触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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15話「それはそうと綾崎、おまえ何か欲しいものとかってあるか?」by音無

俺は夢を見ていた。何度も見ているあのころの夢だ。

小学四年の俺は父親の帰りを本を読んで待っていた。

「ただいま、紅騎」

「あ、お父さんお帰り~、あれ?背中にあるのなに?」

「今日はお前の誕生日だろ?ほら、お前にギターを買ってきた」

「え?僕に?」

「ああ、いっぱい練習して上手になれよ!」

「うん!ありがとうお父さん!!」

あれから俺は取り憑かれたように毎日ギターを弾いていた。

そして二年が過ぎ・・・。

がちゃ・・・。

「あ、父さんお帰・・・」

「紅騎、今すぐ荷物をまとめろ。出かけるぞ」

「出かけるって、こんな夜遅くに?どこに行くの?」

「いいから早くしろ!」

父親の今まで見たことのない剣幕に押されて自分の鞄に着替えと、中学の制服を突っ込んだ。

バキ・・・バキ・・・。

突然背後で木製の何かが折れる音が聞こえた。

振り返ると、父親が俺のギターを叩き割っているところだった。

「父さん、何やってんだよ!?」

「こんなもの持って行っても邪魔になるだけだ。よし、出るぞ」

「嫌だ、明日は卒業式なんだぞ!?何で、どうして今日出て行くんだよ!!」

「もう時間がないんだ!行くぞ!!」

親父は嫌がる俺の腕を掴んで無理矢理外に連れ出すと、火のついたライターを部屋に放り投げた。

「・・・・・っ!家が・・・」

火は瞬く間に部屋中に広がり、当たりは騒然となった。

親父はその騒ぎを目くらましに、電車に乗って町を出た。

俺が唯一持ち出せたのは、着替えと数枚の写真。それに砕け散ったギターの一部である、金色のピックアップカバーだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さき、おい綾崎。」

誰かに身体を揺すられて、現実世界に戻ってきた。

「ん、・・・寝てたのか?」

どうやら部室で本を読んでいたら寝てしまっていたらしい。

岩沢さんが心配そうな表情で俺をのぞき込んでいた。

「大丈夫か?だいぶうなされていたけど・・・」

「いつものことだよ・・・で、どうしたの?」

「部長がクリスマス会をやりたいんだとさ。それでいける奴を聞いてたんだけど」

クリスマス会か・・・確か今までそんなこと一度もやったこと無かったな。

「・・・で、出るの?」

「そうだな・・・でるよ」

今思えば、寝ぼけ半分でよく考えてなかったのが悪かった。特にこの部活の男女比を。

「よし、これで全員参加だな」

「けど律。場所はどうするんだよ」

「そりゃもちろんムギの家で・・・」

「ごめんなさい・・・その日は予約がいっぱいで、使えそうにないの」

「え・・・マジ?」

「私の家なら大丈夫だよ~」

「家の人とか迷惑じゃないか?」

「お父さんとお母さん、いつも旅行に行っちゃってあまり家にいないんだ~」

「「ラブラブ夫婦だ!?」」

寝ぼけ半分でぼーっとしていたらいつの間にか唯の家で開く算段になっていた。

♪~~♪~~~

突然俺の携帯にメールが届いた。

【ちょっと今日部活のみんなと食べに行くから、夕食お願い!】

レナからのメールだった。了解と返事を送って席を立ち、自分の鞄を持つ。

「あれ、コウ君帰っちゃうの?」

「ああ、ちょっと急用ができた。じゃ、また明日な」

ギターを担いで部室から出て行った。コレがクリスマスの一週間前。

その日を境に、俺よりも先に帰る部員はいなくなり、何か避けられているように会話がぎこちなくなっていった。

「最近避けられている気がする」

金曜の昼休みに、音無と日向に打ち明けた。

「何か思い当たる節は無いのか?」

「いや・・・全く」

「そりゃ、あれだ。女の子同士の秘密って奴だろ!」

「秘密ってなんだよ」

「それは知らねえよ」

日向の適当な言葉に少しため息が出た。

「それはそうと綾崎、おまえ何か欲しいものとかってあるか?」

音無が突然変なことを聞いてきた。

「特にはないけど、どうしたんだ突然?」

「いや、特に意味はないんだけどさ」

曖昧な笑いでそれ以上の追求はさせてもらえなかった。

 

そしてクリスマス会当日、俺は集合時間の1時間ほど早く平沢家に着いた。

ピンポーン

呼び鈴を鳴らすと、軽快な足音と共に憂が出てきた。

ガチャ

「あれ?紅騎くん早いね」

「どうせお前一人で準備してるんだろ?手伝いに来た」

「あ、あははは・・・」

この引きつった笑いは図星だったか。

「あ、コウ君いらっしゃ~い」

リビングにはいると、唯が紙の輪っかを繋ぐ飾りを作っている最中だった。しかも無駄に長い。

「・・・コレは何?」

「つい夢中になっちゃって~」

「へーすげーすげー」

変なことに夢中になっている姉は放置しておいて、妹の方に尋ねた。

「とりあえず料理を作っちまうか、一人じゃ大変だろ?」

「紅騎君、料理できるの?」

「・・・一応な。マズイ物は作らないよ」

憂と相談して俺が揚げ物担当、憂が寿司などをやることにした。

 

