流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

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涙を拭いて

 もう父に会うことはできない。齢8つの子供にとってはあまりにも酷な現実だった。泣いた。ただ噴き出してくる悲しみに任せて、母の胸の中で泣いた。

 どれぐらい泣いたころだろう。しゃっくりを上げながら上を仰ぐ。母の目元が光っていた。それに手を伸ばそうとして、びしょ濡れになった母の胸元に気づいた。そして自分の手の小ささにも。

 

 

 

 

 

「おい、スバル」

 

 ウォーロックに肩を叩かれて、スバルは意識を現実に戻した。

 

「あ、ロック」

 

 三年……いや、もうすぐ四年前になるあの日のことを思い出していた。なぜあの日のことを思い出したのか。それは隣を見れば分かる。赤紫色の髪をした少女がスバルの顔をのぞき込んでいた。

 

「スバルくん、疲れてた?」

「いや、ちょっと……昔のことを思い出してたんだ」

「昔のこと?」

「ポロロン、おしゃべりも良いけれど、もうすぐ着くわよ」

 

 ハープが言った通り、ウェーブライナーが音を立てて止まるところだった。スバルはミソラの後に続いて降りる。辺りを見渡す。コダマタウンよりも幾分か田舎と言えるほどの小さな町だった。

 

「私の後に着いて来て」

「うん」

 

 ミソラが先行し、スバルが後に続く。男の子と女の子が2人でお出かけしているのだ。本当はスバルが先導すべきなのだろうが、今日は違った。

 道すがら、ミソラはほとんど口を利かなかった。花屋で事務的なことを口にしたぐらいだ。スバルが着いて来ていることは気配で察しているのか、気に掛ける余裕すらないのか黙々と歩ていく。

 スバルはその背中を黙って見守っていた。

 

 

 

 

 やがてお目当ての場所に着く。

 それの前に立つと、ミソラは購入したばかりの花を添えた。

 

「久しぶりだね、お母さん」

 

 続いて、慣れた手つきで線香をあげる。ちらりとスバルを見た。頷くと、スバルも見様見真似で線香を添えて両手を合わせた。

 立ち上がったときに気づく。ミソラの目元で涙が光っていた。手を伸ばしてそれをぬぐってあげた。

 

「僕がついてるから」

「……うん」

 

 この日、ミソラの初めての笑顔だった。

 

 

 

 

 その後、スバルはミソラと共に掃除を行った。周りのゴミを片付け、墓石に水をかけてタオルで綺麗に拭く。ウォーロックとハープも手伝ってくれたため、予想以上に早く終わってしまった。最後に、もう一度墓石の前で両手を合わせた。

 

「さ、帰ろっか」

「もう良いの?」

「うん、お母さんに涙を見せたくないからね。悲しむのはここまで」

 

 きっと、天国にいる母を悲しませたくないのだろう。共に歩き出そうとして、スバルは足を止めた。

 

「ちょっとだけ待って」

「うん?」

 

 もう一度墓石の前でしゃがむと、スバルは自分の両手を見つめる。ゆっくりと合わせて目を閉じる。数秒後に立ち上がった。

 

「ママに何て言ってくれたの?」

「秘密。僕と、ミソラちゃんのお母さんとだけの秘密」

「私を差し置いて? ひっど~い」

 

 ふくれっ面をしてみせるミソラ。どうやらもういつもの彼女らしい。スバルは右手を握り締めると、その手でミソラの手を強く掴んだ。

 

「行こうか?」

「……うん」

 

 笑顔を見せる彼女の手を引き、スバルは歩きだした。




今回はお墓参りのお話でした。ミソラの母が亡くなったのは、ゲームから推測すると1~2月ぐらいかな?

今回はスバルが何を思っているのか。彼の心の動きを推測しながら読んでもらえると面白い……かも?(←ここ重要)

にじファン時代のある作家さんの物を真似してみたのですが……彼にはまだまだ遠く及ばないな。

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