流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

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8月2日、ミソラの誕生日おめでとう!!

本当は何も書く気もアイディアもなかったのですが、息抜きと思って適当に書きました。
自己満足小説です。
内容には期待しないように!!


一番のプレゼント

「みんな~、私の誕生日記念ライブに来てくれて、ありがとう~!!」

 

 ミソラの喜びの言葉に答えるように、会場はひっくり返したような歓声を上げる。

 そんな騒音も響かないミソラの控え室にスバルはいた。

 もうすぐライブが終わるため、会場から抜け出してきたのだ。一般人は立ち入り禁止なのだが、顔と事情を知っているマモロウの案内でスバルはすんなりと中に通された。

 部屋の中に入ったスバルはぽかんと口を開いていた。

 

「これ全部ミソラちゃんのファンがくれたものなんですか?」

「そうだぜ。すごいだろ?」

 

 自分のことではないのに、マモロウは心底嬉しそうに一つのプレゼントを手に取る。

 

「これなんか、ブランド物の鞄だぜ」

「そ、そうですか……」

 

 スバルの声のトーンが下がる。小学生では到底手の届かない高級品にスバルは嫉妬の視線を送った。

 

「じゃあ、俺は仕事の仕上げがあるから。ミソラもすぐに戻ってくるはずだ」

「はい、ありがとうございました」

 

 マモロウを見送りながら、スバルは別のプレゼントを手にとってみた。ウィザードオンしたウォーロックも興味ありげに見てみる。

 

「ミソラの人気はすげえな。……この服もブランド物か?」

「こっちは一箱一万ゼニーするクッキーだって……」

「……クッキーか……」

「うん、クッキー……」

 

 約一月ぶりに会えたと言うのに、ミソラの機嫌を損ねてしまった苦いホワイトデーが蘇る。

 埋め合わせをすると約束しながら、ミソラの多忙のせいで今日まで会えずじまいだ。

 

「半年に一回会う程度でも恋人って言うのか?」

「それは気持ちの問題でしょ。電話とメールはちゃんとしてたし」

 

 ウォーロックにちょっと乱暴に言い返しながら、スバルは不安をもみ消すのに必死だった。会えない時間が長くなるにつれて、お互いの距離が遠ざかっている気がしてこの半年はどこか心落ち着かなかった。電話とメールで気持ちをやわらげても、根本的な問題は解決しない。

 高級プレゼントの山から離れて椅子に腰掛けるスバルに、ウォーロックは小さくため息をついた。「またウジウジモードか」と罵倒してやりたいが、それは三ヶ月ぐらい前から言うのをやめている。心底呆れたと言うのもあるが、それだけスバルにとって大きな問題だと理解したからだ。

 天井付近にまで積み上げられている山に、手に持っていたプレゼントを戻して項垂れているスバルの隣に行く。

 

「お前だってプレゼントを用意しただろ」

「うん……でも、なんでこれにしちゃったんだろ……」

「今更だな……」

「うん、今更……」

 

 ホワイトデーで失敗してから、スバルはずっと次のプレゼントは何が良いかと神経を尖らせてきた。ルナ達にもたびたび相談に乗ってもらったりした。

 アクセサリーは王道すぎるし、お菓子は失敗しそうで恐い。思い切って服と思ったが、スバルとミソラのセンスの差を考えると無謀だった。熱で思考が麻痺した頭で「そうだ、水着なら!」と言ってしまい、ルナにひっぱ叩かれたのは自業自得だ。

 ルナ達に相談できなくなってしまった理由の一つがそれだが、一番の理由はジャックだった。相談しにいく度になぜか彼が不機嫌になるのだ。自然と口がふさがってしまう。

 他の相談相手として両親を考えたがからかわれそうでやめた。

 南国はどうせ高いバトルカードを売ろうとしてくる。

 天地は異性関係には疎そうだ。

 育田は結婚しているものの、教師相手に恋愛相談はしたくない。

 クインティアはジャックと鉢合わせそうで恐くてやめた。

 シドウは論外。

 宇田海や尾上も同じようなものだ。

 これほど己の人間関係の狭さに泣いた半年はない。

 結局、今日持ってきた物に決めたが、胸の中の黒い塊はただ大きくなっていくだけだ。プレゼントが入った紙袋を持つ手に力が入る。これが失敗したら、本当にミソラに愛想をつかされるかもしれない。

 そんなことにはまずならないと思いながらも、ウォーロックは言わないでおいた。根拠のない励ましは相手を不安にさせるだけだ。

 

「腹くくれ! 男だろうが!」

「で、でも……」

 

 その時ドアが開いた。明るい声が入ってくる。

 

「スバルくん、お待たせ!!」

 

 素早くウォーロックがハンターVG内に戻った。緊張に加えて心細さがスバルを襲う。

 

「ひ、久しぶりだね、ミソラちゃん」

 

 頑張って笑顔を作ろうとするものの、この笑顔を独り占めできるのは今が最後かもしれないと思うと、ぎこちないものにしかならない。

 

