流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

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 八月末に書いた作品です。


夏祭り

「お祭りに行かない!?」

「……へ?」

 

 画面向こうのスバルの言葉に、ミソラはキョトンとした表情を返した。

 久々に、休日に休みがとれそうだったミソラはスバルと遊ぼうと電話をかけたのである。そこで、意外な言葉を聞くことになった。

 

「あのさ、もうすぐ九月だよ?」

「隣町ではこの時期にするんだよ。小さいやつだけれどね。『ミソラちゃんとお祭り』って行った事無かったから、どうかな?」

 

 

 

 当日、水色に花柄模様の浴衣を身に纏い、ミソラは満悦の笑みでお祭り会場の入り口にいた。隣を見ると、スバルもレンタルしてきた紺色の浴衣を身につけている。

 

「じゃあ、行こうか」

「うん! 綿あめ食べたい!」

「はいはい」

 

 入ってすぐ目の前にある綿あめの屋台を指差すミソラに引っ張られ、スバルは一つ購入してミソラに渡した。

 

「いただきま~す!」

 

 パクリとピンク色の柔らかい塊に齧り付く。

 

「うん、甘くておいしい!」

 

 ペロリと口の周りについた綿あめを舐めとるミソラを見て、スバルはゴクリとつばを飲んだ。

 

「スバル君も欲しいの?」

「え?」

「はい、どうぞ」

 

 スッと差し出された部分は、ちょうどミソラが口をつけたところだ。

 

「うん、じゃあ」

 

 オドオドとスバルが少し食べると、ミソラも少し口にする。交互に口にしながら、一つの綿あめを食べきった。

 

「美味しかったね」

「うん、ごちそうさまでした」

「どういたしまして」

 

 このとき、ミソラの頬がちょっとだけ赤いことにスバルは気づかなかった。

 

 

 

 次にスバルが引っ張って連れて行かれたのは金魚すくいだ。定番とも言える屋台に腰を下ろすと、店員と目が合った。

 

「あれ、千代吉?」

「お、スバルじゃないかチョキ!」

 

 キャンサー・バブルに電波変換できる千代吉だった。どうやら、お手伝いに来ているらしい。

 ちなみに、隣ではさっそくキャンサーがウォーロックにいじられている。ハープは呆れてウォーロックの頭を掴んでいる。

 

「にしても、ミソラっちとデートなんて、羨ましいチョキ!」

「シー! シーだって!」

 

 スバルは慌てて指を立てて千代吉に注意を促す。普段と格好が違うため、意外と気づかれていない。しかし、ばれればお祭り会場はパニックになること間違いなしだ。

 

「ごめんチョキ」

「いいよ、これからも応援よろしくね?」

 

 パチリとウィンクをしてあげると、千代吉は嬉しそうに頭をかいた。

 

「サービスチョキよ」

 

 お金を払うと、一回分多く金魚すくいの紙を渡してくれた。

 

「ありがとう」

「よし……それ!」

 

 ちょっと大きめの金魚を狙い、勢いよく水面を掬いあげた。

 

「あ!?」

 

 ポーンと弾かれるように、金魚が宙舞った。それは、まるで吸い込まれるように……

 

「うぐぅ!」

「あ! キャハハ!」

 

 スバルの口へとダイブした。口内の違和感に目を白黒させるスバルを指差し、ミソラは必死にお腹を押さえていた。

 

 

 

「良かったね、一匹貰えて」

「押し付けられただけの様な気もするけどね」

 

 口に入った金魚を貰った二人は、焼き鳥を口にしながら砂利道を歩いて行く。ちなみに、もうミソラは食べ終わっている。そっとスバルは、手に持った金魚を見ているミソラに手を伸ばした。温かい手がピクリと跳ねる。それを抑え込むように、そっと握った。相手の手も、ギュッと握り返してきた。

 

「おう、お前ら相変わらずラブラブだな」

 

 ビクゥッっと、背筋を伸ばした二人。男性の声に振り返ると、スバルとミソラは「え?」と目を見開いた。

 

「シドウさん?」

 

 そこにいたのは、サテラポリスのエース、シドウだった。だが、驚いたところは彼がここにいることだけでは無い。

 

「なんで屋台出してるんです?」

「小遣い稼ぎだ!」

「いや、ごまかすとかしましょうよ」

 

 隣で早速喧嘩を始めているウォーロックとアシッド、それを止めようとするハープはスルーしておく。

 

「あの……」

 

 スバルはシドウの屋台にぶら下がっているプラスチックを手に取った。

 

「これって……」

「おう、見りゃわかるだろ!」

 

 ビシッ! とシドウは親指を立ててふんぞり返った。

 

「ロックマンとハープ・ノートのお面だ!」

「本人の許可無く売らないでください!」

 

 そう、スバルが手に取っていたのはロックマンのお面だ。冷たい目をするスバルと、顔を赤くして怒鳴るミソラの突っ込みに、シドウはニット白い歯を光らせた。

 

「ロックマンとハープ・ノートはサテラポリス遊撃隊の一員! つまり、サテラポリスの独占市場ってわけだ! いいところに目をつけただろう!?」

 

 ただ最低なだけである。

 

「でも……」

「こういうのもあるぞ?」

 

 スッとシドウは屋台の端にあるストラップを手に取った。照れたように顔を赤くしているロックマンとハープ・ノートが手を繋いでおり、二人の間にハートマークが浮かんでいる。

 

「それください!」

「ミソラちゃん、買収されないで……」

 

 特別に無料で一つ譲ってもらい、ウキウキとした笑みを浮かべるミソラに、スバルは呆れた笑みを見せた。

 

「さてと……」

 

 シドウと別れ、ミソラと並んで歩きだしたスバルはハンターVGを開いた。

 

「長官にっと……」

 

 後日、長官から雷を落とされているシドウの姿があったと言う。

 

 

 

 大分時間が経ち、お祭りも終わりに近づいて来たころ、スバルとミソラは少し離れた丘の上に腰を降ろしていた。地面に手をつけると、指の合間を縫うように出てきた草が心地良い。

 かき氷を口に運びながら、ミソラはスバルに尋ねた。

 

「ねえ、何があるの?」

「見ててごらん?」

 

 スバルが指差す暗い空を見上げた。ちょうどその時、ヒュウンと高い音が響く。

 

 パアンと光が舞った。

 

「わぁ! 花火!!」

「綺麗でしょ?」

 

 うっとりとした目をするミソラに見とれながら、スバルも花火を見上げた。

 

「また……」

「うん?」

「また、来たいな……」

 

 ミソラは仕事上、休みなんてロクに取れない。夏にこんな日を過ごせることなんて、あと何回あるだろう?

 ミソラの手が温もりに包まれる。スバルが手を握ってくれていた。

 

「来年からも、二人で来よう?」

「……うん!」

 

 花火は幾つもの丸い花を咲かせ、一瞬のきらめきで二人の笑顔を祝福しながら消えてい行った。


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