触れるものを輝かすソンザイ   作:skav

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13話「女の子と寝泊まりできるってことだな!!」by日向

「合宿をします!」

突然秋山がそう宣言した。

「突然どうしたんだ?・・・澪」

「どうしたもこうしたもあるか!コレを聞いてみろ!」

そう言って秋山はカセットテープを再生した。

すると流れてきたのは激しいロックだった。しかもかなり上手い。

「澪ちゃん、コレどうしたの?」

「昔の軽音部の曲だ」

秋山の突然の宣言はどうやらコレが原因らしい。

話を要約すると、先日秋山は物置代わりにしている隣の部屋から昔の軽音部の備品を発見。

興味本位で再生してみると、今の自分たちとは比べものにならないほど昔の軽音部はレベルが高かった。

このままでは駄目だと感じ、合宿をするという発想に至ったわけだ。

この提案には俺以外の全員が賛成した。俺以外は・・・だ。

「え~コウ君嫌なの?」

「普通に考えて駄目だろ。男一人に女六人は。」

男一人だけなんて色々な部分で不便が出る。

「つまりコウ君は他に男の子がいれば良いんだね?」

「理想的にはそうだけど・・・」

「ちょっと待ってて!」

そう言って唯は部室を飛び出していった。・・・何をする気だ?

 

 

待つこと十数分。

「連れてきたよ!」

唯が取った行動とはつまり。

「日向、音無・・・なんでここに?」

「いや、突然平沢に連れてこられたんだけど・・・」

「はい!これでコウ君も合宿にいけるよ!」

そう言うことか・・・。ようやく察した俺は音無と日向に状況を説明した。

「なるほど・・・つまりは」

「女の子と寝泊まりできるってことだな!!」

言おうとしたことは伝わったが、日向の言い方は何となく誤解が生まれそうだ。

「まあ、そういうことだ」

「なんだよ水臭えなあ綾崎!そう言うことなら早めに誘ってくれよ~」

そう言って日向は俺の肩に手を回して小声で話してきた。

「・・・どういう意味だよ?」

「一人で可愛い女の子達とお泊まりなんて羨ましすぎるだろ・・・おれも便乗させてもらうぜ」

・・・そう言う意味ね。

「まあ、来てくれるのはありがたいから。」

「お~い、そちらの二人~大丈夫ですか~?」

田井中の言葉で、俺たちは振り返った。

「ああ、大丈夫。これなら俺も参加するよ」

「・・・で、どこで合宿するんだ?学校か?」

「・・・え?」

発案者の秋山が凍り付いた。・・・考えてないのかよ。

「どうしよう・・・いまから借りられるスタジオ付きの宿泊地なんて無いし。」

「そうだ、ムギ!別荘とか持ってない?」

「ありますよ~」

「あるの!?」

田井中は自分で聞いて自分で驚いた。・・・実際ここにいる全員何らかのリアクションをしていた。

本当に何者なんだよ・・・この人。

これで合宿の宿泊地が決まり。それに合わせて細かい日程も決まった。

 

