翌日、二人は正式に新入部員として登録された。
唯達は今日も散らし配りに精を出しているそうだ。
金髪の子は関根しおり通称しおりん。銀髪の子は入江みゆき通称みゆきち。
彼女たちは小学生の時から一緒で、ベースとドラムを楽しんでいたがなぜかバンドには参加していなかったらしい。
理由はリズム隊を募集しているバンドが無かったから。だそうだ。
そしてあの件について聞いてみた。
「入江、なんであの時あんな言葉を?」
「えぇと・・・その・・・本物じゃ無かったんです。あの人達の演奏は。」
「本物じゃないってどういうことだい?」
「はい、何というか・・・ただ弾いているだけで何も伝わるものが無かったんです。」
・・・この子はおどおどしているが言うことは言うんだな。
「そう言えば何で君たちはcrow songを知っていたんだ?」
「それはですね。去年ここの学園祭に来たときに聞いたんです!」
「たった一曲だけで・・・へぇ良い耳持ってんじゃん。」
しかも一曲聴いただけでアレンジまで出来るとはかなりの腕前と見て良い。
「二人は役割分担をしてる?」
「はい・・・岩沢先輩の言うとおり私が曲を覚えて、しおりんがアレンジしました。」
「ちなみに二人はレパートリーは何曲くらい?」
「ざっと200曲と言ったところです!」
俺たちは驚嘆の声を漏らした。
「私からも質問しても良いですか?」
「もちろん。何でも良いぜ~。」
「葵先輩は・・・なんで岩沢先輩からは綾崎って呼ばれてるんですか?」
・・・そう言えばそうだったな。これは岩沢さん本人に聞かないと分からないし。
「前の名字が綾崎だったんだよ。それで俺も知りたいんだけど何で?岩沢さん。」
「綾崎は・・・綾崎だ。」
「・・・そういう理由らしいよ。」
「はいは~い私からも質問です!葵先輩と岩沢先輩はどういう関係なんですか?」
「ちなみに聞くけど関根サンからはどんな風に見える?」
「かなり円熟した恋人同士に見えます!」
「素直な意見ありがとう。・・・だけど私と綾崎は別にそんな関係じゃ無い。」
岩沢さんが丁重に否定した。
「そうだそうだ。こいつらはそんな程度じゃ収まりきらないほどの深~い関係なんだよ!」
「・・・ひさ子。」
ひさ子の余計な発言に岩沢さんはちょっとだけ怖い目つきをした。
「はっはっはっはっわりーわりー。」
「じゃあひさ子先輩と葵先輩が付き合ってるんですか?」
ここで俺は仕返しに関根の発言に乗っかって、ひさ子の肩に腕を回して答えた。
「よく分かったな~実は俺とひさ子が深~い愛情で・・・」
「ただ今~ビラ配り疲れたよぉぉ・・・」
タイミング悪く唯達が帰ってきた。もちろん今の会話もバッチリ聞かれた上にこの状況だ。
唯の顔がどんどん青ざめ初め、しまいには目に涙があふれ始めた。
「うわ~ん・・・コウ君が人のものになっちゃったよぉ~・・・。」
「ごめんなさい。もう二度と悪ノリしません。」
この後バッチリ部長さんに怒られた俺はひさ子の前で正座をして謝った。
「今後一切あんなこと突然やるなよ。やるなら先に言ってからな。・・・こっちだって心の準備が。」
「ひさ子さんさらに誤解を招くような発言をやめていただけないででしょうか。」
「そうか?にししし、ほらどうしたこ・う・き・くん。さっきまでの威勢はどこへ行ったのかな~?」
「うぅ・・・マジで勘弁してください。」
今日の部活はひさ子にいじられ続けるのと、全員の誤解を解くのと、一気に不機嫌になった岩沢さんに謝ることに時間を費やされた。