触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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6話「とりあえず入部届を出してきました!」by唯

その翌日、俺は若干気負いしながら教室に入った。

”岩沢さんがもう一度音楽を奏でたいって想いあったらそのギターを持って、学校に来てくれ”

今思うと、とんでもないことを言った気がする・・・。

しかし言ってしまったことは戻せない。こみ上げる気恥ずかしさを何とか押さえつけて席に座る。

「コウ君、コウ君~!」

朝っぱらからテンションの高い天然幼馴染みが寄ってきた。

「とりあえず入部届を出してきました!」

びしっと右腕を伸ばしてこちらに手のひらを見せてきた。・・・お、生命線長いな。

「確か・・・軽音楽部だっけ?」

「うん!何やるのかな~楽しみだな~」

様々な想像膨らませて有頂天になる幼馴染み・・・幸せそうで何よりです。

キーンコーンカーンコーン・・・

「ほら、チャイム鳴ったぞ唯、席に戻れ」

「は~い・・・」

唯が自分の席に着いたのを見届けた後、自分の前の席を見る。

・・・人の気配は無かった。

「あれ?・・・綾崎、岩沢さんは?」

音無が尋ねてきた。

「さぁ・・・?まだ、学校にも来てないみたいだし」

「ふーん・・・」

ガラガラガラ・・・

「みんなおはよう。それじゃあ、出席を取るわよ・・・綾崎君」

「はい」

「岩沢さん・・・・って、あら?岩沢さんは?」

結局朝のSHRまでに岩沢さんは姿を現さなかった。

岩沢さんが姿を現したのは三限と四限の間の休み時間だった。

 

この日の二・三限は美術だった。授業内容は水彩画。

三限終了間際片付けの時に天然ドジ幼馴染みがやらかした。

チューブを机から落とした時に誤ってそのチューブを踏みつけた。そこを丁度通りかかった俺に赤色の絵の具が直撃。

丁度四限は体育なので(乾かす時間があるから)俺はトイレでワイシャツを洗うことに。

そこで予想以上に時間が掛かったのが行けなかった。

俺が着替えを始めたのは休み時間終了の二分前、もちろんみんなはすでに校庭に出てしまっている。

 

そこで運悪く岩沢さんが現れてしまったわけだ。

ガラガラガラ・・・

「「あ・・・・」」

「す、済まない!」

ピシャ!

岩沢さんは大あわてで教室から出て行った。

俺も大急ぎで着替えをすませる。

「もう、いいよ。岩沢さん」

カラカラカラ・・・

「す、スマン・・・いきなり入ってきて・・・」

「いや、気にしてないから大丈夫。・・・なんで遅れてきたの?」

「あ、ああ・・・コイツのケースを買いに行ってたんだ」

そう言って担いでいたギターケースをおろした。チャックを開けると例のフォークギターがしまってあった。

「わざわざ買いに行ってきたのか?」

「ああ、店の開店時間が十時だったからちょっと遅れた」

・・・ちょっとの領域を超えてる気がするんだけど。まあ、良いか。

「岩沢さん、次の時間体育だけどどうする?」

「体育?・・・ああ、まだ怪我治ってないから見学かな」

「じゃあ、早いトコ行こう。もう授業始まるから」

「あ、ああ・・・」

俺と岩沢さんは急いで校庭に向かった。岩沢さんが来てくれた。それだけのことなのに、ただ嬉しかった。

 

キーンコーンカーンコーン・・・

放課後のチャイムが鳴った。・・・さて、と。

「じゃあ、岩沢さん帰ろうや」

「あ、・・・分かった」

「おーい、岩沢~帰ろうぜ~」

突然ひさ子が現れた。いつもより若干テンションが高めだ。

「昨日から暗かった岩沢の元気を取り戻すために、お姉さんちょっと張り切っちゃうぞぉ」

そんな張り切るひさ子を見て、岩沢さんは申し訳なさそうな表情を作る。

「ごめんひさ子・・・もう元気だ」

「は?・・・・ドユコト?」

「うん・・・その、悩みの種が解決したというか」

そう言って俺の方をちらっと見る。俺からも何か言えと言いたいらしい。

「実はな・・・」

俺は洗いざらい包み隠さず話した。刑事ドラマも拍子抜けするほど。

「綾崎・・・包み隠さずすぎだぞ」

岩沢さんも軽く呆れている。

「なんだそう言うことか。意外と言いヤツなんだな、綾崎」

意外と・・・ね、まあ、良いけど。

「じゃあ、私も行こうかなー」

ひさ子がニカっと意味ありげな表情を見せる。

「・・・別に構わないけど、おもしろい物は無いと思うぞ?」

いや、少しくらいはあるかな?・・・俺の名字が違うくらいだけど。

「よし、決まりだ!岩沢もそれで良いだろ?」

「あ、ああ・・・構わない」

ちょっと残念そうな顔をする岩沢さん・・・なんで?

