触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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33話「・・・やっぱりやりやがった。唯の奴。」by紅騎

「玲於奈ちゃ~ん、お昼一緒に食べない?」

お弁当を抱えた憂が私の隣の机に座る。

「もちろん。そういえば憂って朝昼晩全部作ってるんだっけ?」

「うん、そうだよ~。うわぁ、玲於奈ちゃんのお弁当おいしそう~。」

「あ、ありがと・・・。」

「これって玲於奈ちゃんが作ったの?」

「私朝弱いからお兄・・・こほん、兄さんが作ってくれるの。」

危ない危ない・・・さすがに学校でお兄ちゃんは恥ずかしいもん。気をつけないと。

「へぇ~紅騎さん何でも出来るんだね。」

「うん!・・・・そう言えば憂は部活入るの?」

「ううん、私は家事とかお姉ちゃんのお世話とかがあるから。」

相変わらず平沢家の大黒柱ね・・・。

「憂って本当に唯さんのこと好きだよね。」

「うん!けど玲於奈ちゃんも”お兄ちゃん”大好きだもんね~。」

ば、ばれてたか・・・。さっきからちょっとニヤニヤしてたのはやっぱり気のせいじゃ無かったか。

「玲於奈~私も一緒に食べて良い?」

声のした方を見ると、梓がコンビニの袋を持って隣に立っていた。

「玲於奈ちゃん、この子は?」

「あ、うん。この子は”あの時期”に会ったの。名前は中野梓。」

「よろしく・・・玲於奈、あの時期って?」

梓が適当な机を近くに寄せながら聞いてきた。

「こ、こっちの話・・・それでこっちが平沢憂。いわゆる幼馴染みってやつ。」

「よろしくね、梓ちゃん。」

「うん、よろしく憂。それで玲於奈、紅騎さんはジャズ研?それとも軽音部?」

やっぱりその話がでたか・・・大丈夫かな?梓今のお兄ちゃんを知らないからなぁ。

まあ、その時はお兄ちゃんが何とかしてくれるから大丈夫か。かなり理不尽だけど私じゃどうにも出来ないし・・・。

「軽音部だけど、梓も軽音部に入るの?」

「当たり前じゃない!それに軽音部のレスポールの人すっごい格好いいんだよ!」

「えへへ~」

それを聞いて憂の口がゆるみ始めた。

「・・・って、なんで憂が笑ってるの?」

「憂のお姉さんがそのレスポールの人なの。」

「へえ、そうなんだ!演奏が凄く上手で私の憧れなんだ~きっとここの軽音部レベル高いんだろうなぁ。」

・・・・・・こっちも大丈夫かな?だいぶ唯さん美化されてるけど。

ちょっと憂の顔が焦り始めた。

ごめん憂、こっちはお兄ちゃんでもフォローできないかも。

 

 

 

今日は唯達の新歓ライブの日だ。

といっても俺たちは出演しないので準備と片付けを手伝うだけだ。

その間俺たちは舞台袖で見ていることにした。

「いやぁ~こうして見る側にたつのも新鮮だな。」

「確かに・・・。」

「秋山先輩達がどんな演奏するのか楽しみだね~みゆきち!」

「うん!」

証明が落ち始めて、周りが徐々に暗くなる。ライブが始まる合図だ。

 

 

 

ライブはとりあえず順調に進んでいるようだ。秋山も多少緊張しているようだが問題は無さそう。

心配なのは唯だ。おそらく自分に酔い始めて変なミスをする恐れがある。

「じゃあ次の曲。私の恋はホッチキス~。」

そう言って唯はイントロを弾き始める。目線は完全にギターに。その横で異変に気付いた秋山は慌てて代わりに歌い始めた。

「・・・やっぱりやりやがった。唯の奴。」

「まあ、平沢らしいっつえば平沢らしいけどな。」

そして相変わらずこの歌詞センス。独特過ぎて俺にはついて行けない。

そんなトラブルもあったが無事に新歓ライブは終了した。

さあ、新入部員は来るかな?