長い長い、夏休みに突入し、本日は合宿当日。時間ジャストに集合場所である駅前に着いた。

集合場所にはすでにみんなそろっていた。・・・唯を除いて。

「おい田井中、唯はどうした?」

「それがさ~さっき電話したら寝坊したって言ってて・・・」

「あ、来たみたい!」

琴吹の指さす方には髪をぼさぼさにした唯がこちらに走り寄ってきていた。

「ほら唯ちゃん、かみ直してあげる」

「ありがと~」

ずし・・・。

すると、突然妙な重量感を左腕に感じた。見ると、岩沢さんが立ったまま俺に寄りかかって寝ていた。

「あ~・・・やっぱりだめか」

「どういう意味だひさ子」

「そのままの意味だよ。岩沢は朝に弱いんだ。いや~ここまで運んでくるのは大変だったよ」

朝からご苦労だな、ひさ子。

「お・・・みんな、そろそろ電車が来るぞ」

音無を先頭にして、みんなはぞろぞろと駅舎に入っていく。

「よし、日向。岩沢さんと俺の荷物を持ってくれ。」

「え~マジかよ・・・」

「そのための荷物持ち要員だろ、ほら」

俺のボストンバッグを日向に背負わせ、岩沢さんのキャリーバッグを持たせる。

そして、開いた両手で岩沢さんを背負う。

「おぉ・・・大胆だね~綾崎くん」

日向の声を無視して、俺も駅舎に向かう。

「・・・あれ?・・・ここは?」

途中で岩沢さんが目を覚ました。まだ声は寝ぼけているみたいだ。

「・・・起きた?」

「あや・・・さき?・・・どうして?」

「立ったまま寝てるから背負ったんだよ」

「そう・・・か」

「降ろそうか?」

すると岩沢さんの腕にぎゅっと力が入った・・・気がした。

「もう少し・・・このままが良い。・・・安・・・心する」

「りょーかい」

電車が車での少しの間だけこのままにしておくことにした。

 

 

 

 

「おー!海だ~!!」

琴吹の別荘地に着いたとたん、田井中と唯がお決まりの台詞を叫んでいた。

「おぉ・・・でかいな」

俺たちは琴吹家所有の別荘の大きさにただただ驚く。

「みんなごめんね・・・どこも予約がいっぱいで、結局一番小さい別荘しか余ってなかったの」

「「これで一番小さいの!?」」

マジで何者なんだよコイツ・・・。

スタジオに行ってみると、そこもとんでもなく豪華だった。

「ひさ子見てみろ・・・こんなでかいアンプ使ったことあるか?」

「いや、無い・・・」

岩沢さんは興味津々といった様子で、きょろきょろと周りを見渡していた。

「よし、荷物も置いたことだし・・・」

「練習だな、律!」

「遊ぶぞ~!」

秋山の期待は無惨にも打ち砕かれた。

「待て律!この合宿の目的は練習だろ!?」

「だけどさ~せっかくの海なんだぜ、遊ばなきゃ損だろ~?」

「そうだよ澪ちゃん、遊ぼうよ~」

この二人は完全に遊ぶモードのようだ。

「紅騎・・・なんとか言ってよ」

「こうなったら何言っても無駄だ。とりあえず夜まであきらめろ」

「そんなぁ・・・」

しどろもどろしている秋山を置いてみんな各自分の部屋に戻っていく。

俺も自分の部屋に戻ろうとしたところで、田井中が入り口で隠れているのを見つけた。

「田井中、お前何やってるんだ?」

「しー・・・まあ、見てなって」

田井中に促されて、俺も中で一人立っている秋山を観察する。

すると、次第に秋山の肩が震え始めた。

「私も行く~!」

とうとう秋山は泣きながら荷物をあさり始めた。

「・・・な?おもしろいだろ?」

・・・何やってんだか。

 

 

 

 

