『これより部活動紹介を始めます。まずは吹奏楽部の皆さんによる演奏です』
今日の日程は1・2時間目に配布物や、細かい連絡。3・4時間目に部活動紹介。昼休みを挟んで、各委員会決め。という感じだ。
座る順番は自由らしいので、俺と音無は真ん中当たりの所に座った。
「なあ、綾崎。お前部活動に何か入るのか?」
「いや、特に入る気はない。音無は?」
「俺も・・・特に頑張ってるモノって無いからな」
それに俺はバイトをやらなきゃならないから、時間もない。
『吹奏楽部の皆さんありがとうございました。続いて、ジャズ研究部のみなさんです』
へぇ、ジャズ研なんてあるんだ・・・。
~~~~~♪
う~ん・・・上手いとは思うんだけどなぁ。・・・何かが違う。
・・・・・本当にコレはジャズなのか?
いや、ジャズじゃねぇな・・・これ。
「ジャズ研究部のみなさんありがとうございました。続きまして・・・」
この後の部活動はなんだかよく分からないものばかりだから寝て良いか?・・・寝るぞ?
・・・つーか、日本舞踊部って何だよ。
俺の意識はだんだん闇の中に引きずり込まれていった。
目を覚ましたときにはすでに部活動紹介は終わっていて、ちょうど講堂から出るところだった。
「ふぁ~・・・ん、眠ぃ」
「ぐっすり寝てたなぁ。紅騎」
「だって、退屈だったし・・・」
それに部活なんて俺には関係なしだし。
「まあ、良いか。それより昼飯どうする?」
「弁当だけど・・・?音無は?」
心底意外そうな顔をされた。・・・悪ぃかよ。こっちは中一から自炊してんだよ。
「購買でパンでも買おうかと・・・」
「じゃあ、先に教室行ってるよ」
「おう、分かった」
俺は一足先に教室に戻り鞄から弁当を取り出した。
今回は餃子弁当だ。冷凍食品より作った方が安いし、俺自身冷食は好きじゃないからだ。
ニンニクは入れてない。臭いがきついし。
代わりに柚コショウを使ってる。
「美味そうな物食べてるな」
横から声が聞こえた。
声がした方を見てみると、長身でポニーテールの女子生徒が惣菜パンをかじってた。
「タダではやらん。欲しいならトレードだ」
「ちっ、しょうがねーな。・・・ほらよ」
女子生徒はビニール袋をあさってコンビニおにぎり《梅干し》を渡した。
・・・まあ、良いか。
俺は箸で餃子を一個つまんで差し出した。
「・・・・・・ん」
「お、それじゃ遠慮無く・・・」
ぱくっと、そのまま一口で言った。
「・・・ん、・・・美味いな。」
「それよりも・・・お前、こっちのクラスじゃないだろ?」
こんな目立つ体型(特に胸の辺りが)してるのに気づかない何てことあるはずがない。
「うん、私は二組のひさこだ。綾崎紅騎君」
「・・・なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「岩沢から聞いたんだよ。私はアイツと一緒のトコでバイトしてるんだ」
「ふ~ん・・・で、その岩沢さんは?」
「それが分からないから、ここに来たのさ。私以外の知り合いなんてお前くらいだし」
「・・・・私がどうかしたって?」
ひさ子の背後の方から低く冷たい声が聞こえてきた。
覗いてみると、購買のパンを持った岩沢さんが立っていた。
「よ、よう岩沢。ちょうど一緒にメシ食わないかって誘おうと思ってたんだ」
「・・・それと綾崎の弁当をつまむのと、どう関係有るんだ?」
・・・気のせいかな、岩沢さん・・・怒ってる?
「おぉ!そうだ、岩沢も食ってみろよ。美味いぞ!綾崎の餃子!!」
そう言って俺の弁当を指さした。
「・・・餃子?」
怪訝そうな顔をして俺のおかずを見る岩沢さん。
「・・・・食べる?」
「岩沢、私はおにぎりと交換して食べたぞ」
「・・・・・」
岩沢さんはパンを片手に俺の所に歩み寄ってきた。
「綾崎・・・Aをドイツ語で発音すると?」
「?、アー・・・・・ムグゥ!?」
素早く手にしていたパン(食べかけ)を俺の口にねじ込んできた。
その間に俺の手から箸を奪い、餃子を一口。
「・・・・ん、柚コショウ入りか。なかなかやるな、綾崎。」
・・・そ、そんなことより誰か水を!!俺に水を!!
