立ってたかも。

「・・・で、その平沢さんが何のようだって?コウ君?」

ひさ子は意地の悪そうな笑みを浮かべた。・・・やっぱり聞こえてたか。

「別に体したようじゃないよ・・・けど、おかげで軽音部が翼をくださいを弾いてたことが分かった」

「そうか・・・じゃ、私たちはそろそろ帰るわ。」

そう言ってひさ子と岩沢さんは帰り支度を始めた。

 

Aスタジオを出ると、丁度レナが買い物袋をぶら下げて帰ってくるところだった。

「あれ?お兄ちゃん帰ってたんだ」

「ああ、お帰り。レナ」

「うん、ただ今お兄ちゃん。・・・あれ?お客さん?」

そう言って俺の背後にいる二人を見るレナ。

「ま、そんなところだ。岩沢さんと、ひさ子だ。俺たちバンドを組んだんだよ」

「・・・そうなんだ。初めまして義妹の葵 玲於奈です」

すると、ひさ子がレナの方に歩み寄っていった。

「二人は兄弟なのか?・・・へ~似てないな~」

「いや、だから義妹ですから当然ですって・・・」

それからひさ子はレナのつま先から頭のてっぺんまでじっと見つめる。

「へぇ・・・肌綺麗だな。・・・ウエストなんかこんなに細いし。うわ!足なが!!」

「あの・・・そんなにジロジロ見られると・・・困ります」

「うへへへ、恥ずかしがる顔も可愛いね~」

だんだんとひさ子がエロ親父に変貌してきたので、脳天に手刀をたたき込んだ。

ビシッ!

「こらこら・・・ウチの妹にセクハラすんな」

「・・・・わーったよ。」

「ひさ子・・・そろそろ帰るぞ。綾崎、邪魔したな。」

「お、おう・・・また明日な。岩沢さん、ひさ子」

半ば引きずるようにして岩沢さんはひさ子を連れて帰っていった。

「お兄ちゃん・・・送って行かなくて良いの?」

「ああ、誰だって知られたくないことはあるからな」

「?どういうこと?」

レナが分からないといった顔で俺を見上げる。

「岩沢さんも・・・特殊生だから」

「そう・・・なんだ」

俺とレナは黙って彼女たちの背中を見送っていた。

・・・何とかしてやりたい。

だから俺がやれることから順番にやっていく。・・・それで岩沢さんが救われるなら。

「マスター、足りない材料があるんですけど・・・手配してもらえます?」

俺は必要な物を2~3種類伝えた。

「・・・ああ、それなら明日までに届くようにしてやるよ」

「お願いします」

「それじゃあ二人とも。夕ご飯にするよ~」

制服のままエプロンを付けたレナはいそいそと夕食の準備を始めた。

 


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