昼食を軽く取ってから海に行くことになった。・・・というよりも、田井中達に強要された。

男達は後片付けをしてから海に行くことになっている。

手早く食器を洗って、水着に着替える。

「ふふふ・・・綾崎、音無、わくわくしてこないか?」

海に行く道中、日向は妙にテンションが高くなっていた。そんな日向を俺たちは苦笑しながら着いていく。

「音無、日向の奴なんかテンション高くないか?」

「まあ、分からなくもない・・・かな?綾崎も本当は楽しみじゃないのか?」

「・・・・・・否定はしない。」

実を言うと結構楽しみなのだが、日向を見るとついつい素直さを引っ込めてしまう。

男として生まれた以上、興味が無いわけがない。

「みんな~遊ぼうよ~!」

それが長い付き合いの幼馴染みだとしても。

「よし、行くぞ音無~!」

「はいはい・・・」

そして、男女ペアでのビーチバレーが始まった。

俺は、それをパラソルの陰の下からぼーっと眺めていた。

波の音やカモメの鳴き声。ひんやりとした浜風を感じるだけで、とても満たされた気分になる。

「綾崎・・・隣、良いか?」

声がした方を見ると、青い水着に白いパーカーをはおった岩沢さんが立っていた。

「・・・どうぞ」

狭いパラソルの中はぎりぎり二人が座れるくらいのスペースしかない。必然的に腕と腕が接触する。

パーカーのおかげで密着こそ無いが、それでも心臓の鼓動が速くなる。

「・・・泳がないのか?」

「もう少ししたら泳ぐよ・・・岩沢さんは?」

「私は・・・泳げないんだ」

「・・・へ?」

「悪いか?」

「いや・・・別にそう言う意味じゃないよ」

むしろそのギャップがかわいらしくもあるなんてこの状況じゃとても言えない。

「あ、そうだ。俺が教えてやろうか?」

「本当か?」

「ああ、普通に泳げるくらいにはなると思うよ?」

水に慣れればすぐに泳げるようになるだろう。

とりあえず膝まで浸かるところまで進む。夏といえども結構水が冷たい。

「大丈夫?岩沢さん」

「・・・・ああ、大丈夫だ」

「よし、じゃあもうちょっと深いところまで行こうか」

胸の所まで浸かる場所へ行く。ここまで来ると、時々ふわっと足が浮いたりする。

突然大きな波が来て俺たちの足が浮き、流されそうになる。

「きゃっ・・・・!」

軽くパニックになった岩沢さんは反射的に俺にしがみついてきた。

「す、すまない・・・」

「いや、慣れない内はそんなもんだよ。もう少し浅いところまで行くからつかまってて。」

「分かった・・・」

内心かなり慌てていた。腕に密着している柔らかいものとか・・・女の子特有の甘いにおいとか。

出来るだけ意識しないように、浅いところまで進んだ。

そして、文字通り手取り足取りみっちり泳ぎ方を岩沢さんに教えた。

やはり思った通り、水に慣れ始めたらあっという間に泳げるようになった。

 

 

夕食のバーベキューの後片付けをしていると、唯・田井中・琴吹がなにやら設置していた。

そして全員を呼び出して地面に座らせる。

「律、コレが終わったら本当に練習するんだぞ?」

「分かってるって、ほら、始まるぞ」

田井中の目線の先にはギターを持った唯が立っていた。

そして、唯がこちらに振り返った瞬間。

ドドドド!パチパチパチ・・・。

盛大な花火が唯を照らし出した。それは本当にプロのライブのように見えた。

「イエーイ!・・・ってあれ?もう終わり?」

「予算がなぁ・・・」

「次は本物ライブでやろうよ」

それは本当に一瞬だったがメンバー全員の練習意欲を高めるには十分だった。

 

「よし、始めるか。秋山、田井中、準備は良いか?」

二人は少し緊張気味にうなずいた。

やっとリズムをいれた練習が出来る。俺は田井中に合図を送った。

今からやるのはcrow songだ。多少手を加えてようやく岩沢さんの納得がいく者に仕上がったらしい。

田井中のドラムから始まり、すぐにイントロに入る。

少しドラムが走り気味だが、ベースがしっかりカバーしてるので問題はなかった。

 

 

~~~~~♪

「うん、良いんじゃないか。岩沢?」

「とりあえずは・・・ね」

「初めて合わせたにしては二人とも良かったよ。」

田井中と秋山はホッとため息をついた。

「よし、次は私たちの番だな。唯、ムギ、準備して」

秋山の指示で、メンバーチェンジをする。

まだ新曲は出来ていないらしく、今日はカバー曲をやるようだ。

「いくぞ!ワン・ツー、ワンツースリーフォー」

