流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

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今回はちょっと暗いかな~


手を掴んで

 まぶしい。光を感じて重たい瞼を少しずつ開く。カーテンの隙間から差し込んでくる日差しが、白い線を作っている。もう朝か……と、僕はゆっくりと体を起こす。フアアという間抜けなあくびが出た。昨日、機械をいじくって夜更かしすぎちゃったみたいだ。背中をそらして伸びをする。ようやく頭に血が回ってきた。ベッドからはい出て、カーテンを開く。立ち並ぶ家々にと、こんな時間から仕事に向かっているスーツ姿の人たち。いつも通りな僕の町だ。

 布団を折りたたんで、服を着替えて一階に降りると母さんがいた。

 

「おはよう、母さん」

「おはよう、いつも同じ時間に起きてくるわね」

「そうなの? 気にしたことなかったよ」

 

 母さんや先生いわく、僕は真面目で規則正しい生活をする人らしい。僕は普通にしてるだけのつもりだから、よく分からないけれど。

 

「さあ、早く食べちゃいなさい。早くしないと、迎えが来ちゃうわよ」

「そうだね、急ごうっと」

 

 とりあえず、母さんが作った朝食を食べて、二階に戻って学校に行く準備を済ませる。

 そのとき電話が鳴った。これも時間通りだなと思いながら電話に出る。画面に出てきたのはツインドリルをぶら下げた女の子だ。

 

「おはよう、委員長」

「おはよう、今日も迎えに来てあげたわよ」

 

 彼女は僕のクラスの学級委員長なんだ。僕の家庭事情を把握した彼女は、近所ということもあって毎日迎えに来てくれてる。

 

「いつもありがとう」

「べ、別に……あなたが不登校になったら、私の学級委員長としての名に傷がつくから、心配してあげてるのよ!」

「ハハハ、委員長らしいな」

 

 玄関のドアを開けて、電話越しではなく直接委員長に言ってあげた。顔を真っ赤にしてそっぽを向いている。口はうるさいけれど、こういうところが可愛いなって思う。

 学校について、皆に「おはよう」って挨拶する。ゴン太とキザマロ……あ、特に仲のいい友達で、委員長と同じく僕のブラザーなんだ。男同士って意味では一番仲のいい二人だ。話題はいろいろとあるけれど、一番盛り上がるのが響ミソラっていうアーティストの話題だ。

 三人で盛り上がってるときに、ふと視界の隅に人影が写った。珍しい緑髪をした子が、一人外を眺めている。その時、担任の育田先生が入ってきた。僕はすぐに席に戻った。

 

 

 授業を受けて、休み時間に友達としゃべって遊んで、放課後にまた遊んで宿題をして……そのあと、僕は一人夜の街に出る。向かう先は、学校の裏山にある展望台。好きなんだ、天体観測が。毎晩、少しずつ変わっていく星空を見るのが僕の趣味。そして、決意の証だ。

 僕の父さんは宇宙飛行士で、今はその宇宙で行方不明だ。皆「三年も前のことだから諦めろ」って口をそろえて言う。けど、僕は信じない。絶対に生きてる。絶対宇宙飛行士になって、探しに行くんだ。父さんを……。

 けたたましい音がした。左手のトランサーを見ると、アクセスシグナルが鳴っていた。誰から……父さん!? 父さんが僕にアクセスしてる……。生きてた! やっぱり生きてた!

 星空を見渡す。帰ってくるとしたら、空からに決まっている。

大気圏近くに宇宙船が来てて、僕に連絡してくれたのかな? あ、アレかな? 青い光が見える。だんだんと大きく……って僕に近付いてくる? え? えっ?

