触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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21話「バカ!バカバカバカバカ、コウ君のバカァ!!」by唯

「あーくそ・・・梅雨うぜえ。さっさと夏になれよ。」

「ふふ、そんなこともないよ。雨になれば部活が休みになってギター弾けるし。・・・って、関東王者さんは部活が良いよね」

「・・・・・だれ?」

「ひどいな~、同じ部活でしかも同じ短距離ブロックなのに」

「・・・・スンマセン」

「私は相川瀬菜、もう六月なのに部員の顔覚えてないの?綾崎紅騎クン」

「相川はギターやってるのか?」

「まあねウチの家楽器屋やってるんだ。修理もやってる」

「ふ~ん・・・」

これが親友、相川瀬菜との出会いだった。

 

 

「本っっっっっっ当に申し訳なかった!!」

翌日、俺は平沢家で和と平沢姉妹に頭を下げていた。

おそらく今回の騒ぎで一番心配をかけたからだ。・・・特に唯。

「紅騎、頭を上げてそこに座りなさい」

「・・・・はい」

真顔でとてつもなく威圧してくる和の前に正座で座る。

「・・・コレは私の分」

ビシィ!

強烈なデコピンが俺の額を襲った。

「・・・これが殴れない憂の分」

ビシィ!

痛っってぇ・・・久しぶりに受けたけど連続は初めてだ。出血してないよね・・・?

「和ちゃん・・・ちょっと良い?」

和と入れ替えて唯が俺の前に座った。うつむいていて表情はよく分からない。

パアン!!

「・・・・・え?」

一瞬何が起きたのか分からなかった。左の頬がひりひりしていることから唯が平手打ちをしたと理解できた。

そしていつの間にか唯が腕を俺の首に回して抱きついていた。

「バカ!バカバカバカバカ、コウ君のバカァ!!」

「・・・・・唯」

決壊したダムのように泣き叫んだ後は小さくすすり泣き始めた。

「うぅ・・・・ぐす・・・」

俺は小さい子供をあやすように、左手を背中に右手を後頭部にしてゆっくりと撫でた。

「ごめんな唯、心配かけて・・・不安にさせて・・・」

「本当に心配だったんだよ?もうずっと忘れたままじゃないかって・・・」

確かにたとえ一時的なものだと言っても確証は無い。唯の言うとおり一生戻らなかったのかも知れない。

そうなったとしたらまた突然唯の目の前から消えたに等しい。

「大丈夫だよ唯。俺はちゃんとここにいるから・・・安心しろ」

「・・・・・・うん」

すると徐々に唯の腕の力が強くなっていた。

「唯・・・・苦しい・・・」

「はぁ・・・まあ今日くらいは良いんじゃない、紅騎?」

和が何というか親のような妙に優しい目で見ていた。

「お前ら、完全に他人事だろ・・・」

「あ、そうだ二人に勉強教えてもらおっと」

「憂受験生だものね」

「・・・聞けよ」

「すぅ・・・すぅ・・・」

気のせいかな?耳元で寝息が聞こえるよ~・・・。

「あら?唯寝ちゃったの?」

「認めたくないけどそうみたいだな・・・」

「あら、嫌?」

「・・・・さあな」

俺は唯を引きはがして床に寝かそうとした。

が、俺の首に回した腕がほどけずそのまますとんとずり落ちてきた。

はたから見ると膝枕に見える位置だな・・・こりゃ。

「何してるの紅騎?」

「・・・・事故だ」

「すぅ・・・すぅ・・・」

つーかコイツなんでいきなり寝始めたんだ・・・?

よーく唯の顔をみると目の下にクマができていた。寝てないのか?

「お待たせ~、はい麦茶」

「憂、お前唯が寝てないこと知ってたか?」

「・・・・うん、たぶん2~3時間くらいしか寝てないと思う。」

そんなちょっとしか寝てないのか。これも俺が原因か・・・。

「・・・ちょっとだけ寝かせてやるか」

「良いなぁ紅騎君の膝枕~お姉ちゃん気持ちよさそう」

「後で憂もしてもらったら?」

「うん!」

うん、じゃねぇよ。俺の意志を尊重しろよ・・・。

「はぁ・・・で、どこが分からないんだ?」

「えっと・・・あ、ここ!」

こんな感じで唯が起きるまで憂に勉強を教えた。

 

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

「本当にぐっすり寝てるな・・・コイツ」

憂に勉強を教えているあいだもずっと唯は俺の膝の上で寝ていた。

「そうね・・・ねぇ、紅騎。もう唯を泣かせないって約束してくれる?」

「俺も出来るだけそうしたいけど昔からよく泣くからな・・・唯は」

すると、突然和の顔が暗くなり言葉も歯切れが悪くなった。

「今は・・・ね。紅騎が消えてからの唯は・・・本当に酷かったのよ」

「・・・酷い?」

「ええ。本人は今寝てるから話すけど。なにか抜け殻になったみたいで、いつもぼーっとして・・・」

確かにそれは酷いな。俺の知ってる昔の唯はいつも何か変なことに夢中だったからな。

「じゃあ良かったじゃん。昔の唯に戻って」

「だからもう見たくないのよ。あの時の唯は」

「・・・・分かったよ」

できれば一生見たくないなそんな唯は。やっぱり一つのことに夢中になって無邪気に笑う唯が一番だよ。

「でもどうやって唯は復活したんだ?入学式の時にはすでに戻ってたと思うんだけど」

「それはね、この雑誌を見つけてからお姉ちゃんまた元気になり始めたの」

そう言って憂が持ってきたのは一冊の陸上専門雑誌。何度も同じページを開いたためか一部分だけクセが付いていた。

そのクセの部分を開いてみると俺が中学三年の関東大会で優勝したときの記事があった。

「良く見つけたなこんな小さい記事」

「陸上部の子が教えてくれたの。小学校の時にいた子じゃないのって」

「ふ~ん・・・」

「それでね、お姉ちゃん紅騎君が頑張ってることを知って私も頑張ろうって元気になっていったの」

抜け殻になるのも俺のせい、復活するのも俺がきっかけか・・・。

無性に申し訳ない思いになって、無意識のうちに唯の頭を撫でていた。

「すぅ・・・すぅ・・・ふふ、すぅ・・・」

「さて、俺は帰るよ。唯の部屋で寝かせとくぞ?」

「うん、お願いね」

唯をお姫様抱っこをして唯の部屋まで運んでから俺は帰宅した。

 

 

 

 

 


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