「綾崎~待たせたな・・・って、どうした!?」
変なタイミングで音無が帰ってきた。その手には紙パックの牛乳が。
俺は有無を言わさず音無の手から牛乳を奪い、ストローを使わずに一気に飲み干した。
「ング、ング、ング・・・・ぷは!!・・・・はぁ、死ぬかと思った」
「綾崎!?俺の、俺の牛乳!!」
あー・・・そうだった。とりあえず財布から百円を出して音無の手に握らせた。
「サンキュー。助かったよ、音無」
「お・・・・おう。」
とりあえず俺を窒息死寸前まで追い込んだ張本人を見る。
「?どうした綾崎。私の顔に何か付いてるのか?」
「いや、その前に何か言うことがあるんじゃないか?」
「・・・・特に無い」
・・・もういいや。
大物だ、この人・・・。
五限の予鈴が鳴る
・・・もうそんな時間か。
「じゃ、私は戻るわ~。またな、綾崎ぃ~岩沢ぁ~」
残りのパンをたらい上げて、ひさ子は教室をを出て行った。
「みんな、この時間は各委員会を決めるわよ。」
委員会ね・・・まあ、適当なところに収まっておこう。
キーンコーンカーンコーン・・・
午後の委員決めも終わり(俺は図書委員会に入った)、放課後だ。
今日こそは店に顔を出しに行かないと。
唯は何の部活にはいるか悩んでいるらしく、さっきからうなってる。
・・・今日は一人で帰るか。
「じゃ、俺は先に帰るわ。じゃあな、音無」
「おう、また明日!」
音無とそんな言葉を交わして教室から出た瞬間。
「おぉっと危ねえ・・・」
目の前を二人の女子生徒が走り去っていった。・・・もう少しでぶつかるところだった。
「あー、誰だか知らないけどわりーわりー!!」
「ちょっと律!引っ張るなって!」
そのままスピードをゆるめずにカチューシャと黒髪は走り去っていった。
「廊下は走るなよ~」
何てこと言っても聞こえるはず無いよなぁ・・・。
ま、良いか。
「・・・帰るか」
俺は学校を出た後予定通り、例の店”UNISON”に着いた。
準備中の札を無視して、そのまま店内へ。
カランカラン・・・
「こんちは~」
「済まんな、まだ準備中で・・・って、紅騎じゃないか!」
「お久しぶりです、マスター」
「その制服・・・桜高に入学したのか?」
「そうです・・・って、メールで言ったはずなんですけど」
「あれ?そうだったけか?まあ、良いじゃないか!」
そう言って俺の背中をバンバン叩いてきた。・・・相変わらずだな。
「今回はありがとうございます。こんな話しを持ちかけてくれて」
「なぁに、こっちも人手が足りなくなってきてね。こっちこそ礼を言いたい気分だよ」
「お父さん!!また空き缶を吸い殻入れに使ったでしょ!?」
そんな声と同時にマスターの肩がビクゥ!っと揺れた。
「いや、それは・・・その、えーと。・・・・近くに灰皿がなかったんだ」
「だからそれがないようにベランダに吸い殻入れを置いたんでしょうが!!」
店の奥から黒いポニーテールをゆらした若干つり目の少女が出てきた。
「・・・・あれ?お客さん・・・・って、お兄・・・じゃなくて紅騎さん!?」
「よっ、久しぶりだなレナ!」
出てきたのはマスターの一人娘の葵 玲於奈(あおい れおな)だった。(ちなみにマスターの名前は、葵 弦(あおい げん)という)
俺よりも一個年下で、小学校からの付き合いだから唯とも顔見知りだ。
ちなみに玲於奈をレナと呼ぶのは俺だけだ。なぜか俺以外のヤツがレナと呼ぶととたんに不機嫌になるからだ。
「あぁ、丁度良い。玲於奈、紅騎にここの仕事に就いて教えてやってくれないか?ちょっとたばこ買ってくるから」
「え?働くって・・・あっ、お父さん!こらー逃げるな!」
マスターはさっさと店から出て行ってしまった。
「・・・もう、逃げ足は速いんだから」
「ははは・・・」
この様子だとマスター、娘に頭が上がらないな・・・。
「突然いなくなったかと思ったらまた突然現れるんだもん、紅騎さん」
「悪かった・・・心配掛けて」
「さっき見たときは別人かと思いましたよ。印象ががらりと変わったって言うか、何かあったんですか?」
「・・・・・・」
マスター・・・レナに何も言ってないな。・・・・どうするか話した方が良いのか?