 僕の視界が青一色に染まった。

 

「ここが……地球か?」

 

 聞き覚えのない声がした。光が段々と弱くなっていく。恐る恐ると目を開けると、犬の幽霊みたいなやつがいた。

 

「な……なに……これ?」

「これってなんだ、その言い方は? 俺様はウォーロック。FM星人だ!」

 

 最後の言葉に僕は食いついた。

 

「FM星人って……父さんが行くって言ってた……」

「お、じゃあお前が星河スバルか。大吾の言ってた通り、お前のところにたどり着けたな」

 

 大吾……? 父さんの名前だ。

 

「父さんのこと知ってるの? ね、ねえ!」

「落ち着け、順を追って話すから、よく聞け」

 

 ウォーロックは説明をしてくれた。彼がFM星から逃げてきたこと、地球侵略とかいう三流映画みたいなことが起きようとしてるってこと、父さんについては……一緒に戦ってくれるなら話してくれるってこと。最後は納得いかなかったけれど、そんなこと言ってる暇もなかった。電波ウイルスっていう連中が襲ってきたからだ。僕はウォーロックに言われるがまま電波変換というものをして、彼と融合した。ぴっちりタイツが恥ずかしかったけれど、ウイルスたちは無事に退治できた。このとき、僕の答えは決まっていた。

 

「分かったよ。君と一緒に戦うよ」

「おいおい、初対面の異星人を信じるのか?」

「父さんの友達なんでしょ。なら、信じるよ」

「おいおい、どんだけお人よしなんだよ、地球人ってのは」

 

 それに、母さんや委員長たちが傷つくのは見たくない。僕が……守るんだ。父さんの分まで!

 

 

 どんな戦いになるのか……って不安だった。最初の敵と戦う時は、ほどなくしてやってきた。相手はオックスという牛の電波体だった。委員長とゴン太が喧嘩して、しょんぼりとしていたゴン太にとりついた。怖かったけれど、さほど問題なく倒せた。目覚めたゴン太に尋ねると「バイキングに行こうって提案したのに、却下されて寂しかった」とかいうすごくどうでもいい理由だった。委員長とも仲直りして、特に問題もなく終わった。

 二回目は天地さんの研究室……あ、父さんの後輩で、よく僕と母さんを心配してくれてるんだ。その研究室に、委員長たちと遊びにいったところでキグナスってやつに襲われた。天地さんと委員長たちを傷つけるやつは許さない! ちょっと苦戦したけれど、何とか倒した。天地さんも委員長たちも無事で本当によかった。そのあと宇田海さんって人が辞職したらしい。知らない人だったけれど、何かあったのかな? そんなことよりも、委員長がロックマン様が……なんて言い出した。どうやら、僕の戦いを見ていたらしい。やめてよ、恥ずかしい……。

 三回目……っていうか、そんなことよりもすっごいことが起こったんだ。あの響ミソラだよ! 国民的人気アイドルの響ミソラ! 彼女に会ったんだ、直接。それも二人っきりで! 朝、展望台に行ったらいたんだよ。大ファンだったから握手求めちゃった。やったね! ウォーロックは孤独の周波数がどうこうって言ってた。もしかしたら、彼女が狙われるのかもしれない。監視していたら、やっぱりハープというやつがとりつこうとした。ウォーロックの知り合いで、それほど悪い人でもなかったらしく、説得で事なきを得た。

 ただ、ミソラちゃんの問題は解決してないらしくって、このままじゃ嫌々歌を歌うことになるらしい。悪いのはその金田っていうマネージャーだ。悪人は倒すに限る。子供の体だと勝てないけれど、電波体になって金田を殴っておいた。長期入院になるだろうから、これであいつの手からミソラちゃんを守れた。報告したよ。喜んでくれるだろうって。「ありがとう」と言ってくれたけれど、彼女はまだ悲しそうだった。

 

「どうしたの?」

「……ううん、なんでもない。ありがとう、それじゃあ明日のライブ来てね?」

「行くに決まってるじゃないか!」

 

 手を振って、僕らは別れた。僕に背中を向けたとき「君には分からないよ」と、小さく聞こえた気がした。気のせいだろうね、きっと。翌日、ミソラちゃんは引退ライブをして、この町から去っていった。あ、しまった! どうせだからブラザー申し込んだらよかったな……。

