銭湯から帰ってきた俺たちは作業後屋でスナック菓子やジュースを広げていた。
「綾崎~今何時だ?」
「11時59分・・・」
「おっとテレビ、テレビ・・・っと」
完全に自分の家のようにくつろいでいるひさ子がリモコンでテレビをつけた。
すろと丁度カウントダウンを始めるタイミングだった。
『5・・・4・・・3・・・』
「2・・・」
気付けば部屋にいる全員が自然にカウントダウンを始めていた。
「「1・・・0・・・」」
画面上の時計が日付の変更を知らせた。
「「開けましておめでとう」」
初めて経験する大人数での新年のお祝い。それは今まで迎えてきたもののなかで一番嬉しく感じた。
「・・・どうした綾崎?ぼーっとして」
不思議そうな顔をした岩沢さんが俺の顔をのぞき込んできた。
「いや・・・こうして大人数で祝うのは初めてだなぁって」
「楽しい?」
「そう・・・だな。楽しいよ、すげー充実した年末年始だ」
「良かったな。・・・今年もよろしく、綾崎」
「ああ、よろしく・・・岩沢さん」
「よし、やることはやったな。早く寝て初日の出見るぞ~」
「そう言うことならちょっと待ってろ。布団出すから。」
小屋には雑魚寝用の布団一式が閉まってあり、少なくとも人数分はあるはずだ。
「ち、ちょっと待ってよ。まさかみんなこの部屋で寝るの?」
「そのつもりだけど・・・ああ、そうか。大丈夫だよレナ。俺は隣の作業部屋で寝るから。」
「・・・・・・そう、なら良いんだけど。」
ここでなぜかレナは残念そうな表情を浮かべた。
「ふふっ・・・はっきり言いなよ玲於奈ちゃん。”お兄ちゃんと一緒が良い~”って。
私は別に構わないぜ。綾崎はそこら辺はちゃんとわきまえるだろうし、な?岩沢。」
「そうだな。綾崎なら大丈夫」
「いやいや、二人が大丈夫でもレナが反対してるでしょうが。」
無理に一つの部屋で寝る必要はない。ちゃんと二部屋あるんだから。
「・・・良いわよ」
「・・・・・・はい?」
「い、一緒の部屋で寝ても良いって言ってるの!文句ある!?」
「・・・アリマセン」
「聞いたか岩沢・・・アレが噂に聞くツンデレというやつだ」
「そうか・・・あれが」
なにやら感心している二人を無視して物置部屋から人数分の布団を並べる。
「よし、寝る布団はくじ引きで決めよう。」
タイミング良くひさ子が割り箸を四本取り出した。瞬間あの時の記憶がよみがえった。
「ストップひさ子、その割り箸見せてみろ」
「別に細工はしてないんだけどな・・・ほら」
ひさ子から受け取った割り箸は本人の言うとおりコレといった細工はしてなかった。
まだ少し疑いが晴れないが、どうにもしようがないのでひさ子に返却・・・いや、違うな。
「・・・俺が持つ。ほら、さっさと引いてくれ」
してやったり・・・と思ったが、ひさ子はまだ不適な笑みを浮かべていた。
水面下で互いに腹の内を読みあっている俺たちをよそに、レナと岩沢さんは素直に割り箸を取った。
「ほら・・・ひさ子、お前の分。」
「サンキュー」
コレでひさ子の手を一切加えさせずにくじを引けた。後は左右どちらかの端の布団を獲得できれば俺の勝ちだ。
割り箸の番号は1番、見事に端の布団を獲得できた。
みんなの割り箸を確認すると、岩沢さんが3番、レナが4番、ひさ子が2番だった。
その瞬間、岩沢さんとレナはひさ子に向かって恨めしそうな視線を送り、当の本人は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
そのとき俺は悟った。自分はひさ子に負けたのだと。
「じゃあ、明かり消すぞ~」
勝者はそう言って部屋の明かりを消した。