遊戯王ARC-Ⅴの世界に廃人がログインしました   作:紫苑菊

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水着イベ最高。

武蔵最高。カーミラさん最高。沖田も、北斎も、乳上も、メルトも最高!

・・・あれ?誰か忘れてない?


第5話

 自首。意味、犯人が自ら犯した犯罪について、自発的に捜査機関に名乗り出ること。

 

 この場合、犯人は菊で、罪状はこの騒動の混乱を引き起こした張本人であることと、多数のアカデミア兵をカードにしたことだろう。名乗り出る調査機関、はこの場合、敵であるアカデミア、ということでいいだろう。

 

 ・・・うん。どうしてそうなった?

 

「つーわけで、とりま全員集めよっか。これからのことをあらかじめ伝えておかなきゃいけないしねー。」

「いやいやいや。」

「んん?なんかあった?」

 

 なんかあった?じゃないわ。そんな軽く答えるんじゃないわ。

 

「分かってる。説明が欲しいんだろ?それについてはもちろんする。だけど、全員に俺の意見を伝えなきゃいけない。だったら二度手間じゃないか。

 ある程度の概要は伝える。でも、説明、と言うことなら全員が揃うまで待ってくれ。」

 

 それは、・・・そうかもしれないが。でも。

 

「だから、とりま全員で集まるぞ。こっから先の方針が、それで決まるからな。」

 

 そういうことではないのだ。私が言いたいのは、説明してほしい、と言うことだけではないのだ。

 

 なんというか、どうしようもない不安が、私を襲った。菊の発言で、私の背筋が一瞬で凍った。

 

 もしかしたら菊は、なにかとんでもないことをしようとしているんじゃないか。そんな不安で胸がいっぱいになる。

 

 どうして私に話してくれないのか、私に話せばまずいことでもあるのだろうか。

 

 どうして、私を戦いの渦中に放り込もうとしないのか。私が、そんなに頼りないのだろうか。

 

 どうして、どうして、どうして。そんな気持ちで胸がいっぱいになる。

 

 でも、そうだ。私がやるべきことは、きっと。

 

 きっと、あなたを止める事なのかもしれない。私は、そう感じた。

 

    ◇

 

「アカデミアに、投降する。」

 

 菊の第一声はそこから始まった。

 

「どうして?!」

 

「そうだ、状況は圧倒的に有利だ!敵は混乱し、指揮系統は復旧作業に追われてててんてこ舞い。かなりの時間、潜入することが出来たし、なにより状況的に俺たちが紛れ込んでいてもほぼバレない。

 これ以上ないくらいにいい状況だ!その状況で降伏するなんて、俺は出来ない!」

 

 菊は、黙ってその意見を聞いていた。無理もない。私だってそう思う。伝達係としてやっていた仕事の際、彼らがうまく紛れ込んでいることも知っていた。

 皆が落ち着いたころを見計らって、菊が口を開いた。

 

「言い方が悪かった。降るのは俺だけだ。」

「それこそなんでだ!あなたは、お前は!この状況を誰よりも臨んだんじゃなかったのか?!」

 

 更に皆が殺気立った。これ以上、下手なことを喋ればそれこそ、菊が(・・)カードにされかねないほどに。

 

「落ち着いて聞いてくれ。今だからこそ、なんだ。」

 

 その発言に、今度こそ、今度こそ彼らは静まり返る。分かったのだ。菊が、何の考えもなしに言いだしているわけではないということを。

 

「・・・今のアカデミアは、手をこまねいている。俺たちの存在に、だ。」

 

 ああ、それはそうだ。ここ数日、下手をすれば数週間ほど、彼らは私たちの存在に手を焼いていた。

 

「まず、今まで潜入がばれなかった理由はなんだ?」

「それは。」

「相手に余裕がないから、ですか?」

 

 正解だ。菊は私にそう言った。

 

「相手には、余裕がない。正確には、心のゆとりがない。無理もない。食糧庫が焼かれ、あちこちではアカデミアの思想に疑問を持つ不穏分子が表層化した。食糧がギリギリの中で、俺たちが次に宿舎を焼き払ったことで、彼らは休息、安寧の時間すら失われた人間すらいる。」