 

 

 とりあえず、父さんにはびっくりだった。響ミソラ引退のがっかりもどこかに飛ぶぐらいにびっくりした。AM星人の三賢者とかいう人……って言っていいのかな、異星"人"なわけだし。その人たちから父さんのことと、アンドロメダのことを聞かされた。それを起動するカギを持って逃げてきたことも、ウォーロックが説明してくれた。鍵を守るために、スターフォースっていう力をもらった。でも、なんの変化もないんだ。三賢者は言う。

 

「星河スバル……さすがは大吾の息子だ」

「優しく賢く……なにより強い。だが、ただそれだけだ」

「お前は絆を理解していない」

 

 絆を理解していない? どういう意味だよ。僕には友達がいる。クラスの皆とも仲良くしてる。絆を理解してないなんてない。けど、三賢者は「絆を大切に思う力があれば、スターフォースは覚醒する」とだけ言って、去っていった。よく分からないよ。

 答えが出ないうちに、四回目がやってきた。リブラがとりついたのはよりによって育田先生で、委員長まで傷つけられそうになった。僕は委員長を守るために、全力でリブラと育田先生を倒した。そのあと、育田先生が辞職しようとしたけれど、それはクラス一丸となって止めた。しかもさ……聞いてよ。とっても嬉しい報告があるんだ。

 

「あなたが、ロックマン様だったのね?」

 

 どうやら、委員長にばれてしまったらしい。

 

「そ、そうだよ。僕がロックマンだよ」

 

 恥ずかしいけれど、正体を明かした。するとどうだろう、委員長がモジモジしてる。あ、やばい。すっごくかわいい。その時、三賢者の言葉を思い出した。絆を思う心が……って、もしかしてこのことなんじゃ? この気持ちが本当かは分からないけれど、僕は委員長に告げた。

 

「あの……委員長。僕、委員長が好きみたいなんだ。僕の……恋人って駄目かな?」

 

 するとどうだろう、委員長って今までにないぐらい顔を赤くしたんだ。

 

「ば、ばっかじゃないの! 私たち小学生よ! それに、私は……」

「ダメ……かな?」

「だ、ダメなんて……」

 

 あ、ちくしょう。可愛すぎる! 皆には内緒で、僕たちは付き合うことにした。

 そうだよ、見ての通り。僕には友達がいる。恋人がいる。ブラザーがいる。僕は絆を大切にしてる。胸を張ってそう言える。

 

 

 なんでこんなことになったんだろう。五回目の敵……それがよりによって委員長だなんて。デートでヤシブタウンに来たら、偶然委員長の両親に出会って、恋人だとばれてしまった。小学生がこんなことするなって、やっぱりあの学校はダメだから転校させるって、頭越しに怒鳴って、委員長は走り去って……そしてオヒュカスにとりつかれた。なんで好きな人を倒すなんてことしなくちゃならないんだよ。オヒュカス、絶対に許さない! 僕は一切手加減することなく、オヒュカスを倒した。

 そのあと? 委員長の両親と話をしたよ。これからは自由にさせてくれるってことだった。「ありがとう、スバルくん……」恋人がそういってくれるのはすごく嬉しかったけれど、僕には一つだけ納得できなかった。

 

「あのさ、なんで親と喧嘩なんてしたの?」

 

 委員長が見たことのない顔をした。

 

「僕には分からないよ。親がいることの何が不満なの? 父さんがいない僕からしたら、まるで意味が分からないよ。それに転校の話だって、君を思ってのことだろ? なにが不満なの? 贅沢じゃない?」

 

 頬に電気が走った。あれ……痛い? 僕、何をされたの? もしかして、ビンタされた? 恐る恐ると正面を見ると、委員長が目から涙を流していた。

 

「やっぱり……あなたには私の気持ちなんて分からないわよ!」

 