~~~~~♪

お、これは”翼を下さい”かまた俺たちとは違うアレンジの仕方だ。

「今~私の~願い事が~叶うならば~翼が欲しい♪」

秋山って結構歌上手かったんだ・・・知らなかった。

その後は気になったことをみんなで話し合って、細かい修正をすることにした。

すると、唯が最近どこかで聴いた曲を弾き始めた。

「唯、その曲って・・・」

「うん、昔の軽音部の曲だよ~」

・・・は?何でそんなもの弾けるんだ?楽譜なんて無かったし・・・

「琴吹、ちょっと1フレーズ何か弾いてみて。」

「う、うん」

~♪~♪

「唯、この曲を弾いてみて」

~♪~♪

いとも簡単にコピーした。

「「・・・・・!!」」

全員驚いた表情で唯を見た。

「な、何?みんなどうしたの?」

唯が実は絶対音感を持っていた事実が今判明した。

 

 

琴吹家の別荘は風呂場もでかかった。幸いにも風呂場か二つあったので男女で分かれて入っている。

「こんな広い風呂に入れるなんてツイてるな」

「しょっぱ!しかも源泉だぜ~」

二人がそれぞれ風呂の感想を言っている傍ら、俺は源泉が流れてるところにいる。

「綾崎、お前熱くないのか・・・?」

音無が心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫大丈夫、ちょっと熱いくらいが丁度良いんだよ」

「それなら良いけど、のぼせるなよ?」

「そう言ってる間に日向が茹であっがてるようだけど?」

「・・・・・・」

「うわっ、本当だ!綾崎悪いけど先に上がってるな」

「分かった」

ぐったりとしている日向の肩を担いで二人は上がっていった。

俺が上がる頃には日向は一応回復していた。

 

 

 

「おーい、音無、綾崎。卓球しようぜ!」

「あー・・・俺は止めとくよ。音無、日向の相手頼めるか?」

風呂は言った後にもう一回汗をかくのはあまり好きじゃない。

「ああ、分かった」

俺はそのままリビングに戻る。すると異様な光景が広がっていた。

女子メンバーが輪っかを作るようにして互いの髪の毛を乾かしていた。

「綾崎、ドライヤー持ってないか?」

後から来たらしい、ひさ子が声をかけてきた。

「持ってるけど・・・ああ、出払ってるから?」

「そうなんだよ。だから貸してくれ!」

「貸すのは良いけど、お前その髪の毛乾かすの大変じゃないか?」

「あー・・・そういえばいつもは姉貴が・・・。」

お姉さんがいるのか、コレは意外だ。てっきり一人っ子か長女かと思ってた。

「やってやるよ。ほら、そこ座れ」

カーペットの上に座らせる。

「じ、じゃあ・・・頼むよ。はい、櫛。」

「サンキュー」

ひさ子から櫛を受け取り、ドライヤーのスイッチを入れる。

ブオオオォォォ・・・

「どこから先にやるとか決まってるか?」

「いや、特には決まってない。任せるよ」

「りょーかい」

とりあえずまんべんなく適度に乾かしてから、櫛でとかす。

「おー、結構さらさらなんだなお前の髪」

「そ、そうか?・・・普通だと思うけど」

こうやって髪をとかしてると、昔レナの髪を同じように乾かしてやったのを思い出す。

アイツの少しクセのある髪もそれはそれでおもしろかった。

確か乾かし終わった後、いつも俺に寄りかかって寝てたっけ。

「すぅ・・・すぅ・・・」

そうそう、こんな風に。・・・・へ?

「おーい、ひさ子さ~ん。もしも~し」

「んふふ、お姉ちゃん。やめてよ~・・・」

がっつり寝てやがるなコイツ・・・。

「しょうがねぇな・・・・よっと」

ひさ子を担ぎ上げてそのままソファに寝かせる。

「これでよし」

すると、後ろから複数の変な視線を感じた。

「お前ら・・・誤解だからな?」

 

誤解が解けるまで、夏休み期間まるまる要した。・・・はぁ。

 


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