流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

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雨宿り

 青い空とまぶしい太陽。絵に描いたような晴天の下を二人は歩いていく。特にすることは無い。木々と川が流れているだけの、平凡な公園。何もない場所をただブラブラするだけ。人によっては退屈なこのひと時も、スバルとミソラにとってはかけがえのない時間だ。

 

「お、虫を発見!」

「どこ?」

「あそこ」

 

 ミソラが指さした場所を見てみる。てんとう虫が細い草を上っているところだった。

 

「なんだか一生懸命だね」

「そうだね、頑張れ~」

 

 二人が見守っている中、てんとう虫は草の先端近くまで這いあがると、その裏に身を潜めた。

 

「恥ずかしかったのかな?」

「関係ないと思うよ」

 

 てんとう虫にバイバイと手を振って、二人はまた歩き出す。スバルは道の真ん中を歩いていく。対してミソラというと、右に左にと動いては、興味のあるものを見つけて立ち止まる。スバルにとっては、目の前で蝶が踊っているように思えた。

 

「そういえば、あの二人はどうしてるかな?」

 

 スバルがこの話題を出したのは、道脇で地面を突いている二羽の鳩を見たからだ。きっと番いだろう。

 

「ハープが楽しいところに連れて行ってるよ」

「楽しいところ……ね」

 

 ハープの弦で簀巻きにされていたウォーロックを思い出した。

 

「相変わらず、お尻に敷かれているんだろうね」

「ウォーロックくん、ハープに逆らえないもんね」

 

 他人事な会話にクスリとほほ笑む二人。そうしている間に、鳩はパタパタと低空飛行して木々の奥へと消えて行った。

 ふとスバルは空模様に気づいた。先ほどまで晴れ渡っていたのに、雲が見える。それも灰色の。

 

「ミソラちゃん!」

 

 鳩に手を振っていたミソラの手を取り、スバルは走り出す。ミソラも気づいて足を速める。見る見るうちに、雲が地上から日向を奪っていく。そしてとうとう、二人の体に水滴が落ち始めた。小降りになったころに、ようやく屋根のある場所についた。

 

「良かった、間に合った」

「間に合ったのかな?」

 

 体が少し濡れてしまった。パラパラと降り注ぐ雨を見ながら、ミソラはポーチからハンカチを取り出して体をふく。

 

「天気予報、雨って言ってたっけ?」

「ちょっと待ってね」

 

 ハンターVGを取り出して、空中ディスプレイを開くスバル。こういうところは本当に几帳面だな……とミソラは頬を緩める。

 

「……あ、ちょうど今から一時間雨を降らせるって書いてる」

「確認忘れてたね」

 

 スバルも自分のハンカチを取り出して、体をふき始める。服を絞れば水が出る……という訳ではないが、じんわりと湿っていてあまり気持ちよくない。

 

「一時間もこのままは、ちょっとやだな。早く電波変換して帰ろう、スバルくん?」

「ミソラちゃん、忘れた?」

「あ、そっか……」

 

 ウォーロックとハープは別行動中だ。肝心な時にいないとミソラは頬を膨らませた。

 

「このまま待つしかないか……あ~あ、せっかくのデートなのにな……」

「まるで、天候制御ができなかった時代の人みたいだね」

 

 スバルは笑って言うけれど、ミソラにとっては面白くない。陽気の中で一緒に散歩をする。今日はそれを楽しみにしていたのに。

 

「天候を操れるのなら、一日中晴れにしてくれたらいいのに……」

「ミソラちゃん、200年前のネット事件は知ってる?」

 

 なんだから的外れ。そんなスバルの答えにミソラは目を輝かせた。

 

「それって、私が攫われた時代だよね?」

「そうそう、熱斗さんやロックマンエグゼさんと会った、あの時代ね」

 

 200年前にタイムトラベルしたあの冒険を思い出す。

 

「ちょうどあの時代に、ニホンの環境維持システムがハッキングされてね、大変だったんだよ」

「どれぐらい?」

「震度10の地震がニホン列島全体を襲うところだったんだよ」

「何それ……怖い」

 

 背中が寒くなった。雨のせいとは別の理由で。

 

「その反省を踏まえてね、押さえつけるだけじゃなくて、適度に発散させよう……ってことになったんだ」

「だから今も雨を降らしているんだね?」

「そうそう」

「自然には逆らえないんだね」

 

 納得するしかないな……とミソラは空を見上げた。あのてんとう虫も、番いの鳩も、今頃どこかで雨宿りをしているのだろうか。

 ポツ……ポツ……と音がする。雨が葉を叩く音に混じって。こうして聞いてみると、雨の音も悪くない。ミソラはそっと目を閉じた。スバルも倣って目を閉じる。地面、木々、水たまり……雨の演奏は止むことなく、静かに過ぎていく。

 閉じていた目を開ける。ミソラの前に広がっているのは、さっきと変わらない世界。当たり前と言えば当たり前だった。木々が勝手に動くなんて、物語のなかだけなのだから。

 

「……誰もいないね」

 

 スバルも目を開ける。「そうだね」と頷いた。

 

「まるでこの世界に、私たちしかいないみたい」

「……そうだね。ちょっと寂しいね」

 

 雨の音が、ほんの少しだけ強くなった気がした。木をうつ雨音、流れる川の音、地面や水たまりで跳ねる水滴。人のいない世界に、ミソラは呟くように言った。

 

「もし、そうなったら……」

「うん?」

 

 なんだか恥ずかしい。足を交差させてみる。手を後ろで組んでみる。一息ついてから、ぽつりと口にした。

 

「側に……いてくれる?」

 

 顔が赤くなった。冷えていたはずの頬が熱い。なにを言っているのだろう、自分は。変な質問だった。それでも期待してしまう。どんな返事をくれるだろう。顔は隠してしまっても、耳はスバルの方を見てしまう。

 

「変なこと言わないでよ」

 

 肩を落とした。できれば甘い返事が欲しかった。けれど、やっぱり答えにくかったみたいだ。当たり前だ。メルヘンだった自分をぽかりと叩いた。

 

「いるに決まってるじゃないか」

「……え?」

 

 振り返る。スバルは不思議そうな顔していた。

 

「その言い方だと、ミソラちゃんしかいないから、仕方なく一緒にいるみたいじゃないか」

 

 数秒固まっていた。そしてプッと吹き出す。笑い声が漏れだした。「アハハハハ」とお腹を抱えてしまう。

 

「なんで笑うの?」

「ううん、ゴメン。なんでもない」

「なら良いけれ……ど……」

 

 スバルの腕が温かくなった。ミソラが抱き着いている。

 

「み、ミソラちゃん……?」

「エヘヘ……」

 

 ミソラの満面の笑み。スバルも感じる。体が熱くなってくるのを。

 雨の中、二人は体を寄せあった。雨が止むまで、ただずっと……。




 今日は初心に戻って、ただスバルとミソラがラブラブするだけの話を書いてみました。やっぱり書いていて面白かったです。

 私の執筆家としての原点は、やっぱりこの二人なんだろうな……と思います。



 まあ、何が言いたいのかというと……スバミソって至高だよね!!

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