 それだけ言って、委員長は僕の前から去っていった。それが委員長を……白金ルナをみた最後の姿だった。翌日、育田先生から転校したという話だけ聞かされた。ゴン太とキザマロに訳を尋ねたけれど、二人とも首をかしげるだけだった。二人も何も聞かされてなかったみたい。トランサーをみても、ブラザーは切られている。結局、委員長とは流れで別れることになった。

 

 

 朝を寂しいと感じなくなるのに、三日はかかった。まあ、もともと一人でも学校に行けたからね。朝の登校時間は、ウォーロックとの雑談の時間になった。そういえば、ウォーロックとゆっくり話す時間を最近とれてなかったな。ちょうどよかったかも。学校に行けば、ゴン太とキザマロがいた。三人で話していると、一人の男の子が近づいてきた。

 

「ねえ、響ミソラの曲の話をしてるの?」

 

 その言葉に、僕たち三人はどっと笑い出した。

 

「もう古いよその人」

「今はこの子が一推しです」

「お前も流行に乗れよな」

 

 ゴン太が彼の肩をバンバンとたたく。緑髪の子は恥ずかしそうに笑っていた。ふと見ると、服が少し汚れていた。

 次の休み時間に知ったんだけれど、彼は家庭事情を理由に虐めを受けているらしい。そういえば、白金さんがいなくなってから、クラスの雰囲気は悪くなった気がする。彼とは関わらないほうが良いかもしれない。ゴン太とキザマロはお人よしだから、一緒にいるとターゲットにされるかもしれない。友達を助けないと。

 と、思っていたら、その二人が喧嘩を始めた。ジェミニってやつの仕業らしい。なんでも、人は少なからず他人に不満を持っている。その気持ちを一時的に増幅させるらしい。なんて怖い能力だろう。そりゃあ、ゴン太とキザマロにも思うことはあるけれど……。とりあえず、ジェミニが巻いた電波ウイルスは追い払った。これでいつも通り三人で……と思ったけれど、うまくいかなかった。二人は喧嘩したまま、ブラザーを切ってしまった。

それから、僕らが三人で話す機会は二度とこなかった。

 僕は探したよ。ジェミニを。その犯人を。それは緑髪の子だった。

 

「許せない。よくも僕たちの絆を踏みにじったな!」

「絆? あれが絆……か。ハハハ」

「笑うな!」

 

 ゴン太もキザマロも、僕の大切なブラザーだったんだ。よくも傷つけたな、よくも奪ってくれたな。

 僕は彼を徹底的に痛めつけた。勝負が決まっても、わざと倒さずにいたぶった。僕の気持ちは、怒りはこんなものじゃすまない。気が付いたら、ジェミニは息絶えていた。緑髪の子は気絶して倒れている。首を絞めてやりたいが、それはさすがに止めた。翌日から学校に来なくなったけれど、知ったことじゃない。いい気味だ。

 

 

「なんでだよ!」

 

 僕は怒鳴っていた。

 

「お前とはいられねえ。そう言ってるんだ」

 

 ウォーロックは僕の目を見てそういった。ふざけるなよ。

 

「お前は大吾の息子だと思ってたが、そうじゃねえみたいだ。俺も……大吾も人を見る目がなかったな」

「どういう意味だよそれ!」

「……そうだな、お前は強い。そして、優しいってやつなんだろうな。だが大吾とは違う。俺でもそれぐらいは分かる」

「異星人が……何分かった気になってるんだよ」

「とりあえず、お前とはやっていけねえってことだ」

「約束は!? 父さんのことを教えてくれるって約束だろ!!」

 

 ウォーロックの目が冷たい色を濃くした。今まで見てきた、どんな人よりも鋭くて、そして蔑んだ目だった。

 

「……あばよ」

 

 ふとウォーロックが消えた。ビジライザーを使ってあたりを見渡しても、いない。なんだよ、なんなんだよ!!

