触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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30話「あ、あなたはさっきの!」by関根

結局成果のなたっか俺たちは早めに下校して楽器屋に立ち寄っていた。

いい加減部活中お茶を飲んでいるときに演奏すると切れる顧問対策に、エレキドラムが欲しいと思っていたからだ。

そうすれば全員の音を一つにまとめてヘッドホンで聴くなんてことも出来るからだ。

店内にはいると、ベースとドラムの音が聞こえた。どこかで聞いたことのある旋律だった。

「へぇ、なかなか上手いな。」

「ちょっと見てみようぜ、どんな奴が弾いているのか興味が沸いてきた。」

ひさ子の後に続いて、物陰に隠れてそっと覗いてみた。

「綾崎・・・あの二人はさっきの子達じゃないか?」

岩沢さんの言うとおり、さっき俺にぶつかった子がドラムを、金髪の子がベースを演奏していた。

これは絶好のチャンスかも知れない。早速声をかけに行こうと思った矢先。

「・・・少し良いか?」

「あ、あなたはさっきの!」

いつの間にか自分のギターを持った岩沢さんが声をかけていた。

遅れて俺とひさ子も姿を晒す。

「あ・・・あぅ・・・。」

途端にドラムの子が申し訳なさそうにうつむいてしまった。

それを気にしないようにして俺はベースのこの方に話しかけた。

「さっきの演奏良かったよ。ベースとドラムだけなのに凄いな。」

「ありがとうございます!・・・それで先輩達はなんで楽器を準備してるんですか?」

「いきなりだけど合わせてみない?何の曲ならできる?」

岩沢さんが代わりに答えた。すると、二人は驚きの表情を見せた。

「そ、そんな・・・いきなり無理ですって!」

「さっき弾いていた曲。あれってcrow songじゃないか?」

二人はさらに驚きの表情を見せた。

「確かにちょっと違うところもあったけど、アレは確かにcrow song だったな。よく分かったな岩沢。」

「な、なんで分かったんですか?」

「あの曲は私が作曲したんだ。それにしても凄いな。一回聞いただけであんなに良いアレンジが出来るなんて。やっぱり経験者は違う。私にはああいう天性の勘みたいなものは無いから。だから一緒に演奏してみたい。いや、是非演奏させてくれ。」

目の色が変わった岩沢さんはベースのこの方を掴んで熱弁をふるった。

「ど、どどど、どうしようみゆきち・・・私達セッションするの初めてだよね?」

「あ・・・うん、べつに良いですよ。・・・私興味があるから。セッションするの。」

「よしじゃあ早速合わせよう。」

「はい、ちょっと待ちなさい。」

暴走気味の岩沢さんの顔を両手でホールドして、こちらに向かせる。

「一回落ち着こうか。平常心でやらないと出来るものも出来なくなるぞ?」

「・・・・・・すまない。」

よし、これで大丈夫だ。店員に許可をもらってエフェクターに接続をした。

「あ、あの・・・ドラムイントロから入っても良いですか?」

ドラムの子がおどおどしながら聞いてきた。

「ああ、構わない。ひさ子、合わせられる?」

「全然問題ないぜ~。」

「ありがとうございます・・・。」

ドラムの子は一度目を閉じて深く深呼吸をした。次に目を開いたときは別人のような目つきをしていた。

これが彼女なりのスイッチの入れ方なんだろう。

軽快なライドシンバルの後、彼女はスネアを鋭く叩き続けた。

岩沢さんはそこに合図代わりのスライドを入れた。

俺たちはそれに合わせてイントロを奏で始めた。

 

やっぱり秋山や田井中のちょっと遠慮した演奏と違って二人は全力でリズムを刻んでいた。

とても初めて合わせるとは思えないほど堂々とした演奏だった。

ついに見つけた。最高のドラムとベースを。


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