みんなが寝静まったのを確認して私はゆっくりと身を起こした。
綾崎には悪いけどこのくらいじゃ、私の強運は打ち消せない。
隣で静かに寝息を立てている綾崎をじっと見つめる。意外とまつげ長いんだな、寝顔も可愛いし。
イカン・・・なんか変な気分になってきた。
「こ・・・コホン」
誰に聞かせるわけでもなく小さく咳払いをして、さっさとやることを済ませる。
逆側で寝ている岩沢を見る。・・・うん、しかっりと寝てるな。相変わらず寝付きの良い奴め。
岩沢の布団をそ~っと引きはがしゆっくりと、細心の注意を払って慎重に身体を移動させる。
1234を1324に変更する作業を終えて自分の布団に潜り込む。
「こっちはこっちで楽しませてもらうぜ~」
ついでに1324を136にして瞼を閉じた。
予想通り、玲於奈ちゃんも寝付きが良い方のようだ。
良い夢が見れそう・・・おやすみ。
俺は夢を見た。
夢を見ていると自覚している状態で見ている夢、そんなときはいつも決まって嫌な夢を見る。
最初に現れたのは自分の母親、写真を見たせいなのかはっきりと顔で分かった。
母親が優しく微笑んだ瞬間それを引き裂くように鬼の形相の親父が現れる。
「お前がいなければ・・・お前が生まれてこなければ・・・」
「う・・・」
親父ののばした手が俺の身体を貫通し、内側から身体を破壊し始める。
夢だといくら頭で念じても悪寒と、苦痛は止まらなかった。
「やめ・・・ろ」
やがて親父は何かを引きずり出し始めた。それは内蔵ではなく何か別のもの・・・。
「見せるな・・・見たく・・・な・・・い。」
だが、意志に反してまぶたは閉じることをしない。
俺の身体の中から引きずり出された何か。それはアイツの、瀬菜の頭だった。
頭だけの瀬菜はうつろな眼で俺を見つめ言う。
「どうして?・・・何で?・・・」
「やめろ・・・俺は・・・」
「どうして?・・・何で?」
機械的に同じ言葉を紡ぐソレはさらに悪寒を激しくさせた。
心拍数が上昇し、手足の震えが止まらない。涙も出始める。
「助けて・・・誰か・・・」
すると、突然何か温かいものが全身を包み込んだ。
『大丈夫・・・大丈夫・・・』
その言葉だけで不思議と安心した。手足の震えが止まり鼓動も落ち着いた。
出てくる涙はおそらく違う意味の涙だろう。
俺はその見えない温もりを求めるように両手で抱きしめた。
「ありがとう・・・」
突然ぱっと眼が覚めてしまった。時計を確認するとまだ明かりを消して2時間ほどしか経っていない。
そこで私は違和感に気付いた。場所が移動している。
何で隣に綾崎が?何でひさ子は玲於奈を抱き枕に?
「・・・うぅ・・・ぐ・・・」
綾崎布団から小さくうめき声が聞こえてきた。
「綾崎・・・泣いてるのか?」
返事はない。悪い夢でも見ているのか?
綾崎の顔が見えるようにそっと布団をどかすと、案の定苦痛の表情を浮かべていた。
それに身体が小刻みに震えている。
「・・・助・・・けて」
助けて。確かにそう聞こえた。
少し迷ってから、勇気を振り絞って綾崎の布団に入った。
自分以外の体温で暖まった空間に心臓の鼓動が速くなるのを感じる。
私は震える綾崎そっと抱きしめる。一段と鼓動も加速していく。
「大丈夫・・・大丈夫・・・」
ゆっくりと自分自身で確かめるように囁いた。
すると、次第に綾崎の身体の震えが止まり規則的な呼吸が聞こえてきた。
とりあえずほっと一息をつく。
ぎゅっ・・・。
「ち、ちょっと・・・綾崎?」
突然逆に綾崎が私に抱きついてきた。まるで私を逃がさないかのように。
・・・仕方がない。今日はこのまま寝てしまおう。
そう思って緊張を解くと、途端に眠気が襲ってきた。
「ありがとう・・・」
意識が半分薄れている状態のなか綾崎の声が頭の中に響いていた。