「・・・何か、あったんですね。・・・・嫌じゃなかったら話してくれませんか?」
「聞いてて、あまり気分良くない話しばっかだぞ?」
「構いません」
レナはじっと、俺と目を合わせてきた。
「・・・分かった。話すよ」
俺は唯に話してやった内容と同じようなことを話した。
・・・もちろん親父が殺された話しも。
「大体こんな感じだ。」
「そう・・・ですか、そんなことが・・・・」
心なしか周りの空気がちょっと重くなった気がする。
「・・・だからマスターにはすげー感謝してるんだよ」
「本当に・・・たまにはマシなことするんだ。お父さん」
たまにはって・・・扱い酷いなぁマスター。
・・・そういえば昔っからマスターには厳しかったな、レナ。
「全然変わってないな・・・お前」
「え?・・・そ、そうですか?」
「ああ、その髪型だってずっと同じだし」
・・・だけど、何か違和感があるんだよなぁ。
何だろう・・・。
考えること数秒。
ああ!俺の呼び方が違うんだ。
「そういえば何で俺のことを紅騎さんって呼んでるんだ?」
「え?・・・ま、前からそう呼んでましたよ?」
「いやいや、昔は確かお兄ちゃんって呼んでたはずだけど・・・それにさっきから敬語で話すし」
「だ、だって、恥ずかしいじゃないですか・・・」
「なんで?俺としては今のレナの方が無理してるって感じだけど・・・」
それに最初俺の名前を言ったとき思いっきりお兄ちゃんて言いそうになってたし。
「や、やっぱりそう見えますか?」
「こんにちはー荷物をお届けに来ました!」
「あ、は~い!」
変なタイミングで宅配便が来た。
「・・・何でしょうね、大きな段ボールがいくつか届きましたけど」
俺も荷物を覗いてみる。送り主は綾崎紅騎・・・。
「・・・って、俺の荷物じゃん!」
「お、届いたみてーだな」
マスターも丁度帰ってきた。
「お父さん、コレって・・・何?」
「何って、紅騎が向の生活用具だよ。服とか・・・ああ、それとギターも」
「そうじゃなくて!なんで俺の服とかがこの店に届いてるんですか!?」
「何でって・・・今日から俺たちの家族になるからに決まってるだろ」
・・・・ん?この人今なんて言ったかなぁ?
「家族って・・・どういう意味ですか?」
「詳しくは養子ってところだな。いやー苦労したぞ。意外と面倒なんだな、手続きって」
「・・・俺の住んでるマンションは?」
「ああ、さっき解約してきたぞ?」
・・・なんという手際の良さ。
「お父さん・・・」
「どうだ?玲於奈、昔お兄ちゃんが欲しいって言ってただろ?丁度良いじゃないか」
「そういう大事なことは先に言えぇぇぇぇぇ!!」
「ぐはぁ!」
レナの投げた灰皿がマスターの額に直撃した。この親子はも相変わらずなようだった。
その夜、俺の歓迎パーティーを開いてくれた。・・・そんなに気を遣わなくて良いのに。
「それじゃぁ綾崎紅騎が本日より、葵家の一員になるってことで。これからよろしくお願いします。乾杯~!」
「「乾杯~!」」
俺はジンジャエール、レナはオレンジジュース、マスターはウイスキーそれぞれ乾杯した。
「・・・それにしても大丈夫なんですか?突然店を臨時休業にしたりして。」
「ん?・・・まぁ気にするな。一日くらいどうってこと無いさ」
・・・なら良いんだけど。
「そんなこと気にせずにどんどん食べてください!」
レナがカルボナーラを小皿に分けて渡してくれた。
とりあえず一口。
「・・・・」
「どう・・・ですか?」
ふわっと広がる卵とチーズの風味にベーコンとコショウの味がしっかりと合わさった絶妙な味だった。
「・・・美味い!もしかしてコレ、レナが作ったのか!?」
「はい!・・・ああ、昨日たまたま料理の本を読んでて良かった~」
「レナ・・・料理できたんだ」
「なに言ってるんですか!私以外に誰が料理できると言うんですか!!」
ちなみにレナのお母さんは全世界に音楽の楽しさを広めると言って現在アフリカのどこかにいる。
時々手紙が来るらしいけど、その内容はいろんな意味で凄いらしい。
「おいおい、俺だってベーコンエッグくらいは作れるぞ?」
「それだって三回に一度は真っ黒に焦がすでしょうが!」
マスター・・・どんだけ不器用なんだよ。
「・・・じゃあ、レナのお母さんが飛び出してからずっとお前が作ってるのか?」
「はい、・・・そう言えば紅騎さんは料理できるんですか?」
「まあ、一応は。今日の弁当だって俺が作ったし・・・。ほら、俺の親父がアレだったから」
「参考までに今日の弁当は何を作ったんですか?」
「餃子だけど?」