 地球に異変が起きたのはその日の午後からだった。電波ウイルスが実体化して、町を襲い始めた。でも、もう僕はロックマンになれない。どうしようもない。何とかしないと……そうだ、三賢者だ! 僕は展望台に走った。そこなら会えるかもしれない。そんな根拠もない理由で。願いが通じたのか、三賢者は僕の前に姿を見せてくれた。でも、なんだろう。以前と違って彼らからは僕を寄せ付けない雰囲気が出ていた。

 

「星河スバル……理解できなかったのだな」

「な、なにがだよ?」

 

 三賢者は答えてくれなかった。

 

「地球は終わりだ」

「ああ、我らの見込み違いだった」

「こ……答えろよ!」

 

 三賢者は頷き合うと、僕にこう告げた。

 

「我らは地球を離れる。生き恥をさらし、FM星人を止める手段を模索するとするとしよう」

「それが大吾との約束を果たせなかった、我らの贖罪だ」

「星河スバル、この場所に行け。そうすれば、答えはわかるやもしれん」

 

 三賢者が指定した場所に行った。不衛生極まりないゴミ処理場だったけれど、そんなこと構わない。ここでもウイルスが実体化してて、人が襲われていた。その混乱に乗じて、入口のゲートを潜り抜ける。ゴミ山の中を駆け抜ける。いた。ウォーロックだ! なぜか、倒したはずのジェミニたちに囲まれている。そんなことどうでもいい。今行くよ。僕の最後の友達!

 

「ロック!」

 

 駆け寄った。傷だらけの体を起こす。

 

「さあ、電波変換しよう! 僕たちでこいつらを……」

 

 体が突き飛ばされた。僕はしりもちをついている。見上げる。ウォーロックの腕があった。

 

「……ロック?」

 

 恐る恐ると尋ねる。彼は僕の方を見ようともしなかった。

 

「お前と電波変換なんざ、絶対にごめんだ」

 

「待って……」その一言が出なかった。彼は駆け出す。ボロボロの体で、ジェミニたち五体の電波体に向かって。僕は手を伸ばす。離れていく。僕の友達が離れていく。目に見える、けれど手の届かない場所で、ウォーロックの体が貫かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロック!!」

 

 星河スバルの声が部屋に響いた。同時に、彼はベッドの上で体を起こしていた。

 

「どうしたスバル!」

 

 携帯端末から青い電波体が飛び出してきた。犬の幽霊のような体をしたそいつは、血の気の無くなった相棒を見てただ事ではないと察したのだろう。相棒の背中に手を置いた。

 

「おい、しっかりしやがれ」

「う……うん……」

 

 息が荒い。苦しい。動悸が激しい。胸を押さえて、深呼吸を繰り返す。だいぶ落ち着いてきた。

 

「もう……大丈夫だよ」

「おう、そうか」

 

 ウォーロックが背中から手を放した。その手をつかむ。

 

「ロック、君……ウォーロックだよね」

「……なんだよ。気持ち悪い」

「あ、ごめん」

 

 慌てて手を放した。

 

「……夢を見てたんだ。ものすごく、嫌で、怖い夢……」

「……どんな夢だ?」

「昔の……9年前のことだよ。それが少しだけ変わった夢」

 

 ベッドからはい出し、体を起こした。カーテンを開けると、日差しが入ってきた。今日はスーツ姿の人たちは少ない。日曜日だから、とうぜんのことだろう。

 

「……ロック。僕、あの時引きこもりになって良かったよ」

「……ほう、そうか」

 

 その夢とやらと何か関係があるのだろう。だが、ウォーロックは尋ねないことにした。

 

「おら、大学休みなんだろ。今日の予定、忘れてねえだろうな」

「もちろん、ロックこそ忘れてないだろうね」

「さすがに忘れようがねえよ、今日の予定はな」

 

 布団をたたみ、服を着替えて一階に降りる。

 

「おはよう、母さん、父さん」

「おはよう、スバル」

「おはよう、スバル。よく眠れたか?」

「うん」

 

