流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

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お久しぶりです。
今日は8/2……ハープの日。ミソラの誕生日ですね。
っていうわけで、一本投下します!


ハイキングに行こう

 昼前の日曜日。青い空の下で、スバルはむき出しの土を踏み進めていく。いつも舗装された道路の上ばかり歩いているので、ちょっと歩きづらい。

 

「待ってよスバルく~ん!」

 

 スバルの後ろから透き通るような声が聞こえてきた。振り返ると、少し遅れてミソラが坂道を登ってくるところだった。青い長ズボンに黄色い長袖シャツ。背中にはリュックサック。キャップの下から流れてくる汗を、首にかけたタオルで拭う。

 

「ペ、ペース早いよ……」

「そう?」

 

 そういうスバルも紺色の長ズボンに赤い長袖シャツと言う姿だ。ミソラの物と同じぐらいのリュックサックを背負い、首にはタオル。色違いのキャップをかぶっていて、いつもの鶏冠のような髪が後ろから飛び出している。

 彼も汗を拭うと、ハンターVGを取り出した。

 

「ブラウズ」

 

 地図を開くと、2人の現在地がマーキングされた。周りには円とは言い難いグニャグニャな丸が幾重にも描かれている。等高線というものだ。

 

「コース」

 

 続いて、それらを貫通するように赤い線が描かれる。

 

「見てよミソラちゃん。まだ五分の一も進んでいないよ」

「だから……ゆっくり行こうって……」

 

 ミソラがゼェゼェと息を切らしている。体力勝負のアイドルでも、今のスバルのペースは辛いらしい。

 

「……じゃあ、少しペースを落とす?」

「うん、そうしよう。できれば小休止しよう?」

 

 ミソラがリュックサックのポケットから水筒を取り出して飲み始める。スバルは周囲を見渡した。道の脇には青々とした草が生い茂っていて、緑色の虫……たぶん、あれはバッタだ。ブラウズ画面をかざすと、映像と音声の解説が開始された。

 

「……やっぱりバッタか」

「昔はどこでも見られたんだっけ?」

 

 ミソラが横から覗いてきた。顔が近くに来て、スバルは思わず背中を伸ばした。

 

「今じゃここみたいな自然公園でしか見れないけれどね」

 

 今日、スバルたちはとある田舎、よかよか村というところに来ている。国立公園に指定されていて、昔ながらの自然が残されている。

 いつもアイドル稼業で忙しいミソラにとっては久々の休暇。たまには緑を楽しんでもらうのも良いのではないか。そうルナからアドバイスを受けて、ハイキングをしているに至る。

 日曜日ということもあって、人の数はそれなりに多い。ミソラは正体がばれないように、髪を編むなどの簡単な変装をしている。

 

「さてと、行こうかミソラちゃん」

「え、あ……うん」

 

 慌てて水筒をしまうミソラを連れて、スバルは先を歩く。

 

「ちゃんと僕がリードしないと……」

 

 そう言いながら、先ほどの地図を広げる。そこにはいくつかポイントマーカーが記されている。昨日、あらゆるサイトやSNSを調べて、綺麗な風景や見どころを押さえておいたのだ。これらの場所に彼女を連れて行けば、きっと喜んでもらえるはずだ。

 

「ウォーロック、僕頑張るよ」

 

 昨日、眠そうな顔で「早く寝ろ」という文句を言っていた、今はハープと二人きりでどこかに逝っている相棒へ誓いを立てた。

 

 

「うわあ、綺麗!」

 

 ミソラが目を輝かせた先に広がっているのは花畑だった。赤や黄、紫と言った色の花々が咲き乱れている。

 

「ここはドリームアイランドの花壇と違って、野生のままにしてあるんだって」

 

 ブラウズ画面の説明をカンニングしながら、スバルが説明した。

 

「人が手入れをしてないってこと?」

「うん、だから時々、管理側も把握していない花が咲いたりすることもあるんだって」

「へ~、だからか。なんか生命を感じるんだよね、ここ」

「そ、そう……?」

 

 ミソラが一人で納得して頷いている。インスピレーションを大事にするミュージシャンの彼女には、何か感じるものがあるらしい。理系なスバルには理解できない領域だ。

 

「気に入ってもらえた?」

「うん、もうバッチリ!」

「よし、じゃあ次に行こうか」

「え、もう行くの?」

「うん」

 

 他にも回りたいところが沢山あるのだ。汗を拭いているミソラの手を引いて、スバルは歩き出した。

 