 

 

 

放課後になり軽音楽部の部室内は妙に重い空気に支配されていた。

「コウ君、今何時?」

「四時四十分。」

「そろそろみんな下校なり、部活なりに向かう時間だな。」

そう言う秋山も少し声が震えている。

「うぅ・・・緊張してきたよ。コウ君今何時?」

「四十分と三十秒。唯は少し落ち着け。」

「そうだぜ唯、まだまだ時間はあるんだからゆっくり待てば良いんだよ。」

珍しく部長らしいことを言う田井中だが、さっきから意味もなくクラッシュシンバルの角度をいじっている。

「おっと、スティックが落ちた。」

・・・だめだこりゃ。

 

がちゃ・・・。

 

「あの・・・軽音部ってここですか?入部希望なんですけど。」

そう言って現れたのは小柄でツインテールの女子生徒・・・って、まさか。

「確保おおおおお!!」

「ぎゃあああああ!?」

まあ、突然見知らぬ先輩に襲いかかれたら驚くよな。

そんなことよりもまさかあの子が来るとは。

記憶喪失の時期にあった一人のギター少女。なんかまた変な巡り合わせだな。

「私お茶用意する!」

「よし確保したぞ唯!」

「やったねりっちゃん!!」

・・・そんなことよりもアイツらを落ち着かせる方が先か。

ついでに関根と入江の自己紹介も一緒に済ませてしまうか。

 

 

「えーと・・・一年二組の中梓です。パートはギターを少しだけ・・・。」

「一年三組の関根しおりです!パートはベースですよろしくお願いします!」

「同じく三組の入江みゆきです・・・パートはドラムです。よ、よろしくお願いします。」

「ふー・・・これで私達のバンドにも新入生ができたぞ~!」

「中野さん・・・だっけ、ギターって事は唯と一緒だな。」

「はい、よろしくお願いします。唯先輩!」

「先輩・・・せんぱい・・・せんぱい・・・」

中野の言葉がよほど嬉しかったのか唯はあっという間に自分の世界へ。

「そうだ、そっちにいる三人が私達とは別のバンドのメンバーで左からひさ子、岩沢、葵な。」

「あ・・・お、お久しぶりです・・・。」

そうだった。岩沢さんとひさ子も一度会ってるんだっけ。

「梓ちゃんだっけ。4ヶ月ぶりだな。」

「・・・よろしく。」

「何だ二人は面識があるのかよ~だったらもっと早く勧誘しても良かっただろ~」

田井中が不満たっぷりな様子でひさ子達に抗議した。

「はっはっは、わりーわりーでもこっちだって忙しかったんだぞ?」

「・・・・・・」

ひさ子と田井中の会話よりも俺は中野が不思議そうな目で見つめてくるのが気になっていた。

あれ~おかしいな~?とでも言いたそうな目だ。いや、実際に口が小さくそう動いたのを俺は見てしまった。

とりあえず俺は見なかったことにしていまだにトリップしている唯に話しかけた。

「おい唯、いい加減帰って来い。」

「はっ・・・そうだ、取りあえず何か弾いて見せてよ!」

帰ってきた唯は自分のギターを中野に渡した。

「ま、まだ初心者でお聞き苦しいところがありますけど・・・。」

そう言って弾き始めたギターソロはやっぱり唯よりも上手かった。

「あ、あの・・・やっぱり下手でしたか?」

「ま・・・まだまだだね!」

なぜだか見栄を張った唯は自分で自分の首を絞めることに。

「やっぱりそうですよね・・・よろしかったら唯先輩の演奏も聴かせてください!」

そして自分の手に戻ってきたギターを握りしめ、ちょっと涙目になる唯。

「あー・・・えっと。ライブでぎっくり腰になったからまた今度ね。」

なんとも苦しい良いわけだった。

 

 

「それじゃあ入部届は受け取ったから明日からよろしくな。」

「はい、私先輩達の新歓ライブみて感動しました!明日からよろしくお願いします!」

「うぅ・・・眩しすぎて直視できない。」

唯の化けの皮が剥がれるのもそう遅くないな・・・。


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