 

 もっとも、これらは全て俺たちがやったことだが。そう菊は続けた。

 

「繰り返す。彼らには余裕がない。俺たちがやった、正確には俺がやったこと、と言うのは今や下級兵にすら伝わっている。明確な敵だ。目の前のことに取られて、内部に意識を割く余裕がない。だからこそ、一人一人のパーソナルチェックを行わず、目下の問題である、俺を始末しようと躍起になっている。全てではないが、これが今、君たちが潜入できている一因であることには間違いはない。」

 

 全ての人員が、菊の言葉に耳を貸し、研ぎ澄ませていた。一言一句漏らさぬよう。

 菊の怖いところはこういうところだ。至極真面目なことを話すとき、誰もが彼に耳を澄ませてしまう。注視してしまう。これは、一種のカリスマ、とでも言えばいいのだろうか。

 

「だが、問題が起きている。気付いたのは、二日ほど前だ。」

 

 二日前。そのことに、私は引っ掛かりを覚えた。確か、菊があれをしなくなったのも(・・・・・・・・・・・)

「現在、アカデミアは俺たちを問題視しないよう(・・・・・)にふるまっている。理由は簡単だ。オベリスクフォースでは、俺の相手が出来ない、と言うことを悟ったからだ。」

「なんで、そう思うんですか?」

「明らかに追手の質が下がったからな。」

 

 協力者の彼の発言に、間髪入れずに答えを返した。

 

「三日前まで、あいつらは躍起だった。俺に対しての追手は昼夜問わず行われ、流石の俺も消耗していた。一時期は姿を隠し、休息をとるか、何処かの部屋に陣取って、籠城するかまで考えたんだ。」

 

 実際、菊は疲れていた。あの人を駄目にするソファで、一日中寝転がっていたい、なんて話すくらいには。

 

「だが、二日前、追手の実力が明らかに下がった。」

 

 そのことに違和感は、確かに覚えた。このことには、私も同意できる。

 

「そこで、一度彼らの素顔を、こう、仮面をはぎ取ってみてみたんだがな。」

「どうなった?」

 

 ・・・このことは、私もあまり話したくない。敵の狙いは、明らかだったから。

 

「明らかに幼い(・・)、多分14歳前後の兵士だった。」

 

 それを言った瞬間、一部のメンバーから殺気立った。それもそうだ。だって、明らかな捨て石だったからだ。

 

「ガタイのいいやつを選んだんだろうな。一目見ただけじゃ分からなかった。あの仮面は、素顔を隠すにはちょうどいいからな。大方、表向きには俺を捕獲する動きを、内部に対してアピールしておきたかったんだろう。明らかな時間稼ぎだ。でも、それをする、と言うことは。」

「敵の何かしらの狙いが、佳境に入った可能性がある、と言うこと。」

「それだけじゃない。充分だった、というのもあると思うんだ。」

「充分。」

 

 ああ。だって。

 

「新米兵が居なくなるのと同時に、俺がどこにいたのか把握できるわけだからね。」

 

 それは、それは。

 

「捨て石、いや、それ以下だ。勝てるかもしれない、くらいで送り出すのと訳が違う。明らかに、そいつらの人生を蝕む。いや、もしかしたらそう言う認識すらないのかもしれない。

 そうだね、生贄だ。犠牲、と言い換えていい。本来両者は同じものだ。俺に対する、荒ぶる神様を鎮める生贄。」

 

 最低だとは思わない?その言葉で、全員が言葉を失った。アカデミアのやり口に、だけではない。その発想が出来てしまう菊にも、引いていたのだと思う。

 

「だから、いっそ荒ぶる神様として、出て行ってやろうじゃないか。」

 

 そして、その発想は、きっと。

 

「この状況は、潜入がうまくいく状況はこのままだときっと気付かない。上が冷静さを取り戻してしまう。心の余裕が出来てしまう。だから、その前に彼らの面前に、今まで見たいにひっそりと、ではなく大々的に出ていこうと思う。」

