触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

42 / 57
42話「少し残念だけど・・・。仕方が・・・ないんじゃないか?」by岩沢

合宿二日目。今日俺たちが練習できるのは午後から。なので、海に行くことにした。折角海に来たのだから、一回は泳がないと損だろう。

例に漏れずここもプライベートビーチで、人の気配は無い。まさに贅沢。

そして今年は男一人。日向と、音無には悪いが堪能させてもらう!

「先輩、ちょっと目が怖いですよ?」

いち早く、俺と合流した関根がビーチボールを持って現れた。可愛らしいワンピースの水着。なぜこんなに早く着替えが済んだのか・・・。うん、頑張れ関根。

「先輩、そんな哀れみの目で見ないで下さい!まだまだ成長段階なんですから!」

「そうだぞ、人を胸の大きさで判断するのは良くない!」

続いて田井中も登場。うん、水着になっても活発そうな印象は健在で。

「まあ、走ってて邪魔にならないもんな・・・。」

「本気で心配しなくて良いから!もっと悲しくなるから!」

田井中の周りにはいわゆる貧乳と呼ばれる人物は少ないように思える。今年になってようやく中野と関根という同士が入部したわけだが。結構気にしているようだった。

「わりーわりー着替えるのが遅くなった。」

「みんなお待たせ~」

そして、田井中のコンプレックスをえぐりこむ様な二人がついに現れた。

去年も見ているとは言え、その存在感はすさまじい。

「うわーん、ズルいです!なんですかそのわがままボディは~お尻よりも胸が大きいなんて反則ですよ!」

「うわっ!ちょっと関根!くっつくな!」

「へぶ!?」

いきなり飛びついてきた関根を、ひさ子は砂地にたたきつけた。

「えっと・・・しおりちゃん。大丈夫?」

「うぅ・・・琴吹先輩の優しさが身にしみるよぅ・・・。・・・ふともも柔らかい」

「あ、ズルいぞ関根ー!」

さらっと本音を漏らす関根と田井中だった。おっさんかお前たちは。

「しかし、先輩って女子の水着見ても普通に接せられるんですね。やっぱり見慣れてるからですか?」

そっか?俺としては結構目のやり場に困ってるんだけども。・・・そう見えるならほっとする。

「甘いな関根。コイツが岩沢の水着を見たときの慌てっぷりを知らないのか?」

「え?知らないです、どんな感じだったんですか?」

「そうそう、ソレはもう上向いたり、横向いたり絶対前を見ようとしないんだ。顔を真っ赤にしてさー。」

思い出すつもりは無いのに、ひさ子と田井中のせいで去年の光景を思い出してしまった。そっか・・・今年は別グループなんだっけ・・・なんだか残念な気分だ。

「まあまあ元気出せよ葵。代わりにひさ子さんにサンオイルを塗る許可を出そう。いや、むしろ塗れ。」

「うわー超羨ましいです!私が塗りたかったなー!ひさ子先輩のサンオイル!」

「マジで!?あの柔らかそうな背中とか、ふくらはぎに触る権利かよ。変わって欲しいわー。」

「紅騎くん、ふぁいと~」

・・・え、何?何だよこの流れは!?

「俺が?ひさ子に・・・。無理!絶対やらないからな!!」

焦る俺を追い詰めるように四人は、じりじりと俺との距離を詰めてくる。背後には岩の壁、逃げ場所は無い。

「そんなこと言わずに~私たちだけの秘密にしておきますから~。」

「そーそ^ちゃーんと唯にも話しておくからさー。」

「どーぜ誰も見てないんだしよ。」

「そーだそーだ~。」

三人は別として、琴吹までもがこの状況を楽しんでいる。

「だ、誰か助けてー!!」

そんな俺の声に応じるように、何かが飛んできた。シュッという音とともにひさ子の手に握られていたサンオイルのボトルが真っ二つに割れて中身が全部地面にこぼれる。

「うわ、なんだ!?いきなりボトルが割れたぞ!?」

なぜか爆発もしたオイルはビチャビチャトひさ子にかかる。・・・これはこれで。うん、エロい。

「ひさ子先輩!これ見て下さい!」

関根は岩の壁簿一カ所を指さした。そこには白い何かが刺さっていた。

「こ、これ・・・岩沢のピックじゃねーか。まさか・・・アイツが飛ばしたのか?」

ここから別荘まで総距離は無いとは言え、よくここまで飛ばせる者だ。いや、そもそもこんな威力物理的にあり得ない。

「み、みんな!あそこ!」

琴吹は別荘の窓を指さした。あそこは確か、練習室があるところだ。そしてその窓の影から確かに見えた。肩まで掛かる赤い髪、アコースティックギター・・・間違いなく岩沢さんだ。

