触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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22話「ひ、ひさ子?何でここに・・・」by紅騎

「紅騎クンがこんなにギター上手だったなんて知らなかったよ」

「・・・そりゃあ言ってないからな」

「ねぇ、今度また一緒にセッションしようよ!」

「また今度・・・ん?」

「また弦切れたの?そのストラトキャスター・・・」

「しょうがねえだろ、ゴミ捨て場で拾った奴だから金具類がガッタガタなんだよ」

「じゃあ、ウチで直してあげるよそのギター」

「断る。そんな義理は無いしそもそも金がない」

「そのギターが直ったらどんな音がするのか個人的に興味があるんだ」

「・・・金がない」

「出世払いで良いよ!大丈夫君の腕を知ったらウチの両親も納得するから。それと、その間私のギターを使ってくれ。いや、使いなさい。その間私は修理に専念する。」

「わーったよ、任せます」

「ふふふ、楽しみだな~」

 

 

 

結局この約束果たせずに彼女は死んでしまった。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、そこの雑巾取ってくれる?」

「はいよ、ほら」

「ありがと」

今日は大晦日であり、大掃除の日でもある。

我が家も例に漏れず様々なものが飾ってある店内を掃除している。

それにしてもこの店内ライブハウスと言うのを差し引いても物が多い。

原因はレナの母親(俺の母親でもあるのだが)の恭子さんが旅先で買った置物を送ってくるからだ。

「レナ・・・このモアイが象にまたがってる木像はどうすれば良いんだ?」

「ああ、そこの棚の物は全部捨てちゃって良いわよ」

「全部って・・・大丈夫なのか?」

「うん、そこは定期的に捨ててる棚だから」

「りょーかい」

鮭を咥えた熊を兎とライオンにそっくりそのまま入れ替えたような彫刻を手にとって眺めていると改めて恭子さんの仕事に疑問がわいた。

するとマスターがフォード・トラックを店先に止めて出てきた。

荷台にはゴミ処理センターに持って行く予定のゴミが積んである。

「他にも捨てる物あるか?」

「じゃあ、こいつをお願いします。」

先ほどのよく分からない置物を詰めたゴミ袋を荷台に載せた。

「あ、そうだ。帰りに台所用の潜在買ってきてくれない?」

「はいよ、じゃあ行ってくる」

独特の低いエンジンサウンドを響かせてスカイブルーのフォード・トラックは去っていった。

「ふ~さて、大体のコトは終わったからお昼ご飯にしない?」

「どうせなら外で食おうぜ、奢るからさ」

「やった!じゃあ早く行こ!」

奢るという言葉を耳にするなりテンションが一気に上がった・・・現金な奴。

 

 

 

そんなわけで駅前に来てみたわけだが。

年末の駅周辺はカップルが多い。・・・年末くらい休んでろよリア充。

「か、カップルだらけね・・・」

「そうだな・・・これじゃあファミレスも混んでるな。」

近くのファミレスを外から覗くと、案の定混んでいた。

「しょうがない、そこのラーメン屋で良いか?」

「うん、私は何でも良いよ。」

レナの許可を取り、ラーメン屋の扉を開けた。

カラカラカラ・・・

「いらっしゃいませ~って、綾崎と玲於奈ちゃんじゃん。」

店内に入るなり、見覚えのある顔が現れた。

「ひ、ひさ子?何でここに・・・」

「なんでって、ここでバイトしてるからだよ。ちなみに岩沢も厨房にいる」

確か二人とも同じバイト先だとは聞いていたけど、まさかここだったとは・・・。

「ささ、座って座って!これメニューな」

テーブル席に座って、ひさ子からメニューを受け取った。

「お兄ちゃん、知っててこの店に入ったの?」

「まさか、俺も初めて知ったよ」

「ふぅ~ん」

ジト目のレナの視線を回避するようにメニュー表に目を落とした。

スタンダードなラーメンから麻婆ラーメンと言った変化球まで、種類が豊富だ。

「はい、水とお絞り。オーダー決まった?」

「じゃあ、俺は塩チャーシューね。レナは?」

「私は野菜ラーメンで」

「岩沢の手作り餃子は?」

「じゃあ、二つ・・・以上な」

最初の言葉は聞かなかったことにしておすすめらしい餃子を頼んだ。

「かしこまりました。岩沢~塩チャーシューと野菜と餃子二枚な」

さっきから岩沢、岩沢と連呼してるのはワザとか?ワザとなのか?