 

 きっと、私たちを御し伏せる。

 

「際限なく出てくる相手をまともに相手し続けるのは無理だ。少なくとも俺にはできない。俺にできないのなら、この中じゃ、誰にもできない。

 だから、あえて捕まる。それも、大々的に、そして捕まってやるんだ(・・・・・・・・・)、と、こちらには余裕があるように見せかける。仕方なしに捕まってやるんだ、と言う風に見せかける。捕まる瞬間に、相手の親玉を引っ張り出し、交渉のテーブルを用意させる。」

 

 交渉。それは、菊がたまにこぼしていた言葉だった。

 

「捕まる間は、おそらく俺は何もできない。その合間のことは凪流を主軸に、皆で相談しながら決めてくれ。なに、それでも君たちとコンタクトを取れるかもしれない。その時は、現状をうまく報告し、俺の提案をそちらに伝えるさ。」

 

 提案、とはずいぶん卑怯な言い方だ、と思った。この場で、もはや彼に逆らえることなどできやしない。

 

 彼の発言は、芯をとらえている。そのうえで、あえて大雑把に、阿呆でも分かるように話し、掌握している。

 

 そして、それに乗れるだけのテーブルは、用意してあるのだ。

 

 

 

「これが、俺の提案だ。なにか意見はあるかな?」

 

 

 

   ◇

 

 かくして、計画は成功した。彼は皆が集まるところに、それもプロフェッサーがいる正面に赴き、彼が捕まることで、その交渉のテーブルを用意した。

 

「このままいけば、俺も、お前たちもただでは済むまい。」

 

 いや、済まさない。彼の目がそう言っていた。

 

「停戦がしたい。そのための会席を設けろ。」

 

 そう言う菊に、誰も何も言えない。そう、あらかじめ知っていた私たち以外は。

 

「ふざけるな!!」

 

 そう叫ぶのは、オベリスクフォースの一員だった。いや。

 

「俺の仲間は、そいつにカードにされちまった!ディスクを放棄して、泣いて許しを乞うていた!横にいた俺が庇った。それなのに、お前は何と言った?!覚えているなら、答えてみろ!」

 

 あれは、私たちの仲間(・・・・・・)だ。

 

「・・・。」

「知るか、とでも言いたそうだな!それとも覚えていないのか?!だったら、俺が思い出させてやる!

 お前は、ただ『退け。』と言ったんだ。慈悲もなく、いや興味すらなく、俺をメッセンジャーにして、そいつをカードにしやがった!」

 

ああ、確かにその事件はあった。その時のオベリスクフォースは、本当のメッセンジャーはとっくにカードにされているが。この計画に邪魔だから、という、それだけの理由で菊がカードにした。

 

「お前は、今更停戦を望むのか?!そんなもの受け入れられるか!」

 

 だが、それでいい。嘘でも、それが真実に近い虚言で、彼らの憎しみを引き出す引き金(トリガー)になる。

 それを皮切りに、オベリスクフォースは一斉に怒鳴り声をあげた、咆哮を、慟哭を、そして怨嗟を。これを止めれるのは、たった二人。

 

 二人の首魁(プロフェッサーと菊)だけだ。

 

「だろうな。」

 

 よく通る声だ。プロで撮った杵柄だろうか。

 

「そうだな、もし、席を設けてくれるというのなら、この首を預けてやるよ(・・・・・・・・・・)

 2日だ。2日で全ての準備を済ませろ。その合間は、お前らの軍門に下ってやる。俺は、何もしない。これ以上、お前らをカードにすることはしないし、火をつけて回ったり、あちこちの機械を壊して回ったりしない。」

「何?」

「どうする?だめなら仕方ない。俺は破壊活動を続ける。ここにいる奴らを、出来る限りのやつらをカードにして、あのよくわからない機械の中に放り込まないぞ。ただ、お前らの目の前で燃やしてやるよ(・・・・・・・)。」

 

