登校して下駄箱を開けるとピンク色の封筒が入っていた。そんな今時漫画でも滅多に無いメルヘンが今俺の目の前で起こっていた。とりあえず鞄に入れて教室に入った。鞄を置き椅子に座り一息つく。さて、どうしようか。今見るべきか、あとでこっそり見るべきか。
「綾崎、どうかした?」
妙にそわそわしていたら岩沢さんに声を掛けられてしまった。
「い、いや・・・別に何もおかしいことは無いです。」
「その返事がすでに怪しい・・・。」
じとーっとした目で見てくる岩沢さん。いやー照れますなーそんなに見つめら得たらー。あっはっはっは・・・はぁ。
「実はですね岩沢さん。先ほどピンクの封筒が下駄箱にありまして。」
途端に不安そうな顔をする岩沢さん、そしてだんだん不機嫌な顔になり始めた。はい、ごめんなさい。
「こんな話岩沢さんにするべきじゃなかったかな・・・ごめん。」
「それで、その手紙はどんな内容だった?」
しかし、興味はあるようでした。
観念して鞄から例の封筒を取り出して机に置く。差出人は大体予想がつくが中身を取り出す。
お久しぶりです先輩。今は葵紅騎先輩でしたっけ。やっぱり先輩は陸上をしてなかったんですね。
少し寂しいですが先輩が決めたことですからね。でも時々顔を出していただければうれしいです。
今年の夏休みに私は実家に戻る予定ですので、先輩も一緒に来てください。いえ、来るべきです。
お話ししたいことがあるので放課後、学校から五分ほど歩いたところにある公園に来て下さい。待ってます。
相川華菜
これは手紙としてはどのカテゴリーに入るのだろうか。わざわざピンクの封筒に入れる内容でも無い気がするけど。見てはいけないものを見てしまったような表情をする岩沢さん。
「・・・すまない綾崎。」
「いや、別に気にしてないから・・・だいじょうぶ。」
何とも気まずい空気が俺たちの間に流れた。この空気を打破するために説明することにした。
「この手紙の差出人はな、死んだ親友の妹なんだ。今年ウチに入学したらしいよ。」
「綾崎って陸上やってたの?」
「まあね。一応関東大会優勝の経験があるんだぜ?」
「それでギターが上手くて、料理ができて、勉強できて・・・か、かっこよくて。」
最後あたりからだんだん声が小さくなって聞こえなくなったが、どうやら俺を褒めている様だった。
「お褒めに預かり感謝の極みでございます。」
「か、からかうな・・・。」
顔を赤くする岩沢さんを眺めていると不思議と口の端が緩むのだった。
放課後何とか理由を付けて部活を抜けさせてもらった。その際に岩沢さんに協力してもらった。何かお礼をすると言ったら後ろ姿がピクッと反応していた。
梅雨の合間の曇り空は心なしか陰鬱な気分にさせられる。灰色の空が覆う公園の噴水に一つの人影が見えた。
「お久しぶりですね、紅騎先輩。部活は良かったんですか?」
「何とか抜け出せたよ。そういう相川妹は?」
「今日はお休みです。てゆーかその呼び方久しぶりですね。」
俺と相川妹は噴水に腰をかけた。
「それで、話したい事って?」
そう聞くとなぜか相川妹は照れ笑いを浮かべながら頭を自分で撫でていた。
「いやぁ実を言うと特に話は無いんですよ。ただ先輩の姿を間近で見てみたかっただけでして。」
「なんだそりゃ・・・まあ、良いけどさ。」
「でた、先輩の口癖ー。私はちょっと嫌いなんですけどね。全部諦めてるみたいで。」
「関東チャンピオンにそれを言うか。」
「だって、先輩がどの口癖出始めたのは三年生のころじゃないですか。」
くすくすと笑う相川妹の横で俺は少し考える。そうだったけ?まあ、自覚してにから癖って言うんだろうけど。
「ま、私からお話しすることはもうありませんから。あ、連絡先教えて下さいね?向こうへ戻る日にちとか伝えますんで。」
結局本当に他愛ない話をして、連絡先を交換しただけで俺たちは解散した。夕方と言ってもまだまだ外は明るい。折角なのでたまには寄り道をして変えることにした。まあ、行き先は楽器やなのだけど。