触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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23話「・・・可愛い」by岩沢

全ての料理と食器を運び終わったときに丁度レナ達が来た。

「ただ今~」

「邪魔するぜ~綾崎~」

「・・・お邪魔します」

「お帰りレナ、いらっしゃい二人とも」

早速二人をテーブルに座らせて、マスターを呼んだ。

「なんだ、今年は人が多いな」

「いつもは二人で年越しだったからね。すっごく新鮮な気分」

・・・そうか、恭子さんは滅多に帰ってこないんだっけ。こうして大人数で年を越すのも久しぶりのはずだ。

俺だってそもそも年越しをちゃんと過ごしたことがあまりなかったからな・・・。

昔の俺だったら日付が変わるだけで何が嬉しいのか分からなかったけど、今ならちょっとだけ分かる気がする。

家族や友達と年を越すってことはやっぱり特別な意味を持つんだ。

「お兄ちゃん、何ぼーっとしてるの?ほら、早く食べよ」

「お、おう・・・」

レナから小皿を受け取って、手巻き寿司を皿にのせた。

ツンツン・・・

隣の岩沢さんが軽く俺の脇をつついてきた。

「どうしたの?岩沢さん」

「・・・パスタ」

どうやら早くもパスタをご所望らしい。岩沢さんの小皿を受け取ってパスタを盛りつけてあげた。

「はい、岩沢さん」

「サンキュ」

そっけない口調だけど、口元は思い切り緩んでいる。喜んでいるサインだ。

俺は岩沢さんがパスタを食べる光景をじーっと見つめていた。

「・・・ん、美味い。前に食べたヤツと全然違う、レストランのパスタみたい」

「そっか、気に入ってくれた?」

「ああ、凄く美味しいよ綾崎」

ストレートに言われると結構気恥ずかしいものなんだな・・・初めて知った。

「ホントだ、メチャクチャ美味いなこのパスタ!」

ひさ子も気に入ってくれたようだ。

「俺のパスタを食べるのは良いけど、メインはレナの作った和食づくしだからな」

「え、綾崎が作ったんじゃないの?」

「俺が作ったのはパスタだけだよひさ子。レナの和食はすげー美味いんだぞ?」

ひさ子は太巻きをとって、口に運んだ。

「おぉ・・・、酢飯の加減がほどよくて具のバランスもばっちり。」

「ど、どうですか?ひさ子さん・・・」

「うん、美味しい。玲於奈ちゃんも料理できたんだな」

「はい、和食限定ですけど・・・」

「いや、謙遜すること無いよ。私なんててんで料理は駄目だから」

レナはホッとした様子で、魚の煮物をつついた。

「でも紅騎が家に来てくれて良かったよ。おかげで食事のマンネリ化が解消されたからな」

「お父さんは黙ってて」

「はい・・・」

みんなの笑い声が広がり、和やかムードで夕食は終わった。

 

 

 

「へぇ、ここが綾崎の部屋か~」

「ひさ子、人に部屋はあまり覗かない方が・・・」

「お、怪しい銀色の箱発見!」

「・・・って人の話聞けよ!」

俺の言葉なんて何のその。ポニテ女は例の箱を早くも奪取してしまった。

「ふふふ、綾崎ぃ・・・箱の中身は何だ?」

「別に体した物はないよ・・・ただ」

「ただ・・・なんだい?」

「見られると少し恥ずかしいんだけど・・・」

誰だって少年時代の両親の写真なんて見られたくないだろ。

「ふむ・・・男子高校生なら一冊は持っていると言われているあの本と見た!さぁて綾崎の好みはどんなタイプかな~?」

そんな見当はずれのことを言ってひさ子はふたを開けた。

「・・・アルバム?うわ、結構昔のヤツだな。ってことは綾崎の両親のか?」

「そうだよ、もう良いだろ?他人の親の写真なんて興味ないよな。はい、おしまい」

ひさ子から箱を奪おうとすると、身をよじって回避された。

「・・・確か綾崎の両親はもう亡くなってるんだっけ?」

「ああ、死んでるよ」

「じゃあ、尚更興味があるよ。少しで良いから教えてよ!な、岩沢?」

「・・・ああ、私も興味ある」

・・・まあ、良いか。押しに弱いな俺。

「少しだけだぞ?」

俺はひさ子から箱を返してもらい、アルバムを取り出した。

「ほら、この若干目つきの悪いのが親父、赤い髪のこの人が俺の母親」

「へえ~これが・・・ちょっと岩沢に似てないか?」

「たぶん持ってるギターが同じだからだと思う・・・でしょ?綾崎」

「そう・・・だと思う。」

「ふ~ん・・・お、コレってマスターじゃねーの?」

ひさ子が頭にバンダナを巻いたドラマーを指さした。

「よく分かったな。」

「ふふふ・・・私の勘は結構当たるんだよ」

確かにとんでもない強運の持ち主だからなコイツ・・・。

トランプで負けたところ見たこと無いし、くじ引きだって毎回当たるし、じゃんけんも最強だし。

「はわぁ~~~可愛いぃぃぃ」

「あ、それは・・・!」

一番見られたくない赤子の時の写真!?

「な、なぁ・・・コレってちっちゃいときの綾崎!?」

俺は気恥ずかしさで言葉が出ず、ただ首を縦に振った。

「ほら、岩沢も見てみろよ!」

「・・・可愛い」

岩沢さんの一言で俺の気恥ずかしさゲージは最大値に達した。

「はい、終了!時間切れだ!」

素早くひさ子の手からアルバムを奪い、箱にしまった。

「ちぇ~・・・もう少し、綾崎の恥ずかしがる顔見たかったのに」

それはお互い様だと俺は心の中でひさ子に言った。あの時の猫化の動画まだあるんだからな?

 

 

 

 


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