 その言葉で、恐怖を煽った。こいつならやる、という恐怖を与えた。それが、ハッタリであることを気取られないようにするために。

 

「・・・5日だ。」

「交渉はこれ以上は受け付けない。1日でやれ。」

「不可能だ!それだけの準備、とても・・。」

「交渉は受け付けない。俺は待たない。それまでの間、暴れてやろうか?出来る限りの人間をカードにする。これ以上言うなら、期間をさらに短くしてやる。」

「・・・5日だ。」

 

 それでも、プロフェッサーは交渉した。恐らく、多少がブラフであることを見抜いていたのだろう。

 

「2日。」

 

 だが、それでも菊は折れない。

 

「・・・・・・4日。」

「2日。」

「3日だ。2日での準備は、どうしても限界が出る。各部署や責任者を集めるには、3日以上の期間を必要とする。3日ですら急ピッチで行える、限界だ。」

「・・・いいだろう、3日だ。」

 

 そして、希望の期間を取りつけた。あらかじめ言っていた交渉の期間より少なめに言うことで意見を通りやすくするのは初歩の初歩だ。だけど、多分それだけじゃない。

 

「貴様の身柄は、捕獲させてもらう。いいな。」

「ああ、構わない。ああ、いい待遇を期待するよ。」 

 

 菊が近づき、プロフェッサーに耳打ちした。「なんてたって、俺は譲歩してやったんだからな。ほら、部下の前で恥をかかずに済んだだろう?」と、おそらく、彼はプロフェッサーにこう耳打ちした。

 こうすることで、敗北感を植え付ける。これで、すべては菊のペースだった。終始、菊のペースで行われた。普通ではありえない。恐らく、これはプロフェッサーと血縁がある、菊でしか行えないもの、なのだろう。

 

 だから、次だ。私たちは次の用意をする。そして・・・。

 

 私は、手元のデッキを見た。対アカデミア用に構築されたデッキを。とりあえず、基地に帰ったらこれを改造しなければならない。アカデミア用ではなく、菊と戦うために。

 

 いざと言うときは、私が止めなければいけないだろうから。

 

 

   ◇

 

「待遇、もう少しよくならないかねぇ?」

 

 今いる場所は、独房だった。こういう扱いをしないと、部下に示しがつかないのだろう。

 手枷はない。だが、護衛が付いている。恐らく、アカデミア兵が独断で俺を襲わないように、だろう。だが、甘いな、プロフェッサー。

 

「おい。」

「ああ。」

 

 その掛け声で、彼らは場所を離れた。彼らは多分、あえてさぼる気だ。協力ではなく、サボる。そうして、正当化することで、俺が襲われるように仕込むのだろう。

 

「まあ、いいんだけどね。」

 

 デッキはある。あらかじめ隠してある、本気用のデッキだ。後はデュエルディスクだが、まあ、これはなんとかなるだろう。その気になれば襲いに来た奴から奪えばいい。そのくらいの体力はある。

 

「おい、おい!」

 

 そんな俺に、声が聞こえた。どうやら俺を呼んでいるらしい。

 

「菊!菊だよな!」

「ああ、そうですよ。あんたは誰だ?こんなとこにいるってことは、ろくでもないヤツらしいが。」

 

 ああそうか、と彼はうなだれた。声からして男、と言うのは分かる。そして、おそらく40代くらいだろうか。

 

「ああ、お前までこんなところに来るなんて。すまない、すまない!」

「何が済まない、だよ。だれだあんた。」

 

 そう言うと、俺の事すらわからなくなったのか、と言う感じで、彼はショックを受けたようだった。だが、まあ、どうでもいい。あいつが誰であろうが、それはどうでもいい、と言うものだ。

 

「俺の名は、山茶花(さざんか)。立浪山茶花。」

 

 は?

 

「・・・大きくなったなぁ、菊。」 

 

 

 それは、たしか・・・。

 

 

 

 

 

 

「いや、誰だお前。」

「菊ぅ?!」

 

 いや、ほんとに誰だっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




武蔵来ました。刑部来ました。ナイチンゲールも来ました。カーミラ来ません。

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