ただし、今の彼女は鬼のような形相を浮かべていた。まるで石にでも変えてしまいそうなその目は、しっかりと関根とひさ子を捉えていた。

「ひ、ひひ・・・ひさ子せせ、先輩・・・ど、どしましょう・・・。」

「は、はは・・・こりゃあ参ったなぁ・・・。まさか見られてたとは・・・。」

関根とひさ子は深々と、にまるで謝罪会見のように頭を下げた。それを見た岩沢さんは小さくため息をついて、ちらっと俺の方を見る。視線が合わさったのが驚いたのか、慌てた様子でカーテンを閉めてしまった。

「ふふ・・・やきもちね。まさみちゃん、可愛い~。」

やきもちね・・・それにしても物騒なやきもちだが。まさか、ピックを凶器に変えるなんて。

「さて、じゃあさっさと泳ごうぜー折角の自由時間が終わっちゃうからさ!」

「あ、りっちゃん待って~!」

田井中と琴吹は走りながら海へ。

「ま、すでにオイルは塗ってあるんだけどな~。関根、葵、私たちもいこうぜ。」

「え?そうなんですか?私塗ってないですよ~。」

「ったくしょうがねーなー。塗ってやるからこっち来い。・・・ついでに関根の成長の手助けもしてやるよ。」

ひさ子はひょいっと関根を担いで、どこかへ行ってしまった。

「いやああああ!葵先輩、助けてえええええ!」

しばらくしてって来た関根は、メロンとマシュマロはしばらく食べたくないと、念仏のように口走っていた。一体何されたんだよ・・・。

 

 

この日の昼食は冷やし中華だった。もう、この時点で誰が作ったのかは明白だった。

しかし、ここで開口一番に「岩沢さんが作った料理は美味い。」と言うようなへまはしない。なぜか、それはまだ誰が作ったのか発表していないからだ。

「さて、澪、今日の料理当番は誰だったんだ?」

「まさみと、みゆきだ。」

よし、これで制約は解除された。ホッとする俺の横で、岩沢さんは少し不機嫌そうだった。おそらく、あのサンオイルの件だろう。

「よし、それじゃあいただきまーす!」

まあ、今は食べる方が先だ。人間食べないと頭も体も動かないって言うし。

「どうだ綾崎?口に合うか?」

「さっぱりしてていくらでも食べられそうな気がする。うん・・・美味しいよ。」

「そうか・・・良かった。」

そう言う岩沢さんは、ほんの少しだけ口元を緩めた。でも、すぐに不機嫌そうな顔に戻ってしまった。

 

 

 