「え・・・、餃子って臭くならないですか?」
「だから、ニンニクを使わないで代わりに柚コショウを入れたんだ」
「入れたんだ・・・って、一から作ったんですか!?」
「まあ、そうなるな。・・・でもそんなに手は込んでないぞ?」
あんな物ひき肉と野菜を皮で包んで焼いただけじゃないか。
「十分凝ってますって!他の料理だとどんな工夫をしてるんですか?」
「そうだな、例えば・・・・・」
こんな感じで俺の歓迎パーティーはいつの間にか料理教室に変わっていった。
このときに分かったことだけど、レナは和食しか作れないらしい。・・・・別に良いけど。
後片付けを終わらせて現在二階のベランダでぼーっとする。
・・・今日は疲れた。
学校では岩沢さんに窒息させられるし、店に来たら突然新しい家族ができた。
「はぁ・・・」
「・・・どうしたんですか?ため息なんかついて」
レナが缶コーヒーを二つ持ってヒョコっと現れた。
「レナか・・・」
「お兄ち・・・・紅騎さんは無糖派でしたよね?どうぞ、ブラックです」
「ああ、良く覚えてたな」
レナからBOSSを受け取ってプルタブを開けた。ちなみにレナは微糖だ。
一口飲むと、ほどよい酸味からコーヒーのしっかりとした苦みを感じる。
「・・・何か済みません。お父さんが色々と」
「まあ、最初はびっくりしたけどな。・・・でもありがたいよ」
「そうですか?」
「うん、・・・やっぱり家族って良いなぁって。」
真っ暗闇の中一人でコンビニ弁当を食べるのが普通だった俺にとっては、十分すぎるほど暖かい食事だった。
・・・・コレが家族の暖かさってヤツなのかな。
「てゆーかレナ・・・・まだ敬語なんだな」
「・・・駄目ですか?」
「家族になったんだし、やっぱり敬語っておかしいと思うんだけど・・・」
「でもやっぱり恥ずかしいというか・・・今更というか・・・」
「じゃあ、俺もレナじゃなくて玲於奈って呼ぶことにするぞ?」
「うー・・・紅騎さんのイジワル」
・・・前に唯から同じことを言われた気がする。・・・・俺ってそんなに意地が悪いかな?
そんなつもりは無いんだけどな~・・・。
「分かったコレで良いんでしょ?・・・・お兄ちゃん」
「・・・・・・」
「何!?人が勇気を出して言ったのにその意外そうな表情は!!」
「あー・・・悪い、突然だったからびっくりしたんだ。うん、やっぱりそっちの方が違和感がないよ」
「私も何かこっちの方が楽に話せるみたい」
俺は最後の一口を胃に流し込んだ。ん~・・・!やっぱり美味いな。
「ところでさ、風呂ってどうしてるんだ?探した感じそれらしい物は見あたらなかったんだけど」
あったのは二階のシャワールームくらいだ。
「いつもは近くの銭湯・・・ほら、あそこに見える煙突」
レナが指を指す先には銭湯特有の煙突があった。・・・ああ、さっきここ来るときに見たな。
「あそこですませるんだけど、今日はもう銭湯閉まってるからシャワーで我慢して」
「ああ、分かった。・・・あ、そうだ。朝食は俺が作るよ、お前朝苦手だろ?」
「え・・・?そ、そんな悪いよ。・・・朝はちょっと苦手だけど」
「いや、ちょっとどころじゃないだろ。お前の場合」
一回だけレナを起こしに行ったことがあるけど、コイツの寝起きの悪さは一級品だった。
基本揺するだけでは絶対に起きない。目覚ましも寝たまま止めるといった具合だ。
「それに、毎朝成功率の極めて低いベーコンエッグはもう食べたくないだろ?」
「うん、それだけは絶対嫌」
・・・・そこまで酷いのか、マスターのベーコンエッグ。
「だから任せとけって」
「・・・じゃあ、お願い。・・・えっと、そ、それなら。・・・その」
急にレナが顔を赤くしてうつむいた。それになぜかモジモジしてる。
「・・・他に何かあるのか?」
「う、うん・・・だ、だったら朝起こしてくれたら嬉しいなぁって・・・」
「・・・別に構わないよ?」
「ほ、本当!ウソじゃないよね!?」
「ああ、本当だ・・・ホレ」
俺はレナに自分の小指を差し出した。・・・あれだ、約束するときに使うヤツだ。
レナも察したようで、小指を絡めてきた。
「指切りげんまん~ウソ着いたら~・・・」「六弦千本飲~ます」
「「指切った!」」
「・・・って六弦?」
「え?だってハリセンボンじゃ普通でつまらないでしょ?」
レナなら普通にやりかねないから怖い・・・。
「まあ、いいか。・・・じゃ、俺はシャワー浴びてくる」
「うん、私はもう浴びちゃったからもう寝るね」
「おう、おやすみ」
「おやすみ・・・お兄ちゃん」
・・・さて、おれもさっさとシャワー浴びて寝よう。