翌日の日曜日、マスターと朝食を食べているときに、前々から考えていたことを聞いてみた。
「マスター・・・あのギターってマスターのですか?」
例のストラトキャスターを指さして俺は聞いた。自分でもアホな質問だって思う。
マスターの店にあるんだからマスターのに決まってるじゃないか。
「・・・・いや、あれはお前のだけど?」
予想しない答えが返ってきた・・・・え?俺の?
「俺のって・・・どういうことですか?」
「正確にはお前の母親、紅音(あかね)のギターだ」
さらに俺の予想の斜め上を行く事実が発覚した。
「俺の母親・・・ギタリストだったんですか?」
「ああ、アイツはどっちかというと天才肌だったな。大騎(ひろき)の努力家タイプと正反対だったよ・・・けどそれもあって惹かれ合ったんだろな。」
大騎・・・俺の元父親の名前だ。
・・・俺の知らない、親父の過去。
「・・・だが、もともと心臓が悪かったらしくな。妊娠したときもだいぶ医者とかに反対されたみたいだ。」
そうか・・・やっぱり無理をして俺を生んだのか。
「けど人一倍頑固だった紅音は結局お前を出産。アイツが死んじまってバンドは解散。」
「・・・バンド組んでたんですか?」
「まあな。高校の部活をきっかけに俺、紅音、大騎、その他に2~3人で活動してた。・・・まあ、昔のことだ」
マスターはみそ汁の最後の一口をズズズと飲んでから食器を片付けた。
「ま、ともあれアレはお前の身内のギターだ。好きにしろ」
そう言ってマスターは二階に上がっていった。
よし、じゃあ早速二人を呼んで練習かメンバー探しを始めるか。
「お、来た来た・・・お~い!綾崎ぃ~!!」
ファミレスに入るなりひさ子の声が店内に響いた。当人は全く気にしていない様子。多々出さえひさ子は目だつ。岩沢さんが揃えばさらに・・・。
・・・くそ、恥ずかしい。
俺は小走りでひさ子と岩沢さんが待つ席に向かった。
なぜ俺の家じゃなくファミレスに集合になったかというと、今日はスタジオの予約がいっぱいで使えそうになかったからだ。
だから他のトコのスタジオで練習しよう・・・となり、まずはファミレス集合・・・となったわけだ。
「綾崎・・・私のギター持ってきてくれたか?」
「ふっふっふ・・・それなんだけ、どっ・・・と」
テーブルの上に例のギターケースを置いた。
「これ・・・私のギターケースじゃない」
「まあ、開けてみなって」
岩沢さんは頭の上に?を浮かべつつも、ケースのジッパーを開けていった。
「・・・!、綾崎・・・これって」
「そ、あのギターだ」
「これ・・・あの店長のじゃなかったのか?」
「実は・・・俺の死んだ母親が使ってたギターだったんだ」
「綾崎の・・・母親?」
「そ、今朝それが明らかになってね。どうせなら岩沢さんに使って欲しいし・・・だから持ってきた」
「そんな大事な物・・・私は受け取れない」
「・・・大事な物だからこそなんだけどな」
ギターは楽器だ。大切な物ならなおさら使ってやらないと元々の所有者が悲しむ。
「だったら綾崎が使えばいい・・・」
「俺にはもう・・・大切なギターがあるから」
母親のギターも大切だけど俺には少しの間だったけど親友でいてくれた友人のギターがある。
それに顔も知らない母親に向き合う心の準備とかが俺にはまだ出来ていない。
「・・・だから、しばらくの間使っていてくれないか?」
「そこまで言うなら・・・まあ、使ってやらなくもない」
・・・なんか、お決まりの台詞を聞いた気がする。
「岩沢のツンデレなんて初めて見たぞ、いや~お姉さん嬉しいな~」
「・・・・ひさ子」
ギン!と岩沢さんがひさ子を一睨みきかせた。
「・・・・ゴメンササイ」
「・・・で、練習はどこでやるんだ?」
「それなんだよ!なんか今日はどこのスタジオもいっぱいでよ。全然予約とれねえんだよ!」
・・・それは困った。どれじゃ練習なんて出来るわけがない。
「・・・学校は?」
「学校ね・・・大丈夫かな?私服だけど」
詳しい校則は覚えてないけど、どこの学校でも私服はマズイ気がする・・・。
「大丈夫なんじゃねーの?日曜なんて運動部ぐらいしかいないし」
「まあ、それしか・・・無いか」
今更着替えるのも面倒だし・・・いっか、学校でやれば。
俺たちはそのまま学校に行くことにした。
そして、ひさ子の思惑通り日曜の学校は運動部しかいなかった。
無論部室に行くまで一人の教師に会うこともなかった。
「・・・さて、何からやるか」
「ひさ子、綾崎、曲・・・作ってみたんだけど。」
「え!?もう出来たのか?」
「さすが岩沢!見せて~」
ひさ子の横から譜面を覗いてみた。曲名は”crow song”というらしい。
アップテンポで乗りが良く、かつ歌詞も影を潜めないほど印象に残る物になっている。
「一回弾いて見せてよ。ちょうど新しいギターもあることだし」
「・・・分かった」
岩沢さんは譜面代に楽譜を置いてから、準備を整えた。
~~~~~♪
イントロからリズミカルかつ、大胆に岩沢さんは音を繋いでいく。
「背後にはシャッターの壁~♪」
”翼をください”みたいなバラード調も良いけど、こういうロックもいけるんだな。岩沢さんは。
「どうした綾崎ぃ~ぼーっと岩沢を見ちゃって。・・・もしかして惚れた?」
「・・・ああ、確かに周りを魅了するよ。あの歌声は」
「そう言う意味じゃないんだけどね・・・」
「じゃあ、どういう意味だ?」
「べっつに~」
・・・なぜそこで不機嫌になるんだよ。
まあ、いいや。ひさ子は無視して今は岩沢さんの歌に集中しよう。
「find way ここから~♪」
へぇ・・・思い切りの良い転調だな。・・・この妙な間に本当はコーラスを入れるんだな。
・・・ああ、早くリズム隊が欲しい。