「そうと決まれば早く行こうぜ!」

そう言ってひさ子は教室から飛び出していった。

「・・・・何かスマン、綾崎」

「いや、・・・うん・・・ダイジョウブ」

俺と岩沢さんは早足でひさ子を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~♪

昇降口を出てすぐ演奏が聞こえた。

ドラムと、キボードと、ベースの音が聞こえる。

「ひさ子、ジャズ研にキーボードってあったか?」

「ん?ああ、軽音部じゃないの?」

「ああ、軽音部か・・・」

「ひさ子、岩沢さん・・・軽音楽って、何?」

「知らないのか?うーん、要するにバンドだよバンド。って、知らなかったのか?」

「ああ、初めて知った」

つーことは唯のヤツとんでもない勘違いをしてるな・・・大丈夫なのか?

~~~~~♪

音楽準備室当たりからだろうか、”翼をください”の歌詞無しバージョンが聞こえる。

「何というか・・・あんまり上手くねーなー」

ひさ子が素直な意見を述べた。・・・まあ、否定はしない。

けど・・・。

「けど、楽しそうに演奏してるな。”翼をください”らしい”翼をくださいだ”」

うん、岩沢さんの言うとおり、音が弾んでいる。ちょっとドラムが走ったりするけどちゃんとベースがカバーしている。

これにギターが加わったら迫力がプラスして良い感じになるだろう。

「よし、こんなトコで突っ立ってねーで早く行こうぜ」

再びひさ子が早足で歩き出した。

「ひさ子・・・俺の家の場所知ってるのか?」

「あ・・・」

やれやれ・・・。

 

「へぇ・・・ここが綾崎の家か」

「UNISON・・・これがこのライブハウスの名前かい?」

岩沢さんもひさ子も興味津々な様子で店の周りを見渡す。

「とりあえず店の方に・・・」

カランカラン・・・

「こんちはー!」

「・・・って聞けよ!」

ひさ子は俺の言葉に耳を傾けることなく店の中へ・・・。

「おう、いらっしゃい・・・ほぉ珍しいな。桜校生がここに来るとは」

「ただいま・・・マスター」

「おう、お帰り。なんだ、なんだぁ?もう家に女を連れ込むようになったのか?」

そういう笑えない冗談は止めて欲しいんですけど・・・。

「・・・客ですよ、きゃーく」

「もしかして昨日のアレはこのためか?」

妙に鋭いトコを突いてきた。

「まあ、・・・はい」

「ま、俺は別にどうでも良いんだけどよ。嬢ちゃん達適当にくつろいでってくれ。・・・まあ、スタジオは有料だけどな」

「じゃあ、早速・・・ギターとスタジオ借りていいっすか?・・・あー出来ればジャズマス希望で!」

「あいよ」

ひさ子はギターを借りてさっさとスタジオに行ってしまった。

「じゃ、俺たちも始めるか」

「ああ・・・」

俺と岩沢さんは隣の修理小屋に行った。

 

 

 

 

 

「さて・・・まずはギター見せてくれる?」

「分かった」

岩沢さんはケースからあのボロボロのギターを取り出して俺に渡した。

・・・改めてみるとホントにボロボロだ。

コレは直すよりも作った方が早いかも知れない・・・。

けど、それをしたら意味はない。ちゃんと直さないといけないんだ。

「俺は奥の作業場に行くけど、岩沢さんはどうする?ひさ子と一緒にスタジオにいるか?」

岩沢さんは首を横に振って

「いや、ここにいる・・・少し、綾崎と話しがしたいから」

と答えた。

「分かった、じゃあ着いてきて」

二人で作業場に入った。

ギターを作業台において、錆び付いた弦を切っていく。

それからそのほかの金属類を外していく。

ここら辺は錆を落としただけで再利用できそうだ。

「・・・綾崎は、両親がいないのか?」

いきなり岩沢さんがそんなことを聞いてきた。

「ああ、母親は俺が生まれたのが原因で死んで、親父は・・・殺された」

「殺・・・された?」

「俺さ、元々この町に住んでたんだ。それで中学に入る前に親父とこの町を出て行ったんだ。ヤミ金から逃げるために」

「そうなんだ・・・」

「それからかな、俺は親父に毎日毎日殴られたり、蹴られたり・・・容赦なしに」

「・・・・」

「中二の時の俺の誕生日でもあり母親の命日でもある12月24日。俺は親父に殺されかけた。」

「・・・え?」

「拾ってきたバット・・・いや、新品だったから買ってきたんだろうな。それで何度も何度も殴られ続けた。気が付いたら全身包帯で、病院の中」

「・・・・」

「それが生きてた親父との最後の夜だったんだ」

「それって・・・」

「退院して親父のいるアパートに戻ったらさ、見知らぬ男達が部屋にいたんだ。親父って分からないくらいぐちゃぐちゃになった死体と一緒にね」

「・・・・!?」

「理由はこそこそとため込んでいた親父の生命保険狙い。後に残されたのは俺と大量の親父の血だけ」

その夜鉄臭い水たまりの中で眠ったのは一生忘れない。

「それで、どうやってこの町の戻ってきたんだ?」

「今の親父、マスターがさ桜校の特殊生ってのを教えてくれたんだ」

そのほかにもマスターには色々と面倒を見てもらった。・・・・感謝してもしきれない。

「・・・やっぱり、お前には音楽が必要だな綾崎」

「・・・なんで?」

「良くも悪くもお前の行動には全部音楽が絡んでいるだろ?」

・・・・確かにそうだ。現に今だって音楽が絡んでいる。

「そう、なのかもしれないな」

「そうだ。それに音楽のおかげで普通の生活を送れているんじゃないか?」

「音楽の・・・おかげ」

この町に戻れて、学校に登校できて、家族を得ることが出来て、幼馴染みに再会できて、岩沢さんに会えて、人助けが出来て・・・。

知らない間に音楽がこんなにも俺の生活に染みこんでいたんだ・・・。

「・・・ありがとう岩沢さん、なんだか楽になった」

「そうか・・・なら良かった」

岩沢さんは優しく笑っていた。

・・・彼女なりに気を遣ってくれたのかな?

そう考えると、少し顔が熱くなっている気がした。

 


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