 朝食後のコーヒーを飲んでいる大吾にうなずき、あかねが作った朝食を口にする。食べ終わったころに電話が入った。携帯端末を操作し、画面を空中に表示させる。

 

「おはよう、委員長」

「おはよう……って、まだその呼び方なのね」

「ハハハ、もうお互い二十歳なのにね」

「ほんとよ。それより、今日の予定忘れてないわよね?」

「覚えてるよ。それよりゴン太の心配してあげたら? それとも、またキザマロが迎えに行ってるの?」

「大丈夫よ。ゴン太はスポーツ推薦で大学に行ったでしょ? 規則が厳しいし、起床時間早いから、下手したら私とミソラちゃんの次ぐらいに時間に厳しくなってるわよ」

「ほんと、想像つかないよ」

 

 あのゴン太がね……と思いながら、ルナと数言話して、後で会おうと電話を切った。

 早めに出たほうが良いなと玄関を出ると、意外な人がいた。

 

「あ、スバルくん」

「ミソラちゃん」

 

 国民的どころか、FM・AM連合星にまで大量のファンを獲得した惑星アイドルがそこにいた。

 

「どうしてここに?」

「えっと、スバルくんと一緒に行こうかなって……」

「いいよ。一緒に行こうか」

 

 なぜ惑星アイドルがここにいるのか理由に気づかぬまま、二人で目的の場所に向かった。

 

「……ミソラちゃん」

「どうしたの?」

「あの……僕のブラザーでいてくれて、ありがとう」

「…………スバルくん、熱でもある?」

 

 急に何を言い出すのだろうという顔をされた。まあ、当然だろう。

 

「お礼を言うのは私の方だよ。スバルくんに出会えなかったら、今の私は無かったもの」

「そうだな、どこかの女FM星人にとりつかれて、いい操り人形にでもさ……」

「ハイハイハイ、9年経っても治んないわねあなたは」

 

 ハープが出てきてウォーロックを縛りあげた。ときどき、この二人のやり取りはわざとなんじゃないかと思うことがある。

 

「……僕もだよ……」

「え、なにが?」

「ううん、なんでもない」

 

 目的地が近づいてきた。コダマ小学校の裏山にある展望台。昔と変わらない石階段を登っていく。途中の広場についた。そこから見上げたところにある、頂上の見晴台。そこにはすでに、皆がそろっていた。

 

「スバルくん、ミソラちゃん」

 

 ツインドリルからストレートヘアーに変わって、大人の雰囲気をまとったルナが手を振っている。その隣には太っているというよりは、全身筋肉となった大柄な男性、ゴン太がいた。逆隣りには、昔以上に理知的な顔をした、でも相変わらずルナよりも小柄なキザマロ。

 そして、その後ろには緑色の髪をした彼がいた。

 

「僕たちが最後だね」

「おう、急ごうぜ。相棒」

 

 ウォーロックに頷くと、スバルはミソラの手を掴んで走り出した。




流星のロックマン3、発売9周年おめでとう!!

ってわけで、短編を一本ご用意しました。

今回は友人たちと語ったある言葉がきっかけでした。
「物語の主人公というのは、思いっきり突き落とす必要がある。そうしなければ、主人公がなぜ目的に必死になるのかという理由付けができない。もっと言うなら、人として生きてくれない。TRPGとかはそれができないから無難なキャラになりやすい」
簡単(?)にまとめればこんな感じです。

その時、ふと思ったんです。もし、スバルが絶望して不登校になってなかったら、どうなっていただろう? と、想像したのがこの物語です。

不登校になって、ツカサに裏切られてさらに絶望したスバルだからこそ流星のロックマンという物語は魅力的で、そんな立ち上がっていく彼だからこそ私は大好きなのだと思います。


何はともあれ……流星のロックマンおめでとう!
私はこの作品から、スバルくんからたくさんの勇気をもらったよ。
この作品に出会えて、本当によかった。
ありがとう!!

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