「さて、本格的に練習をしようと思うんだが。今日はリズム隊と、メロディー隊でパート練習な。田井中・・・死ぬなよ。」

「ちょ・・・何だよ死ぬなよって!何かあるのかよ!?」

「頑張りましょうね、田中せーんぱい☆」

「私は田井中だー!!」

岩沢さんが音楽キチ、入江がドラムキチなら、関根はベースキチ。全く、俺らのバンドにはそんなのしかいないのかよ。

「じゃあ、早速通しでやってみようぜ。」

「分かってると思うけど、ひさ子。お前コーラスだからな。」

「わーってるよ。サビの時にレィイイラ!だろ?」

そう言えばひさ子のコーラスって聞いたことないな・・・去年は俺と岩沢さんが交互にやってたし。

「今日の練習は琴吹がテンポの要だから。よろしく。」

「うん、まさせて~。」

昨日の一件から、俺がリフをやると、サビのところでパートを交換するという変則的なことをやらないといけないので、ひさ子がリフをやることになった。

ただ怒られただけと言う訳では無いのだ。

「よし、やるぞ・・・ワン・ツー・スリー!」

ひさ子のリフで、俺たちの練習が始まった。

この曲は大きく分けて二つに分かれている。歌詞のあるパートと、演奏だけのパートだ。この二つでおよそ7分という構成になっている。

前半はこれぞロックンロールという感じで、ひさ子は生き生きとギターをかき鳴らす。そして、がらりと雰囲気の変わる後半パート。

そこであんなに生き生きと弾いていたひさ子が突然弾きにくそうな様子を見せた。

実際にはリズムに狂いは無く、とても性格に音を出している。しかし、先ほどまでの勢いが感じられない。まるでただ楽譜通りに弾いているような・・・そんな感じだ。

「あーくそ・・・!ダメだ、全然だめだ。全く曲に入り込めねえ・・・。」

通しが終わった後、すぐにひさ子はそうため息をついた。

「後半に入って一気に影が薄くなったな。何かあったのか?」

「何もねーからあんな風になったんだよ。・・・あ~わっかんねぇ。」

「つまりひさ子は後半の雰囲気を出すような演奏の仕方が分からない・・・そう言うことか?」

「そうだよ・・・まったく。後半だけ岩沢に代わってもらいたいよ。」

まあ、確かに岩沢さんなら何かしらヒントを見つけて弾いてしまうような気がするけど。

「とにかく、明日にはなんとかするから今日は前半パートだ。」

本当に明日には何とかなる者なんだろうか・・・少しばかり不安だった。

「せ、関根・・・ちょっと休憩しようぜ。」

「ダメです!水分は叩きながら取って下さい!汗は叩きながら拭いて下さい!ほらほら、また走り気味ですよ~!」

「ひ、ひいいいいい!」

あっちはあっちで大変そうだった。入江の言うとおり、関根はかなーりスパルタンだった。

 

 

 

 

 

~ひさ子side~

 

「ん~やっぱ広い風呂は最高だな~。な、岩沢?」

一日の疲れを取るように、大浴場の中で大きく腕を伸ばす。こんなことができるのも大浴場ならではだよな~。葵のヤツシャワーだけなんて可哀想に。同情だけしてやる。

「・・・・・・。」

岩沢はむすっとした表情で、湯船につかっていた。まだ怒ってるのか。葵に対しての好意を表に出すようになったのは、大きな進歩だった。けど、その分こうして不機嫌になることも多くなった訳で。

「悪かったって、岩沢。言っただろ?先にオイルは塗ってあったんだよ。」

「良いよなひさ子は・・・同じグループで。」

そんなこと言ったら岩沢は初日から不機嫌だ立ってことになる。あー・・・だから昨夜の自由時間は異様に嬉しそうだったのか。

それに気がついてるか岩沢。お前が葵の隣に来るときの距離感がやけに詰まっていることを。もう一人詰めて座るわけじゃないのに。ま、面白いから黙っておくけど。

「ソレなんだけどさ岩沢。少し相談があるんだ。」

私はlaylaの後半パートを美味く引けないことを打ち明けた。

「・・・なるほどな。」

「教えてくれ岩沢。あの時の岩沢達みたいな雰囲気はどうやったら出せるんだ?」

溶けたチョコレートのようなどこまでも甘く、蕩けるような・・・そんな演奏。無数の隕石をまとめて吹き飛ばすような荒々しい演奏は何曲もやってきた。だけど、今回の曲はあまりにも私の経験からかけ離れていた。

「あるにはある・・・て言うよりも私はその方法しか知らない。」

「どんな方法なんだ?」

「ああ、相手の心臓の音を思い浮かべるんだ。昨日の演奏はそうしていた。」

摩訶不思議な方法が岩沢の口から飛び出した。相手の心臓ってことは葵の心臓の音だよな・・・。

「それってつまり岩沢は葵の心臓の音を聞いたことがあるのか?」

「ああ、聞いたことがある。去年の大晦日”何者か”にいよって布団の位置を変えられてね。」

あ~あの時ね。小さいうめき声ともぞもぞ音がするもんだから、ついにやったか!?と思ったけど、どうやら違ったようだった。・・・ちっ。

「・・・本当にそれだけであんな演奏ができるのか?」

「嘘だと思うなら今日綾崎に抱きついてみれば?今日だけ特別に許してやるから。」

特別にって、いつ葵はお前のモノになったんだよ・・・。まあ、それも進歩の一つってことで。

「もしそれで葵が私にメロメロになったらどうするんだよ~。」

「少し残念だけど・・・。仕方が・・・ないんじゃないか?」

冗談でそう言ったつもりなのに、すげー悲しい顔された。なんだよ~そんな顔されたら手出せないじゃないかよぉ・・・。出さないけど。

 

