用があるからといって先に帰った田井中の代わりに俺が最後まで残って部室の鍵を職員室に返した。
もう校舎に残っている生徒も少なく、校庭で行っている部活も後片付けを始めていた。
靴を履き替えて校門に向かうと、物陰から長い黒髪が揺れているのを見つけた。
「中野・・・何やってんの?」
「あ・・・葵先輩・・・。」
確か中野はちょっと前に帰ったはずだったけど・・・。
「誰か待ってるのか?」
「えっと・・・先輩を待ってました。」
まあそんなことだろうとは思ってたよ。そうでもなければ玄関を出た瞬間俺と目があった理由が分からない。
「そりゃまた何で?」
「あの・・・ちょっと聞きたいことが。」
「とりあえず歩きながら聞こうか。帰り道はこっちだけど同じか?」
「あ、はい!」
こうして並んで歩くと改めて身長差を実感する。俺が普通に歩いてるつもりでも中野はちょっと大変そうだった。
「・・・で、聞きたい事って?」
歩く速さを中野に合わせながら俺は聞いた。
「葵先輩って・・・本当にあの綾崎紅騎先輩なんですか?」
「今年から葵に変わったけど正真正銘俺は綾崎紅騎だよ。」
「でも・・・あの時と全然雰囲気が違いますよね?自分のことも俺ってよんでるし・・・。それにちょっと怖いです。」
「あの時の俺はちょっとした事故で記憶喪失状態だったんだよ。」
「そ、そうだったんですか?」
「自分が誰なのか分からない日がずっと続いて結構大変だったんだぞ?」
「す、すみません・・・。」
落ち込んでいる様子の中野の頭に俺は手を乗せてちょっと雑に動かした。
「ひゃっ・・・せ、先輩!?」
「そう落ち込むなって。あの時の俺が唯一心を開いたのが中野だったんだからさ。」
ただ一方的に綾崎紅騎だと言うことを押しつけられて苦しんでた俺はあの瞬間確かに救われた。
「と、突然何言ってるんですか!」
「時間は経ったけどありがとう中野。あの時の俺を助けてくれて。」
俺は中野の頭を撫でるてに力を入れた。
「や、やめてください・・・うぅ。」
「いや、こうやって恥ずかしがる中野もなかなか・・・。」
「も、もう・・・先輩なんか嫌いです!前の先輩の方が良かったです!」
「そうは言うけどな中野。あんな風に優しく言い寄る男は何かしら下心があるんだぞ?」
「じゃあ今の先輩の方が安全だと言いたいんですか、それで安心させるつもりですか!?」
「No problem.I like woman who has little more a good style.」
訳:大丈夫。俺はもう少しスタイルの良い子が好きだから。
「言ってる意味は分かりませんが何だが凄くバカにされた気がします!!」
うん、やっぱり後輩をいじるのは楽しい。