触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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14話「てめーら部室好きに使いすぎ何だよぉぉぉ!!」byさわ子

合宿も終わり、長かった夏休みも本当にあっという間に終わってしまった。早くも学校は文化祭シーズンである。

「音無~綾崎~メシ食おうぜ」

いつものように日向と音無で昼食を取ろうとしたとき。

「あ、紅騎。ちょっと待って」

和に呼び止められた。

「どうした?」

「うん、何かの間違いだと思うんだけど。軽音楽部の名前がリストに入ってないのよ」

「・・・・は?」

「確か二ヶ月くらい前に部長の田井中さんに渡したはずなんだけど・・・」

「分かった、放課後聞いてみる」

「お願いね」

コレが事実なら、約半年間音楽室を勝手に使ったことになる。

そして放課後。早速部長に聞いてみた。すると、みるみる顔が青ざめていき。

「わ、忘れてた・・・」

「・・・マジかよ」

本人曰く、部活動申請の用紙を受け取ってそのまま机に入れっぱらしい。

「今すぐ取りに行ってこい、今すぐに!」

大急ぎで教室に取りに行かせると、若干しわの入った用紙を持って帰ってきた。

「え~と、副部長は誰にする?」

「誰でも良いから早く書け」

「じゃあ綾崎ね!え~と・・・顧問はどうする?」

それがあったか・・・今から顧問を引き受ける暇な先生はいないだろうし。

「あ、さわちゃん先生は?よく音楽室来るし、ギターに詳しいみたいだし」

唯の言葉を信じて、田井中、秋山、琴吹、唯に行かせた。

「さて、大変なことになった・・・で、岩沢さん達は何を見てるの?」

「昔の軽音部のアルバム、さっき平沢が見てたから」

岩沢さんの隣から覗いてみると、とんでもなくデスでメタルな感じの女子部員達がいた。

「部長、山中さわ子・・・って、これ山中先生かよ」

ひさ子が取り出した写真の女子生徒は、確かに山中先生の面影があった。

ダダダダダ・・・バン!!

突然勢いよく、部室の扉が開けられた。

「や、山中先生・・・」

そこには普段の先生とは考えられないくらい必死な形相をした人物がいた。

「は、それは、それだけはぁぁぁぁぁ!!」

目にもとまらぬ速さで、俺たちからアルバムを奪うとすぐにページをめくり始めた。

「探してるのはこの写真ですか?」

ひさ子が先生に向かって例の写真を見せる。

「そ、それは・・・・」

にやり・・・。

ひさ子が悪い人の表情を浮かべて山中先生に語りかける。

「先生は、この写真を見つけてどうするつもりだったんですか?」

「それは・・・その・・・」

「ま、おおかた破り捨てるとかするつもりだってんでしょうね」

「ぎく・・・」

おいおい、いまぎくって言ったぞ、ぎくって。初めて聞いた。

「つまりは私たちは今、先生の弱みを握ってるって訳だ」

「な、何が目的なの?」

「なに、簡単なことですよ。この用紙の顧問ってところに名前とはんこを押すだけ。」

ひさ子の台詞を奪って、突然現れた田井中が最後の言葉を言った。

「わ、分かったわ・・・」

「てことはさわちゃん先生ギター弾けるの?」

「まあ、一応ね・・・」

「わー聞かせて聞かせて~」

ざ・天然娘である唯が空気を読まずに自分のギターを先生に渡す。

・・・・ギン!

突然先生の目つきが鋭くなり、もの凄い速さで早引き・タッピング・歯ギターをやってのけた。

つか、なんで歯ギター?

「てめーら部室好きに使いすぎ何だよぉぉぉ!!」

「「す、すいませーん!!」」

後から入ってきた四人はその場で土下座をしていた。

ひさ子はおもしろそうに椅子に座って見物、岩沢さんは興味なさそうにギターの雑誌をみていた。

俺はさらに弱みを握るためにこの一部始終をしっかりビデオに収める。

「だいたいなぁ!・・・は、」

正気にもどった先生はその場でへたり込んだ。

「うぅ・・・終わった。おしとやかな先生で通そうと思ったのに・・・」

「先生、そう落ち込まないで。ケーキでも食べますか?」

「食べる!」

琴吹の提案に即乗ってきた。案外扱いやすいかもしれない。

まあ、コレで一応部活動存続問題は干渉されたから良しとするか。後は文化祭に備えて練習をするのみである。

 

文化祭当日、学校内は異様な興奮に包まれていた。

特に初めて高校の文化祭を経験する一年生は、とても張り切っている。

そんな中、張り切りすぎて空回りをした生徒が一人。

「ゴウ君゛ぞろぞろ交゛代゛だよ」

我らが天然娘、平沢唯だ。山中先生とギターボーカルの特訓をした結果やりすぎてのどか潰れたそうだ。

それも本番の一日前に。

「まだ駄目だな。予定通りそっちは秋山になりそうだな」

「う゛んごめんね゛ごう君」

「謝るくらいならしっかり自分に出来ることをやれ。ほら、交代」

「う゛ん、ばいばいごう君」

唯と焼きそばを焼く係を交代して、俺は部室に向かった。

ガチャ・・・・。

「お、早いな岩沢さん」

「綾崎よりも早いシフトだったから。」

岩沢さんは最後の練習をしていたらしい。アンプに電源が入っている。

がちゃ・・・。

「あら、岩沢さんと紅騎君。早いのね」

琴吹が入ってきた。

「すぐにお茶煎れるから。」

そう言ってせっせとティータイムの準備をし始めた。いつも思うんだけど、絶対高い奴だよなあの紅茶。

「はい、お待たせ~」

これもまた高そうな箱からクッキーを出して、差し出してきた。

「琴吹は何で軽音部に入ったんだ?」

合唱部とか、もっとふさわしい部があったと思うんだけど・・・。

「だって、こんなに楽しい部他には絶対無いもの~」

そういうものなのか・・・?