問いただすのも変なのでこれ以上考えないことにした。

水を一口飲んで、お絞りで手を拭いてからふと、あることを思いついた。

「レナ、受験終わったらどっか連れて行こうか?」

「え、本当?」

「ああ、頑張ったご褒美だ。ただし、結果によって行く場所は変わるけどな」

「ええぇぇ~・・・」

明らかに不満そうな声を漏らすレナ。

「目標があった方がやる気が出るだろ?」

「じゃあ、もし特殊生に選ばれたら?」

「だとしたら一日俺を自由にして良いぜ~」

冗談めかして俺はそんなことを言ってしまった。

奥でその会話を聞いていたひさ子が「フラグだ・・・」と呟いていたが、このときの俺は気づかなかった。

 

 

 

 

「はい、ラーメンと餃子お待ちどう」

「よし、いただきます」

「いただきま~す」

まずはラーメンの方を食べてみた。

野菜ベースのさっぱりしたスープと、麺が良く絡まっていた。

「美味いな・・・」

「うん、とっても美味しい」

「そいつは良かった、ほら綾崎。岩沢の作った餃子食ってみろよ」

「お、おう・・・」

言われるがまま餃子を食べてみた。

普通の餃子と違ってニンニクは控えめ、代わりに存在感を主張してるのは・・・。

「これって柚コショウ入れてる?」

「ふふふ・・・せーかい!前に綾崎の弁当に入ってたヤツを食べさせてもらったろ?アレをヒントにしたらしいぞ」

「ふ~ん・・・あの餃子がねぇ」

「いやぁ苦労したんだぞ?岩沢が納得するまで夕飯は餃子だったんだからな」

「そいつはご愁傷様・・・」

たかが餃子で執着しすぎだろ、岩沢さん・・・。

まあ、そのおかげでこの餃子ができたんだろうけど。

 

 

 

「合計で1880円な」

二千円を払っておつりをもらいちらっと厨房をみると、丁度岩沢さんと目があった。

「ごちそうさま、岩沢さん。また来るよ」

岩沢さんは軽く頷いて、自分の作業に戻った。

「そうだ、ひさ子さん。年越しの予定ってありますか?」

「特にはないな、私の家で岩沢とだらだらするくらいしか」

「良かったらウチで年越ししませんか?」

突然妙なことをレナが言い始めた。

「私と岩沢は構わないけど・・・綾崎、大丈夫なのか?」

正直流れが上手く読めないけど、思い切りレナにつま先を踏まれてるのでNOとは言えなかった。

「まあ、大丈夫・・・だと思う」

「じゃあ、お邪魔するよ。連絡は玲於奈ちゃんにしたほうが良い?」

「はい、お願いします」

店を出るといつになくレナに気合いが入っていた。

「お兄ちゃん、先帰って残りの掃除終わらせてくれない?私は夕ご飯の材料買うから」

返事を待たずにレナは家とは別の方向に行ってしまった。

「まあ、良いか・・・」

 

「ふ~・・・やっと終わった」

「ただいま~、丁度終わったところ?」

あらかたの掃除が終わり、一階へ降りると、買い物袋を持ったレナがいた。

「おかえり。ああ、今終わったところだよ。夕飯作り手伝おうか?」

「大丈夫。お兄ちゃんは休んでて。」

「・・・本音は?」

「みんな料理が上手だから・・・私だって出来ることを知って欲しいんだもん」

別にそんなことで張り合わなくてもいい気がするけど・・・女心ってヤツなのか?