 

 

 

 

 

「・・・・ふう、大体こんなモンかな?」

「うん、お疲れ様。」

ピンポーン

「あ、みんな来たみたい」

時刻を見ると、予定集合時間ジャストだった。

「あれ、早いな紅騎。もう来てたんだ」

「近所だからな。手伝ってたんだよ」

「へ~」

こうして、クリスマス会が始まった。

 

「紅騎君見てみて~お菓子が十円だって~!」

飲み物が不足してきたので、俺と琴吹で買いに来たのだが。

「すご~い、昆布よ!昆布が売ってるわ!」

スーパーに来たのが初めてらしく、琴吹のテンションが変なことになっている。

「分かった。分かったからまずは用を済ませないと」

右手でカートを押しながら、左手で琴吹の右腕を掴んで強制連行。

飲み物オーナーで紙パックの、ジュースやお茶を買う。

大勢の飲み物を買うときは紙パックが良い。安いし、1L入ってるし、処分が楽だし。

「紅騎君、このホワイトウォーターって何?」

「気にならない程度に薄くなったカルピス・・・・買う?」

「うん!」

飲み物はオーケー、お菓子類は平沢家にあるから大丈夫。・・・・の、はずなんだけど。

さっきから琴吹がお菓子買いたいオーラを出してるので、条件付きで許可を出した。

「・・・500円までなら何でも買って良いぞ」

「本当!?ちょ、ちょっと待ってて!」

琴吹は大急ぎでお菓子売り場に向かった。

「・・・・ったく。俺は保護者かっての」

誰にも気づかれない程度にため息をついた。

「お待たせ~」

琴吹の持ってきたお菓子は駄菓子が中心で、ざっと計算して丁度500円だった。

 

 

 

 

 

その帰り道、琴吹は普段よりも良く俺に話しかけてきた。

「紅騎君は最近欲しい物とかってあるの?」

前にも音無に聞かれた質問だ。

「特にはないよ、俺は今のこの生活に満足してるし」

「・・・でも一つくらいはあるんじゃない?」

「・・・・駄目なんだよ」

「え・・・?」

「怖いんだよ、今以上の幸せを望むのが。これ以上望んだらまた俺は酷い物を目にするんじゃないかって・・・」

幸せを幸せとして喜べない。自分が幸福であることが辛い。人として間違ってるのは分かってる。

・・・でも駄目なんだ。

「ごめんなさい。聞いて欲しくないことを聞いちゃって・・・」

「別に琴吹が気にすることじゃないよ」

気を遣ってくれた御礼の意を込めて、頭を軽く撫でた。

 

 

平沢家について、玄関に上がると明らかに靴の数が増えていることに気が付いた。

そしてそのうち二足は完全に男物。

「さ、入って入って~」

琴吹に背中を押されて、リビングに入った瞬間。

パンパンパーン!!!

盛大にクラッカーが鳴らされた。

「「誕生日おめでとう!」」

リビングにはさっきまでいたメンバーの他に、音無、日向、山中先生、レナが加わっていた。

そうだった・・・そういえば今日は俺の誕生日だったっけ。

「みんな・・・なんで?」

「サプライズだよコウ君!驚いたでしょ~」

つまりはみんなでグルになってたわけだ。ここ一週間の態度はコレが原因か。

 

 

・・・・・・ズキ

 

 

「ほらほら、コウ君座って座って~」

唯に手を引かれて、ソファに座らされた。

「紅騎、顔色悪いけど大丈夫?」

和が心配そうに俺の顔をのぞき込んできた。

「ああ、大丈夫。心配するな」

「・・・・・」

 

 

ズキン・・・・ズキン・・・

 

 

「はい、コレ。みんなでお金出し合ったのよ?」

ラッピングが施された箱をレナが差し出してきた。

「ああ、ありが・・・・」

ありがとう、みんな。そう言おうとした瞬間。

 

 

ズグン!!

 

 

「うぐ・・・ぁ・・・が・・・」

激しい頭痛と同時にさんざん夢で見てきた様々な光景が一気にフラッシュバックした。

 

なんで・・・なんで俺から大事な物を奪っていくの?

もう何も望まないから・・・幸せも、全てを・・・だから・・・

だからこれ以上大切な物を奪っていかないで・・・

俺は頭の中でめまぐるしく切り替わっていく光景に必死になって許してと言い続けた。

「綾崎、綾崎!しっかりしろ!!」

だんだんと意識がぼやけていくなか、岩沢さんの叫び声が響いていた。

 

 


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