「あの、スバルくん」

「なあに?」

「その前に、お昼行かない?」

 

 スバルは時計を見た。まだ11時ぐらいだ。

 

「もうお腹空いたの?」

「エヘヘ、歩いたらなんか小腹減っちゃって」

「もう、しょうがないな~。ミソラちゃんはブラックホールを持ってるしね」

「食べ盛りの年頃なだけです~」

 

 たぶん、20年後も同じことを言っているだろう。その言葉は飲み込んでおいた。

 

 

 ハイキングコースの各地点には休憩所が設けられていて、軽食が楽しめる。ホットドッグ一つとメロンソーダを飲んでいるスバルの目の前では、ミソラがオニギリ二つに、サンドイッチ三つに、牛丼にラーメン。デザートにお団子という豪華ラインナップだ。

 

「うん、この牛丼美味しい! ゴン太くんも満足するかもね」

「……そんなに食べて、午後から大丈夫?」

「だから腹5分目ぐらいにしてるじゃん」

「……そう」

 

 何回見てもこの食欲にはなれない。他の客と同じく青い顔をするスバルにはお構いなしに、ミソラはごくごくとスポーツドリンクを一気飲みする。

 

「ところで、この後どうするの?」

 

 スバルの目がきらりと光った。午後からは暑くなる。そう思って、涼を得られる場所を選んである。

 

「この後は滝を見に行こうと思ってるんだ」

「滝か~」

「水も綺麗で、そのまま飲めるらしいよ」

「へ~、美味しそう~」

 

 ミソラの感想にスバルは首をひねった。

 

「今飲んでいるスポーツドリンクの方が味があると思うけれど」

「いや、そうじゃなくてね……」

 

 この辺りは、スバルでは理解し辛い領域なのかもしれない。

 

「そろそろ行こうか?」

「あ、うん」

 

 ミソラが食べ終わったのを見て、スバルが立ち上がった。滝以外にも案内したい場所がまだまだあるのだ。

 

 

 昼食後に少しだけ休憩を挟むと、スバルとミソラは滝のある場所を目指した。スバルとしては最高のコースを選んだつもりなのだが、一つだけ見落としがあった。そこに行くにはつり橋を渡らなくてはならないのだ。

 古ぼけた縄がギシギシとなり、スバルの一歩に合わせて橋が揺れる。それに合わせて、スバルと橋の影もグラグラと揺れた。

 

「し、下を見ない……下を見ない……」

 

 足元からはゴウゴウと川の流れる音がする。ちょうど急流のところらしい。水と水がぶつかり合って、滴が腕にかかってくる。

 

「ミ、ミソラちゃん、無事!?」

 

 好きな女の子の前でかっこ悪いところは見せたくない。スバルにだってそれぐらいのプライドがある。シーサーアイランドでは高いところが怖くて、ミソラに手を握ってもらったという、赤面の思い出があるのだ。

 思い切って振り返ると、内またになりながらも必死に後を追ってくるミソラが見えた。目が合うと、弱々しい顔で笑みを作った。どうやら無事らしい。

 先に渡り切る。足がガクガクとするが、膝辺りを拳で叩いて気合を入れる。後からやってきたミソラを笑顔で迎えた。

 

「やったね、ミソラちゃん」

「う、うん……」

 

 渡り切るなり、ミソラが足をもつれさせてスバルに寄りかかった。慌てて全身で抱き留める。

 

「ご、ごめんスバルくん!」

「だ、大丈夫だよ!」

 

 別の意味で赤面しながら、スバルはミソラが自分で立ち上がるのを静かに待った。ミソラも顔が赤い。

 

「ミソラちゃんも怖かったんだね」

「う、うん……あれだけ揺れたら……ね?」

 

 スバルにもたれかかっていたミソラだが、よいしょと体を起こした。自分の足で体を支える。

 

「それに、もう大丈……」

 

 ミソラが斜めになった。ガクリと足が砕け、糸が切れた人形のように倒れた。地面にぶつかりそうになったところを、スバルの手がギリギリで受け止めた。

 

「ミソラちゃん!」

 

 抱き起そうとして気づく。ミソラの顔が赤い。そしてどこか暑い。加えて息が荒い。

 

「熱中症……!」

 

 ようやく、ようやく気づいた。遅すぎたぐらいだ。

 スバルはミソラの名前を呼ぶ。だが返答がない。苦しそうに呼吸を繰り返すだけだ。

 

「えっと、こんな時は……」

 