 

 

 

 

この日の夜も唯、秋山、中野はさっさと寝てしまったらしい。とても健康的で良いのだが、少しは昼に休めよ。なんですぐに遊びに行くんだよ。秋山まで。

入江と関根は田井中と猛特訓をするらしく、すでに練習室にこもっている。こりゃあ長い夜になりそうだな。

「よし、また上がり~。」

「ひさ子ちゃんこれで5勝目ね。」

残ったひさ子、岩沢さん、俺、琴吹でトランプをしている。運の要素が少ない大富豪なのにも関わらず、ひさ子の独壇場だった。

大富豪だけじゃ無い、ばば抜きも、じじ抜きも、ダウトも、ポーカーも全部ひさ子が勝利をかっさらっていったのだ。

「よし、次は神経衰弱だ。これならひさ子の運の要素は入りにくい!」

記憶ゲームならば俺の得意分野だ。最下位の俺が全てのカードをテーブルに並べる。順番は大富豪の最終上がり順。

「よし、じゃあ私からな。」

そう言ってひさ子がカードをひっくり返す。最後は大体のカードの場所を把握できるから、そこにつけいるスキがある。

「あ、これじゃねーのか。はい、次の方どーぞ。」

ひさ子は早くも、三組のカードを当ててきた。いや待て、それはおかしい。何で開始早々三組も集まるんだよ!?

くそ、これはうかうかしていられない・・・出てきた全てのカードを覚えるくらいなじゃないと太刀打ちできない。

前三組の出したカードのうち、そろっていたのは二組。俺はその二組を確実に獲る。

「あー外した・・・。二組か。」

一巡目はひさ子が三組、俺が二組。後の二人は組なし。

問題はここからだ、琴吹は分からないが、岩沢さんも確実に出たカードを取ってくるはずだ。この勝負、一瞬も気を緩めることができない。

「お、これって葵が出した数字じゃん。ラッキー~。」

こうしてひさ子とトランプゲームをしているとラッキーと言う言葉がゲシュタルト崩壊してくることがある。まるで、彼女が確立であるかのように運が向いているのだ。

何巡もするとようやく、ほとんどのカードの場所を把握することができた。

ひさ子が七組、岩沢さんが六組琴吹と俺が五組。なかなかの接戦だった。ここでもし残り四組を全てそろえることができたら俺の逆転勝利だ。

確実に把握している二組から取っていく。後一組そろえることができたら、俺の勝ち。残っているのは赤の7と、ジョーカーだと言うことは分かっている。そしてダイヤの7もどこかは分かっている。問題は残りの三枚、ハートのエースはどこだ?

