触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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32話「・・・だめ?」by岩沢

唯達が勧誘活動を初めて早一週間。一向に新入生が現れる雰囲気がない。

「うぅ・・・どうしようコウ君。」

どうしようと言われてもな・・・その着ぐるみが原因なのは丸わかりだし。

かといって今更制服で勧誘しても効果はないだろうし。

「山中先生、助言を願いたい。」

「そんなの簡単よ。新歓ライブで新入部員をゲットすれば良いでしょ。」

「おお!その手があった!さすがさわちゃん!」

机の上でぐったりしていた田井中が突然元気になった。

「そうか・・・最初からそうしていれば。」

今更ながら落ち込み始める秋山。おい、しっかりしろ田井中の保護者。

「そうと決まれば早速練習だよ!」

楽器を準備し始める四人を俺たちは琴吹に煎れてもらった紅茶を飲みながら眺めていた。

「あなた達は良いの?」

「はい、必要なメンバーは集まりましたから。」

「じゃあ、ライブも出ないつもりなの?」

「はい、そのつもりです。」

さすがに”新”入生”歓”迎ライブに新入生を出すわけにはいかない。

それに前みたいに田井中と秋山を使って唯達に迷惑をかけるわけにもいかないからな。

「綾崎の言うとおり。それにまだ他にもやることがある。」

そう言って岩沢さんは楽譜やら何やらを机に広げた。

「凄い、これって全部岩沢先輩が書いたんですか!?」

「・・・そうだけど。」

「やっぱり作曲できるなんて凄いです。私じゃアレンジが限界ですから。」

「アレンジが出来るなら作曲もこつを掴めばすぐにできるさ。」

そう言って岩沢さんは一冊のノートを関根に手渡した。

「これ・・・何のノートです?」

「やりたい曲のイメージとかをまとめたノート。作曲、してみなよ。」

「い、いきなり作曲ですか!?む、無理ですよ!!」

「別に明日明後日で完成させろって訳じゃないから。・・・大丈夫。」

「何が大丈夫なんでしょう・・・。」

諦めろ関根・・・一度決めたことは絶対曲げないからな。この人は。

「よかったねしおりん。失敗を恐れるよりもやらないことを恐れよ・・・だよ。」

「うぅ・・・みゆきちが某自動車会社の社長さんになちゃったよ~。」

「ま、やるだけやってみるのも大事だぜ?」

「・・・はい。」

 

「それで、曲順はどうする?」

「う~んそうだなぁ・・・」

「はい、私モンブランが良い~」

「はい、どうぞ~」

「唯ちゃんームギ紬ちゃーん、何やってるのかなぁー?」

・・・あちらはあちらで苦労しているようだ。

 

「それじゃ新曲。」

岩沢さんはファイルから楽譜を取り出して全員に手渡した。

「岩沢の三曲目か・・・それどれ。Hot meal?何じゃこりゃ。」

「岩沢さん・・・この曲名は?」

「・・・だめ?」

うん、駄目だよその上目遣いの「・・・だめ?」は。・・・直視できない。

「ま、良いんじゃねーの?岩沢の曲なんだし。」

俺の代わりにひさ子が意見を言ってくれた。ふぅ・・・サンキューひさ子。

「良かった・・・私もこの曲名はどうかと思ったんだけど。ひさ子が言うならしょうがない。」

「変えろ!そんな理由なら即刻変えろ!」

「・・・・・・」

なぜかちょっとすねた表情になる岩沢さん。いや、ちょっとじゃないあからさまにしゅんとしている。

まるで飼い主に怒られている犬のごとく。

「ま、まあ曲名は置いといて。それでこの曲は半音下げ?それともレギュラー?」

「まだ決まってない。半音下げにするとギターソロで何となく違和感が出るんだ。でも半音下げると迫力が出る。」

つまりそこで迷っているわけですかい。

「ま、とりあえずレギュラーの方でやってみよう。半音下げはその後かな。」

「じゃあ、イントロでもう少し迫力が出るようにした方が良いんじゃねーの?」

「・・・やってみる。」

 

「ねーねー澪ちゃん、お茶にしよーよー。」

「そうだーそうだー休憩させろー。」

「おい、こら部長。」

「じゃあ、お茶用意するわね~」

「わーい、さっすがムギちゃん!」

「はぁ・・・じゃあ少し休むか。」

 

頑張れ秋山澪さん、アンタはえらい。だが相手が悪い。

 


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