 パニックになりそうになって、思いとどまる。周りに人はいない。ウォーロックもハープもいない。自分しかいない。自分が何とかするしかないのだ。

 ブラウズ画面を開いて、ネットで検索をする。だが遅い。なかなか表示されない。なぜ調べてこなかったのだろう。コースなんかよりも、そっちを勉強しておくべきだった。

 ようやく開いた。内容を見て頭を抱えた。だがやるしかない。

 

「ミソラちゃん、ごめん」

 

 彼女を抱えて、日陰に移動させる。服をはだけさせて中の熱を逃がす。自分のリュックサックから飲みかけのスポーツドリンクを取り出し、彼女の口に少しだけ流した。

 あとは仰ぐものがあればいいのだが、残念ながらない。吹き出してくる汗を頻繁に拭いてあげるぐらいだ。

 

「後は……」

 

 できることを探す。これから訪れる予定だった滝を見る。これは運が良い。近くに休憩所がある。そこならスタッフだっているだろう。

 

「ミソラちゃん、少しだけ待っててね」

 

 彼女を置いていくことは苛まれるが、仕方がない。おそらくこれがベストなのだ。立ち上がると、スバルは一目散に駆け出した。

 

 

「軽い熱中症よ」

 

 医療スタッフは柔らかい声でそう言った。

 

「良かった~」

「エヘヘ、ごめんね心配かけて」

 

 簡易ベッドの上でミソラはペロリと舌を出した。適切な処置をしてもらって、もう完全に回復したらしい。

 

「でも、君も走ったりしたらダメよ。転んで怪我したり、君も熱中症で倒れる可能性だってあったんだから」

「す、すいません」

 

 そうなったら、ミソラへの処置は遅れていただろう。

 

「こういう時は、電話で助けを呼ぶ……良いわね?」

「はい……」

 

 完全に頭から抜けていた。

 

 

 スタッフに礼を言って、スバルとミソラは滝を眺めていた。木造りの手すりにもたれかかって、跳ねる水しぶきを眺めている。

 

「ごめんね、ミソラちゃん」

「良いよ、私も疲れたっていうべきだったんだし」

 

 ミソラが熱中症になったのは、ろくに休憩せずにスバルが連れまわしたからだ。彼女を色々な場所に連れて行きたい……と一人で空回りして、彼女を辛い目に遭わせたのだから、罵倒されても文句は言えない。だがミソラは笑って許してくれた。

 

「なんていうか、ほんとゴメン」

「だから良いって。もう、謝るの禁止ね」

「……うん、ごめん」

「じゃなくて……」

「あ、えっと、ありがとう」

「うん、それでいいんだよ」

 

 膨れ顔になりかけていたミソラだったが、それを笑みに変えて、次に恥ずかしそうに俯いた。

 

「あのさ……ほんと?」

「え、なにが?」

 

 スバルの問いにミソラは顔を真っ赤にした。モゴモゴと口籠らせる。

 

「ふ……服、脱がせたって、ほんと……?」

 

 今度はスバルが顔から火を噴く番だった。焦っていたとはいえ、仕方なかったとはいえ、女の子相手にとんでもないことをしてしまった。

 

「ご、ゴゴゴゴゴごめんなさい!」

 

 全力で腰から頭を縦に往復させた。高速で体が三つぐらいに分身しているように見える。

 

「い、良いよ……私を助けるためだったんでしょ。それに、謝るの禁止って言ったし……」

 

 それでもミソラはスバルと目を合わせようとはしない。モジモジと手を弄ぶだけだ。

 

「えっと……どう責任をとれば……」

 

 言いながらスバルは顔を押さえた。今日の自分はまるでいいとこ無しだ。ミソラにどれだけの失礼をやらかしているのだろう。

 

「じゃあ……」

 

 ミソラは少し考えると、休憩所を指さした。

 

「かき氷奢って」

「……まだ食べるの?」

 

 呆れて聞き返しながらもスバルは吹き出すように笑ってしまった。ミソラも「エヘヘ」とはにかんだ。

 

「それと、また一緒に来ようよ。ね?」

「……うん、そうだね」

 

 なにも急ぐ必要なんてなかったのだ。スバルはミソラの手を取ると、かき氷目指してゆっくりと歩き出した。




ひっさびさのスバミソ短編です。
ブランクありすぎてつまらない?
いやスイマセン。

スバミソネタですが、最近はミソラ視点になっていることが多く、マンネリ化を感じていました。そこで、今回はスバル視点からという形を目指してみました。大人しく見えて、意外と突っ走ってしまうスバルらしさを出せたかなと思います。

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