触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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29話「こんなの・・・こんなの本物じゃないです!!!」by入江

「ねえねえ、みゆきち。」

音楽雑誌を立ち読みしながら私は占い雑誌と睨めっこをするみゆきち・・・入江みゆきに声をかけた。

「やっぱりドラムとベースだけじゃ無理じゃない?」

「うん・・・私もそう思う。けど・・・。」

みゆきちの言いたいことは分かる。色々なライブハウスでメンバーを募集している所はあったけど、さすがにドラムとベースを募集しているバンドは無かった。

「はぁああ・・・セッションしてみたいな~。」

「そんなことよりしおりん、高校決めた?」

「桜高で良いかなって、近いし。」

「しおりんも?」

「も・・・ってみゆきちも桜高なの?」

「うん、あそこならジャズ研があるから演奏できるかなって。」

「ふ~ん・・・。」

この後私達はその桜高の文化祭に立ち寄った。

 

そこで運命的な出会いをした。

『続いては軽音楽部によるバンド演奏です』

「けいおんがくぶ?知ってるみゆきち?」

「軽音楽は知ってるけど、この学校にあったんだ・・・。」

そして現れたのはメイド服姿の女の人四人と、執事服を着た男の人だった。

「なぜ・・・メイド服。」

「あ、あははは・・・。」

奇怪な格好をした五人は前振りも無しに突然演奏を始めた。

最初に弾いた曲は翼をくださいだった。

その一曲で私はやられてしまった。格好良すぎる、凄すぎる。

「しおりん決めたよ。わたし絶対軽音部に入る。」

 

 

そして私達は念願の桜が丘高校の門をくぐることが出来た。

早速私達は軽音部の部室を探すことにした。

「ねぇしおりん・・・本当に場所分かるの?」

「うーん、確かこっちからドラムの音が聞こえたはずなんだけど。」

「うぅ・・・アバウトすぎるよぉ。」

耳を頼りに私はめぼしい教室のドアを開けた。

「失礼します、見学しに来ました~。」

「あ、新入生?ようこそ”ジャズ研”へ。好きに見ていって良いよ~。」

「し、しおりん~・・・。」

ま、間違えちゃった・・・。どうしよう今更帰りますなんて言えないし・・・。

「君たちはジャズに興味があるの?」

「は、はい!」

「・・・・・・」

みゆきちの私を見る眼がちょっと鋭くなった。

「そっか・・・まあとりあえず聞いてってよ。」

そう言ってジャズ研の先輩達は演奏を始めた。

 

 

演奏を聴いていると私はなんだか不思議と胸がざわついた。

別に先輩達の演奏が下手だからな訳じゃない。だけどこの演奏には何も届くものが無かった。

ただ弾いているだけ、ただリズムを刻んでいるだけ・・・そう私の耳には届いた。

「ふぅ・・・どうだった?私達の演奏。」

「・・・先輩達はどんな気持ちで演奏しているんですか?」

「いきなり難しいことを・・・そうだなぁ。私は楽しかったら何でも良いよ。」

 

このときの私はちょっとだけ平常心を失っていたのかも知れない。

 

ちがう、私がやりたいのは楽しいだけじゃ駄目なんだ。もっと、もっと高い意識の・・・。

そう、あの時のあの人達みたいな。

「こんなの・・・こんなの本物じゃないです!!!」

そう叫んだ私はジャズ研のドアを乱暴に開き、何も考えずに走り出した。

けど、なにも考えずに前も見なかった私は突然現れた人に勢いよくぶつかってしまった。

先に立ち上がったその人は親切にも私の手を取って立ち上がらせてくれた。

「あ、ありがとうございm・・・、あ、あなたは!」

御礼を言う前に驚きの感情が先に出てしまった。

だって目の前にいたのはあの時、あの場所で演奏をしていた人本人だったのだから。

とたんに恥ずかしくなった私は一目散にその場所から逃げ出した。

あとからしおりんのびっくりした声が聞こえてきた。


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