がちゃ・・・

「お、綾崎と岩沢はもういるのか」

クラスの仕事を終えたひさ子が帰ってきた。

「ひさ子さんはお茶どうしますか?」

「じゃあ、二人と同じ奴で」

「分かりました~」

「・・・さて、じゃあ三人そろったことだし曲順を決めるか」

ひさ子がホワイトボードに現在の俺たちのレパートリーを書き出していく。

「翼を下さい」「Smoke on the water」そして「crow song」だ。

Smoke on the water は俺が歌い、後の二曲は岩沢さんが歌う。

「俺はcrow songを一番最後にした方が良いと思うんだけど、どうかな?」

「私はそれで良い・・・」

「なら、岩沢、綾崎、岩沢って順番にした方が良いよな?」

ひさ子の提案に俺と岩沢さんは頷く。

「よし、じゃあ決まりだ!」

機材はすでに運んであるから、後は本番を待つだけだ。

 

幕を少しだけどけてステージを覗くと、ほぼ満席状態だった。

振り返ると、全員緊張した表情でそのときを待っていた。

・・・”メイド姿”で。言っておくが俺は執事服である。

「綾崎、やっぱり変じゃないか?この服」

いや、おかしいのは俺たちの顧問だよ岩沢さん。この妙にぴったり作ってある所なんか逆に背筋が凍る。

どうやってサイズ計ったんだよ・・・。

「いや~みんなナイスよ!私の目に狂いは無かったわ!」

そう言って我が顧問は秋山にグッドサインをした。脅して顧問をさせられたのに、この教師ノリノリである。

「ひいっ」

秋山はビビってさらに緊張してしまった。

「吹奏楽部の皆さんありがとうございました」

幕が下りて、裏方の生徒達が手早く準備を終える。

まずは俺たちが最初に弾いて、次に唯達が演奏する。

シールドをさして、トーン、レベル、ボリュームをチェック。大丈夫、やれると自分に言い聞かせて全員の顔を見る。

よし、大丈夫そうだな。生徒にOKのサインを送った。

「続きまして軽音楽部によるバンド演奏です」

幕が上がり、いよいよ演奏開始だ。

岩沢さんとアイコンタクトをとってから同時に弾き始める。

最初はエフェクトをかけないクリーンサウンドで、サビを弾く。

俺がメロディー、岩沢さんがコードだ。

「ワン・ツー・スリー・フォー!」

それから田井中の合図でひさ子、秋山、田井中がイントロを弾き始める。

エフェクターのペダルを踏み込んで、俺と岩沢さんはそれにかぶせていく。

「今~私の~願~い事が~叶うな~らば~翼が~欲し~い~♪」

岩沢さんの歌声が会場いっぱいに響き渡る。それから一気に最後まで弾き終わった。

ワアアアァァァア!!

感触は上々のようだ。

「一曲目はみんなよく知ってる”翼を下さい”のアレンジした奴、どうだった?」

ワアアアアア!

岩沢さんのMCもちゃんとやれている。

「よし、ここでメンバー紹介、ギターのひさ子!」

「よろしく」

「ギター&コーラスの綾崎!」

「綾崎紅騎です、よろしく」

「リズム隊はこの次に演奏するバンドの二人が臨時でやってくれてる。」

「田井中です」

「あ、あ、秋山です・・・・」

「そして私がギター&ボーカルの岩沢まさみ、よろしく」

ワアアアアア!!

「よし、次の曲行くよ!綾崎の"Smoke on the water"!!」

ひさ子のイントロで曲が始まる。

「We all came out to Montreux~」

イントロを聴いて聴いたことのある曲だと知ったのか、次第に生徒達もだんだん身体でリズムを取るようになってきた。

曲が終わる頃には、全員立って聞いていた。

「綾崎紅騎で"Smoke on the water"でした、サンキュー!」

ウオオオオオ!

弾いている側も最初の緊張感が嘘のようにのびのびと演奏している。秋山も大丈夫そうだ。

「じゃあ、最後の曲ねこれは私たちのオリジナルの曲。みんな最後までついてきてよ!!」

田井中のドラムから始まり、最初からどんどんトバしていく。

「Find way ここから~」「Find way ここから~」

俺のコーラスを覚えたのか、みんな二番から一緒にサビの所を歌ってくれた。

ひさ子のアウトロで演奏が終わった。

照明が落ちて場内は真っ暗になる。そのタイミングで唯達とバトンタッチする。

「がんばれよ、秋山」

「う、うん・・・!」

とりあえずガッチッガチな緊張はほぐれたようだ。

コレなら大丈夫だろう。そう思って、俺たちは着替えをすませて部室に戻った。

後から聞いた話だが、唯達が演奏を終えた後、秋山がシールドで足を絡めて転んだそうだ。

転んだだけなら、良いのだが。そのとき秋山は会場の生徒全員に下着を見せてしまったそうだ。

それを見た男子生徒達は、とてつもない罪悪感から三日間自主的に自宅謹慎をしたそうだ。

俺はその三日間とてもとても肩身の狭い思いをした。

 


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