「ライブお疲れ様。それと誕生日おめでとう」

「うん、ありがと! あ~、疲れちゃった!!」

 

 ミソラは部屋においてある濡れタオルを手にとって首周りの汗を拭く。スバルにとっては気が気じゃない。

 

「あの……ミソラちゃん」

「うん? もしかしてプレゼントくれるのかな?」

「う……うん……」

 

 スバルが紙袋を揺らしたのでミソラはそう察したのだ。スバルにはいきなり試練が降りかかる。

 

「気に入るか分からないんだけれど……」

「どれどれ~」

 

 ミソラはルンルンと鼻歌を歌いそうな上機嫌ぶりだ。胸が苦しくなるのをスバルは必死に我慢する。紙袋を受け取ったミソラが中を覗きこむ。宝石のような目に疑問の色が混じる。スバルは深く息を飲み込んだ。この場から逃げ出したいのに足は根が生えたかのように動かず、目はミソラを凝視していた。

 ミソラが紙袋の中身を取り出した。袋の口から出てきた分厚い本を見て、スバルは心臓が今までにないほど大きく跳ねているのを自覚した。

 

「スバルくん、これって……」

「あ……開けてみて」

 

 顔色の悪いスバルに首をひねりながら、ミソラは包装紙を丁寧に破って本の正体を確かめた。ハードカバーの拍子に描かれた文字をミソラは読み上げた。

 

「……アルバム……?」

 

 いまの時代では珍しい物が出てきた。携帯端末のメモリに保存するのが当たり前なこの時代、プリントされた写真を収めるアルバムを使う人は少ない。

 ミソラの反応が思った以上に微妙だった。スバルは言い訳の如く惨めな説明を始めた。

 

「その……僕高いプレゼントとか買えなかったから、一生懸命考えたんだよ。何が良いかなって。それで……ミソラちゃんとの思い出の写真とか、ここに入れていけたら良いなって……今まで取った写真とか入れて、これからとる写真も入れて、思い出作りとかできたらなって……」

 

 あまりにもくさすぎる。スバル自身分かっている。だが、ホワイトデーの失敗を取り返す方法が他に思いつかなかったのだ。

 やっぱり失敗だったと、スバルは項垂れた。

 

「ハハハ……変だよね?」

「変じゃないよ!」

 

 スバルの体が斜めに倒れそうになった。びっくりして見下ろすと、自分の胸の上にミソラがいた。両手でアルバムをしっかりと抱きしめている。

 

「嬉しいよ……これからスバルくんとたくさん思いで作れるんだね……」

「え……? う、うん。もちろんだよ! ミソラちゃんが、僕のことが嫌いじゃないんだったらいくらでも!」

「……良かった……」

「……どういう意味?」

 

 どことなくミソラと話が噛み合ってない気がした。尋ねるとミソラが顔を上げる。目にうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「ホワイトデーの日、私すねちゃったでしょ? それから半年も会えなくて……嫌われちゃったのかと思ってた」

 

 今度はスバルがきょとんとする番だった。すぐに頬を緩める。ミソラも自分と同じ気持ちだったらしい。

 

「そんなことあるわけないじゃないか」

「ホント?」

「うん、ミソラちゃんこそ、僕が嫌じゃない?」

「それこそあるわけないよ!!」

「そっか、良かった」

 

 スバルが姿勢を戻そうとすると、グッとミソラが体重をかけてきた。これではスバルは元の姿勢に戻れない。

 

「……ミソラちゃん?」

「スバルくんの胸、もうちょっと貸して」

「……もう、しょうがないな」

 

 スバルとミソラの身長はほぼ同じだ。スバルが普通に立ってしまうと、ミソラはスバルの肩に顔を置くことになる。

 ちょっと辛い姿勢だが、スバルは優しくミソラに微笑んでミソラの腰に手を回した。

 

「こんな安いものでよかった?」

「お金じゃなくて気持ちの問題だよ。スバルくんには、私にだけ特別なものを用意して欲しかったの」

「あ、だからすねてたんだ」

「……もしかして、今気づいたの? ホワイトデーのときのこと」

「……う、うん」

「もう、スバルくんのバカ……」

「ゴメン……」

「いいよ。このまま胸貸してくれたら」

「おやすいごようだよ」

 

 ミソラの頭を数度撫でてあげる。甘い香りが鼻をくすぐった。

 ミソラが抱きしめているアルバムが、お腹に当たってちょっと痛い。そんなことどうでも良いと思える時間だった。

 

「このアルバムがいっぱいになったときは、背を伸ばしてミソラちゃんに胸を貸してあげるよ」

「う~ん、それも夢があって良いけれど、逆が良いかな」

 

 ミソラが言いたい事に気づいて、スバルも笑みを浮かべた。

 

「このアルバム、あっという間にいっぱいにしよう」

「うん!」

 

 ミソラがますますスバルの胸に顔を押し付けてくる。倒れそうになりながらも、スバルはミソラを抱きし笑める手に力を込めた。


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