だったらここはレナの好きなようにしてやるか。

「分かったよ、お前の好きにしてくれ」

「ふふふ~ありがと。美味しい物作るからね」

・・・さて和食しか作れない玲於奈さんはどんな年越し料理を作るんでしょうね。

ギター弾きながら気長に待たせてもらうか。

「あ、そうだ。お兄ちゃん宛に手紙が来てたよ」

レナの指さすテーブルの上に白い封筒があった。

とりあえず自分の部屋からギターを持ってきてスタジオに入った。

それから封筒を眺めた。宛先にははっきりと綾崎紅騎様と書かれていた。

差出人は相川華菜・・・って誰だ?

封を切ってみると中には一枚の手紙が入っていた。

手紙は”綾崎先輩へ”という書き出しから始まっていた。

 

 

 

 

綾崎先輩へ

 

お久しぶりですと言えば良いのでしょうか・・・覚えてますか?

相川瀬菜の妹の相川華菜です。

綾崎先輩が桜高校の学園祭で演奏してるのをネットで見ました。

私の知ってる綾崎先輩のイメージとはかなり違いがありましたが、一目で先輩と分かりました。

やっぱり先輩はギターも上手です。

陸上の方はもうやらないのですか?

私としては関東大会で優勝した綾崎先輩をもう一度見たいです。

突然先輩がいなくなったのはやっぱり姉の件が原因ですか?

だとしたら一度だけでも良いですから私たちの地元に戻ってきて下さい。

そしてちゃんと姉に会ってあげて下さい。

 

相川華菜

 

 

 

予想もしない人物からの手紙だった。そして俺の中ではまだ早すぎるタイミングで来てしまった。

俺はまだ自分のコトで手がいっぱいなんだ・・・だからまだ行けない。

心の中でごめんと謝り、封筒に手紙を戻した。

すると携帯のメール着信が来た。

送り主は岩沢さん。本文にはパスタと三文字だけが打たれていた。

それだけで大体の意図は理解できた。また食わせろと言う意味だろう。

・・・ギター弾く時間が無くなったけどまあ、良いか。

スタジオを出てキッチンに向かった。

「・・・やっぱり和食がメインか」

「し、しょうがないでしょ!和食しか作れないんだから」

唯一和食以外の食べ物と言えばカレーくらいだ。

「やっぱり一品俺が作る。パスタくらいなら良いだろ?」

「う、うん・・・ありがと」

よし、上手く口実が作れた。

冷蔵庫の中身を確認すると、発泡スチロールの箱が入っていた。

「レナ、コレの中身は何だ?」

「あぁ、それアサリよ。お父さんが知り合いからたくさんもらってきたんだって。」

「使うけど良いか?」

「うん、出来れば全部使って。お味噌汁にしても無くならないし」

そうと知れば全部使ってしまおう。これはだいぶ豪華なパスタになるな。たぶん岩沢さんも喜ぶぞ。

まずはアサリを水につけて砂抜きを始める。

その間に、鍋に水を張って火をかける。

そしてタマネギをみじん切りにして油を引いたフライパンに入れてきつね色になるまで炒める。

それから一口大に切った鶏肉を入れて、焦げ目を付けた後野菜を入れて火を通す。

水が沸騰したら塩を入れてパスタ麺を人数分投入、焦げないようにレナにかき混ぜてもらう。

冷蔵庫からだし汁の入った牛乳パックを取り出してフライパンに入れる。

それからアサリを入れてふたをする。

アサリが全部開いたのを確認したらパスタを入れてよくなじませる。

「・・・よし、完成!」

「家庭料理のクオリティじゃないわ・・・」

~~~~~♪

レナの携帯が鳴り響いた。

「もしもし、はい・・・分かりました。はい、そうです・・・じゃあこっちから行きますね」

通話を終了させたレナは急いで出かける準備をした。

「じゃあ、ひさ子さん達を迎えに行ってくるから料理テーブルに並べておいて」

「分かった」

レナの背中を見送ってからふと、俺は気づいた。

ひさ子達は毎日登校するときは俺の家に寄っている。よって送り迎えなど不要なはずだ。

「・・・何かあったのかな?」

まあ、あまり気にしないでおこう。

とりあえずやることを済ませてしまわなければ。

 

 

 


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