俺はダイヤの7を出して考える。そう、この三枚は結局誰も手を出さずに終わった三枚だった。そうなればこれは完全な運だ。

だったらいくら悩んでいたって何も変わらない。

「よし、コイツだ!」

一枚のカードをめくる。そこには真っ赤なジョーカーが笑っていた。

「あ~~~くそ!またひさ子の勝ちかよ~。」

「へへ~残念でした。ま、頑張った方じゃねーの?」

そう言ってひさ子は残りのカードをめくる。ジョーカーと、ダイヤの7。

「あ、あれ?確かにこっちはハートの7だったはずじゃ・・・。」

焦るひさ子の隣で岩沢さんがクールに残りの二組をそろえた。これで岩沢さんの逆転勝利。

「あ、葵!てめーすり替えたな!?」

「そうとも。俺はどうしてもひさ子に負けて欲しかったんだよ!しかも同率二位だ。」

悔しがっているのはひさ子だけ、俺も、岩沢さんも、琴吹も少しすっきりした顔をしていた。

「あーもう。負けたよ、負けました・・・。ったく、そうまでして勝ちたかったのか?」

「いや、だってひさ子勝ちすぎだろ。綾崎、ありがとう。久しぶりにひさ子に勝てたよ。」

ひさ子に勝てたのが相当嬉しかったのか、岩沢さんは少しだけ口数が多かった。

「さて、言い時間だしそろそろ寝ようぜ。あいつらはまだやってるのか?」

「お布団を持ち込んでたから、そのままあの部屋で寝るみたい。それじゃあ、お休みなさい~。」

「お休み。」

琴吹と岩沢さんは自分の部屋に戻っていった。結局総合再開だった俺は最後の片付けをやることに。

トランプと、空のペットボトルを片付ける。・・・少しのどが渇いたのでお茶を煎れよう。

「ひさ子、お茶飲むか?」

「おー飲む飲むー。」

これまた高そうなカモミールティーのティーバッグでお茶を2杯煎れた。

「はいよ、眠れない夜に良く効くカモミールティー。」

「サンキュー。」

お茶をテーブルに置いて、ひさ子の隣に腰を下ろした。

「しかし強かったなお前。本当にあれは運だったのか?」

「当たり前だろ。昔っから運の要素が絡むと強いんだよな~。つーかそう言う葵だって、ばば抜きとじじ抜きは強かっただろ?」

「人の表情を読み取るのは得意だからな。」

ほんの僅かな目の動き方や、口元の変化で大体どんなことを考えているのか分かる。それを応用したのが、神経衰弱で使ったあの仕込みだ。

「何だよ、それはそれでチートじゃねーか。」

「良いだろ、チートにはチートで返すのが礼儀ってもんだ。それで、さっきから何か言いたそうだけど、どうした?」

「本当に分かっちまうんだな・・・。」

いや、だって目が泳いでるし。お茶を入れてる間ずーっとこっち見てたから、何かあるのかは分かるだろう。

「それで、何か相談か?もしかしてlaylaの弾き方のヒントを掴んだとか。」

「そ、そこまで分かるのか?」

「いや、これはただの勘。だって俺に相談する悩み事って言ったらそれくらいだろ?」

「そうだよな・・・うん、確かに・・・そう。」

よほど言いにくいことなのか、ひさ子はしきりに俯いて指を組んだり放したりを繰り返している。やがて、意を決して顔を上げた。

「頼む・・・何も聞かずに、葵の心臓の音を聞かせてくれ。変な頼みとは十分分かってる。少しの間だけで良いから・・・。」

何だよそれくらいのことでウジウジしてたのか。ひさ子らしくない。

「別に良いよそれくらい。てっきり誰かの部屋に忍び寄れとか、お前の抱き枕になれとか言われるのかと思った。」

「そんなこと言うわけ無いだろ!?そ、それに何だ抱き枕って!お前、そんな願望があるのかよ!?」

いや・・・男だったら一度はされてみたいじゃん抱き枕。ひさ子みたいな女の子に。口には出さないけど。

「それで、聞くなら早くしろよ。そろそろ眠くなってきた。」

「わ・・・分かったよ。」

ひさ子はそっと俺の胸に両手を当ててから、自分の右耳を押し当てた。

「・・・聞こえるか?」

「ああ、聞こえる。これが葵の音なんだな。何だか不思議な気分・・・他人の心臓の音を聞くなんて。」

今更だけど、この体制は少し恥ずかしい。理由はともあれ、年頃の男女が密接しているわけで。・・・岩沢さんとはまた違う甘いにおいが鼻をくすぐる。

「お、少しだけ早くなったな。ふふ・・・なんだかんだ緊張してるんだな。」

「う、うるせーよ。もう良いだろ?」

ひさ子の肩を掴んみ、無理矢理離して強制終了。

「それで、これが本当にヒントになったのかよ?」

「ああ、なったさ。明日を楽しみにしてろよ?じゃ、私も寝るとするか~。お休みー葵ー。」

ひさ子が部屋に戻るのを見届けた後、残りの食器を洗って俺も眠りについた。

 

「ちょ、ちょっと岩沢・・・何で私の部屋に?」

「感想を聞きに来た。」

「それは別に構わねーけど・・・はじめに聞きたい。何で私は岩沢の抱き枕になってるんだ?」

「そんな当たり前のこと聞くのか?綾崎の臭いを楽しむためだ。頭大丈夫か?」

「お前の頭の方が心配だよ!あ、ちょっと・・・そこ、やめ・・・~~~~~~~!!」

次の日の朝、なぜかひさ子と岩沢さんは同じ部屋から出てきた。仲がよろしいことで。




現在岩沢さんは、構ってくれない不安と寂しさとストレスのあまり少々変態的行動を取りがちな、事情に危険(おいしい)な状態です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。